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9.イバラをつつけば何が出る?

 雲ひとつない青く広がる空へと、遠く視線を預けていたローズマリーにトリスタンが言う。


「そういえば今日もカゴを持ってるけど、今度は何を採りに?」 

「――え? ああ、今日は昨日行けなかった柴栗を採りに―――」

 

 ………って、これまたナチュラルに話し掛けるから普通に返してしまったじゃないか。

 

 そもそも昨日行けなかったのはこの男のせいだ。 

 その事を思い出し若干顔をしかめたローズマリーに、気づいていないのか、気にしていないのか。トリスタンは軽い調子で続ける。


「ついて行っても?」

「え……――」


( 嫌ですけど? )


 でも心の声は心の中でグッと飲み込む。


 だってどうせ嫌だと言っても、上手いこと言いくるめてついて来るだろうし、出掛けると言ってしまった手前、今さらどこにも行きませんは通じまい。この男に関しては。


 たった数回、時間にしたってそんなに長く一緒にいたわけではない。なのに、わたしにそう思わせてしまうのもどうなのだと思うが。何よりも今は、目の前の男の笑顔に、変な深みが増してしまうことが一番困る。


 しかしだ。その為にわたしが自分の言動を注意しなければいけないなんて。

 

( なんだか、とっても理不尽な気がする…… )


 しかめっ面のままローズマリーは「どうぞ、ご勝手に」と告げ、さっさとイバラの小道へと足を向けた。



 


 カサリカサリと落ち葉を踏む足音が二つ。


 後ろから聞こえるそれが、わたしの足音よりゆっくりで、だけど距離が開くことがないのはやはり体格の差か。

 その合間を縫って、興味深げな男の声が届く。


「いばらの森と言うからイバラだらけだと思ってたけど……。 そうでもないんだな」

「そりゃそーですよ。ここに来るまでは普通に森だったでしょ」

「まぁ……、そうだね」


 ちょっとズレた返事になってしまったのはしょうがない。


 元々ここらは広大で自然豊かな森であった。ある一帯だけが突然―――、イバラによって囲まれてしまうまでは。

 ただ、その残りは変わらず豊かな森ではあるのだ。


 囲われてしまったその一部、無数の刺を持つイバラ。それは明確な拒絶。

 なのにそれを簡単に抜けてやって来てしまう男を、ローズマリーは肩越しにちらりと眺め、ついでにちょっと気になったことを尋ねてみる。

 

「グレイ―――」

「………………」

「………………、トリスタン様は、プレタに宿泊してるですよね?」

「―――ん?」


 笑顔だけで呼び方を訂正させた男は、何のことだという顔をする。


 プレタとはこの地域の主要都市の名、ティルストンと呼ばれる州にある。このいばらの森も同じく。

 ティルストン州はそんなに大きくないとはいえ、ここからプレタまでは普通でも馬車で半日はかかるはずだ。だから昨日今日をここに通っているトリスタンは一体どうしているのだろうかと。

 

「そうそう通える距離じゃないですよね?」


 ナルが言っていた列車とか、エンジン?の四輪車とかそういうものを使ったのだろうか?

 ちょっとどんなものかが気になったローズマリーは、だから尋ねてみた。


「ああ、そういうことね」

 頷いた男は、でもローズマリーの望む答えはくれなかった。


「プレタには泊まっていないよ」

「え!? じゃあ、ウォルソーの村に……?」


 それはここから一番近くの小さな村だ。

 でもそんな小さな村ではこんな貴族然とした男が泊まれる宿などないだろう。

 驚きに立ち止まり怪訝に尋ねるローズマリーに、トリスタンは「うーん」と曖昧な返事をして。横に並び見上げた男は困ったように笑う。


「ウォルソーから少し南に下った所ある建物に泊まってるんだ」

「………………………………え……?」


 わたしの知ってる地図と、ナルに聞きながら覚えた現在の地図を頭の中で照らしあわせて。そして浮かんだ場所に。


「それって……、ヒースの丘から見える……?」

「多分、そうかな」

「それって……―――」


 それって………。


「領主様の……、館ですよね……?」


 そうだねぇ。と、トリスタンはやはり曖昧に頷く。



 ……いやいや、待て待て。早計は禁物だ。


 この若さだ、領主様とかはないだろう。親戚とか友達とか。 よしんばご子息様だったとしてもわたしはまだ大した失礼を働いていないはずだ。……多分。


 と、ここで自分が大きく間違っていることに気づく。


 ここは、ティルストン州は――、

 

 王国の直轄領地である、ことに。




爵位とか領地とか制度とかいまいち『?』なので何となくで進めております。ので大目に見て頂きたいです。(次も)

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