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第158話『一繋』

 ミカエル、希羅々、シャロン、真衣華の四人の危機に駆けつけた雅達。


 先頭に立っているのは、雅と愛理だ。


 二人の手には、巨大な刀剣。剣銃両用アーツ『百花繚乱』と、刀型アーツ『朧月下』の合体アーツだ。分身レイパーを倒したのは、このアーツから放たれた斬撃である。


 隣では優が弓型アーツ『霞』を構えていた。


 後ろにはレーゼ、志愛、セリスティア、ライナ、ファムの姿もあり、既にアーツを構えて先頭体勢を取っている。


 そんな彼女達へ、魔王種レイパーはゆっくりと歩いていく。


 新たに現れた獲物に、興奮を抑えきれないような笑い声さえ漏らしていた。


 そんな中、ミカエルが杖を掲げ、雅達へとアイコンタクトを送る。


 何をしようとしているのか理解した雅達と、何かしようとしている、ということに気が付いた魔王種レイパー。


「ッ?」


 刹那、ミカエルの杖から夥しい量の煙が噴出し、全員の姿を隠す。


 無駄なことを……と言わんばかりに薄気味悪い笑みを浮かべながらレイパーは右腕を上げ、衝撃波を放ってすぐに煙を吹き飛ばした。


 が、そこでレイパーの首を傾ける。




 煙が吹き飛んだ後……そこには誰もいなかったのだ。




 消えた雅達がどこにいるか、魔王種レイパーが辺りを見回そうとした、その刹那。


 背後から殺気を感じ、振り向く。


 魔王種レイパーの視界に映ったのは……ファムの腰に両手で捕まり、猛スピードで向かってくる真衣華。


 真衣華はファムから手を離しレイパーに飛び掛かると同時に斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』を呼び出し、さらにスキル『鏡映し』を使って二挺に増やす。


