第155話『王魔』
塔の最上階で、ついに姿を見せた魔王種レイパー。
倒すべき敵を見つけたことで、四人も戦闘体勢をとる。
希羅々の手に握られているのはレイピア。『シュヴァリカ・フルーレ』だ。
真衣華が持つのは、真紅の斧の『フォートラクス・ヴァーミリア』。二挺あり、内一つは彼女のスキル『鏡映し』により複製したものである。
ミカエルは赤い宝石のついた白い杖の『限界無き夢』をレイパーに向けていた。
シャロンは両腕を山吹色の鱗と爪のある腕に変化させ、背中から小さな翼、尻から尻尾を生やす。
そんな彼女達を順番に眺めたレイパーは、にやりと笑みを浮かべ――右手の平を天井へと向ける。
何をする気だと、四人が警戒していると……魔王種レイパーの前方に、山のように積み上げられた大量の女性が出現した。
全員、全国各地で出現した魔法陣によりここに連れて来られた女性達である。一人残らず殺されており、死体の損傷も目を背けたくなる有様だった。
そんな女性の死体に、レイパーは衝撃波を放って木っ端微塵にする。
唖然とする四人。
撒き散った肉塊や血は床に吸い込まれ、砕けた骨は壁へと吸い込まれていく。
その瞬間、部屋が淡い光を放った。まるで、エネルギーを得たかのような、そんな光景に思えたミカエル達。
そして、魔王種レイパーは四人を指差し……その後、指を床、壁へと順番に向けていく。
「ヌベソラコリノネゾ」
そう言って、低い笑い声を上げるレイパー。
四人の拳に、力が籠る。
「……悪趣味な奴じゃ」
「『次はお前達がこうなるんだ』……そう言いたそうだね」
「次? ……次なんてありませんわ。今、ここであいつは倒す。必ず……!」
「っ! 皆! 来るわよ!」
刹那、魔王種レイパーがミカエルの目の前に現れる。
五十メートルは離れていたのにも関わらず、一瞬で距離を詰めてきたのだ。
そして彼女に、レイパーは鋭い蹴りを放った。
しかし、
「はっ!」
「キララちゃんっ?」
希羅々が敵の動きに喰らいつき、ミカエルと魔王種レイパーの間に体を割り込ませ、レイピアで蹴りを防いだ。
強い衝撃がレイピア越しに希羅々にも伝わってきて彼女は顔を顰めるが、吹っ飛ばされる程のものでは無い。
「このっ!」
希羅々が腕に力を込めて、思いっきりレイパーを弾き飛ばす。
さらに、次の瞬間、
「えぇぇえいっ!」
「はぁっ!」
真衣華とシャロンが、魔王種レイパーの両脇からそれぞれ、斧と爪で攻撃を仕掛けた。
しかし、魔王種レイパーは体を僅かに動かし、最小限の動きで二人の攻撃を躱す。
そして反撃の掌底をそれぞれ叩きこもうとするが、その時既に、希羅々のレイピアの鋭い突きが、レイパーの顔面へと迫っていた。
頭を傾け、それを躱すレイパー。だがその頬には僅かに傷がついていた。
さらに、希羅々の頭上を飛び越えるようにして、レイパーへと火球が迫る。
先程の攻防の合間にミカエルは敵から離れ、魔法を放っていたのだ。
レイパーは迫る火球を、手の甲を叩きつけてシャロンの方へと弾き飛ばし、流れるような仕草で希羅々へと衝撃波を放つ。
「キララちゃん! 下がって!」
ミカエルはそう指示しながら限界無き夢を振るえば、希羅々の眼前に炎で出来た壁が出現する。
衝撃波は炎の壁とぶつかり、爆煙と共に相殺された。
レイパーは追撃の衝撃波を放とうとするも、横から殺気を感じ、そちらに注意を向ける。
「このぉっ!」
真衣華の鋭い声と共に振り下ろされてくる、二挺のフォートラクス・ヴァーミリア。レイパーはそれを左腕で受け止め後方に突き飛ばす。
刹那、鋭い痛みが鳩尾に走り、僅かに顔を顰めるレイパー。
希羅々が、レイパーが真衣華の対処をしている隙に接近し、突きを放ったのだ。
「――ちっ!」
思った程怯む様子を見せなかったレイパーに、希羅々は思わず舌打ちしつつも、すぐにその場を離れる。
上空からレイパー目掛け、雷のブレスが襲いかかってきていたのだ。
