第148話『装備』
時は少し遡る。
新潟県警察本部の玄関前にて、爆発音が鳴り響いた。
警察署にもレイパーが攻めてきており、それが撃破された際の爆発だ。
戦場の中心に立つのは、レーゼ・マーガロイス。
少し後方には、警察所属の大和撫子の姿もある。
「ふぅ、これで全部かしら?」
辺りを見回し、残ったレイパーがいないことを確認すると、レーゼは剣型アーツ『希望に描く虹』を腰に収める。
すると、
「レーゼちゃん、お疲れ様」
後ろから声をかけられ、振り向けばそこには相模原優香がいた。彼女もレイパーと戦っていたのだ。
「ユウカさんこそ、お疲れ様です」
「いやいや、私なんか後方でずっとレーゼちゃんのサポートをしていただけよ。それより――あら、来たわね」
二人が話をしていると、優香がこちらにやって来る人の存在に気がつく。
桔梗院光輝と橘蓮。希羅々と真衣華の父親達であり、『StylishArts』の社長と開発部長だ。
何故二人がこの場にいるのかというと――
「レーゼさん、お疲れ様! 体に異常は無い? 使い勝手はどうだった?」
蓮が興奮気味にそう聞いて、光輝から「落ち着け、蓮」と窘められる。
そんな二人のやりとりに苦笑いを浮かべながら、レーゼは右手を顔の高さまで上げた。
薬指には、銀色に輝く指輪が嵌っている。よく見れば、指輪には薄らと赤みが掛かっていた。
「上々です。アーツを使いながらでも、問題なく使えましたし。体も平気です。一回使うと、しばらく使えなくなるのが残念だったくらい」
「なるほど。まだ課題はあるが、実戦で使えないことはないか」
レーゼの言葉に、フムフムと頷きながら、蓮がそう評価する。
実はレーゼの用事というのは、『StylishArts』の新型アーツ――正確にはアーツの定義から外れるが、他に適切な呼び方が無いためアーツと呼んでいる――のテストを行うためのものだった。
複数のアーツを同時に二種類以上扱うには、相当な訓練が必要だ。現に、世界を見てもそれが出来るのはごく僅かである。
だが今回の新型アーツは、誰であっても、アーツを使用中にも普通に使えるという、画期的なものだった。
コートマル鉱石が手に入ったことで開発が進み、レーゼの協力の下、様々な性能確認テストを行っていた。後は実戦テストだけ、といったところでレイパーが現れたため、レーゼが試しに使ってみたのである。
「あと、もし可能なら指輪意外のものに収納することって可能ですか? 個人的には、アンクレットとかだともっと良かったかなって」
剣を持つ手に指輪が嵌っていると、多少なりとも違和感があったレーゼ。指輪を撫でながら、そう尋ねる。
「あぁ、それは確かに配慮が足りなかった。真衣華達も既に自分のアーツ用の指輪を嵌めているし、二つも着けると戦いの邪魔か……。分かった、何か考えておこう」
作っている時は疑問にも思わなかったことだった。やはり実際の現場で無ければ見落としてしまうことがあるなと、部長になった今でもつくづく蓮はそう実感する。
「必要な戦闘データも採れた。後は最終調整して、真衣華達にも渡さないと。……早速取り掛かります、社長」
「頼んだぞ、蓮」
「あの子達には私が届けます。じゃあ、よろしくお願いします」
レーゼが指輪を外し、蓮に渡すと、彼はすぐにその場を立ち去る。
「では、私もこれで失礼します。レーゼさん、ご協力、本当に感謝する」
「いえ、こちらこそ、良い物をありがとうございます。あれがあれば、あの魔王みたいなレイパーとも充分戦える。前みたいに、やられたりしないわ」
言いながら、レーゼはグッと拳を握り締める。
光輝は「それは頼もしいな」と微笑むと、レーゼと優香に会釈し、蓮を追って姿を消した。
光輝がいなくなると、今度は優香が口を開く。
「……ところでレーゼちゃん。愛理ちゃん達からさっき連絡があったんだけど、向こうも今は一段落したみたい。どうやら一体、逃がしてしまったようだけど」
「え? あ、私のところにも来ていた……。そっか、一体逃げられたのね。まぁ何にせよ、皆が無事で良かったわ」
と、このタイミングで、二人のULフォンが甲高いアラームを鳴らす。
辺りには他の大和撫子もおり、彼女達のULフォンからも同様の音が聞こえる。
そして天空島が変化したことを知り、レーゼ達も驚愕するのだった。
***
一方、新潟県内の、某所にて。
ここは、とある研究所。
実験室の中から、一人の少女が出てきた。
彼女の体の各所には、銀色のプロテクターが着いている。装甲服、という奴だ。
そんな彼女の元に、白衣を着た、五十代くらいの女性が見るからに上機嫌そうな顔で近づいてくる。
「……研究所内に侵入したレイパー三体も難なく撃破。初戦闘にしては文句無しね。身体に異常をきたした様子も無い。合格だわ。さて――次にまたレイパーが現れたら、好きなだけ大暴れしてきなさい」
「任せて。存分にアピールしてくるわ。この――世界初の、全身装備型アーツの力をね」
少女はそう言うと、力強く頷くのだった。
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