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Just Married!  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
3/7

003 披露宴の始まり始まり

 


 厳かな雰囲気の中、無事挙式を終えた私たち。

 次に待っているのは披露宴だ。


 早足でエレベーターに乗り込み、控室へと戻る。

 披露宴が始まるまで1時間。

 ドレスもこのままだし、時間がありすぎて退屈するんだろうな、そう思ってた。

 でも、そんなことはなかった。とんでもない。

 披露宴用の髪とメイクにチェンジ。


 美容の人、私の顔を汚れたガラスと間違ってない?

 そう思うぐらい、鬼気迫る勢いでメイクを落としていく。

 そんなに準備時間ってないんだ。

 そんなことを考えながら、私は式のことを思い出していた。




 あっけない、あんなものなのか。




 考えてみたら式って、わずか20分ほどのことなんだよね。

 昼休みよりも短いんだ。

 本当にあっと言う間の出来事だった。

 この式の為に費やした時間が馬鹿馬鹿しく思えるぐらい、一瞬の出来事だった。


 それに緊張していたせいか、内容もよく覚えていない。

 おかしいな。指輪を入れてもらった時も、感動したはずなのに。

 キスをした時だって、体中が燃えるように熱くなった。

 退場する時、みんなが笑顔で花びらを投げてくれた。

 フラワーシャワー。夢にまで見た光景。その中心に私がいた。


 あんなに感動したはずなのに。幸せだったはずなのに。

 終わってしまうと何だか、遠い昔の記憶みたいにあやふやになっている。

 まあでも、挙式なんてこんなものなのかもね。


 それよりメインは次よ。2時間ある披露宴。

 最高に楽しい時間にするんだから。






 こだわって選んだお気に入りの曲。

 披露宴の入場はこれしかない!そう言ってあっくんを説得した曲が流れてきた。

 気持ちが否が応でも上がっていく。

 あっくんもテンション、上がってるようだった。まあ、緊張もしてるみたいだけど。


「あっくん、どう?この曲にしてよかったでしょ?」


 私がそう耳打ちすると、あっくんは照れくさそうにうなずいてくれた。やたっ!

 扉が開くと同時に、私たちにスポットライトが当たる。




 これぞ正に、主役の為だけにある神演出!




 スポットライトに照らされるなんて、そうそう経験出来ることじゃない。

 暗闇の中、スポットライトに照らされた私たち。


 ライトがまぶしくてよく見えないけど、それでも私たちが姿を現すと、あちこちから「うおーっ!」「美玖(みく)きれいー!」「おめでとー!」と声が聞こえた。

 割れんばかりの拍手が私たちに注がれる。

 あっくんと一緒に一礼すると、拍手は一段と大きくなった。


 何これ?私、プリンセスにでもなったみたい。

 うん、最高。





 高砂は一段高くなっていて、会場を一望出来た。

 この会場のどこにいても、私たちが見えるようになっている。

 この会場の主役は私たち。

 最高の気分だった。




 新郎側の主賓挨拶は部長にお願いした。新婦側は課長に。

 そして乾杯は、私たちの共通の先輩がしてくれた。

 みんなマイクを手に、私たちのことを祝福してくれた。



 新郎、津川篤史(あつし)くんの勤務態度は素晴らしい。こんな真面目な青年、今時中々いないと思います。

 成績も優秀で、私はこんな立派な部下に出会えて本当に恵まれてます。


 新婦美玖さんは、職場でもムードメーカーで、よく気の付く方です。

 常にみんなの様子を気にかけてくれて、おかげで職場はいつも和やかな雰囲気になってます。

 そしてご覧の通り、彼女はとても美しい方です。何もかもが揃った、こんな素晴らしい方を妻として迎えられた新郎篤史くんは、本当に幸せだと思います。



 とまあこんな風に、私たちのことをここぞとばかり褒めてくれる。

 自分のことも勿論だけど、あっくんのことをこんなに評価してくれてたんだ、そう思うと嬉しくて顔がにやけてきた。





 先輩の元気いっぱいの発声で乾杯、披露宴が始まった。


 この日の為にお酒も控えていた私。

 涙なしには語れないダイエットの日々。

 だってそうでしょ?

 最高の衣装、最高のメイクをして最高の舞台に立つんだから。

 最高に美しくある為に、私は頑張った。

 そのおかげで私は、当初よりもワンサイズ小さいドレスを着ることが出来たんだ。

 ああ、満足。


 最高に幸せな気分で、私はシャンパンを口にした。


 ああ……美味しい。


 久しぶりのお酒って、なんでこんなに美味しいんだろう。

 そして目の前に、フランス料理が運ばれてくる。

 ずっと緊張してたせいで忘れていたけど、考えてみたら今日も朝から何も食べてなかった。

 今回のコース料理、試食会に何度か足を運び、一番美味しいと思ったものにした。

 値段は張ったけど。

 でもこの料理の味、私は覚えてる。




 ああ、食べたい。




 もう私、我慢しなくていいんだよね。

 そう思い、席に座った私はフォークとナイフを手に取った。




「おめでとうございまーす!それじゃあ乾杯のお写真、撮らせていただきますねー!」


 カメラマンの声に、私は我に返った。

 あ、ああ、そうよね。写真、写真ね。

 こういうイベントごとに写真が残される。それはきっといつか、私たちにとって最高の思い出となるんだ。

 私はナイフを置いてグラスを持つと、笑顔であっくんに肩を寄せた。


「おおっ、いいですねー!そうそう、最高の笑顔いただきまーす!それと新郎様、ちょっとだけ前に……はいそうです!ではいきまーす!せーのっ!」


 妙なテンションで声掛けしてくるカメラマン。でもその声掛けは、私を妙に落ち着かせる。笑わせ方も心得ている、流石ね。


 でもね、カメラマンさん。今、さらっと聞き流しそうになったけど、あっくんをちょっと前にってどういうことかな。それってつまり、私の顔が大きいってこと?


 そんなことを思いながらも、声掛けに従い何ポーズか撮られる。

 それでもカメラマンさんの気遣いに、今までにないぐらい自然な笑顔を残せたと思う。





 ようやく撮影が終わり、さあ料理と思っていたら、今度は友達がやってきた。

 口々に「おめでとう」と言ってくれるみんな。私は笑顔で応え、何度も何度もグラスを重ね合った。

 みんながカメラを向けて来る。動画を撮ってる子もいる。

 私はその度にポーズを決め、最高の笑顔をカメラに向けた。


 料理、食べられるのかな、私。




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