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第152話『剣魔』

 一方、レーゼ達が魔法陣により強制転移された頃。


 セリスティア達が乗っているドローンにて。


「おいおい、ファムの奴、おせーな! 何かあったのかっ?」


 ドローンのドアを開け、身を乗り出しながらセリスティアが顔を強張らせる。


 雅達の乗っていたドローンは煙を上げ、徐々に落ちていく。早く脱出しなければ命は助からない。


 すると、


「何かあったのは間違いない! 中に誰もおらぬ!」


 ファムの後にドローンの元へと向かっていたシャロンが、セリスティアにそう告げた。


「なにぃっ? 誰もいねーだと? どういうことだっ?」

「分からぬ! ……む? おい、お主! 足元を見よ!」

「足元? あぁんっ?」

「しまっタ! これハ……!」

「皆、手を!」


 セリスティア達が乗るドローンの床に、紫色の魔法陣が出現していた。


 雅やレーゼ達を転移させた、あの魔法陣と同じものだ。


 ライナが咄嗟に志愛とセリスティアの手を掴む。


 少し遅れてシャロンがセリスティアの肩を掴もうと腕を伸ばすが――それが届く前に、三人は姿を消した。




 ***




「ぐぉっ?」

「ワッ?」

「きゃっ!」


 三人が移動した先は、どこかの家の中。


「いってって……どこだ、ここ?」


 転移した際に床に強く打ちつけた体を擦りながら、セリスティアは辺りを見回す。


 リビングダイニングのようで、随分と広い。


 異様なのは、一切の窓が無いことだろう。


 様相を見るに、日本の家という感じでは無い。どちらかと言えば、セントラベルグ等にある豪邸の一室のように、セリスティアは感じる。


「ウゥ……あれガ、話に聞いていた転移の魔法陣ですネ……。やられタ……」

「誰かが住んでいる……って感じじゃないですね。出口はどこでしょう?」


 ライナが家具を見ながらそう言って首を傾げる。


 タンスやクローゼット、テーブル等があるが、どれも埃を被っていた。しばらく誰も使っていないのは明らかだ。


「……この部屋、出口も無イ。完全な密室ダ」


 言いながら、志愛がポケットからペンを取り出す。


 右手の指輪が光を放つと――ペンは棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』へと姿を変える。


 他の人のように武器を呼び出すのでは無く、棒状の物を武器に変化させるのが、志愛のアーツの特徴だ。


「最悪、壁をぶち破るしかねーってことかよ……」


 セリスティアも両手の小手を巨大化させ、爪型アーツ『アングリウス』を構えた。


「…………」


 二人の会話を聞いている最中、ライナの目に剣呑な光が宿る。


 彼女の目が静かに動き、奥のキッチン部分へと向けられた。


 そして――ライナは自身のスキル『影絵』を発動し、分身を一体創り出すと、それをキッチンの方へと飛び掛らせる。


 分身の手には、紫色の鎌。ライナのアーツ『ヴァイオラス・デスサイズ』だ。


 分身ライナがキッチンへと勢いよく鎌を付き立てると、乾いた音が部屋に木霊する。


「何ダッ?」

「ライナ? どうしたっ?」

「気をつけて! 何かいる!」


 ライナは自分の影から、分身が持っているものと同じ鎌を出して構えながら、二人に警告を飛ばした。


 分身の攻撃を躱す『何か』の素早い動きを、彼女は見逃さなかったのだ。


 志愛が棍を構え、敵の姿を探し始めた瞬間、


「っ! シア! 左だっ!」

「エッ? ……ッ!」


 セリスティアの示す方向へと顔を向けた志愛の目に飛び込んできたのは、刃渡り一メートル程もある銀色の剣。


 咄嗟に体の前に棍を持ってきた刹那、剣がぶつかり、金属音と共に志愛の手からアーツを弾き飛ばす。


 思わず手を押さえて怯んでしまった志愛。


 そんな彼女の背後から、またしても剣が飛んでくる。


 頭部へと直撃するコースだ。


