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魔女の凱旋  作者: 林檎
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46.奇妙なお茶会

 

 そして茶会当日は、あっという間にやってきた。

 アウローラが今日の為に見立てたドレスは母子のリンクコーデで、ツバサは大喜びである。ツバサのドレスはリボンやフリルが多くラヴィニアのものは大人らしいシックなデザインになっているが、使われている明るいグリーンの布や刺繍のモチーフが同じでお揃い感が強い点が特にご満悦だ。二人の髪をそれぞれ飾るのは、揃いの真珠の髪飾り。

 屋敷にユディット公爵家からの迎えの馬車がやってきて、向かった先は王城である。


「お茶会、ローラさんのお屋敷がよかったなぁ……ルイスと会えるし」


 案内されて廊下を歩きながら、ツバサがちょっぴり唇を尖らせた。

 ルイスとは四歳のアウローラの長男のことで、ツバサは彼にお姉さんぶっていてとても微笑ましい。アウローラは昨年次男であるエルトンを出産していて今や二児の母、本当に精力的な女性だ。

 ラヴィニアは親友の出産のなににも役にたてなかったことも、その事実を知らなかったことさえも悔しく苦々しい思いでいる。

 ルイス達のことを抜きにしても、ツバサにとって王城は職場でもあるのであまりお茶会だからと浮かれる場所ではないようだ。勿論ラヴィニアにとっても、楽しい思い出ばかりの場所ではない。

 ラヴィニアがツバサの頬をそっと撫でると、可愛い娘は顔を上げて可愛いことを言った。


「でも綺麗なドレスも、お母さんとお出掛けするのも嬉しい」

「あーん、なんて可愛い子なの。今度一緒に、王都のお菓子屋さんにショッピングに行きましょうね」

「行きたい!」


 途端嬉しそうにツバサが抱き着いてきたので、ラヴィニアも力一杯抱きしめ返した。

 二人で手を繋いだまま案内のメイドに従って付いて行くと、王城の奥まった場所に位置する庭園へと辿り着く。以前ツバサと共に滞在していた客室棟に併設された庭園も美しかったが、こちらは明らかに豪華さが違う。

 ラヴィニアが複雑な気持ちを抱きながら進むとガゼボがあり、中には既にお茶会に必要なものが完璧にテーブルセッティングされていて、優美なカーブを描く椅子には柔らかなクッションが添えられていた。

 そして席には既に今日の参加者達が座っていて、ラヴィニアは気持ちが表情に出ないように気をつけて上品に微笑む。


「……お待たせして、申し訳ありません」

「まだ時間より前よ、私達が楽しみで先に来ちゃっただけ」


 そう言ったのは、ガゼボの一番入口に近い位置に座っている今日のホストであるアウローラだ。

 既婚者らしい落ち着いた色合いのドレスを着ているが、最近王都で流行り始めた珍しい色の鳥の羽を使った扇を持っているところが、いかにも彼女らしい。

 その隣には夫であるキース・ユディット公爵。

 穏やかで妻をとても愛しているキースは、まだ王都でのイメージの良くないラヴィニアのことも『妻の親友』として紳士的かつ優しく接してくれる好漢だ。

 そしてキースの更に隣に座り円卓を囲むのは、栗色の髪に濃い藍色の瞳という国王とまったく同じ色彩を持つ男性。


「初めまして、カーヴァンクル夫人。アウローラから話はよく聞いていたので、会えて嬉しいよ」


 そう言って気さくに手を差し出してきたのは、グレアム第一王子殿下。

 見たまんまジョルジュ陛下の御子息で、キースの母方の従兄である。確かに、キースと結婚したアウローラからしても従兄と言って嘘ではないのだが、これは詐欺のようなものだろう。

 どうりでただのお茶会にしては、贈られたドレスや装飾品などの格が高いわけだ。王子様に会うのだから。

 ラヴィニアはアウローラをジロリと睨んだが、気にした様子もなく彼女はにこやかに笑っている。


「俺もラヴィニアと呼んでもいいかな? カーヴァンクル夫人では、兄君の奥方もいらっしゃるし」


 カーヴァンクル侯爵家には次期侯爵としてギルの兄がおり、彼も既婚者だ。

 王子様の言葉に、ラヴィニアは目元だけで微笑む。


「どうぞ。光栄です、殿下」

「俺のことも気軽にグレアムと呼んでくれていいぞ!」


 グレアムはジョルジュ陛下と容姿はよく似ているが、性格はあまり似ておらず闊達な面が強い。

 国王陛下はとても思慮深く年齢よりも老獪に感じられたが、息子の方は年齢よりも若々しく、誤解を恐れずに言えば少年のような印象を抱いた。


「勿体ないお言葉です、殿下」


 とはいえ、ラヴィニアは今や身分があやふやなただの夫頼りの貴族夫人であり、王子を名で呼ぶなど荷が重い。当然、彼と親しくなるつもりもないのだ。


「結構頑なだな、ラヴィニア」

「夫がヤキモチ焼きなもので」


 グレアムは片眉を上げて不満そうにいたが、ラヴィニアの言葉を聞いて笑った。


「この五年の間仕事の虫で、どんな美しいご婦人に言い寄られても眉一つ動かさなかった騎士団第三隊長がヤキモチ焼きときたか! いいな、今度は夫婦で呼ぼう!」

「ラヴィニアを揶揄うつもりなら、僕は反対だよ」


 そこで、キースが微笑んだままグレアムを牽制してくれる。


「キースはその所為で、間接的に奥方に叱られたくないだけだろ」

「そりゃそうさ。僕の女神に見捨てられたら、いつも手伝ってあげている君の書類仕事も覚束なくなっちゃうなぁ……」

「おのれ……卑怯だぞ、キース」

「なんとでも。愛の前では僕は無力なんだ」


 キースが胸に手を当てて殉教者のように呟くと、アウローラがぱちりと夫に向けてウインクをした。

 どうしたものかと悩んでいるとメイドに椅子を薦められて、興味深そうに大人達のやりとりを見ていたツバサともども、ラヴィニアはようやく座ることが出来た。

 扇を広げて口元を隠したアウローラが、上品に笑う。


「と、いうわけだからラヴィ。ツテだけ作っておいて、次回からこの男の呼び出しは無視してよくってよ」



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