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第160話『神魔』

「ぐ……何? あいつ、何をする気っ?」


 レーゼが真っ先に、ふらつきながらも立ち上がり、不審な光を纏うラージ級魔獣種レイパーを睨む。


 自身のスキル『衣服強化』で防御力を上げたため、彼女だけは他の皆よりダメージが少なかったのだ。


 やや遅れて雅達も立ち上がり、レイパーの様子に顔を強張らせた。


 光り輝くレイパーの体が、みるみる内に縮んでいき――元の、魔王種レイパーと同じくらいのサイズに戻る。




 だが、光が無くなった時……そこにいたのは、魔王種レイパーとは似て非なる存在だった。




 魔王種レイパーよりも筋肉はあるが、それでも相当細身のフォルム。


 白かった眼は、赤く染まっていた。


 それまで着けていたトゲ付き肩パッドと黒いマントは無くなり、代わりに背中からは片側二メートル程もある巨大な黒翼が生えている。


 そして……胸の傷は、消えていた。


「な……なんだあいつ……。また変身した?」

「……あれはもしや……魔神かっ?」


 シャロンの戦慄したような声が響く。知っているのか、という視線が彼女に集まった。


「遥か昔に存在していた、人を襲う怪物、魔獣。それが人型化したものを、そう呼んでいたらしい……」


 シャロンも他の竜から話を聞かされただけで、実物を見たわけでは無い。


 だがこのレイパーの姿は、シャロンが聞いたことのある『魔神』の見た目に、よく似ていた。


 ラージ級魔獣種レイパーが変身したこのレイパー……分類は『魔神種レイパー』だ。


 雅達は悟る。


 魔王種レイパーやラージ級魔獣種レイパーが可愛く思える程、このレイパーは『ヤバい』と。


 魔神種レイパーは右腕を前に出し、ニヤリと笑った。


 嫌な予感が、雅達の背中を走る。


 全員が何かアクションを起こすより早く、床が黒く染まり、そこから黒い手が出現して雅達の体を掴んだ。


「拘束系の技っ?」

「う、動けない!」


 手の力は強く、雅達は身動ぎすらも許されない。


「くっ……負けない!」


 そんな中、ファムの体を掴んでいた手だけは、破裂するように消え去る。


 拘束を解除する自身のスキル『リベレーション』を発動したのだ。


「ファムちゃん! 私達の足元!」


 再び拘束されては堪らないと飛翔するファムに向かって、雅が叫ぶ。


 雅も『リベレーション』を発動させていた。『共感(シンパシー)』でファムのスキルを使った場合、効果が少し変わる。ファムのように直接拘束を解除することは出来ないが、代わりに『どうすれば拘束を解くことが出来るのか』ということが分かるのだ。


 雅の言葉の通り、ファムが羽根を雅達の足元に撃ち込んだことで、彼女達を拘束していた手が消え去った。


 同時に、黒く染まっていた床も元に戻る。


 その時だ。


「ッ! ファム! 逃げロ!」


 志愛の声が響く。


 遠く離れていたはずのレイパーが一瞬でファムの目の前に移動していたのだ。


 ファムが事態を把握し、血相を変えて逃げるように飛び去るが、レイパーは悠々と空を舞い、ファムを通せんぼするように先回りしてしまう。


 ファムが翼を丸めて体を守るのと、レイパーが彼女を殴りつけるのは同時。


 この時ファムは本能的に『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』も発動していた。白い光に包まれ、レーゼの『衣服強化』クラスの防御力を得ていたのだが、それでもただの打撃とは思えない程の衝撃音が鳴り響き、ファムを一気に床まで叩きつける。


「ファムッ!」

「クォン! 危ない!」


 シャロンが竜へと変身しながら、青い顔をしていたファムを突き飛ばした。


 ブレる視界の中、志愛はそこでようやくレイパーが自分に人差し指を向けていたと知る。


 レイパーの指先から黒いレーザーが放たれるが、狙っていた志愛には当たらず、代わりに竜となったシャロンの腹部に直撃。


 シャロンの体は白い光に包まれており、命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)を発動させていたものの、それでもその一撃でシャロンは大きく吹っ飛ばされ、地面に倒れてしまった。


