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魔女の凱旋  作者: 林檎
44/73

44. Happy Ever After 2

 

 ところで。

 ツバサはラヴィニアの娘であり、ギルは結婚してラヴィニアの夫となった。しかも三人は同じ屋敷で暮らしているが、ややこしいことにギルとツバサは親子ではない。

 聖女であるツバサが、侯爵令息であり騎士団の第三隊長であるギルの娘となれば政治的な後ろ盾などと余計なことを考える輩が出てしまう。不要な誤解を避ける意図もあって、ツバサを養女として迎えることは保留にしていた。

 ちなみに平民同然のラヴィニアが『育ての親』であることは、ツバサ本人の強い要望があって黙認されている状態だ。


「今日はアルフさんに会ったよ」

「あら、結構久しぶりじゃない?」


 ツバサを安全な屋敷に送り届けたので、グラウは暇の挨拶をして帰って行った。

 それぞれ多忙なギルとツバサ、そしてラヴィニアが顔を合わせたので、せっかくなのでアンジェリーナにお茶を淹れてもらうことにして、連れ立って屋敷の廊下を歩く。

 聖女の住まいなので屋敷を守る護衛は多いが、住人はこの三人なので中で働く使用人は少ない。

 ラヴィニア付きのメイドであるアンジェリーナと、ツバサ付きのメイドがもう一人。料理人に執事、それから従僕が二人と掃除などの雑用をこなす下働きが二人。

 ギルとツバサの立場を考えるともっと大きな屋敷に住み使用人も多くてもいいぐらいなのだが、今までラヴィニアと小さな村の小さな小屋で二人暮らしだったツバサには落ち着かないらしい。

 三人で話し合った結果、こういう暮らし方を選んだのだ。


「お母さんは、アルフさんには会ってないの?」

「そうなのよ。ちゃんと説明しに来なさい! て言ってあるんだけどね」


 腰にべったりと抱き着いたまま歩くツバサに歩調を合わせながら、その黒髪を撫でてラヴィニアは溜息をつく。

 ギルと結婚したもののお披露目の結婚式などはしていない。

 それどころか、魔法石に魔力を込める術式を他の魔術師にも使えるように一般化したり、魔法石を用意する為に錬金術師達と作成に取り組んだりとラヴィニアのほうでも忙しく、一度ツバサの紹介も兼ねて皆で食事をしたっきりで友人達との時間を取る暇もなかった。

 食事会の際には皆との再会を喜ぶのに忙しく、ブライトンと込み入った話をする機会なかったのだ。


「忙しそうだったよ、アルフさん。会ったって言っても、こう……挨拶しただけだもん」

「そう。まぁ……忙しいのは私達皆お互い様だものね」

「ツバサは毎日魔法石に魔力を込める為に登城しているが、疲れていないか? 騎士団にとってはとても助かるが、無理はしないでくれ」


 ギルが気づかわし気にそう言うと、ツバサは笑って首を振った。


「平気! 魔力の込め方もコツが分かってきたし、皆すごく優しいもん」

「それならいいが……俺に言い難ければラヴィでもグラウでも、アルフでも。誰にでも言ってくれ」

「大丈夫だよ! ギルさんは心配性だね。でも、ありがとう!」


 聖女の魔力の籠った魔法石は、特に魔物退治が任務だった騎士団第三隊には大助かりだった。

 それまでは騎士大勢で倒していた魔物が数名で攻略出来るようになり、今ではむしろ若い騎士が経験を積む為に任務を任されているぐらいだ。

 それまで常に死線にいたギルはおかげで最近は現場に出る必要がなくなり、帰宅時間は早くなるばかりなのだ。


「ギルさん優しいね、お母さん」

「でしょう?」


 ふふん、とラヴィニアは自慢げに微笑む。

 聖女のおかげで任務自体は楽になったが、ギルとしては十歳やそこらの子供に自分達の苦労を肩代わりさせてしまっているという申し訳なさが一番にあるようで、聖女としてのツバサをよく気遣ってくれているのだ。

 ラヴィニアの娘だから大切にしているのではなく、聖女という役割をこなしている一人の人としてツバサを尊重しているギルが、ラヴィニアには誇らしかった。

 ツバサもそれを感じているらしく、ギルとの関係はまるで年の離れた兄妹のように気安いものになっている。


「お待たせいたしました。今日は花茶にいたしました」


 居間に辿り着くと、アンジェリーナが優雅な所作でお茶を用意してくれていた。

 華やかな香りのお茶が好きなツバサは歓声をあげ、ラヴィニアの手を引っ張ってソファへと導く。


「お母さんこっち!」

「はぁい」

「待て待てツバサ。ラヴィはこっちだ」

「えーギルさんは大人だから一人で座ってー」

「大人でも一人は寂しいぞ」

「じゃあ執事さんに隣に座ってもらう?」

「ツバサ様、私にも選ぶ権利というものがございまして……」

「お前の給料を出しているのは誰だったかな、パーカー」


 ギルが鋭く執事の名を呼んだ。カーヴァンクル侯爵家より引き抜いてきた、ギルと年の近い執事は茶目っ気があるのだ。


「二人とも、私の為に争わないでー」


 そう言ってラヴィニアは笑うと、ストンと一人掛けのソファに座った。せっかくのお茶が冷めてしまう。

 ギルとツバサは互いに牽制しあっていたが、最後は仲良く並んで二人掛けのソファに座った。

 面白いことに、二人はラヴィニアを取り合うライバルでもあり、仲の良い兄妹のようでもあるのだ。




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