「えぇぇぇいっ!」


 そのまま『腕力強化』のスキルも発動し、速度とパワーを乗せた強烈な二連撃をレイパーの体に叩き込んで怯ませる。


「喰らえ!」


 そこに間髪入れずに、ファムがレイパーの後頭部に飛び蹴りを喰らわせた。


 そしてつんのめるレイパーへと二撃目の踵落としを繰り出すが、崩れた体勢でもレイパーの手がファムの足を掴み、流れるような動きでそのまま遠くへと投げ飛ばしてしまう。


 続けて斧を振り上げている真衣華を仕留めようとするが――そこでレイパーの視界の端に、朧月下で斬りかかってくる愛理が映り、体を仰け反らせて、二人の放つ斬撃を躱した。


 その瞬間、愛理の姿が消える。


「こっちだ!」


 スキル『空切之舞』で背後に瞬間移動していた愛理。声で魔王種レイパーの気を引くと同時に斬りかかる。


 魔王種レイパーの前からは真衣華、後ろからは愛理が同時に放った斬撃。


 レイパーは愛理の攻撃はそのまま体で受け止め、真衣華の攻撃は自分に命中する前に彼女の腹部に蹴りを入れて吹っ飛ばす。


 そして振り向き、愛理に殴りかかろうとしたところで――上空から攻撃の気配を敏感に感じ取り、レイパーがその場を飛び退いた。


 直後、今までレイパーがいた場所に、雷が落ちてくる。


 レイパーが見上げれば、そこには山吹色の竜……シャロンがいた。


 体の回りには電流の迸るリング。さらに頭上には雷雲。先の雷は、シャロンが落としたものだった。


 落雷を回避した魔王種レイパーだが、着地したところで、愛理が斬りかかってくる。


 それを腕で受け止めると、そのまま彼女の脇腹に回し蹴りを入れて遠くまで吹っ飛ばし、さらに空中のシャロンに右手の平を向けるレイパー。


 だがそれを邪魔するように、空中から白い矢型のエネルギー弾が降り注いでくる。


 シャロンの背中に優が乗っており、彼女が霞を構えてレイパーを睨んでいた。


 僅かにレイパーの気が逸れた隙にシャロンは一気に敵に近づき、大きな尻尾を叩きつけるも、魔王種レイパーは跳躍してそれを躱す。


「っ! サガミハラ! 儂から降りよ!」


 そう言った次の瞬間、シャロンの体に襲いかかる黒い衝撃波。


 寸前の所で優は逃がせたが、シャロンの体は地面を転がっていった。


「こんのぉ!」


 怒りの声を上げ、地面に着地すると同時にエネルギー弾を乱射する優。だが魔王種レイパーはエネルギー弾の嵐の合間を縫うよう動き、優へと近づいていく。


 後少しで優を殴れるところまで近づける――といったところで、優とレイパーの間に無数のライナが出現した。


 全てライナのスキル『影絵』で創り出した分身達である。


 分身達は鎌型アーツ『ヴァイオラス・デスサイズ』を構え、一斉にレイパーに襲いかかった。


「デンコゾ!」


 行く手を阻む分身ライナに苛立たしげに舌打ちをしながら、蹴りや掌底、衝撃波で素早く彼女達を蹴散らしていくレイパー。


 分身ライナ達の隙間から飛んでくる優の狙撃にウザったそうにしながらも、あっという間に分身達を全滅させた魔王種レイパーは、一気に優との距離を詰める。


 が、そこで、


「させない!」


 本体のライナが優と魔王種レイパーの間に飛び込んできて、レイパーが放った鋭い蹴りを鎌で防ぐ。


 だがレイパーの怒りに任せた蹴りの威力は到底鎌で防ぎきれるものでは無く、ライナは吹っ飛ばされ、背後にいた優も巻き込んで遠くに転がっていく。


「おら! こっちだ!」


 レイパーの背後から声が轟き、そちらに目を向けた魔王種レイパー。そこにいたのはセリスティア。猛スピードで突進してきており、爪型アーツ『アングリウス』をレイパーに向けていた。


 銀色の爪がギラリと光り、このまま魔王種レイパーの体を貫こうというところであったが、レイパーはその一撃を、腕をクロスさせて軽々受け止める。


 そんなレイパーの体に大量の羽根が突き刺さり、爆発。


「こっちもいるよ!」


 一度は吹っ飛ばされたファムが、再びレイパーに攻撃を仕掛けていた。


 レイパーは低く唸ると、攻撃を止められ歯噛みしているセリスティアを横に蹴り飛ばし、さらにファムに向けて衝撃波を放った。


 ファムは翼型アーツ『シェル・リヴァーティス』を丸めて体を覆い、衝撃波を防ぐも、そのまま吹き飛ばされてしまう。


 さらに再度突っ込んでくるセリスティアへと前蹴りを繰り出すが、セリスティアは自身のスキル『跳躍強化』で高く跳びあがり、その一撃を回避する。


 レイパーはセリスティアを追いかけようと膝を曲げた、その刹那、


(わたくし)を忘れないで下さいまし!」


 横から希羅々がレイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』で鋭い突きを放ってきた。


 レイパーは体を回転させ突き攻撃を受け流すも、そんなレイパーの頭上からセリスティアが落ちてくる。


 落下の勢いを利用して、レイパーに大ダメージを与えようとする狙いだ。


 しかし、レイパーはバク転してセリスティアの攻撃を躱すと、そのまま彼女の腹部に左拳を叩きこみ、遠くまで吹っ飛ばす。


 さらに攻撃のために近づいていた希羅々にも掌底を放とうとするが、その瞬間、レイパーの横から誰かが飛び掛ってきた。


「ハァッ!」


 志愛だ。棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』による強烈な打撃が、希羅々ばかりに気をとられていた魔王種レイパーの脇腹に直撃し、紫色の線で描かれた虎の模様が浮き上がる。


 僅かに怯んだレイパーへと、希羅々のレイピアと志愛の棍の激しい乱打が襲いかかった。


 脇腹に浮き上がった虎の刻印をかき消しながら、二人の攻撃を足や腕で捌いていくレイパー。


 やや大きく踏み込んできた希羅々に、カウンター気味に肘打ちを叩きこんで吹っ飛ばすと、志愛へと上段側蹴りを放つ。


 志愛は咄嗟に仰け反ると、その顔面スレスレをレイパーの足が通過。


 体勢が崩れ、大きな隙を見せてしまった志愛に、レイパーの第二撃の拳が迫る。


 だがあわや強烈な一撃が志愛の体に叩きこまれそうになったその刹那、レイパーの体に火球が直撃した。


「シアちゃん! 援護するわ!」

「助かりまス!」


 ミカエルが遠くから、魔法を放ったのだ。


 ミカエルが杖型アーツ『限界無き夢』を振るい、無数の火球を撃つ。


 レイパーが衝撃波を放って火球を全て相殺するが、そこに志愛が棍で攻撃。


 脛、肩口、脇腹と素早く三連撃を叩きこみ、最後に腹部に突きを放った志愛だが、それが直撃する直前でレイパーが棍の先端を掴み、そのまま跳烙印・躍櫛を握り潰してしまった。


