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第156話『胎児』

 希羅々達が魔王種レイパーと戦っている頃。


 新潟市内では。


「お前でラストっす!」


 伊織の放った小型ミサイルが、逃げようとするスライム種レイパーに直撃。爆発四散させる。


 先程まではここにも大量のスライム種レイパーがいたのだが、優香のアーツで敵の動きを封じ、ノルンの魔法で大半を倒し、仕留めそこなった一匹を伊織が止めを刺した、という状況だ。


「伊織ちゃん、グッジョブよ! さぁ次に――」

「――っ! 二人とも! 私の近くに!」


 ノルンが自身のスキル『未来視』で何を見たのか、血相を変えてそう叫ぶ。


 瞬間、辺りが暗くなる。


 優香と伊織が思わず空を見上げれば、三メートル以上はあろうかという巨大なスライムが落ちてくるのが見え、目を見開いた。


 ノルンが杖型アーツ『無限の明日』を振り、巨大な風の球体を放ちスライムに直撃させると、スライムの体が破裂し、スライム片が辺りに降り注いだ。


 ノルンが杖を振って風のドームを作り上げ、自分達にはスライムが掛からないようにしたものの、彼女の顔は険しい。敵を倒したわけでは無いのだ。しばらくすれば、敵の体は再生してしまうだろう。


 優香が試験管型アーツ『ケミカル・グレネード』をばら撒くと、大量の煙が発生し、近くのスライム片が凍りつく。


 そこに伊織のミサイルとノルンの魔法をぶつけ、粗方は爆発四散させるが、まだ残っていたスライム片が一ヶ所に集まり、ぐにゃりと変形して、騎士のような形になった。


 それも、今まで倒してきた奴らよりも一回り大きな形状だ。形は騎士でも、体はスライム。物理的な攻撃は効かず、再生能力も高い強敵である。


 三人が険しい顔で、それぞれのアーツを構えた、その時。




 レイパーと三人の間に、空から突如、誰かが降りてきた。




 全身銀色のプロテクターを装着し、ヘルメットを被った女性だ。歳は雅達と同じくらいだろうか。ヘルメットの下からは、一本に束ねた黒髪が背中の真ん中辺りまで垂れている。


 プロテクターの胸元には、紫色のアゲラタムの紋様。


 女性は自身の背後で呆気にとられ、硬直する三人を無視し、バイザー越しにレイパーを睨みつけながら、敵にゆっくりと近づいていく。


 カチャリ、カチャリ……とプロテクター同士が擦れて鳴る金属音。


 それが、彼女の体から大きな威圧感を発生させているように、ノルン達は感じた。


 レイパーは腰から、スライムで出来た剣を抜き、盾を構える。敵も、現れた女性を大いに警戒している様子だ。


 剣の攻撃範囲に女性が入ってきた瞬間、レイパーが先に攻撃を仕掛ける。


 横に一閃。空をも斬り裂く程、素早い一撃。


 だが――


「――っ」


 女性はその一撃を、片腕で受け止める。


 よろめくことは無く、声も上げない。ダメージは受けていない様子だ。


 刹那、女性の姿が消え、敵の背後に出現する。


 否、そうと錯覚する程の瞬発力で、レイパーの後ろに回りこんだのだ。


 ノルン達も、レイパーでさえも、息を呑んだ瞬間。


 女性はレイパーの背中に片手の平を当てると、そこから衝撃波を放った。


 木っ端微塵に吹き飛んだ後、爆発するレイパー。


 女性はそれを無表情で見つめた後、辺りを見回す。


 他に敵はいないと判断したようで、全身に淡い光を纏い……そのまま、なんと宙に浮き上がった。


 すると、そんな彼女にノルンが近づき、頭を下げる。


「あ、あの……ありがとうございます」

「…………」


 だが女性はそれをジッと見つめ……礼を言ったノルンに反応を示すことも無く、そのままどこかへと去っていく。


 ポカンとそれを見つめる三人。


「……誰っすかね? 一般人っぽかったっすけど」


 最初に言葉を発したのは、伊織だ。


「分からない。でも、あの娘の身に付けていたあの装甲服、アーツよね?」

「レイパーにダメージを与えていたっすから、間違いねーはずですけど……でも、初めて見たっす。あんな全身に装備するようなタイプのもの。『StylishArts』の新製品っすかね?」


