38.牢にて萎びる
「え!? 私は、そんなことしていません!」
驚いてラヴィニアは叫んだが、喉が乾いている所為で思うほどの声量は出なかった。
騎士はラヴィニアが抗議してくるだろう、ということも折り込み済と言わんばかりに頷いている。
「ローザ・メイヤーも同じことを言っていた。首謀者はお前の方で、自分は利用されただけだと」
騎士の言葉に、ラヴィニアは目を剥く。
さすがに王城に入って半年のラヴィニアにそんな大それたことは出来ないだろう。野望を抱いていたことは事実だが悔しいことに、先輩のメイヤーに対して研究に協力させて魔族召喚を試みていた、だなんてさすがに無理がある。
「なんて大嘘を……! あの、魔術師団長に確認してください。私はローザ・メイヤーに研究を手伝うように言われただけで……」
「確認済だ。それにお前達は魔物討伐にまでしゃしゃり出て行って、材料を集めていたらしいな」
幸い、騎士のほうも『ラヴィニアが首謀者』という点はかなり疑っているようだ。問題は共犯者だと認識されてしまっていること。
「どういうことです? 騎士隊に同行したのは、有効な魔術を実地で確かめる為です。材料を集めるとは、一体……」
言いながら、ラヴィニアはハッとする。
第三隊に同行して討伐任務に参加した際、やけに魔物に近い位置で騎士達の動きを邪魔していたローザ。
あれはまさか、召喚に使う為の魔物の臓器や牙を収集していたのか?
本来ならば騎士の目がある中でそんなことは不可能だが、あの時はローザの所為で騒ぎになり騎士の視線も散漫になっていた。
彼らの目は魔物自身には注がれていたが、攻撃の際に切り落とされた爪や牙のその後までは誰も気にはしていなかった。
「思い当たることがあるようだな」
「あ、いえ、でもっ」
手を翳して、ラヴィニアはなんとか弁明を搾り出そうとする。
ローザ・メイヤーが大罪を犯そうとしていたのは事実だ。研究だと信じ込んでいたラヴィニアも、結果的にはそれを手伝ってしまっていたかもしれない。
だが、魔族召喚を止めたのはラヴィニアの機転だったし、何より自分は魔力貯蔵器官を無理矢理摘出された被害者でもあるのだ。
魔力貯蔵器官。
そう考えた瞬間、ラヴィニアの心の中に暗い影がさす。
被害者であろうと、罪人であろうと、もうラヴィニアは魔術師には戻れないのだ。あれほど功績を上げたいと願っていたことも、学園での研鑽もなにもかも無駄になった。
「……私は、魔力貯蔵器官をローザ・メイヤーに奪われました。もし魔族召喚を彼女と共謀したとして、そんなことを魔術師が了承すると思いますか?」
ラヴィニアがそう言うと、騎士は眉を顰める。
「罪を犯す者の中には、時折常識では考えられない暴挙に出る者もいる」
「ふざけないで! ならば騎士は、悲願の為に己の剣を自ら折ることも厭わないとでも!? 魔術師にとっての生命線なのよ!?」
ラヴィニアが血を吐く思いで叫ぶと、騎士は首を横に振った。
と、そこへ外へと通じる扉が開いて一人の男性が入ってきた。彼を見た瞬間、ラヴィニアはホッとする。
「ヘニング卿!」
「ダルトン……」
入ってきたのは魔術師団での地位が三番位であるヘニング卿だ。
師団長、副師団長に次ぐ地位に就いている彼は、ラヴィニアとローザの研究のこともよく知っている筈だ。ラヴィニアが利用されていたことを証言してくれるだろう。
「来て下さってありがとうございます、こちらの方に説明を……」
「ダルトン、君ほど優秀な魔女だ何故こんなことを……非常に残念だよ」
「は……?」
信じられない思いでラヴィニアはヘニング卿を見上げた。彼はとても辛そうに唇を噛み、首を横に振る。
「コール師団長は、今回のことの責任を取って辞任することになった。副師団長が引き継ぎと事態の収拾に奔走しているので、私がここに来たんだ」
「ヘニング卿! 何故知らないフリをするんです!? メイヤーは、師団長の許可証を持って第三隊の任務に同行しました。研究の件をご存知の筈!」
「だが、真の目的は隠されていた、ということだろう……? 優秀な魔女だからこそ、師団長も我々も便宜を図っていたのに……裏切られたのはこちらだ」
いつもは穏やかなヘニング卿が、ラヴィニアを睨む。はっきりとした憎悪の表情に、思わず震えた。
「そんな……私も、知らされていなかったんです」
「仮にそうだとしても、君も研究に協力していたことは事実だ。知らずに罪を犯しておいて、無実を主張するとはムシが良すぎないか?」
痛いところを突かれて、ラヴィニアは唇を噛む。
そうだ。魔族召喚自体には関わっていないが、ローザのやろうとしていたことをサポートしていたのは事実なのだ。
「……でも、召喚を失敗させたのは私です」
「それも、お前自身の証言だけではな。ローザも全く同じことを言っていたし」
「?」
「魔族召喚の首謀者はダルトンであり、自分はそれを防いだのだ、と」
先程からラヴィニアの言うことを、傍に立つ女性騎士がちっとも信じてくれない理由がよく分かった。
真の首謀者であるローザが先に全く同じ弁明をしていたのだとしたら、ラヴィニアの弁明は「またか」といった気分だっただろう。
「そんな……信じてください! 私は本当になにも知らずに利用されただけで……!」
「君ほど優秀な魔女が、かい?」
そう言われて、思わずラヴィニアは羞恥に赤面する。
愚かだった。今となってはそう分かるが、ローザに共同研究に誘われた時は確かに大喜びだったのだ。そこは弁明のしようがない。
驕り高ぶっていた、と言われても、その通りだと頷くしかない。
だが、犯していない罪までラヴィニアのものにされるわけにはいかなかった。
「では、私以外の者の証言を取ってください」




