第546話『敵嵌』
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「な、何だお前はっ?」
ラティアを殺す寸前だった、人工種蠍科レイパー。そんな彼は、いきなり横から割って入ってきた雅に、驚愕と困惑の声を上げる。
それと同時に、上方向に弾かれた、頭部から伸びた蠍の尻尾の先を、雅の方へと向ける。
雅は敵の質問には答えず、持っていた剣銃両用アーツ『百花繚乱』の柄を素早く曲げてライフルモードにすると、敵が攻撃するより先に、桃色のエネルギー弾を、その顔面に直撃させてよろめかせる。
そしてラティアの手を引きながら大きくバックステップし、口を開き――
「ライナさん! 尻尾の付け根から十センチくらいのところ!」
「はい!」
「ッ?」
エネルギー弾の衝撃に意識が揺らぐ中、別方向から聞こえてくる声に、まだ仲間がいたのかと思う人工レイパー。
だが、それに対して声をあげるよりも先に、一つの声が聞こえてきただけとは思えない程の、大量の気配が人工レイパーを囲む。
同じ顔の女が、三十人近く。それを確認した時にはもう、下半身から生えている蛇の尻尾の、今雅が指示した部分に鋭い痛みが走った。
途端、男の子を締め上げていた力が嘘のように緩み、彼を落としてしまう。
「な、何だと……っ?」
まさかこんなことが……愕然とした声を漏らす、人工レイパー。
奴は知らない。
自分を囲んでいたのが、ライナがスキル『影絵』で作り出した分身達であり、先の人工レイパーが受けた痛みは、彼女が持っている紫の鎌『ヴァイオラス・デスサイズ』の一撃によるものだということも。
雅が、捕まった男の子を助けるために、仲間のスキルを使える『共感』でファムの『リベレーション』を使ったことも。
さらに、
「はぁっ!」
「そぅら!」
「何っ?」
まだ、仲間がいることも。
背後から、レーゼと皇奈が迫っていたのだ。
振り返った時には、もう防御は間に合わない。
レーゼの持つ剣が、美しい虹の軌跡を描きながら人工レイパーのボディに斬撃を入れ、直後、皇奈の方から、白光りする鋼鉄の杭が放たれて腹部に直撃。
あまりにも重いその一撃は、人工レイパーを、遠くにあった壁まで吹っ飛ばすのには充分だった。
「あら、中々タフじゃない。ちょっと入りが浅かったかしら?」
砕けた壁を押し退けて立ち上がる人工レイパーを見て、感心したように口笛を吹いてから、皇奈が、右腕に装着されたパイルバンカー型アーツ『HollyHole』を収縮させていく。
その様子に、口をモゴモゴさせるライナ。貴重な遺跡跡地が傷ついたことに、人工レイパーや皇奈に何か思うところがあれど、状況が状況だけに、何も言えないのだろうというのは誰の目にも明らかである。
そんな中、レーゼは『希望に描く虹』を構えたまま無言で、人工種蠍科レイパーを見つめていた。――腑に落ちない、という顔をして。
(人工レイパーということは、クゼの手先よね? 何で今、こんなところに……?)
久世が子供達を集めている、ということは知っているので、恐らく先程まで拘束していた男の子を誘拐しようとしていたのだろう、というのは想像がつく。
が、しかし。ここはバスター署からもそれなりに近い。挙句、今日はここに神喰皇奈が来ているのだ。日本でも五指に入る実力者が、である。そんな大和撫子がいる中で、わざわざ誘拐をするというのが、違和感があるのだ。
(誘拐なら計画的にするはず。カミジキさんのことを知らなかったとは思えない……。何か他に狙いがある?)
第六感が、警戒せよと伝えてくる。理屈もそれに同意しているのなら、従わない道理はない。
「こ、この……! ゾロゾロと!」
「っ? 観念しなさい! もう、地元のバスターが仲間を呼んだ! 二、三分もすれば囲まれるわよ!」
ここにいないポーラは、念の為大通りの人を避難させている。ある程度思いっきり戦っても、人的な被害は少ない。人工レイパーが強いのは重々承知だが、それでも今のこの状況、負けるビジョンは全く見えなかった。
「そこの小娘、嵌めやがったのか!」
ラティアに向かって吠える人工レイパー。こいつもやっと、それに気付いたのである。
ラティアは、人工レイパーの姿を見た瞬間、すぐに雅達へとSOSメールを送っていた。敵が、自分の手に余ることをよく知っている彼女は、一にも二にも、まず誰かに助けを求めるように教わっている。……最近は少し忘れており、先日は希羅々に叱られてしまったが。
しかし、ラティアがやったことは、それだけではない。戦闘が始まった瞬間から、戦いの場を、雅達のいる方向へと少しずつ動かしていたのだ。
ULフォンのマップアプリは、イェラニアの地理情報がまだ不完全。しかし、GPSは別。雅達の位置は正確に送られてくる。そしてそれは雅達から見たラティアの位置も同じ。
隅に追いやられた時は焦ったが、それでも雅達がギリギリ間に合った、という形だった。
ジリジリと後退る人工レイパー。今度は自分が、隅に追い詰められる番だ。体も、先の皇奈の一撃で、結構なダメージが残っている。詰んだとはまさにこのこと。
後は止めの一撃を――雅達がそう思った、次の瞬間だった。
「う、後ろっ! レイパーが!」
男の子の声が聞こえ、慌てて振り向いた雅達。
刹那、思わずそちらに走り出す。
「こ……これが狙いだったのねっ!」
レーゼの、自らの迂闊さを呪う声が辺りに木霊する。
雅達はラティアのSOSを受け取ってから、真っ直ぐこちらに向かっていた。
つまり、採取した『チリスハーブ』と『パリフィスソウ』も、一緒に持ってきていたわけだ。
そしてそれは、袋に詰めた状態で、近くの物陰に一旦置いてあった。
――人工レイパーのことばかり気にしていたから、男の子の声が無ければ、気付けなかっただろう。
その薬草を置いたところに忍び寄る、頭部が歪な化け物の存在には。
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尚、今日は2本立て!