いつの間にか竜の姿に変身し、飛び上がっていたシャロンが攻撃を仕掛けたのである。
希羅々の攻撃に気をとられたところを狙った一撃。タイミングはバッチリで、普通のレイパーならば直撃は必須。
だが、
「っ!」
レイパーはブレスが命中するよりも早く跳躍し、シャロンの眼前へと迫っていた。
レイパーの手の平が、シャロンの眼へと向けられる。
黒い衝撃波が放たれるのと、シャロンが空中で人間態へと姿を変えたのは同時。
シャロンの頭上を衝撃波が通り過ぎ、直撃は免れた。
それでも、安心するのはまだ早い。
衝撃波を躱されるのはレイパーも読んでいたのだろう。
レイパーは既に、拳を振り上げていた。
「ぬぅ!」
咄嗟にシャロンは竜のものへと変化した腕を体の前でクロスさせ、強靭な鱗でレイパーの強烈な拳の一撃を受ける。
痺れる腕の感触。強靭なはずの腕から、軋むような音が鳴った。さらに攻撃の衝撃で勢いよく落下していくシャロン。
そんな彼女に、レイパーは足から衝撃波を放ち空中を移動して接近すると、さらに一発、二発と殴り続けていき、シャロンもそれを腕で防いでいく。
結局シャロンが床に落ちるまで六回も殴られ、着地と同時にシャロンがその場を離れたことでレイパーの攻撃がようやく終わった――かに思えた。
「おのれぇっ!」
飛び退いたシャロンへと、レイパーはまだ近づいてくる。流石に殴られるほど近くは無いが、衝撃波で仕留めようと、レイパーはシャロンに手の平を向けていた。
と、その時だ。
シャロンとレイパーの間に入ってきた人物が、一人。
それが真衣華だとシャロンが分かった瞬間、レイパーの衝撃波が繰り出される。
真衣華はそれを二挺の斧をクロスさせて防ぎながら、まるで衝撃波を吹き飛ばすように腕を思いっきり左右に引いた。
「ッ!」
レイパーの胸に、カウンター気味に入るフォートラクス・ヴァーミリアの刃。
雅が以前傷を付けた部分に直撃し、流石のレイパーも痛みを表に出すことを隠せない様子。
そのまま大きく吹っ飛んだレイパーの視界に、あるものが映った。
それは、巨大なレーザー。ミカエルの最大魔法だった。
真衣華がチャンスを作ってくれると信じて、発射の準備を済ませていたのだ。
吹っ飛ばされるレイパーに、撃つならここしかないとミカエルは確信したのである。
衝撃波を当てて少しでも威力を相殺しようとし、腕を上げる魔王種レイパーだが、時既に遅し。
轟音と共に、レイパーにレーザーが直撃し、大爆発を引き起こした。
「やりましたかっ?」
「いえ……まだよ!」
確実に仕留めたと思った希羅々が顔を明るくさせるが、ミカエルは首を横に振る。
敵を爆発四散させたという手応えは無い。まだ魔王種レイパーは生きていると、彼女の直感は告げていた。
そして――その直感は当たる。
「……ちぃ、化け物めぇ」
「一筋縄じゃいかないね、全く……」
シャロンと真衣華が、苦い顔をしながら呟く。
カツ、カツ……と、レーザーの爆煙の中から出てきた魔王種レイパーは、身に纏うマントやブーツ等は損傷し、体のあちこちを火傷させながらも、まだまだ戦えそうな様子を見せていた。
煙を吐きながらもニヤリと笑う、魔王種レイパー。
「ンソエ、ラコリノネソラカヘアレトロ……」
四人に聞こえるようそう言うと……魔王種レイパーから伸びる影が二つに分かれ、そこからそれぞれ黒い塊が出現する。
そしてその黒い塊が形を変えると――魔王種レイパーと全く同じ姿になった。
まるで、ライナの『影絵』のような分身生成。
「あれは、レーゼさんが苦戦させられた技!」
「な、何々っ?」
「あのレイパー……あんなことも出来ましたのねっ?」
「気を付けよ! 奴が来るぞ!」
シャロンの焦るような声が響くと同時に、全部で三体となった魔王種レイパーが希羅々達へと襲いかかってきた。
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