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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第17章 新潟市中央区
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第146話『魔怪』

 新潟市中央区万代(ばんだい)の街中。


 そこでビルの屋上から屋上へとあちこち飛び回る、三つの影があった。


 内二つは愛理とセリスティア。愛理はセリスティアの背中におぶられている状態だ。


 そしてもう一つの影は、人型のレイパー。


 全身が緑色の鱗に覆われた、爬虫類のような見た目をしている。爪や牙は鋭く、血がこびり付いていた。


 分類は『グレムリン種レイパー』だ。


 柳都(りゅうと)大橋付近で女性を五人殺害したところでセリスティア達に見つかり、軽く戦闘した後に逃走。二人がそれを追っている、という状況である。


 レイパーの背中には、深い切り傷が見える。セリスティア達が戦う前からあり、殺された女性達が付けた傷だった。


 新たな獲物が現れたものの、手負いの状態では逆にやられてしまうと考えたのだろう。


 なお、逃げ出したレイパーを追いかける二人だが、敵との差は縮まらない。


 寧ろ、ほんの僅かではあるが遠ざかっている。


 そんな中、苦悶に顔を歪めながら愛理が口を開く。


「ファルトさん! 私を置いて行って下さい! 抱えている状態では、あなたの機動力が生かせない!」

「馬鹿言ってんじゃねぇ! ありゃあ、俺一人じゃ多分無理だ!」


 確かに愛理を下ろせば敵に追いつけるかもしれないが、二つの理由から、セリスティアはそれが出来なかった。


 一つは、引き際を弁えているレイパーは往々にして強敵だと言う経験則から。


 もう一つの理由は、セリスティアの頬にある、浅い傷によるもの。


 これは、女性の死体を見て激昂したセリスティアが敵に飛び掛ったものの、その際の反撃で付けられたものだ。


 爪の斬り裂き攻撃が素早く、その時の一撃は運良く躱せたのだが、それがセリスティアに「一対一で殺りあったらヤバい!」と思わせた。


 以前シェスタリアで二体のリビングアーマー種レイパーに襲いかかった時もそうだったが、どうにも感情が昂ぶるとセリスティアは無茶してしまう癖がある。


「戒めねえと、いつか死ぬな俺……」

「え? どうしました?」

「いんや、なんでもねぇよ! ところで、何か良い作戦ねぇかっ?」


 一人では勝てないが、かと言ってこのままでは追いつけないのは明白だ。


 何か手を打たないと駄目だが、この辺りの地理に疎いセリスティアは、どうすれば良いかも分からない。


「先回り出来りゃあ良いんだがよぉ……!」


 そう言ってギリっと奥歯を噛み締めるセリスティアだが、愛理は困り顔だ。


 セリスティアの爪型アーツ『アングリウス』も、自分の刀型アーツ『朧月下』も近接武器。相手を足止めしようにも、これでは出来ない。


 その時、愛理のULフォンにメッセージが入る。


 冴場伊織からだ。シャロンと共に一体レイパーを撃破したということ、そしてこちらの状況はどうだ、という確認だった。


 ちらりと、愛理はメッセージからレイパーの背中へと視線を移す。


 敵は南西に真っ直ぐ逃げており、このまま行けば昭和大橋がある。


 もしそこにシャロンと伊織がいれば、敵はどう動くか。


「……ファルトさん、ガルディアルさん達に敵を誘導してもらいます。進路を南へ!」

「よっしゃ! 分かった!」


 上手くいくかは賭けだが、このまま追いかけるよりはマシだ。


 そう思いながら、愛理は伊織にメッセージを返すのだった。




 ***




 そして、新潟県道五十一号新潟黒埼インター笹口線……通称笹出線(ささいでせん)。新潟駅南口側のメインストリートだ。


 その道路と、昭和大橋から南に道成りに進んだところの交差点に、グレムリン種レイパーが差し掛かった、その瞬間。


 目の前に、セリスティアと愛理が現れた。


 それまで俊敏な動きで逃走していたレイパーの動きが止まる。


「よし! 作戦通り!」


 レイパーの動きを完全にコントロールすることは不可能だ。出来るのは、ある程度相手の行き先を限定することだけ。


 伊織やシャロンがレイパーを笹出線の方へと誘導することに成功しても、その先で相手を捕まえられるかどうかは賭けだったが、上手くいったようだ。


 行く手に愛理とセリスティアが現れたことで、流石のレイパーもここから逃げるためには、ある程度の戦闘は覚悟しなければならないと思ったようで、爪を掲げ、腰を落として戦闘体勢をとる。


