70.物語の外の
「っ……! ……だ、だとしても、何故私なんだ! 首謀者はアキトだし、実行犯はローザだぞ!」
ヘニングが叫ぶと、アルフレッドは子供に言い聞かせるように肩を竦める。
「だってラヴィニアを精神的に絶望させたのはあんたじゃないか。何度も何度も光明を見出そうと足掻いたラヴィの心を、繰り返し踏み躙ったのはあんただ」
そう。たまらなく気に入らなかった。
だからラヴィニアを心配するフリをして彼女の足を引っ張り続け、丁寧にお前は一人なのだ、ということを植え付けたのは、ヘニングだった。
ラヴィニア・ダルトン。若く美しく、そして傲慢な魔女。
ヘニングが長年どれほど足掻いても到達出来なかった魔術師としての高みにやすやすと到達し、それから更に功績を上げていくことが目に見えていた。
伯爵令嬢などという恵まれた生まれも、その内侯爵令息と結婚して幸せになるレールが敷かれていることも気にいらない。それならば魔術師になどならずに、学園を卒業してすぐに結婚すればよかったものを。
ちょっと親切にすればヘニングを慕って、様々な魔術に関する質問をしてきたが、新人の時点で既にラヴィニアの知識や考えはヘニングのそれを上回っていたのだ。
そんなラヴィニアがローザ・メイヤーの標的になったのは好都合だった。当時既にアキトに通じていたジャック・コールの小間使いのような状態だったヘニングだが、事件後の弱ったラヴィニアを丁寧に痛ぶるのはとても快感だった。
自信に満ち溢れたラヴィニアが、日に日に心身共に弱っていく様は見ものだったのだ。
「俺達には面会を禁じておきながらラヴィニアには誰も面会に来ないとわざと告げたり、ギルが第三隊として遠征に出ていることを知りながら教えなかったりと……実に小物のあんたらしい、卑怯で矮小な方法でラヴィを苦しめた」
「ふ、ふん……! お前達のことを信じきれなかったあの女が弱いんだ!」
「……ああ、『魔女殺し』はエイデンの奴が壊しちまったんだったか……あんたに同じ苦しみを与えてやりたかったのに、残念だ」
ぐり、とアルフレッドはヘニングの頭部を踏みつけて溜息をつく。ヘニングにとっては、この上もなく屈辱的なことだった。
「でも大丈夫。俺もちゃんとあんたから、丁寧に何もかも奪って、最後に必ず絞首刑にしてやるから」
「ひっ……い、嫌だ、助けてくれ……!」
「まずは、四肢を砕こうな」
晴れやかな笑顔を浮かべて、アルフレッドはヘニングの両足と両腕の骨を魔術で砕く。
「ギャァァァッ!!」
バキボキという鈍い音と、ヘニングの絶叫が人気のない夜の裏路地に響き渡った。
ヘニング視点はここで終わりです。
今日は十七時にもう一度更新します!