「シャロンさんっ?」

「タ、タバネ……いくぞ……!」


 霞む視界。それでもシャロンは力を振り絞り、雅へと落雷を落とす。


 雷を浴びながら、雅は『帯電気質』のスキルを発動し、身体能力を強化。


 仲間をやられ、その怒りを表すかのように髪の毛を逆立てながら、雅は電流の迸る体で剣銃両用アーツ『百花繚乱』を構える。


 レイパーは、雅が自分をキッと睨む様子に笑みを浮かべていると、左方向から激しい熱源が襲ってくるのを感じてそちらに目を向けた。


 熱源の正体は、ミカエルの放ったレーザー。


 今までならレイパーはその直撃は避けようとしていたはずだが、今回は無抵抗のままレーザーを浴びる。


 そして――


「……くっ!」


 歯噛みするミカエル。予想はしていたが、ミカエルの最大魔法を受けたはずのレイパーは、全くの無傷だった。


 ゆっくりと地面に降りるレイパー。


 そして着地と同時に、その姿が消える。


 その刹那。


「ごっ!」

「うっ!」

「かはっ!」

「きゃっ!」


 愛理、希羅々、セリスティア、ライナの四人が、一瞬で壁際まで吹っ飛ばされたのだ。


 何が起こったのかすら、四人には分からない。ただ殺気を感じ、咄嗟に命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)を発動して身を守るのが精一杯だった。


 それでも、愛理は背中を、セリスティアは左肩を、希羅々は腹部を、ライナは脇腹を押さえたまま動けない程のダメージを負っている。


 実はこの一瞬の内に、レイパーは愛理には肘打ちを、セリスティアには蹴りを、希羅々には右ストレートを、ライナには手刀を叩きこんでいたのだ。


 レイパーは、何も瞬間移動したわけでは無い。普通に移動し、普通に攻撃を叩きこんだだけ。


 驚異の身体能力である。


「希羅々! 皆っ?」

「真衣華ちゃん! 危ない!」


 レイパーが今度は真衣華の背後に出現したところを偶然目撃した雅。


 咄嗟に横に一閃繰り出すが、レイパーは左腕で軽々と受け止める。激しいスパークが迸るが、レイパーは平気そうな顔で、逆に雅の顔は強張った。


 以前、魔王種レイパーだった時は、雷の力を得た百花繚乱の斬撃で、多少なりともダメージを負っていたのだ。それは消えない傷となって、今日までずっと残っていた程に。


 その強烈な一撃を、今回は何事も無かったかのように防がれてしまった。


「やっ!」


 雅の攻撃は防がれてしまったとは言え、片手が塞がったレイパーへと、真衣華は二挺の斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』で斬りかかる。スキル『腕力強化』で威力を上げた、強力な攻撃だ。


 だが最初の一撃目を、レイパーは左手で白刃取りする。


 そして、レイパーがグッと手に力を込めた瞬間――フォートラクス・ヴァーミリアの刃が砕けてしまった。


 必然、隙だらけになった真衣華の体に、レイパーの強烈な蹴りがヒットし、吹っ飛ばされる。


 弓なりに飛んで行く、白い光に包まれた真衣華の体。


「真衣華っ!」

「真衣華ちゃんっ!」


 倒れた希羅々と、未だレイパーの右腕と鍔迫り合いをしている雅の、悲痛な叫びがシンクロする。


 レイパーは真衣華に気を取られた雅を後方に押し飛ばすと、今度はミカエルの方へと向かう。


「――っ!」

「ミカエルさン!」


 ミカエルを守るように志愛が前に出て、ミカエルは敵の進路を塞ぐように炎の壁を出現させた。


 だが――


「クゾゾ!」


 レイパーは黒い光に包まれた左手を前に出すと、そこから衝撃波が放たれる。


 魔王種レイパーの時も同じような技を使っていた。それは、少なくとも『炎の壁で相殺出来る』程度の威力だったのだが、今回は違う。


 衝撃波は炎の壁を容易に破壊し、一切威力を衰えさせることなくミカエルと志愛に襲いかかる。


 そして爆音と共に、二人はあっけなく吹っ飛ばされて床に伏してしまった。


 さらに、魔神種レイパーの姿が消え、今度はレーゼの背後に現れる。


 しかし、そこは流石のレーゼ。


 レイパーの動きにもしっかりと反応し、初撃の蹴りを、振り返りながらも腕で受け止めた。


 が――


「――っ!」


 スキル『衣服強化』を使い、さらに命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)を発動させ、防御力を最大まで高めたレーゼは、受けた蹴りの重さに顔を歪める。


