留守を預かる少女は霜降に夏祭りを見る
田舎町に引っ越してきて、春・夏・秋と季節はすぎた。
新しい仕事は覚えることが多くて、彼は大変そうだけど、でも、夕方から朝まで一緒にいられるし、週に一度のお休みもある。思い切って転職してくれて嬉しい。
毎日かならず、待ち人来る 喜びあり。
こうやって家ですごす時間も楽しい。
めっきり寒くなってきたのは、残念。
このあたりは『移住者が苦労の末に開拓しました』と、激安特価のタブレットに住んでるAIは鼻高々に説明してた。
百年以上前のこと。
たぶんアレクさん。
産まれてない……
田舎暮らしは通販が多い。検索力は欠かせない識字能力、一緒にお留守番してると、物知りだし頼りになるけど、ちょっぴり頭でっかちなのがタマにキズ。
今度の休みは特売日。
チラシは、あるかな?
あ、そうだ。
「アレクさん」
ポン♪
「あの町に他のお祭りはある?」
『ルブンバシ、など具体的に地名を指定してください』
るぶんば、変な名前。
礼文島の近くっぽい。
「るぶんば市、日帰りできる?」
『コンゴとケニア・南アフリカ・ザンビア・エチオピアを空路でつなぐ国際空港があります。 ……が、昨日の検索履歴にそれらしい市町村名を見つけました』
「今後のことなら、今はそれで」
『8月中旬、あんどん祭りです』
「あんどんって?」
『照明器具の一種。蝋燭や油を燃料とした炎を光源にします』
「ちょうちんみたいなものかな」
照明器具の、お祭り。
ハロウィンみたいな?
あ わかった!
あそこは米どころ、清流が多くて大きな川も流れてる。お盆に四角い提灯を川に流す動画を見たことある。夏の短い北国で、夜、農業用水路をぷかぷか流れてく、たっくさんの手作り提灯。
ステキ♡
「精霊流しとか、送り火みたいなお祭り?」
『調べます』
ポン♪
「あった?」
『巨大な行燈を衝突させる、勇壮な喧嘩祭り』
「喧嘩しちゃ、ダメ~!」
『動画を再生しますか?』
「喧嘩でしょ?」
『喧嘩祭りです』
「よろしくお願いします」
綺麗。
でもこれ……川に流すには大きすぎるような?
え?
えっ?
え ぇ え ~ ?!
「壊してる……なんでぇ?」
「ただいま」
大変、こんな時間?
玄関に急行して出迎えないと!
「おかえり!」
「笑ってる、なにか良いことあったかな?」
「すっごい大発見があったよ、喧嘩祭り!」
「喧嘩は良くないなぁ」
「お祭り!」
「どこの?」
「るぶんば市?」
「初耳だな、日帰りできるのかなぁ」
今はまだ、来年のことは、わかんない。
けど。
待ち人来る、喜びあり。
今度の夏が待ち遠しい。