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41.詳細な説明を求めます

「実は僕、この『いばらの森』に物凄く嫌われているんだよね」


 説明を求めたところ、トリスタンは唐突にそんな話から始める。


「……はあ」


 それがどう繋がるというのか?

 わからないまでもローズマリーは頷く。


「だから、森に入ろうと何度チャレンジしても毎回入り口に戻されていたんだけど。ある日急に不思議な力――としか思えない何かが僕に手を貸したんだ。

 それであの日君に会えた」


 トリスタンが言うあの日、それは初めて彼がここを訪れた日だろう。

 不思議な力。なるほど、森が男を排除出来なかったのは、誰かが手助けしたから。


 ローズマリーは、今は自分に寄り添うように漂う赤い瞳の少女をチラリと見る。


「シェリーなのね?」

『うん、そうよ。「人間を排除する」それは元々わたしの願いであったからね。半分は森の意思だとしても手を加えることは出来たの』

「………何で、トリスタン様を…?」


 手を貸したのかと、少し咎める口調で言えば、「え、その反応は酷くない?」と、呟く声が聞こえたけど取りあえず無視する。

 

『ロージーがわたしを認識するには、その人が持ってた道具が役に立つと思ったから』

「道具? 魔導具ってやつ?」

『ああ、なんかそんな感じの』

「いや、本当に……。 二人揃って扱いが雑だよね……」


 最後に加わった声に、二人して「なんだ?」という顔を向ければ、トリスタンはまぁいいけど。と、ため息ひとつ落とし話を戻す。


「その時はその力の主が彼女だってわからなかったんだ。けど、前にロージーに見せたよね? あの懐中時計の形をした魔導具。 それがその日から変な動きをし出してね。 それじゃあと改良すれば、今度は声も拾うようになった。

 しかもその声は、『ロージーに会う手助けをしろ』とか言う。怪しさ満載じゃない?

 その上、手を貸したのだから返すのが当たり前だとか脅しを掛けてくる始末だ」


 酷いよね。と、肩を竦めるトリスタンにシェリーが噛みついた。


『――はっ!? 何によそれ? 脅してなんかないし。わたしは道理を説いただけだよ』

「はは、物は言いようだね。あれは完全に脅しでしょ」

『よく言うよ。貴方だって受ける代わりって条件付けてきたくせに!』


「…………条件…?」


 なんとなく気になったの口を挟んでみたのだけど。

 

「ロージーは気にしなくていいから」

『うん、そうだね! その方がいいよ!』


 急に二人、打ち合わせたように返す。怪し過ぎる。

 しかもなんとなく、なんとくなくだが、引っ掛かるものを感じて。


「それってさ……、トリスタン様が森から出られ―――」

「ああ、それでね、結局は彼女の願いを受けてその為の魔導具を作ったんだよ」

「…………」


 今――、思いっきり話遮ったよね? 


 なるほど……、そういうことか。

 と、ジト目で二人を見れば、シェリーはスイっと視線を逸らす。けど、トリスタンは全く気にすることなくの笑顔。いや、メンタル強すぎない?


 そんな笑顔のトリスタンが「ちょっと下を見て」と言う。

 

 ジト目のまま、男が向ける視線の後を追えば、そこには握りこぶし大の半円でキラキラしているナニか。

 思わず素に戻り尋ねる。


「何ですかこれ? これがその魔導具?」


 問われたトリスタンは、満面の笑みで。

 

「そうだよ。これはね、外側のアルキメデス立体部分がこの森で採れた鉱石を使っていて。それがこの地にある力を吸収しエネルギーに変えて中にある核を起動し回転と振動で半径二メートル内にある見えない物質、まぁ謂わばエーテル物質に磁場的作用を及ぼしてエーテル体を強制的にアストラル体に変換―――」

「わーわーわー!! もういいですっ!その説明は!」


 ローズマリーは慌てて止める。


「要するにっ。これのおかげで今わたしはシェリーと向き合えるってことですね!」

「どうせならその部分をもう少し詳しく―――」

「いらないです!」


 速攻で断れば、「……そう?」と残念そうに言う。本当に遠慮したい。


「まぁ、そういうことなんだよ」


 でも直ぐに立ち直り、トリスタンはそう締めた。


 

 

 ローズマリーは改めて傍らを見上げる。


 ふわりと、わたしより少し高い位置に漂う少女。見上げたわたしの視線に気づき、赤い瞳が緩かに細められる。

 

 ………シェリーが、いる。


「これからは、ずっと一緒にいられる……?」

『うん、ずっと一緒だよ』


 ずっと、一緒。


 それが二人の望みだった。

 叶った今。


 でも沢山のものを犠牲にして。そして失った。

 


 そんな気持ちがきっと表情に出たんだろう。シェリーは笑顔のまま眉を下げる。そして両手を伸ばしわたしの頬へ、触れれはしないけど、そっと触れる。


『ロージー、その痛みは今度からは二人で分かち合お? 二人で、半分ずつ。 だってわたしは貴方の半身だもの。

 だからその軽くなった心の痛みの分だけでも、喜びや幸せを感じるのはどう?』

「それはっ――…。…でも、きっと……」


 言いよどむローズマリーにシェリーは額を寄せる。


『……あのね、ひとつだけ。 人間の排除、それはさっきも言ったようにこの森の意思でもあったの。

 自分達の信じる物しか見ようとしない人の概念は森の力を削ぐ、だから森は人間を排除したかった。そこに上手く引っ掛かってしまったのがわたし。だからと言って自分はスケープゴートなのだと言うつもりはないよ? 確かにわたしは願ったんだから。

 許されない。許されることではないってわかってる。けどね、その根幹にあったのはあくまでもロージーの幸せなの』

 

 ローズマリーの瞳が揺れる。

 わたしの……、幸せ……。 シェリーが言うそれ。

 だからそれこそが全ての―――、


『でもねっ! そのロージーがっ……ロージーが…、……そのせいで幸せになれないと言うなら。

 わたしは―――、……ホントに、ただの悪い魔女になってしまうよ』


 だが為の。犠牲も責任も。全てが全部が。

 


 何もかもを間違えたわたし達は永遠なる罪人だ。

 だけども、けれども。


『それがわたしへの罰だとしても。せめてちょっとでも、ちょっとだけでも、ロージーには幸せになることを望んで欲しい。

 …………ね、お願い、ロージー……』


 止まっていたはずの涙が、再び溢れ出す。ぼろぼろと。


 きっと明日の朝のわたしは酷い顔になってるんだろうなと。そんな、どうでもいいことを思いながら。




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