 一瞬、スキルや命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)が正しく機能しているのかと疑ってしまった程の痛みを、レーゼは感じていた。


「くっ……!」


 僅か数秒の内に繰り出される、十五発のレイパーの拳。


 それら全てを的確に捌けるはずも無い。


 六発は腕と足で受け止めたものの、残りの九発の攻撃が、全てレーゼの胸部や腹部へと叩きこまれる。


 そしてついに――


「ぐっ?」

「レーゼさんっ!」


 レイパーの膝打ちがレーゼの鳩尾に決まり、肺の中の空気を全て吐き出しながら、レーゼは大きく吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられ床に落ちた。


 それでもレーゼは立ち上がろうとする。スキルと命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)のお陰で、他の皆程のダメージは負っていなかった。


 無論、満身創痍なのは言うまでも無い。すぐに、膝をついてしまう。


 倒れていないのは、雅と優だけ。


 しかし、レイパーは二人に攻撃する余裕を与えない。


 まずは地面を蹴って雅との距離を詰め、腹部に肘を撃ち込む。


 雅が咄嗟に『衣服強化』と命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)を発動したのと、『帯電気質』で肉体を強化していたため、吹っ飛ばされて床を転がり、痛みに呻く程度のダメージで済んだものの、一時凌ぎでしか無い。


 雅の体から、電流と光が消える。『帯電気質』と命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)の効果が切れたのだ。


「みーちゃん!」

「さ、さがみん……逃げて……!」


 倒れる雅に意識を向ける優。


 だが、レイパーは優のすぐ側まで近づいていた。


 レイパーの手が、優の首へと伸びる。


 逃げる暇も無い。くぐもったような声を上げながら、優は首を掴まれたままレイパーに持ち上げられた。


 そのまま優の首を圧し折ろうと手に力を込めるレイパー。だが、優は命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)を発動しており、最悪の事態は免れている。


 魔神種レイパーはつまらなさそうに鼻を鳴らすと、優を投げ飛ばした。


 優は、ゲホゲホと咳き込みながらも、力を振り絞ってレイパーへと弓を向ける。


 霞む目で、せめてもの抵抗と言わんばかりに白い矢型エネルギー弾をレイパーに撃ち込むが、ミカエルの最大魔法でさえ無傷のこのレイパーに効くはずも無い。


 それでも諦めずエネルギー弾を連射する優。レイパーは攻撃を受けつつ、ニヤニヤ笑いながら彼女へとゆっくり近づいていく。


 胸に飛んで来たエネルギー弾を腕で明後日の方向へと弾き飛ばすと、口を開いた。


「ホレヘワテマアフタソ、ラコリテメキノ。ホニ……ザルンッニマアハルモト……?」


「や……やめろ……」


 楽しそうな口調でそう言うレイパーに、雅は顔を青くする。言葉は分からずとも、何をしようとしているのかなんてすぐに分かった。


 地面を這いながらも、必死で優の側へと行こうとするが、いかんせん亀の歩み程の速度すら無い。


 このままでは、優が殺されるのは必然だ。


 ついに優まで近づいたレイパー。


「やめろ……」


 レイパーは優のアーツを蹴りとばすと、彼女を踏みつける。


 痛みに悲鳴を上げる優。


「やめろ……!」


 遠くではミカエルやファム、ライナが意識を集中させ、魔法やアーツ、スキルで助けようともがく様子を見せているが、到底間に合わない。


 レイパーは優の胸ぐらを掴んで持ち上げると、黒く染まった右腕を後ろに引く。


 その拳で、優の腹部を貫いて殺そうというのだろう。


 レイパーのニヤけ顔が、一層強まった、その時だ。







「やめろぉぉぉぉぉぉおっ!」







 雅の魂の声が轟くと共に、彼女の体から『何か』が飛び出してきた。

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