「危ないっ!」


 まさに剣が志愛に突き刺さるといった、その刹那。


 分身ライナが志愛を突き飛ばし、飛んでくる剣を代わりに受ける。


 霧散していく分身ライナを尻目に、攻撃が飛んできた方向にセリスティアとライナが目を向け……そこでようやく、敵の姿を目撃した。


 そいつを見たセリスティアは、思わず舌打ちをする。


 全身緑色の鱗に覆われた、爬虫類のようなレイパー。腕と背中に斬り傷があるそいつは、先日セリスティアと愛理が逃がしてしまった、『グレムリン種レイパー』だったのだ。


 以前は鋭い爪使って戦っていたそいつが、今度は剣を携えて三人に襲いかかってきていたのである。


「てめぇこの野郎っ!」


 怒りの声を轟かせ、セリスティアがレイパーへと飛び掛るが、グレムリン種レイパーはすぐに戸棚の陰に姿を消してしまう。


 逃がすまいと、レイパーが隠れた戸棚をアングリウスを振って破壊するセリスティアだが、既にレイパーの姿はそこには無かった。


 すると、


「なっ? 棚が……!」


 セリスティアがたった今壊したはずの棚が、あっという間に元に戻る。


「この部屋の物、壊してもすぐに直るみたいですネ……!」

「ちぃっ! 全部ぶっ壊せりゃあ、あいつなんかすぐに見つかるってのに……!」

「またどこかから剣を投げつけるはずです! 気をつけて!」


 と、ライナがそう叫んだ、その直後。


 志愛の背後から、彼女の頭を目掛け、剣が飛んでくる。


 しかし何度も同じ手は喰らわない。志愛は体を反らし、そのその攻撃を避けた。


 その瞬間――別の方向からグレムリン種レイパーが飛び出し、飛んでいる剣を空中でキャッチすると、そのまま志愛へと斬りかかる。


 が……志愛はレイパーのその行動を読んでいた。


 志愛の手に、跳烙印・躍櫛が出現。


 先程分身ライナに突き飛ばされた時、床に落ちていた木屑を拾っていたのだ。


 体を捻り、レイパーの腕目掛けて棍を振るう。


 丁度、傷のあるところ――愛理が以前付けたものである――だ。


 剣が志愛を斬り裂くより早く、強烈な一撃がレイパーの腕に直撃し、剣を叩き落とした。


 微かに悲鳴を上げ、床に体を打ちつけるレイパー。


 レイパーの腕には、紫色の虎の刻印が出現していた。


 残念ながら刻印はすぐに消えてしまったが、それならもう一発強烈な打撃をお見舞いすれば良い……と、そう思って志愛が棍を振り上げた、その時。


「シアっ! 避けろ!」


 セリスティアの警告が轟く。


 叩き落としたはずの剣がひとりでに浮き上がり、再度志愛へと襲いかかったのだ。


 あわや攻撃が命中するその直前、志愛の体が白い光に包まれる。


 剣の不意打ちに気が付いた志愛が、ギリギリのところで『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』を使ったのである。


 アーツのお陰で怪我は無いが、思いも寄らない一撃で志愛は吹っ飛ばされてしまった。


「何だありゃあっ? あの剣、勝手に動いたぞっ?」

「こっちに来ます!」


 剣はさらにひとりでに動きだし、セリスティアとライナの方へと飛んでくる。


 二人が横っ飛びで剣を躱せば、剣は軌道をセリスティアへと変えて襲いかかり、セリスティアはそれをアングリウスで弾き飛ばす。


 しかし、弾かれた剣は空中で止まると、辺りをユラユラと漂いはじめた。


 まるで、敵の隙を伺っているかのようだ。


「こいつ……レイパーかよ!」


 明らかに意思のある動きに、セリスティアは苛立たしげにそう叫ぶ。


 ひとりでに動く剣……インテリジェンスソード。


 分類は『インテリジェンスソード種レイパー』だろう。


「ウ、迂闊でしタ……! もっと早く気が付くべきだっタ……!」


 命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)の効果が切れた志愛は立ち上がり、跳烙印・躍櫛を構えながら二体のレイパーを交互に見る。


