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12.冬のある日、他愛のない会話 (1)

 森の木々はほぼ葉を落とし、薄い陽射しが冬の始まりを告げる午後。


「はい、これお土産だよ」

「何ですか、これ? 開けても?」

「どうぞ」


 交わされる会話はローズマリーとトリスタン。渡されたお土産の包装をペリペリと捲れば、中から出てきたのはカラフルなロウソク。


冬至祭(ユール)の?」

 一つ手に取りローズマリーはトリスタンを見る。


「そうだよ、街の雑貨店で見つけてね、ロージーにと思って。飾り付けにいるでしょ?」


 他にもいるものがあったら言ってね。 トリスタンはそう言ってニコニコと笑う。


 そう――、冬至祭の件は結局断ることは出来ずに領主様(トリスタン)を招待することとなった。 


 それとは別に、資材調達という名のもと三日に一度は訪れるトリスタンは、現在コンサバトリー(温室)にてローズマリーと向き合って座る。

 貴族で伯爵で領主様。知った今、追い払うことも無下に扱うことも出来るわけがない。


 そんな一応目上の男にお礼を述べて、ローズマリーはまたロウソクへと視線を落とす。


 ナルに頼んでちゃんとロウソクは用意しているが、それは普通のもので。可愛いとか綺麗とかそんな要素は一切ない。

 だけどこれは黄や緑や赤や青。紫や橙だってある。今 手に取ったものには小さな動物達の柄まで入っていて、繊細でとても可愛く思わず顔が綻ぶ。


「気に入ったみたいだね」


 その声で顔を上げれば、トリスタンが机に肘を付き、紫の瞳を緩やかに細めてこちらを見ていた。


「――っな、なんか使うのが勿体ないですねっ」


 気恥ずかしさに早口にそう言うと、ローズマリーはそそくさと席を立ち、壁際にあるキャビネットの引き出しに貰ったロウソクをしまう。

 そしてそのまま上部のガラス戸からコップとポットを取り出してトリスタンを振り返り尋ねる。


「お茶しかないですが、ミルクいりますか? お砂糖は?」

「へぇ、ロージーが入れてくれるの?」

「ええまぁ、味の保証は出来ないですけど」

「ふーん……じゃあ、君と同じのでいいよ。甘さは控えめでお願いできるかな」


 何となく愉しげな男の表情に少し思案して、だけどわたしの今日の気分で決める。


 よし、じゃあ今日はロイヤルミルクティーにしよう。まだ貯蔵庫にミルクが残っていたはずだ。

 

 ローズマリーは一旦席を外すと貯蔵庫へ行き、ミルクが入ったピッチャーを持って戻る。

 コンサバトリーの隅には暖房を兼ねた小さなコンロが据え付けられていて、鍋にミルクを入れて薪に火を着けようとすると、「あ、ちょっと待って」と後ろからトリスタンに止められた。


「これ使って」

「――?」


 ハイ。と渡された箱に入った黒い塊。拳で握れるくらいの大きさの。

 それを何処から出したのかは置いといて。ローズマリーは尋ねる。


「石炭ですよね?」


 だね。と、返事をしたトリスタンはローズマリーがくべた薪を横によけ、代わりにそれを並べる。いつの間にか手袋まで嵌めて。


 この家にも石炭は置いてある。ただ消費量と運搬的な問題を鑑みて薪の方が断然効率が良いと判断した。

 なんせここは森で、薪など幾らでもあるから。

 そうトリスタンに話せば、まぁ見てて、とマッチをすり火を近づける。


 というか、本来 石炭に火を入れるには完全に着火するまである程度の火種が必要なのだ。

 やはり貴族だ、そんなことも知らないのかと、呆れたローズマリーは男と代わろうとしたけども。

 目の前の石炭は普通に着火した。


――ん? 何故?


 しかも炎はオレンジ色ではない。いや、正確にはオレンジ色もあるけれど、緑や青やピンクといった色もある。


( なにこれ!? )


 バッ!と、トリスタンを振り仰ぎローズマリーは驚きのままに尋ねる。

   

「――なにっ、これ!?」

「石炭だよ、普通のとは違うけど」

「そりゃそーでしょ! こんな色になるものなんて見たことないもの!」

「まぁ、そうだよね。これはこの前採取した樹液と掛け合わせてみたもの」

「え……? あの樹液と?」

「そうだよ。この森にある他の木から採取したものもね」

 

 ちょっとした実験だと。 

 色々試行錯誤したし、おかげでそこらじゅうが真っ黒になったけど。とトリスタンは笑う。


「………はぁ……、なるほど…」


 それを聞いて、ローズマリーは何とも言えない顔になる。


「ちなみに、どういった性能が?」

「見ての通り。カラフルな色になる」

「…………………………なるほど。

 まぁ、確かに綺麗ですよね…。 でもちょっと、料理に使うには不気味ですけど……」


 思ったことをそのまま口にすれば、トリスタンはさらにおかしそうに笑った。

 まぁ、着火が早いのはとても良いと思うけど。




 その七色の石炭の炎でコトコトと煮出したロイヤルミルクティーを、ポットに入れてテーブルの上に置く。少し蒸らしてからカップへと注ぎ、トリスタンへはそのままで、自分の分には角砂糖を二つ。


 うん、ロイヤルミルクティーはやっぱり甘くなくては。


 心の中で謎の持論を展開していると、「――ところで、」とトリスタンが言う。




後編も今日に投稿します。

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