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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第30章 ティップラウラ全域
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第262話『早急』

 フライスコーピオ。


 シャロンが軽く説明していた通り、エスティカ大陸全域の森に生息する蠍である。背中に翅が生えており、空を飛ぶことも可能だ。木の上で、葉っぱを集めて巣を作り、太陽が出ている時はそこで過ごす。


 そんなフライスコーピオであるが、蠍である以上、当然毒を持っている。人を死に至らしめる程では無いが、全身が麻痺して動けなくなる程度には強力だ。


 最も、今シャロン達と戦うフライスコーピオ種レイパーが持つ毒は、それとは比較にならない程強力なのは明白だろう。そうで無くとも、尻尾の針は太く、長く、貫かれればショック死は免れない。


 シャロンは顎門を開き、エネルギーを集中させると、フラフラと空中を飛び回るレイパーへと雷のブレスを放つが、レイパーはくるりと横に一回転して攻撃を回避してしまう。


 そしてお返しと言わんばかりに、シャロンの方へと尻尾を勢いよく伸ばしてくる。


 尻尾の先の針がギラリと光り、シャロンの喉元へと迫るが、シャロンは身を反らしてその攻撃を躱し、直後、一気に敵へと接近。


 そのまま爪でレイパーに攻撃しようとするが、


「――っ?」


 シャロンが腕を振り上げた隙を狙い、レイパーの鋏が彼女の腹部へと叩きつけられてしまう。


 吹っ飛ばされるシャロン。


 だがそんな中、シャロンの左足のアンクレットが光を放ち、両腕の周りに全部で十二湖の雷球が出現する。


 シャロンのアーツ、『誘引迅雷』だ。


 雷球から電流が迸り繋がると、一本の太い鞭のようになり、レイパーへと飛ばして巻き付ける。


 レイパーの体は雨で濡れている。誘引迅雷は補助用のアーツのため、電流はそこまで強くないものの、この状況なら話は別。


「ッ!」


 激しいスパークを発生させながら、レイパーは感電。


 体を震わせるレイパーに、このまま倒せるかもしれないと期待するシャロン。


 だが、


「何っ?」


 レイパーは体を震わせながらも尻尾を振り回す。


 感電していては、針でシャロンを突き刺すようなことは難しい。


 それでもテールスマッシュを放つことくらいは出来る。


 しかし、だ。


「ふんっ!」


 一瞬面食らったものの、所詮は闇雲に放たれた一撃だ。受け止めるのは容易。


 敵の体に巻き付けていた電流の鞭を解くと、シャロンは尻尾を掴み――振り回して、地面に向けて投げ飛ばす。


 仰向けに地面に叩きつけられるレイパー。


 轟音と共にクレーターが出来上がり、その中心で痙攣する。


 それでもレイパーが何とか体を起こした、その瞬間。


「はぁァッ!」


 レイパーへと、志愛が飛び掛かる。


 手に持っているのは、棍。先端が虎の頭の形状になっており、紫色の水晶を咥えている。


 志愛のアーツ『跳烙印・躍櫛』だ。


 スキル『脚腕変換』も使い、ジャンプした時に足に加わった衝撃を、腕力へと変換。


 そのまま敵の体に強烈な一撃を叩き込もう……そのつもりだったのだが、


「何ッ?」


 レイパーは鋏を振り上げ、志愛の棍を受け止めると、あっという間に圧し折ってしまった。


 さらにもう片方の鋏を志愛に叩きつけてくる。志愛は折れた棍でそれを防ごうとするが、敵のパワーに負け、吹っ飛ばされてしまった。


 しかし。


「マ……負けなイッ!」


 志愛はすぐに立ちあがると、近くに落ちていた木の枝を拾い、跳烙印・躍櫛へと変化させる。


 そして、レイパーの尻尾の一撃を躱しつつ、一気に接近。


 再び放たれた鋏の攻撃も潜り抜け、敵の頭部に、スキルも乗っけた強烈な一撃を、今度こそ叩き込んだ。


 浮かび上がる、紫色の刻印。


 だが、


「グッ……こノ……!」


 レイパーが気合を入れるように鋏と尻尾を振り上げると、その刻印が消えてしまう。


 その刹那、


「クォン! そこから離れよ!」


 その声が届いた直後、レイパーの尻尾に雷が落ちる。


 シャロンの体の周りには、雷のリング。落雷は、彼女の能力によるものだ。


 志愛に気を取られている隙に雷雲を創り出し、攻撃をしたのである。


 そのまま感電させて倒そうとするシャロン。


 しかし――レイパーも、何度も電流を浴びせられれば、学習する。


「何じゃとっ?」


 レイパーが尻尾を地面に突き刺し、地面に電流を逃がしたのを見て、シャロンは驚愕の声を上げる。


 雨に濡れた状態にも拘わらず感電死しないところを見ても、どうにもこのレイパーは電気に強いようだ。


 すると、愛理が小さく唸ってから、口を開く。


「あの尻尾が厄介だな……! 権! あの尻尾は、私が何とかする!」

「愛理ッ? いヤ、だけド……!」


 志愛が、愛理とレイパーを交互に見て、どもる。


