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魔女の凱旋  作者: 林檎
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41.お別れの言葉

 

「……そんな筈ありません」


 ラヴィニアが表情を強張らせると、それをじっと見てへニング卿は困ったように眉を下げた。まるで小さな子供に言い聞かせるかのように、ちょっと宥めるような笑顔さえ浮かべている。


「アウローラ・パッガーノやクラウド・ウェルツィンは後で君に会いに来るが、ギル・カーヴァンクルだけはそれを拒否した。友人達にも聞いてみるといい。……ダルトン、今の君の立場はそれほどに悪いものなんだ。恋人を責めても仕方がないよ」


 何度も何度も立て直してきた弱った心を崩すのは、その言葉だけで十分だった。

 心が負ければ、体も共倒れだ。ラヴィニアの瞳から力消え、それまでシャンと伸ばしていた背筋が曲がっていく。

 ギルが来ない。

 あれほど愛していると守ると言った男が会いにすら来ないのならば、ラヴィニアが思っている以上に今の状況は本当に悪いのだろう。


「ダルトン、気の毒だが……」

「ええ……」


 どうなろうとも愛する人がいてくれるのなら、これからもなんとか生きていこうと思っていたが、自分は本当になにもかも失ってしまったのだ。


 心配そうなヘニング卿をその場に残し、衛兵に促されてラヴィニアは謁見の間へと入る。

 中には、ジョルジュ王を始め居並ぶ大臣達。皆の目は一様に冷たく、ラヴィニアは自分が心の内側からどんどん冷えていくのがよく分かった。

 これが悪夢よりも更に悪い、現実。

 そして告げられた沙汰は、『王城からの追放』だった。


 あの『魔女殺し』で既にラヴィニアは魔術師としての生命が絶たれていることを知っているからなのか、状況に対して与えられた罰は軽いといってもいいものだった。

 だが、貴族令嬢でもあり王城で働いている身であるラヴィニアが王城からの追放されたということは、王都で暮らすことも許されない、という意味でもある。

 罪人として出て行け、ということだ。


 ダルトン伯爵家に戻ることは勿論、王城魔術師として暮らしていた宿舎に荷物を取りに行くことも許されず、ラヴィニアはその日の夜の内に王都から追い出されることとなった。

 なるほど、沙汰としては『王城からの追放』という優しいものだが、夜中に着の身着のままの若い女を街から追い出すのだ、これでは優しい罰だとはもう思えなかった。


 王都には街と外を隔てる塀や柵が設けられていて、それぞれ大きな街道へと続く箇所には人の出入りを把握する為に外門が設置されている。

 その中でも一番小さな門には、最低限の見張りしかいない。


「ラヴィ!」


 謁見を終えてそのままラヴィニアが門まで来ると、時刻はとっくに深夜を回っていた。夜通し灯されているランプの灯りだけが、その小さな門があることを教えてくれる。

 門の端で待っていてくれたアウローラが、ラヴィニアの姿を見つけて駆け寄ってきた。

 彼女はラヴィニアの格好を見ると怒ったように顔を顰め、すぐに自分の羽織っていたローブを脱いでラヴィニアに着せかけるとそのまま抱きしめて、盛大に泣き出した。

 折れた心をアウローラの温かさが包み込んでくれるかのようだ。


「ああ! ラヴィ……こんな粗末な服だけであなたを放り出そうだなんて、王城の人達はなにを考えているの……!」

「ローラ」

「なにもしてあげられなくて、本当にごめんなさい……」

「いいの、ローラ。見送りに来てくれて……ありがとう」


 こんなにも大切に抱きしめられているのに、ラヴィニアの心はちっとも回復しない。

 だがラヴィニアはアウローラを安心させたくて無理矢理微笑んでみせたが、その表情はひどいものだったのだろう。アウローラはますます泣きじゃくってしまった。

 クラウドもやってきて、苦々しい顔をしている。

 彼もアウローラも普段とは違い闇に紛れるような地味な色味の服を着ていて、ここに来る事はやはり彼らの立場を悪くしてしまうのだ、と思うと、会えたことが嬉しいのに胸が痛い。


「……アルフは魔術師でありラヴィと親しかったから、今回のことに関係していないかまだ調べられていて、ここには来られなかった」

「そう……彼にも迷惑を掛けてしまったのね」


 最後に会った時のブライトンの様子を思い出して、ラヴィニアの心はますます塞いでいく。せめて自分が王都から去ることで事件が終わり、ブライトンは無関係だったと分かってもらえたらいいのだが。


「あとエイデンはな……」

「どうかしたの?」


 濁されたことにラヴィニアが青褪めると、クラウドは溜息をついて首を横に振った。


「あの馬鹿。ラヴィニアは無実に違いない王城から追い出すなんて許さない、と大暴れしたもんだから、今は錬金術師棟で拘束されて説教を受けてる」

「エイデンったら……」

「まぁ、錬金術師どもがアイツを手放す筈はないから、ほとぼりが冷めれば何も問題はないだろう」


 クラウドの口調からして、エイデンへの処罰は軽いものなのだろう。ほっとして、抱きしめてくれているアウローラへと寄り掛かった。

 エイデンのように、ラヴィニアも問題を起こしたとしても魔術師団が手放せないほどの存在になっていたかった。それとも、今回の事件の場合ならばどれほど功績を積んでいても切り捨てられてしまうのだろうか? ローザ・メイヤーのように。

 魔術師としての道を絶たれた自分には、もうなにもかも意味のないことだ。


「……二人とも、来てくれてありがとう。でも早くそれぞれの屋敷に戻って」



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