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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第17章 新潟市中央区
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第145話『瓦斯』

 突然視界に靄が掛かり、息が出来なくなった志愛と真衣華。


 喉に力を込めても、一切の酸素が体に入ってこない。


 声を上げようとしても音が出ず、助けを呼ぶことすら出来なかった。


 何がどうなっているのかは分からないが、これがレイパーの仕業だということだけは直感する。


 ぼんやりと霞んでいく視界の中、がっくりと膝を付く志愛の目に飛び込んできたのは、体育館の左右にある、外へと繋がる扉。


 咄嗟に、志愛は自分の隣で苦しそうな顔で蹲る真衣華の背中を叩いて注意を向けると、扉へと走り出す。


 酸素不足で上手く走れないが、それでも思いっきり扉に棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』を叩きつけ、無理矢理抉じ開ける。


 すると、開いた扉から入り口の扉へと強い風が入り、二人を包んでいた靄を吹き飛ばした。


 刹那、それまで息が出来なかったのが嘘のように、新鮮な酸素が肺を満たす。


 ゲホッ、ゲホッ……と強く咳き込む二人。


 それでも志愛は真衣華を肩に担ぐと、一直線に外へと向かう。


 その後、体育館の裏の物影に転びこむと、二人して大の字になり、大きく咳をしながら目一杯呼吸をした。


 一体、どれくらいそうしていただろうか。


 やがて、志愛は苦しそうな顔をしながら状態を起こし、口を開く。


「グ……あれは一体……?」


 発せられた疑問に、真衣華は無言で、力無く首を横に振る。


 落ち着いた頭で考えてみても、何をされたのか分からなかった。


 一つ言えるのは、死んでいた他の女学生達も、同じように目に遭い、為す術も無く殺されたのだろうということ。


 外傷が無かったのも納得だ。


「……っ! 志愛ちゃん、こっち!」


 何を見たのか、真衣華が血相を変えて飛び起き、志愛の手を引きその場を離れる。


 その瞬間、志愛は見た。先程自分達を包んでいたピンクの靄が、こちらに向かってきていることに。


 逃げる自分達を正確に追っかけてくるところを見ると、信じられないことだが、あれには意思があるようだった。


「真衣華ッ! 外ダッ! 外に逃げるんダッ!」

「そうしたいけどさ!」


 志愛に言われずとも、そんなことは重々承知の真衣華だが、自分の向かおうとする方にピンクの靄が先回りしており、逃げようとすればするほど、学校の敷地の中心へと向かわされてしまう。


 結局、再び校舎の中に逃げ込んだ二人。ピンクの靄がいなくなったところで、適当な空き教室に転がり込む。


「も、もう……! こんなはずじゃ……」

「上手く敵に誘導されているナ、私達……」


 額の汗を拭いながら、悔しそうに歯噛みする真衣華と志愛。


 すると、窓の外にピンクの靄が見え、慌てて身を伏せ、息を潜める。


 幸い、ピンクの靄は二人に気づかず、どこかに去って行った。


「……あれ、レイパーかな?」

「ここまで私達を正確に追い詰めていることを考えれバ、多分そうだと思ウ」

「あの靄に包まれた瞬間、呼吸が出来なくなった。きっと、体は酸素が無い、特殊なガスか何かで出来ていると思うんだけど……」


 ピンクの靄改め、分類は『ガス種レイパー』といったところか。


 幸いだったのは、敵の体が毒ガスでは無かったことか。


「でも、どうしよう……。あれじゃ、私達の攻撃なんて通じないよ? 無敵過ぎる……」

「無敵のレイパーなんテ、いるもんカ」


 志愛が、やや語気を強めてそう断言する。


 レイパーに良いように追い詰められ、少し頭が熱くなっていた。


「必ズ、倒す手段があるはずダ。あんな奴に殺されてたまるカ」

「……うん。そうだね。ごめん、ちょっと弱気になってたかも」


 とにかく、何か作戦を練らなければ……と、二人は頭を悩ませ始めるのだった。




 ***




 そして、五分後。


 慎重に教室を出る、志愛と真衣華。


 結局、物理的な攻撃が効かないのであればどうにもならないと考えた二人は、一度ここを離れ、シャロンに助けを求めることにした。


 雷のブレスであれば、もしかしたらダメージが通るかもしれないと思ったのだ。


 シャロンの元へと辿り着く間にレイパーに見つかっては敵わないため、身を隠しながら、慌てずゆっくりと移動する。


 だが――


「ッ!」


 嫌な気配が背中を伝い、慌てて振り向けばそこにはガス種レイパー。


 運が悪かったのか、それとも浅知恵を見抜かれたのか……とにかく、敵に見つかってしまったと分かった二人は、あれこれ考える前に全力で走り出す。


 それでも、二人の走る速度より、レイパーの追いかけてくる速度の方が速い。


「このぉ……!」


 走りながら、真衣華が廊下にあった消火器を掴むと、安全ピンを引き抜き、ホースの口をレイパーに向けて思いっきりレバーを握る。


 本体内部の消化薬剤が一気に排出され、敵の姿が白い煙に包まれた。


 何か狙いがあったわけでは無く、とにかく敵の目を眩まさなきゃ、という思いで出た咄嗟の行動。


 冷静な頭で考えれば、レイパーに消火器が効くはずが無い。


 しかし、だ。


「……避けタッ?」


 レイパーは放たれる消化薬剤から逃げるように、窓から外へと出て行った。


 そして別の窓から再度校舎に入ってきて、自分達へと向かってくるレイパーを見て、志愛の頭に電流が走る。


「冷気……ッ! 何かで冷やセ!」

「冷たい物っ? ――理科室か家庭家室っ!」


 志愛の言葉で、真衣華も気が付いた。


 敵は、冷気に弱いのではないか、ということに。


 勿論、凍らせるだけで倒せるわけでは無いだろう。しかし、物理的な攻撃は効くようになるのではなかろうか。


 でなければ、今の消化薬剤をわざわざ避ける意味が無い。


 我武者羅に走り出す二人。すると、その先にあったのは理科室だ。


 急いで中に入ると、実験台の上に実験機器が乱雑に置かれていた。床には死体もいくつか転がっている。


 今学校は夏休み。きっと、宿題の自由研究を進めるために、ここを使っていたのだろう。


 そんな中、実験台の上にある、発泡スチロールの箱と、厚手のグローブが志愛の目に飛び込んできた。


 乱暴に蓋を開ければ、そこにはドライアイス。


 昇華が始まっており小さな塊になっているが、寧ろ好都合か。


 一か八か。志愛はグローブをはめ、ドライアイスを一掴みすると、既にすぐ側まで迫っていたレイパーへ投げつける。


 近距離なら、流石のレイパーも避けられない。


 そして――


「真衣華ッ! 今ダッ!」


 狙い通り、驚くほどあっという間に、ガス状の体が固形化していく。


「えぇぇぇいっ!」


 そして志愛の声が轟いた瞬間、真衣華が固まったレイパーに飛び掛り、斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』の刃を叩きつける。


 真っ二つに割れる、レイパーの体。


「っ?」

「伏せロッ!」


 二人が思いっきりその場を飛び退き、床に伏せた刹那、ガス種レイパーは爆発するのだった。

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