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第150話『機内』

 日和山浜(ひよりやまはま)海水浴場を出発してから、四時間半後。


 ドローンは三機あり、その内の一つの機内に、ミカエル、シャロン、希羅々、真衣華の四人が乗っていた。


 ドローンはAIにより、自動で塔へと向かっている。


「そんなに心配なさらずとも、アプリカッツァさんなら、きっと大丈夫ですわ」


 出発してからずっと外の方にチラチラ視線を向けるミカエルに、見かねた希羅々がそう声を掛ける。


「え、ええ。分かっている。分かっているわ。でも……」


 ミカエルとて、そんなことは言われずとも承知しているが、それとこれとは話が別だ。今まさに危険な戦いに身を投じている弟子を、どうして慮らずにいられようか。


「……後三十分もすれば、塔に着く頃じゃ。そろそろ、来たるべき戦いに集中した方が良かろうて」

「……そうね」


 見上げても、天辺が全く見えない程まで近づいてきた塔。


 今のところ、ドローン内にレイパーが侵入してきたということは無いが、もういつどこから襲撃されるかも分からない。


 集中しなければ、待っているのは死だ。


「ところでシャロンさん。体はもう大丈夫? 手酷いダメージを負ったって聞いたけど……」

「む? あぁ、もう平気じゃよ。竜の体は、傷が癒えるのも早いでの。タチバナこそ、ガスのようなレイパーに纏わりつかれたと聞いたが……」

「はい? 真衣華、(わたくし)そんな話聞いておりませんわよ?」

「あ、これ話しては駄目な奴じゃったかの?」

「あー、もう絶対心配すると思ったから黙ってたのに! 大丈夫、大丈夫だから!」


 会話をしている内に騒がしくなってきた機内。


 それを見ていたら、何となく気持ちが紛れるミカエルだった。




 ***




 一方、別の機内。


 こちらに乗っているのは、ファム、ライナ、セリスティア、志愛の四人だ。


「あー、退屈だぜ」


 塔まで後三十分といったところにも関わらず、ついに音を上げたセリスティアは、椅子に座りながら足をバタバタとさせる。


 すると、横に座っているファムが半眼を向けた。


「いいじゃん。忙しくて良いことなんて無いでしょ?」

「ずっと座ってんのは性に合わねーんだよ」

「分かりまス。こうも長い時間、じっとしているのは結構苦痛ですよネ」


 志愛も体を動かすのが好きなタイプだ。セリスティアのように音を上げることは無かったが、それでも体がムズムズとしていた。


「ライナは平気そうだね」


 ファムの目が、セリスティアとはうって変わって平気そうな顔をしているライナへと映る。


「長い時間、身を潜めてジッとしていないといけない時があるから、これくらいなら全然平気だよ」


 隠密任務の多いヒドゥン・バスターからしてみれば、比較的自由な姿勢で座れるドローンの中で五時間弱の時間を過ごすことなど、大したものでは無い。


 因みにファムも、ずっとジッとしているのは意外と平気だったりする。最も彼女の場合、搭乗して最初の一時間は「体力の温存」と称して寝ていたからというのもあるが。


「ったく、うらやましいこった。まぁ、そろそろ準備しておこうぜ。いつ襲われても戦えるようにしておかねーと」

「えー、まだ三十分もあるんでしょ。私、もう一眠りしておきたいんだけど」

「馬鹿言ってんじゃねーよ。気合入れろ」

「……ファム」


 ファムとセリスティアのやりとりを聞いていた志愛が、突然、横から口を挟む。


 少し眉を潜めており、何となく嫌な予感がしたファム。


 具体的に言えば、学校の先生に注意される直前の、あの雰囲気を感じ取っていた。


「ずっと気になっていたんだけド……セリスティアさんもライナモ、ファムより年上。タメ口は良くなイ」

「えー、いいじゃん別に」

「良くなイ」

「シ、シアさん。私は別に……」

「駄目、ライナ。こういうのは子供の頃からの教育が肝心」


 礼儀作法をなあなあにしてしまうと、戦闘での連携にも影響が出ると思っている志愛。


 特に、今回のように強い敵と戦うと分かっているからこそ、どうしても我慢出来ずに注意したのだ。


 すると、


「だぁー! 無駄話してねぇで、とっとと準備しやがれ!」


 色々面倒臭くなってきたセリスティアの叫びが、機内に木霊した。




 ***




 そして残る機体に乗っているのは、雅に優、レーゼに愛理の四人。


「天空島、随分と物理法則を無視した変形をしましたねぇ……。もう原型が残って無いじゃないですか」


 薄々そう思ってはいたが、近くで見て改めてそう感じた雅が、苦笑いを浮かべる。


「あの小さな島の、どこにこんな塔を作る材料があったんでしょう?」

「私も変形するところは映像で見たが、よく分からなかったな。ネット上では、海中の泥等を素材にしたんじゃないか、なんて考察もされていたが……」

「いやいや愛理。それにしたってデカ過ぎじゃない? 案外、中はスッカスカだったりして」

「うーん。波でぐらついたりしていないから、相当しっかりとした造りになってそうだけど……」


 優の言葉に、首を傾げるレーゼ。


「これもあいつの力なのかしら? もしそうなら、規格外すぎるわね……。そんな奴に、本当に勝てるんだか……」

「大丈夫! 皆でやれば、絶対何とかなります!」


 苦い顔をしたレーゼに、力強く、雅はサムズアップをしてみせる。


 一瞬ポカンとした他の三人だが、すぐに「ふふっ」と笑みを零した。


「能天気過ぎよ、全く。まぁ、みーちゃんらしいけど」

「ここまできたら楽観的に考えるしかないな」

「そうね。あれこれ考えて不安になっても仕方無いもの」


 とレーゼがそう言った、その瞬間。


 爆音と共に、雅達のドローンの機体が大きく揺れ、四人の笑みが消える。


「何だっ?」

「あっちから来たわ!」


 崩れたバランスを支えるために、全員が近くの物に捕まった後。


 レーゼが塔を指差して叫ぶ。


 何か黒い球体のような物が飛んできたのが、偶然視界に映ったのだ。


 いよいよ敵の襲撃が……と二人が塔の方に気を取られた、その時。


「っ? さがみんっ?」

「え、どうしたの――って、何これっ?」


 雅が、優の足元に紫色の魔法陣が出現していることに気がつく。


「みーちゃんっ!」

「さがみんっ!」


 優が思わず手を伸ばし、雅がそれを掴む。


 そしてその刹那、


「束音っ? 相模原っ?」

「き、消えたっ?」


 二人の姿が、一瞬で消えたのだった。

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