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05 化けた値段


 武器屋の扉を開けると客が2人いた。

 いらっしゃいの言葉もなく店主はその先客と話し込んでいた。


 掘り出し物のロングソードはどうなったのか。

 気になったから来たのだ。

 客の背後に張り付くように近づき会話を立ち聞きする。


 やっぱりロングソードの話をしていた。

 

 しかも2人の客は赤の他人でほぼ同時に入店。

 ロングソードを見つけると即買いすると店主に告げた。

 隣りの客が張り合う様に値を上げて買うといったらしい。

 もう一人の客が同じことを言えば2人はあっという間に競り合いに発展していった様なのだ。


 2人の先客は二十代後半かな。

 背は俺よりも高くて体型もがっつりした感じだ。

 そんな初心者が装備する武器を値を釣り上げてまで競り合うなよ。


 

「それならこっちは1500出す! オヤジ、俺に譲れよ!」

「1800出す、可愛い息子を剣士に育てたいんだ!」

「こっちは剣の師匠のご令嬢に贈答したいんだ。もう500乗せるから!」


 この分なら2人は入店して間もないようだが。


 そんなに金があるならもっといい武器が買えるだろ。

 それは俺のために取って置いてくれてるんだ。

 俺が1000Gで明日には入手する予定の、俺のものだ。


 だがいまは100Gしかない。

 そのうえ回復をしなきゃならない。


 そして俺はゲーマーの直感で悟るのだ。

 2人のどちらかが諦めた時点で買い手が決まることを。

 店主が俺との約束を守ってくれるなら明日に伸びるだろうが。

 あの剣を1000Gという条件のまま譲ってはくれないだろう。


 現段階で2300Gの値がついたのだ。

 いま手放せば倍以上の儲けになるからな。


 一方は最愛の息子に。

 もう一方は世話になった師匠の娘さんか。


 それを明かした以上は意地もあるだろう。

 意地の張り合いになっているならまだ値はつり上がる可能性がある。


 もはや掘り出し物かどうかの問題ではないぞ。

 ああ。

 金さえあればな。



「お客さん方、大変申し訳ないんだがこの剣は今朝から予約が入っていて明日までに買いに来るそうなのです。2300Gもの値をつけて頂きありがとうございます」


 おっちゃん!

 その客を締め出してくれるのか。

 ありがてぇ、ありがてぇ!

 てぇてぇ!


「なんだって! オヤジ、おまえの所に予約制などあったか!?」


 2人の客は声を揃えた。

 しかも憤りの激しさをあらわにして。


「いいえ、ございませんが……」

「いくらだ? いくらで予約など受けたんだ。いってみろっ!」

「そうだ、いわなければ承服しかねる。俺の師匠は侯爵家の剣術指南役まで勤め上げたお方だぞ!」

「それが……1000Gで駆け出しの文無しの剣士に約束してしまったもので」


 いや、それ言っちゃうのか!

 まぁ相手が相手だからなぁ。


 つーか、侯爵家の剣術指南役まで勤めたお方に返って失礼だと気づけよ!

 よく考えろよ。

 たかが500Gのロングソードを令嬢に贈答しても師匠は見抜けない人なのかを。

 そのロングソードがあんたの命取りになると早く気づけ!


「よお! デジルじゃねえか。来てたのか!」


「えっ?」ごっつい2人の背中に隠れていたのになんで。

 ていうか、俺はいつおっちゃんに名を名乗ったんだっけ。

 ゲームだから細かい演出はカットをされたんかな。


「お客さんたちの後ろにいるのがいまお話した文無しの剣士さんですよ!」


 いきなり名指しで声かけんなよ、びっくりすんじゃねぇか!

 俺が来てたの気づいていたのかよ。


「おお君かね、文無しの剣士というのは」


 振り返った2人。

 冷めた視線を向けて見下す様にいう。

 文無しいうな!

 この命取り男爵が!


「は、はい」

「デジル、すまんなお客さんが来て、たったいま2300に値上がっちまったよ」

「そ、そうですか」


 やっぱり2300出すなら俺に売るけど。

 というはなしですよね。

 もう無理ゲーです。


 これこれこうです。

 おっちゃんは値上がってしまった経緯を聞かせてくれた。

 ずっと聞いていたから知っていますけど。


「文無しの君には大金だろ。だが明日になって金が用意できていれば譲ろうではないか」


 息子を愛する男性客はそういってくれた。

 なぜだろう。


「私の息子はまだ幼いがロクに修練も積まずに良い武器ばかりに目が行くのだ。それでもやる気になってくれるならと。ここで会う客だ、君の心境がよくわかるよ」


 俺のことをうらやんでいるのか。

 それとも憐れんでいるのか。

 息子を愛する男性客はそれだけを言い残して店を出て行った。


 2300まで上げたのは「命取り男爵」だ。

 本当に男爵かは知らん。

 それは俺が付けたあだ名だ。


「ふん! くだらぬ同情などしおって。俺は諦めんぞ。明日の刻限が来たら値で張り合うことになる」


 はあ?

 そんなに張り合うわけないだろ。

 俺はもう欲しくなくなった。


 この客が買えばいい。

 そう思ったから店主のおっちゃんにそう伝えた。

 すると、


「デジルが店を出た後、鑑定屋が血相かえて飛び込んで来たんだ。受けていた鑑定報告は別のものだった。この剣はまじもんの掘り出し物で真実の名は『回復の剣』といい、火力80で攻撃の度に80HP回復する代物だったんだよ」


 おっちゃんは俺に再確認するのだ。

 本当に諦めてしまってよいのかと。


 その剣が奇跡みたいな値段で、それ知るのは俺を含めた今の4人だけだ。

 鑑定屋は守秘義務があるらしいから除外。

 この客たちの地位で他言無用となり、購入権が俺にもあるといってくれたのだ。


 地位も財もあるこの客に勝てるわけないだろ。

 化けたのは値段だけじゃなく、ロングソードの方もだった。

 

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