 グレムリン種レイパーとインテリジェンスソード種レイパーは、二体別々の場所へと向かい、物影へと姿を眩ます。


 そして――


「セリスティアさン! 後ろでスッ!」

「ライナ! 右から来るぞ!」

「シアちゃん! 左から来てる!」


 四方八方から、次々にレイパーが襲ってきた。


 敵の姿を探していると、死角から飛び掛られ、一方的に攻撃されてしまう。


 数の上では志愛達の方が有利なはずなのだが……敵はどちらもすばしっこい上に小柄であり、地の利を上手く利用されている形だ。


 三人は互いの死角をカバーしようと一ヶ所に固まろうとするが、レイパーも三人のその考えは見抜いているのか、そうさせないように攻撃をしてくる。


 ここが屋外なら、ライナは分身を大量に出して敵の眼を欺くという作戦もとれるが、広いとは言え屋内でそれをしようとすれば、他の二人の動きを大きく阻害してしまうことにもなり、その作戦も採り辛かった。


「…………!」


 このままでは、いずれ誰かが先に倒され、そこから一気に崩されてしまうのは明白だ。


 何とかしなければ、そう思ったセリスティアは、覚悟を決める。


 スーッと、セリスティアの足が、ライナ達へと近づく動きを見せる。


 と、その瞬間。


「っ!」


 右方向からグレムリン種レイパーが飛び掛ってきた。


 彼女を、他の二人へと近づけさせないためだ。


 今までならアングリウスで受けるか、体を捻って避けていたそれを、セリスティアは敢えて体で受ける。


「セリスティアさんっ?」

「ライナ! 避けロ!」


 セリスティアが攻撃を受けたことに驚くライナの背後から、インテリジェンスソード種レイパーが襲いかかる。


 志愛の声に咄嗟にそれに気がついたことで、辛うじて体を反らして奇襲を躱したライナだが、剣はそのままセリスティアの背中へと飛んで行く。


 が――


「舐めんじゃねぇよ!」


 セリスティアの豪腕が、インテリジェンスソード種レイパーを弾く。


 セリスティアは無事だ。彼女の体は白い光に包まれていた。命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)を使っていたのだ。


 攻撃が効かなかったことを知り、自分から離れようとするグレムリン種レイパーをクリンチして逃がさないようにし、口を開く。


「二人とも! 今だ!」


 セリスティアの拘束から逃れようと暴れるグレムリン種レイパー。それを抑えきれず、セリスティアはあっという間に吹っ飛ばされてしまうが、それで充分。


 僅かに身を隠すのが遅れ、気がつけばグレムリン種レイパーは八体のライナの分身に囲まれていた。


 八方から同時に鎌で斬りかかってくる分身達を、レイパーは爪で引き裂き霧散させるが、それでも多勢に無勢。


 七体は消滅させ、残り一体となったところで、分身の放った一撃が傷のある腕にヒットする。


 痛みに悶えている間に、本体のライナが背中の傷に鎌を突き立てた。


 断末魔のような悲鳴を上げながら、グレムリン種レイパーは爆発四散する。


 そして――残ったインテリジェンスソード種レイパーは、グレムリン種レイパーを失ったことで、戦況が不利と判断し、逃げ出そうとしていた。


 しかし、そんなレイパーへと飛び掛る人影がある。


「さっきの礼ダッ!」


 志愛だ。


 志愛の棍による渾身の突きは、インテリジェンスソード種レイパーの刀身を正確に捕らえ、紫色の虎の刻印を浮き上がらせる。


 刻印が一際大きな光を放つと――あっという間に、インテリジェンスソード種レイパーは爆発した。




 ***




 レイパーが爆発した、十数分後。


「うぉらぁっ!」


 セリスティアの咆哮と共に、家の壁が砕け、そこから三人は外に出る。


 周りを見れば、そこは茶色の壁に囲まれた大部屋。


 壁の一方向には扉があり、奥には通路がある。


「……ったく、これじゃあここがどこだか分からねーっての……」


 てっきり部屋の外に出れば何か分かるかもしれないと思っていたセリスティアが、げんなりしたようにそう呟く。


「まぁ状況的に考えて、きっと塔の中なんでしょうけど……。ここ、天空島の地下にそっくりですし」


 壁に手を触れながら、ライナは首を傾げる。壁は土とはちょっと違うものだが、何だかまでは分からなかった。


「雅やファム達がいなくなったのハ、私達と同じように魔法陣で転移させられたからでしょうネ」

「ならきっと、同じように塔のどこかにいるはず……探さなきゃ!」


 三人は互いに頷き合うと、先へと進んでいくのだった。

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