 呆気にとられた志愛を衝撃波で吹っ飛ばすのと、ミカエルが直径六メートル以上もある火球を放つのは同時。


 しかしレイパーは腕を振って火球を明後日の方向へ弾き飛ばすと、ミカエルがさらなる魔法を放つより先に彼女に接近し、ハイキックを繰り出す。


 と、その瞬間、


「ミカエルさん危ない!」

「くっ?」


 ライナの声が轟き、刹那、ミカエルとレイパーとの間に分身ライナが出現する。


 それでもレイパーの蹴りは分身ライナごとミカエルを空へと吹っ飛ばしてしまった。


 分身が間に入り、それがクッションとなったことでミカエルの体は無事だが、それでも空中に投げ出されてしまえば大きな隙が出来る。


 レイパーはミカエルに止めを刺さんと高く跳躍し、ミカエルに勢いよく接近。


 だがミカエルは杖を振るい、上空に五枚の星型の赤い板を創り出し、一気に魔力を集中させる。


「喰らいなさい!」


 ギリギリまでレイパーを引きつけてから放った極太のレーザー。


 流石に二発もこの魔法を受けるのはレイパーもヤバいと思ったらしく、衝撃波で応戦しようとするが、それしきではレーザーを防ぎきれるはずも無い。


 レイパーは顔と胸を腕でガードしつつもレーザーを浴びながら、勢いよく地面へと落下していく。


 床に叩きつけられ、バウンドするように跳ねるレイパーの体。


 そんなレイパーに、二人の影が迫る。


 本体のライナと……雅だ。


 雅が構える百花繚乱の刃は、炎に包まれている。今のレーザーで飛び散った炎を火種に『ウェポニカ・フレイム』のスキルを発動させたのだ。


「ライナさん! 行きます!」

「はい!」


 レイパーが立ち上がるのと、二人が斬りかかるのは同時。


 二人の初撃がレイパーの肩口にヒット。僅かな斬り傷が出来た。


 雅が続けて横に一閃を放つが、それはバックステップで回避するレイパー。


 しかしその瞬間、雅は『空切之舞』を発動させる。攻撃が避けられてしまった瞬間に使えるスキルだ。


 愛理が使った場合は敵の死角へと瞬間移動出来るスキルだが、雅が使った場合は効果が変わる。三十秒間だけ、瞬発力を大幅に上げられるのだ。


 雅は一瞬で敵の背後に移動すると、アーツを振り上げる。


 だが、レイパーは雅の動きに反応し、彼女が剣を振り下ろすより先に振り向き、拳を振り上げた。


 その瞬間、六人の分身ライナが出現し、雅の姿を隠してしまう。


 背後にも、同じ数の分身の気配を察知したレイパー。ライナが敵を撹乱するため、大量の分身を出したのだ。


 レイパーが十人のライナに掌底を叩きつけるが、全て分身。


 残った分身の後ろから雅とライナが飛び出し、雅は胸部へ、ライナが膝裏へと同時に斬りつけた。


 さらに素早く三撃目を繰り出すモーションに入ったライナだが、そんな彼女の腹部に拳を叩きつけて大きく吹っ飛ばす。


 さらに残った分身を纏めて衝撃波で消し飛ばすと、レイパーの目が雅へと向いた。


 刹那、レイパーの後頭部に白い矢型のエネルギー弾が直撃し、視界がブレて雅の姿を見失うレイパー。


 優が遠くからレイパーへと攻撃を仕掛けていたのだ。


 そして大きな隙が出来たところを、雅は見逃さない。


 素早く百花繚乱の柄を曲げてライフルモードにすると、銃口をレイパーへと向ける。


 刀身に宿る炎が全て銃口に吸い込まれ、そのまま、炎に包まれた桃色のエネルギー弾がレイパーの腹部に叩きこむ。


 雅はこの時、優のスキル『死角強打』も発動。視認していない攻撃の威力を上げる効果も合わさり、強烈な一発となったそのエネルギー弾は、爆音と共に、レイパーを遠くまで吹っ飛ばした。


