09 完全包囲
金がないので飲食するつもりはない。
高価なものは付加効果があるようだがまだ手が出せない。
全部見ている暇はない。
安価のメニューの確認ができたので店を出よう。
武器屋は後だ。
あのおっちゃんのネガティブな人生が濃厚すぎて気が重いんだ。
何かが異なっている。
それはたしかに感じている。
だがシナリオは違うものになっていてもイベントの運びが同様なら。
俺のゲーマーとしての直感も信じて見たいから。
あとで行けばわかると思うのだ。
それより早く街の外へ行き、周辺のスライムを狩る。
盗賊の性能が考えている通りなら、相当使えるジョブになる。
最初に選ぶジョブがこれでいいのか決まるだろう。
俺の好みはあくまでも剣士なのだが。
回避率が高いし素早い分、先制や2回行動が期待できそうだ。
回復はドロップの薬草を毎回期待しよう。
自動ドロップと表示されたが、それがスキルだというのなら。
バトル終了後毎回ならとてもおいしいスキルとなる。
それに加えて敵の匹数分ドロップがあるかもしれない。
魔物は個別にアイテムを所持しており単体でも落とすわけだから。
自分に都合が良さそうだがそういうゲームも多数見て来たから。
そう思いながら外へ向かう。
街の出入り口付近へやって来たのだが。
するとなぜか物々しく警備兵が走り回っていた。
俺は冒険者だから外へ出たいと伝えた。
声をかけて足を止めさせた。
立ち止まり振り返る兵士の一人がこういった。
「宿屋の泊り客の部屋が何者かに荒らされて金だけが抜き取られている」
「そこの宿ですか?」
先ほど見学してきた宿屋を指差すと。
兵士はそうだと頷いた。
宿屋からの通報で街の出入り口付近に多くの兵士が動員されているようだ。
はあ?
宿屋ってあの宿屋か。
客なんか泊まっていたんだな。
俺が見学に入らせてもらった時は誰もいなかったんだけど。
それじゃ留守だったのかな、開けっ放しで不用心じゃないか。
鍵ぐらい掛けて出かけろよ。
それとも宿屋が清掃業務でもしていのかな。
預け金の制度がなくても捜査員が立派に出動してるじゃん。
そんなことより早く外に出てバトルで稼がなきゃ剣が売り切れる。
急げや急げ。
「冒険者証を提示するので通してください」
「ああ。君は初心者か。盗みを働いた者は玄人だと聞いている。いいだろう」
良かった。
これで外で金を貯められる。
前のシナリオでは監獄設定だったから流石にここで盗みは気が引ける。
盗賊といっても俺が心の中でそう呼んでいるだけだ。
冒険者としてのバトルジョブは拾得タイプ。
まったくどこの誰だか知らんが無茶しやがって。
宿屋なんかに押し入りやがって。
そこらじゅう兵士で溢れているじゃないか。
「ああ君、またこの街へ戻って来るのかね?」
職質みたいでめんどくさいな。
「ええもちろんです。貯めたお金で装備を整えたいのです」
「そうか頑張りたまえ。各店舗の前には調査のための検問員が配置されていくから戻ってきた頃には色々と聞かれると思うが気を悪くせずに捜査協力を頼む!」
「はい、わかりました」
「情報が必要なのでよろしく頼む。では私は失礼する」
兵士は冒険者にも捜査の協力を求めると言い残し持ち場へと戻る。
どうやらまともな街のようだ。
宿屋に泥棒が入るというイベントが起きて捜索が始まった。
武器屋の剣のイベントも健在でいてくれ。
願いつつ街の外にでた。
まずはスライムと戦闘だ。
エンカウント、1匹目だ。
敵のライフゲージはおなじ。
半分減らした。
『デジル残りHP400』
お、50で済んだ。
かなり回避が有効になっていた。
思った通り、たまに2回行動があり早く削ることができた。
1匹仕留めた。
レベルアップまであと9匹だったが。
なにか拾得したのかを確認だ。
ステータスオープン!
☆
冒険者デジル レベル 1
拾得タイプ
レベル 1
入手金 10G
経験値 02/20
HP 380/450
MP 80/80
攻撃 7
防御 7
自動ドロップ
薬草 2個
GOLD 20G
所持品 薬草02
所持金 30030G
☆
「は! 薬草2個だ、ラッキー! 拾得G20それもドロップ、ラッキー!」
で、合計所持金が30……じゃないね。
30000G……多いのはどうしてなの?
スライム1匹30010Gの世界か?
なんて楽しい仕様になっているんだ。
自動で盗んだのは20G。
自動拾得物が2倍なのが超頼もしいぜ。
うーん、この余分な30000Gはどこから湧いて来たのだ。
このジョブの謎はさておき。
これだとレベル2にしなくてもよくね?
武器を入手してきた方が楽になるのだから。
思い立ったが吉日。
よし街へ戻ろう。
無事戻って来た。
武器屋へ直行だ。
扉を開け中に入ると。
「いらっしゃい。当店自慢の品物を見ていってくれ!」
あ、あのおっちゃんだ。
べつに品物は見なくてもよいのだ。
「そこの500Gの剣は何ですか?」
「これかい、これはロングソードだ。掘り出し物だぜ」
すでに知っている。
「それをください!」
「兄さん、旅の方かい?」
「そうです。よその街から稼いできました」などといってみた。
「おおそうかい。うちの隣に防具屋があるんだがそこは弟が構えてる店だ」
「へえ! そーなんですね。ご兄弟で武器防具店を素敵です」
「よければそっちの店の自慢の品物を見ていってやってくれ!」
「ええもちろんです。まずそのロングソードをくださいな」
おっちゃんがしかめっ面を見せている。
なぜだ。
もう鑑定し直したわけじゃないよな。
それだと「回復の剣」に名前が変わっているはずだし。
「お金ならちゃんとありますよ! ほら500Gです」
「いやお客さん、申し訳ないんだがこの剣は他の冒険者の予約がすでに入っていて譲ってさしあげられないんです」
「え、予約制の店だったのですか?」
「そうじゃないんだが、さっきアンタとすれ違いで出て行った所だが、一日だけなら売らずにとって置いてやれると約束しちまってな。客商売してりゃそういう優しさも大事になるんでさぁ」
おい。
完全に別のシナリオじゃなくて微妙にズレているだけかよ。
似たようなことは起こるんだな。
俺が盗賊で開始したからか。
ジョブを変えたらシナリオが変わるとかないよな。
パラレルワールド的な仕組みだと思う。
「俺もほぼ初心者なんだけどな」
「兄さん、よそで稼いで来たっていったじゃない。初心者のわけないだろ」
「いやまあ、せっかく貯めて来たのに残念だなぁって」
「でもね、他の客が来て値を競り合うかもしれないとは伝えてある。どうです? いくら出しますか? そちらさん次第ですよ」
あ、そうだった。
俺が予約の客じゃないだけだ。
だがどのタイミングで鑑定屋が血相変えて飛び込んでくる?
それに変わればどの道、高額になる。
うーん。
ロングソードとしては1000Gが上限額だったよな。