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59.留守番くらい出来ます!

「…………ねぇ マリー、 いい加減口は閉じた方がいいと思うよ?」


 完全に田舎者丸出しだから。と、王都の終着駅ケインズダムのプラットフォームにて、唖然と立ち尽くすローズマリーにナルが呆れたように言う。

 

「……いやだって……………」


 言い訳しようにも その後が続かない。

 駅のプラットフォームには到着した列車、出発を待つ列車が何台も停車している。

 今は出発予定の車両はないのか乗客の姿は疎らだ。ただその人達も皆忙しそうで、誰もローズマリーのように立ち止まる者などはいない。


 そのローズマリーが見つめる先。駅は少し高台にあるのか、ドームのような駅舎から伸びるレールの向こうには街並みが見える。

 どこまでもどこまでも、先が見えないくらい続く建物達。それは競うように高く聳え建ち、その間を縫って網目のようにはしる道。一部途切れたように見えるのは川だろうか? 森や林や草原などは何処にも見えず、空も街も灰色に霞む。


「ロージー」

 かかる声。ハッと我に返り振り向けばトリスタンがこちらにやって来る。


「ごめん、待たせたね。 馬車は手配出来……どうかした?」

 

 いまいちまだ呆然とした様子のローズマリーを見て、途中言葉を変えたトリスタン。それにはナルが答える。


「マリーは王都を見て絶賛(ほう)け中」

「ああ、なるほど」

「―――だっ、 だって……!」


 何とか言葉をひねり出し、ローズマリーはまた街に目を向ける。


「だって……この駅もあれだけど…、なんなのこれ? これだけ建物があるって……。

 あれ全部に人が住んでるんでしょ? ちょっとおかしくない?」

「おかしいというか……。うん、確かに美しい街とは言えないよね。繁栄と生活の向上の為に色んなものを犠牲にした街だから。

 まぁ、その結果、街の人口は五百万人を越えたそうだよ」

「ごひゃっ!? …………って……はあ……」

 

 逆にその数の凄さがちょっと想像出来ずにむしろ落ち着いた。

 

「取りあえずここにこうしてても何だから移動しようか?」


 トリスタンが手を差し出す。「……そうですね」とひとつ息を吐きローズマリーはその手を取った。




 

 王都での滞在はホテルではなくアパートと呼ばれる場所を借りたらしい。

 オーナーはトリスタンの知り合いで、ホテルより人の出入りが少なく、その方がわたしが気兼ねしないのではないかとの配慮のようだ。

 その三階の窓からローズマリーは下の道行く人々を独り眺める。

 今、トリスタンはいない。

 どうしても断れない用事が入ったという。



「ロージー、夜までには戻るけど、……大丈夫かい?」


 いつもより貴族らしいフォーマルな装いに着替えたトリスタンに一瞬ドキッとしながらも、駅からの道すがら、街の雰囲気にあてられたローズマリーはソファーでグッタリとしながら答える。


「大丈夫ですよ、別に外に出る気もないですし」

 

 というかムリだ。馬車でここまで来る間に思い知った。プレタなんか目じゃないほどの人混みと喧騒。さすが王都と言うべきか。

 みんなどうやってあの流れの中を平気で歩いているの?


「明日に備えてのんびりしていますよ」


 今日の今日で、まだ心構えが出来ていなかった。

 でもだからといって明日のマーケットまでにこの弱りきったメンタルをどうにか出来るとも思わないけども。


「一応コンシェルジュ(管理人)には伝えているけど……。 もし、誰か訪ねて来たとしても無視したらいいからね。鍵を開けちゃダメだよ、僕は鍵を持って行くし」


 毎回毎回ちょっと過保護過ぎると。「ナルも居るんだし大丈夫ですよ」と、まだ何か言いたげな様子の男に少し冷たい視線を向ければ、トリスタンは渋い顔で。


「なるべく早く戻るから」

 そう言い残して部屋を後にした。


 そのナルはといえば、王都に着いてからずっとソワソワしていて。その理由はわかっている。


「ナルも出かけて来れば? どうせお菓子でも買いに行きたいんでしょ?」

「あー…。んー、そうだけど…」


 わたしを横目に煮え切らない返事のナルに業を煮やして言う。


「もう! ナルもトリスタン様も! 外に出るわけでもないし、わたし一人でも大丈夫だって言ってるでしょっ!」


 ホントなんなのだ、二人して失礼な!

 世間慣れしてないことは認めるけど、わたしは幼い子供じゃないんだから。


「ほらっ、早く行って来なよ。欲しいやつ無くなっちゃうよ? それとお土産はちゃんとよろしく」

「………うん、わかったよ…」


 直ぐに帰るから。と、先に出た男と同じような言葉を言うナルをさっさと追い出し、きちんと鍵も掛け直して、そして今に至る。




 夕方の街は人の出は幾分減ったとは言え、ローズマリーから見ればまだまだ充分な人混みだ。

 窓辺にてそれを見下ろし、明日のマーケットのことを思いげんなりとした気分になったローズマリーは窓を閉めるとソファーへと戻った。


 そして、列車の中でトリスタンが話したことについて思う。

 いばらの森と同じだと言った言葉。

 それならば湖にでるのは幽霊ではなく魔女なのではないだろうか?


 結局、あの後 乗車確認に回って来た車掌とトリスタンが雑談を始めた為にそれは中途半端に終わってしまった。


( でもそういうことならわたしよりもシェリーの方が適任だと思うんだけど… )


 でもそれを今言っても仕方ない。まぁ、行けば何かしらわかるだろう。


 早ければナルが戻ってくるかもしれないと、ローズマリーはお茶でも準備しようかと厨房へと向かう。

 ここにあるものは何でも勝手に使ってもいいらしい。なのでコンロに石炭を入れて火をくべる。水はというと、何と蛇口というもののハンドルをひねれば出る仕組みだそうだ。

 実際にやってみて感激した。井戸から水を運ばなくていいなんて。

 かくいう我が家も、調理には使わない、量のいる洗面場の水は直接川から引いてるんだけど。


 そんなふうに厨房でゴソゴソしていたら何だか玄関の方が騒がしくなった。




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