「マタ……ッ!」

「こっちです!」

「私もいるわよ!」


 レイパーが着地し、苛立たしげな声を上げた直後、左右からライナとレーゼが飛び掛る。


 ライナの持つヴァイオラス・デスサイズと、レーゼの持つ剣型アーツ『希望に描く虹』の斬撃が、レイパーへと迫っていた。


 つい先程強烈な攻撃が直撃したレイパーは、二人の攻撃を避けるのでやっと。


 レーゼの斬撃の軌跡に虹が掛かり、それがレイパーの視界を邪魔するため、反撃に転じるタイミングが掴み辛いというのもあった。


 ライナはさらに『影絵』のスキルで四人の分身を創り出す。ここが好機だと判断し、一気に攻めきるつもりだ。


 全部で五人になったライナと、レーゼの攻撃の嵐。


 それら全てを腕や足で防ぎ、体を反らして躱すレイパー。直撃こそしないが、レイパーの顔にも焦りが見える。


 流石に形勢不利と判断したようで、レイパーは大きくその場を飛び退いてライナ達から距離を取るが、レーゼは一早くレイパーの動きに反応し、地面を蹴って一気にレイパーとの距離を詰める。


 さらにレーゼの遥か後ろから、優が霞を構えてレイパーに狙いを定めていた。


 剣の攻撃範囲にレイパーを収めた瞬間、レーゼの強烈な斬撃が繰り出される。


 それは腕で受け止めるレイパーだが、レーゼは怯むことなく、二発、三発……合計十発もの斬撃を素早く繰り出し、レイパーを攻め立てていく。


 反撃に転じようとするレイパーだが、ちょくちょく体の的確な位置に優の放ったエネルギー弾がヒットし、動きが邪魔される。


 さらにライナもレイパーへと接近してきていた。


 それでもレイパーはレーゼの斬撃の合間に、優とライナに向けてそれぞれ衝撃波を繰り出して二人を遠ざけると、攻撃のために剣を振り上げていたレーゼの腹部へと蹴りを放つ。


「ちっ!」


 あわやレイパーの攻撃が直撃するといったところだったが、寸前でレイパーの動きに危険を察知していたレーゼは蹴りを腕で防ぐ。


 自身のスキル『衣服強化』を使っても、骨から軋むような音が上がる程の威力の蹴り。他の皆のように吹っ飛ばされないようにするだけで精一杯のレーゼ。


 さらに放たれる掌底や、二発目の蹴りも全て腕で防御していくレーゼ。一瞬隙を作ってしまっただけで、あっという間に攻守が逆転してしまう。


 それでも、レーゼの目には強い光が宿っていた。


 なぜなら――雅が魔王種レイパーの背後に忍び寄っていたからだ。


「はっ!」


 奇襲するように背中へと放たれた斬撃。


 一瞬背後に気を取られたレイパー。


 その隙にレーゼの剣が、レイパーの脇腹を斬りつける。


 そのままレーゼが流れるような動きでレイパーの首、脇腹、太股へと三連撃を叩きこみ、雅が『腕力強化』のスキルを使いながら回転斬りをレイパーの胸部へと叩きつけ、敵を怯ませた。


 その瞬間。


 レイパーの体に十発の羽根と、三発の白い矢型のエネルギー弾、一発の炎で出来た針が直撃し、直後、ライナ、希羅々、セリスティア、志愛、愛理、真衣華、人間態のシャロンがほぼ同時に、レイパーを囲むように飛び掛った。


 鎌が、レイピアの突きが、爪が、棍が、刀が、斧が、竜の尻尾が、レイパーの体へと叩きつけられるが――驚くべきことに、レイパーはその全てを、ノーガードで、全身で受けた。


 そして……


「マタ……ラヤトザカァァァアッ!」


 レイパーは体を発光させながら、全身から全方位に向けて衝撃波が放ち、遠くにいたファム、優、ミカエル以外の九人を纏めて部屋の壁際まで吹っ飛ばしてしまう。


 さらに、レイパーの体がムクムクと膨れ上がる。


「ネワルヘテタウトォォォオッ!」


 怒りの方向と共に、魔王種レイパーは全長二十メートルもの、下半身の無い巨大な怪物へと姿を変えていく。


 頭部から角。二本しか無かった腕は、四本に増えていた。


 この姿を見るのは、雅とレーゼはこれで三度目。他の皆は二度目。


 かつて戦った時の記憶が蘇り、皆一様に顔を強張らせる。


 ラージ級魔獣種レイパーへと変身した敵が、四本の腕を振り上げるのだった。

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