 どうするつもりか分からないが、どうするにせよ、非常に危険だ。


 それでも、愛理は首を横に振る。


 誰かが何とかしなければならないのだ。


「奴が尻尾で攻撃してきた時がチャンスだ! 権は巻き添えにならないように、奴の側に行け!」

「グッ……いヤ、でモ……」

「早くしろ! ――っ! 来るぞ!」


 電流を全て地面に流し、レイパーは尻尾を抜く。


 そして、愛理へと狙いを定め、尻尾を伸ばしてきた。


 もう、悩んでいる時間は無い。志愛は「すまなイ!」と言いながら、愛理の言う通りに走り出す。


 尻尾は志愛を無視し、そのまま愛理へ。


 志愛とシャロンが、息を呑む。


 愛理は刀型アーツ『朧月下』を振りかざし、意識を集中させていた。


(すぐに避けては駄目だ! 引き付けて、引き付けて……よし!)


 愛理が僅かに自分の位置をずらしたのは、尻尾の先の針が、眼前まで迫っていた時。


 最小限の動きで敵の攻撃を躱し、そして――


「ここだっ!」


 針の付け根の部分目掛け、勢いよく刀を振り下ろす。


 しっかりと意識を高めていたからだろう。


 刀は、僅かな抵抗も感じさせず、レイパーの尻尾の針を、スッパリと斬り裂いた。


(先端の針が無ければ、突き刺すことも出来ないだろう!)


 斬られた部分から緑色の血を撒き散らし、もがき苦しむレイパーに、愛理は心の中でそう叫ぶ。


 すると、


「うぉっトッ!」

「権!」


 志愛が、大きくバックステップして、愛理の近くへと着地した。


 もがいた時に鋏を振り回しており、それを躱したのだ。


 尻尾は何とかしたが、これでは敵に近づけない。


 どうする……二人がそう思った、その時だ。


 突如、空から電流の網が降って来て、レイパーを捕らえる。


 そしてその直後、シャロンがレイパーに圧し掛かり、敵の鋏や翅を腕や腹で押さえつけた。


 尻尾が無ければ、刺されることは無い。こいつがどれだけ強力な毒を持っていようが、関係無い。


 誘引迅雷で創った電流の網と、シャロン自身の拘束。


 これで、多少は動きを封じられる。


「今じゃ、二人とも!」

「愛理ッ! 一緒ニ!」

「ああっ!」


 シャロンが押さえつけている、ここが最大のチャンスだ。


 志愛と愛理が、棍と刀を構え、シャロンに押さえつけられているレイパーへと、同時に飛び掛かる。


 狙うは、一度志愛が突きを入れた頭部。


「はぁぁぁあっ!」

「ハァッ!」


 二人が声を合わせ、同時にレイパーへと、斬撃と突きを放つ。


 尻尾を斬られて血を失い、電流の網やシャロンの体重で体力を消耗しているレイパー。


 先程は効かなかった攻撃も、今なら効果がある。


 愛理の斬撃が敵の皮膚に傷を付け、志愛の突きがさかさずそこに直撃。


 紫色の線で描かれた虎の刻印は、さっきよりもずっとくっきり、はっきりと浮かび上がっている。


 その刻印が一層光を強めるのと、シャロンがレイパーから離れるのは同時。




 その直後、フライスコーピオ種レイパーは、爆発四散するのだった。




「よシ! 倒しタ! ――愛理?」


 何とか敵を倒したことに、ホッと胸を撫で下ろした志愛だが、愛理の顔が険しいままなことに気が付き、怪訝な顔をする。


 愛理はチラリと街の中心――ラージ級人工種ドラゴン科レイパーがいる方だ――に目を向けると、口を開く。


「ガルディアルさん。奴から漂う、サルモコカイアの香りはやはり……」

「……うむ。奴の体に注入される度に、僅かではあるが強まっておる。特に注入された直後は、広範囲に匂いが広がる感じがするの」

「…………」


 シャロンの言葉に、愛理は目を閉じて唸る。


 頭に浮かぶのは、別の敵……人工種ドラゴン科レイパーがラージ級へと肥大し、その場を離れた時に見た、あの人工レイパーの姿。


(奴か葛城か……どちらを優先させるにしても、苦しい戦いになる。だが、それでも――)


 迷っている暇は無い。


 ULフォンを起動させ、優に電話を掛ける愛理。


 ワンコールで、彼女は出る。


『愛理っ? どうしたのっ?』

「相模原! 君に頼みがある! 急いで、あのカバのような人工レイパーを探して倒してくれ! 君の力が必要だ!」

『そりゃいいけど、でもこっちだって――』

「すまないが早急で頼む! 奴はまだ、サルモコカイアの廃液を持っていた! それが注入された注射器を持っているんだ! それが原因で、別のレイパーが寄ってきている! 今、新手を一体倒したところだ!」


 ラージ級人工種ドラゴン科レイパーが暴れていて、そちらに対処しなければいけないのは分かる。


 だが、レイパーを誘き寄せるものを持っている奴を放置するわけにはいかない。


 この状況で、次々と現れる新手に対処していたら、間違いなく全滅するのだ。


「奴はパワーがある! 顎の力は、人間の体を噛み砕く程だ! 近接戦は不利だ! 遠距離から奴を狙撃してくれっ!」


 切羽詰まった愛理の言葉。


 電話の向こうで、優は頷くのだった。

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