 伊織の言葉に、優香は唸りながら首を傾げる。


 何となくだが、違う気がした。もし伊織の言葉が正しければ、きっと光輝や蓮は優一や自分にその話をしていたと思ったのだ。


「しっかし、感心しねー奴ですね。折角ノルンちゃんがお礼を言いに行ったってのに、無視するなんて……」

「あ、あはは。もしかすると、シャイな人なのかも。私、全然気にしていないから平気ですよ。それより、早く他の場所に向かいましょう」

「そうね。まだレイパーは残っているみたいだし……ボーッとしている暇は無いわ」


 そんな会話をして、三人は再び別の場所へと向かうのだった。




 ***




 一方、その頃。


 ディアボロス種レイパーを倒し、部屋を出た雅と優はというと。


「あっ、みーちゃん! 窓がある!」

「本当だ……。周り、海ですね。やっぱり塔の中だったんだ」


 通路を進んでいる最中、ようやく外の風景を確認出来た二人。


 恐らくは塔の中に転移させられたと推理していた雅達だが、こうして本当にそうだと分かり、ホッとする。


 下に見える海の様子から、塔の真ん中辺りにいるのだと雅達は思った。


 そして、キョロキョロと辺りを見回し――雅の顔が険しくなる。


「……ドローンがありません。もしかして、皆も塔の中へ転移させられたのかも」

「なら、私達みたいにレイパーがいる部屋に連れて行かれたのかな? 無事だと良いけど……」

「通路、まだ続いていますね」


 レイパーと戦った部屋から、ここまでは一方通行だった。レーゼ達と再会するにせよ、魔王種レイパーと戦うにせよ、奥に向かわなければならない。


 二人は何となく早足で通路を進むと……


「……何かしら、ここ?」


 二人が辿り着いた先にあったのは、小部屋。


 奥にはさらに通路が続いているが、それよりも先に、二人の視線を奪ったものがあった。


 真ん中には直径一メートル程のガラス管が、床から天井まで通っている。


 そのガラス管の中の物。それを見て、二人は目を見開く。




「これ、あの時の……あの黒い光!」




 ガラス管の中にあったのは、『StylishArts』の地下で久世が鏡から取り出し、魔王種レイパーが奪っていった、黒い光球だった。


 あの時は手の平サイズの大きさだった光球は、今や両手で抱えないといけないくらいのサイズになっている。


 さらにその光球の中には……


「何、あれ? 赤ちゃん?」


 背中が粟立つ感触を覚えながら、優がゾッとしたように呟く。


 光球の中心には、まるで胎児のような姿をした『何か』がいた。


 しかしその容貌は、とても人間の胎児とは思えない程、肌は黒く、おぞましいオーラを纏っている。


 明らかにレイパーだ。


 レイパーの胎児だ。


「久世さん、『原初の力を手に入れる』って言っていましたよね? じゃあ、これって……」

「そんなことどうでもいいよ。それよりみーちゃん、こいつ、ここで倒してしまおう! そうすれば、あのレイパーも、久世の目的も、全部おじゃんに出来る!」


 言うが早いか、優が弓型アーツ『霞』を構え、光の球体へと白い矢型のエネルギー弾を放つ。


 が、しかし。


「っ! 効かないっ?」


 優の攻撃はガラス管に防がれ、レイパーの胎児まで届かなかった。


「私も! はぁっ!」


 雅が剣銃両用アーツ『百花繚乱』を振り、ガラス管へ刃を叩きつけるが結果は優と同じ。


 レイパーの胎児はおろか、ガラス管に傷一つ付かなかった。


「みーちゃん!」

「ええ!」


 雅は優の霞に百花繚乱を番え、放つ。


 しかし、無駄だった。


 虚しい衝撃音が響き、ガラス管の前にあっさり百花繚乱が落ちてしまったのだ。


「……このぉ! 何で壊れないのよ、このガラス管!」

「なんか、全然手応えが無いです!」


 最初にガラス管に攻撃した時、雅は少し違和感を覚えていた。


 力一杯攻撃し、それがガラス管に止められたのにも関わらず、自分へ反動の衝撃が全く来なかったのだ。


「このガラス管が頑丈になる魔法でも掛けられているのか、それともこのレイパーの胎児の力なのか……どっちにせよ、ミカエルさんや優香さんに調べてもらわないと駄目っぽそうです」

「くっ……折角見つけたのに、見逃すしか無いっていうのね……!」


 悔しそうに歯噛みしながら、優は思いっきり地団駄を踏んだ。


 それでも、今の自分の力が通用しないというのは理解したのだろう。


 何度もレイパーの胎児の方を振り返りながらも、雅と一緒に、優は部屋を後にするのだった。




 ***




 それから、十数分後。


 二人が歩いていると、扉が見えてきた。


「また部屋? ったく、レイパーがいるとかじゃなければ良いんだけど……」

「でもさがみん。何か変じゃありませんか?」


 扉まで近き、壁の横にある『あるもの』の存在に気がついた雅。


 とても古代の建造物には似つかわしくない、タッチパネルがあった。


「えぇ……何これ?」

「指を近づけると、上と下の矢印のボタンが出てきます。エレベーターみたいですね……」


 天空島は古代に存在していた民族、ガルティカ人が作ったもの。そしてこの塔は天空島が変形したものだ。


 改めて、ガルティカ人の技術力に感服した雅。


「でも、助かります。このままおちおち登っていっても、埒が明きませんでしたし……」


 全長十五キロ以上もある塔だ。途中で、自分達が塔の真ん中辺りにいると分かった時から、最上階までの道のりを考えないようにしていた二人。


 タッチパネルの『上』のボタンを押して、待つこと三分。


 扉が開くと――


「えぇっ?」

「ミヤビさんっ?」

「相模原っ! 良かった、無事だったのか!」


 他にも、驚いたような声があがる。


 そこにいたのは、レーゼやライナ、愛理に志愛、ファムとセリスティアだった。


 実は六人も、途中でこのエレベーターを見つけていたのである。


 上へと向かいながら、雅達はレーゼ達もここに転移させられ、レイパーと戦っていたことを知る。


 レーゼ達も、ここでようやく――最も、予想はしていたが――自分達が塔の中に転移させられたのだと知った。


 そして、


「成程。レイパーの胎児ね。響きだけで嫌な感じ……」

「でも、何も出来なくて……後でミカエルさん達に相談してみようかなって」


 雅と優からレイパーの胎児の件を聞いた六人は、揃って顔を顰めた。


「ところで、ミカエルさん達も、この塔の中に転移させられているんでしょうか?」

「状況を考えて、彼女達だけ何もされていないことは無いだろう。向こうのドローンにも魔法陣が出現したはずだ。ガルディアルさんが三人を連れて脱出していれば、無事かもしれないが……」


 現在進行形でシャロン達が魔王種レイパーと戦っているとは知らない雅達。


 あれこれ会話をしながら、エレベーターは止まること無く上昇していき――




 そして、魔王種レイパーのいる最上階に到着したのだった。

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