 愛理も朧月下を構え、セイスティアもアングリウスの爪を相手に向けて、いつでも攻撃出来る準備は整っていた。


 一瞬の沈黙。


「――ッ!」


 先に動いたのは、セリスティア。


 勢いよく地面を蹴り、果敢に敵に突っ込んで爪を突き出すが、それが当たる直前でレイパーの姿が消える。


「ファルトさん! 後ろです!」

「っ?」


 愛理の警告の声に後ろを振り向くが、刹那、セリスティアの腹部に、レイパーの強烈な膝打ちが入る。


 瞬発力を生かし、一瞬の内にセリスティアの死角に入る……恐るべき身体能力だ。


 鋭い激痛を堪えながら、セリスティアが払いのけるように腕を振るが、またしても敵に躱され、背後から蹴りとばされてしまった。


 だが、


「はぁっ!」


 レイパーがセリスティアと攻防を繰り広げている間に、愛理が接近し、縦に一閃を放った。


 安直で、軌道の読みやすい一撃。このレイパーなら、避けるのは容易だろう。


 しかし、愛理の狙いはそこでは無い。


 レイパーが軽々と愛理の攻撃を躱した瞬間、今度は愛理の姿が消える。


 今さっきセリスティアにやったことを、今度は自分がやられるとは思っていなかったレイパーの動きが、一瞬硬直する。


 しかし、それが命取りだ。


 突如として、レイパーの背中に激痛が走る。


 愛理が自身のスキル『空切之舞』を発動させていた。自分の攻撃が相手に躱された時、相手の死角に瞬間移動出来るスキルである。


 これで敵の隙を付き、元々背中に付いていた大きな斬り傷を攻撃したのだ。


 痛みに声を上げることこそ無かったが、レイパーは思わず斬られたところを腕で押さえ、顔を歪める。


 だが、愛理の攻撃は終わらない。


 二発、三発と斬撃が繰り出され、それをレイパーが避ける度に、死角からさらなる追撃が襲ってくる。


 とは言え、クリーンヒットしたのは最初の一発のみ。


 敵の体に僅かに刃が掠ることこそあれど、傷を付けるまでには至らない。


 レイパーも「避けたら死角から攻撃が飛んでくる」と分かっていれば、躱すことは不可能では無いのだ。


 ただ、流石に回避に専念せねばならず、レイパーも愛理に攻撃するタイミングが無い。


 そしてレイパーが愛理の動きに集中するのを、息を潜めて待っている者がいる。


 セリスティアだ。


 愛理が相手の動きをある程度制限している、この時がチャンス。


 愛理もセリスティアの考えは理解しており、敢えて甘い斬撃を放つ。


 それを爪で受け、やっときた反撃のチャンスにレイパーがニヤリと笑ったその瞬間、セリスティアは自身のスキル『跳躍強化』を発動させ、一気にレイパーへと突っ込んでいく。


 が、しかし。


「っ!」


 セリスティアの攻撃がヒットする刹那、レイパーは腕でアングリウスの一撃を防ぎ、そのまま遠くに吹っ飛ばされる。


「しまった!」


 セリスティアの舌打ちが響く。今の一撃は、レイパーの体を貫くつもりで放ったのだが、失敗に終わったからだ。


 レイパーが吹っ飛ばされたのはわざとだ。敢えて攻撃を受け、自分達から距離をとることが狙いだったということに、すぐに気が付いた。


 慌てて、吹っ飛ばしたレイパーの方へと向かっていくセリスティア。


 レイパーは既に起き上がり、逃走の体勢を整えていた。


 そんなレイパーの瞳に、あるものが映る。


 十歳くらいの女の子だ。レイパーからは少し離れたところのビルの側にいるが、尻餅をついたまま動かない。


 恐らく、偶然レイパーを見つけて、恐怖で動けなくなっているのだろう。


 ちらりと、レイパーは向かってくるセリスティアを見てから――女の子の方へと走り出す。


「っ? てめぇっ!」


 何をする気か分からないが、絶対に碌なことでは無いと直感するセリスティア。


 レイパーは女の子の側に建つビルへと近づくと、屋上まで跳躍する。


 そして、その途中で窓を叩き割った。


「きゃっ!」

「やべぇっ!」


 ガラスの破片が女の子に落ちていく。中には大きな物もある。このままでは、怪我では済まないだろう。


 レイパーを追っていたセリスティアは、進路を女の子の方へと切り替え、ガラスが突き刺さる前に彼女を抱えてその場を離れる。


「ファルトさん!」

「ってぇ……。こっちは大丈夫だ! あいつはっ?」


 やって来た愛理にそう叫ぶが、愛理は辺りを見渡すと、首を横に振る。


「くそっ!」

「ぅぅ……ひっぐ、ひっぐ……」

「あ、わりぃ……。嬢ちゃん、怪我ねえか?」

「取り敢えず、冴場さんと救急車を……む?」


 女の子が泣き出し、困ったように彼女の頭を撫でるセリスティアにそう声を掛けた直後、こちらに近づいてくるサイレンの音に気がつく。


「おーい! お主ら、無事かっ?」


 やって来たのは、バイク。サイレンは、あのバイクからだ。


 運転しているのは冴場伊織で、人間態のシャロンはその後ろで伊織の腰に抱きついていた。


 愛理とセリスティアは互いに頷くと、女の子を抱え、シャロン達の方へと向かっていくのだった。

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