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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第17章 新潟市中央区
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第142話『醜巨』

『ええ、聞いたわ! それで今、警察署の前に五、六体レイパーが来てる!』


 新潟にも巨大な魔法陣が出現し、そのすぐ後、色んなところでレイパーが出たとのニュースが出た。


 愛理、セリスティア、シャロンの三人がそれを知った、そのすぐ後。


 愛理が部屋を出ながら慌ててレーゼに連絡したところ、緊迫した声で彼女からそう言われた。


「警察署にそんなにレイパーがっ? くっ……それじゃあ、こっちには……」

『ええ、ごめんなさい! 署に残っているヤマトナデシコの人達だけじゃ手が足りなくて、とてもじゃないけどそっちには行けそうも無いの! あなた達だけで、何とかして頂戴!』

「分かりました! やれるだけ、何とかしてみます!」

『気をつけて! それじゃあ!』


 そう言われ、通話が切れる。


 しかし、その直後、今度は別の人から着信が来た。


 相手は――


「相模原のお母さんか? ……もしもし?」

『あぁ、愛理ちゃんっ? レーゼちゃん借りちゃってごめん! 代わりと言っては難だけど、今非番の大和撫子がいて、そっちに向かわせたわ! 上手く連携して、何とかこの場を凌いでくれないかしらっ?』

「戦力が増えるのは良いことですけど、でも良いんですか? そんなこと、一般人の私に頼んじゃって?」


 冗談っぽくそう聞くと、電話の向こうで「ふふっ」と小さく笑う声が聞こえてくる。


『勿論良くないんだけど、でも戦うんでしょう? あの魔法陣を見た時に分かったわ。あなた達が戦った、手強いレイパーの仕業だって……。だから、少しでもあなた達の生存確率が上げられるようにサポートするのよ』

「ありがとうございます。後で、私のところにその大和撫子のプロフィールを送ってください!」

『もう送ったわ! よろしくね!』


 その言葉と同時に、愛理のULフォンにメッセージが届く。


 今しがた愛理が頼んだ、助っ人の大和撫子のプロフィールだ。おかっぱの女性で、心なしか目つきが悪く見える。名前は『冴場(さえば)伊織(いおり)』だ。


「ファルトさん! ガルディアルさん!」

「聞こえていた! レーゼの奴、来れないってっ?」

「ええ! 代わりに、警察の大和撫子が助っ人に来てくれるそうです! これがその人!」

「……なるほど、覚えた! 取り敢えず、儂は一人で向こうの方に行ってみる! 何やら騒がしいでの!」


 そう言ってシャロンが差したのは、日本海側。関屋方面だ。


 しかし、セリスティアの眉が寄る。


「一人で行くだぁ? 確かに敵が多いみたいだから手分けしねぇとだが、流石に危険だぞ!」

「なーに、心配するでない! 竜の体は丈夫じゃからの!」


 そう言うや否や、マンションから出たシャロンは背中から翼を生やすと、空へと飛び立ち、あっという間に姿が小さくなってしまった。


「ったく、シャロンの奴、仕方ねぇか……。シアとマイカには連絡はっ?」

「これからです!」

「分かった! 俺達はあっちに行くぞ! おら!」


 言いながらセリスティアはしゃがみこみ、愛理に背中を向けて来た。


「お、おんぶですかっ?」

「移動は俺に任せて、アイリは早くあいつらに連絡を! そっちの方が効率が良い!」


 この歳になっておんぶされるのは少し恥ずかしいアイリだが、今はそんなことも言っていられない。


 セリスティアの言う通り背中に乗ると、セリスティアは「しゃあ! 行くぜ!」と言って自身のスキル『跳躍強化』を発動する。


 そして、足に力を込め、信濃川の向こう側――新潟駅がある方だ――へと向かって、勢い良く地面を蹴るのだった。




 ***




 関屋浜海水浴場の近くの浜辺に、山吹色の巨大な竜が降りたつ。


 シャロンだ。


 騒ぎを聞きつけ、駆けつけてみたが、既に浜辺は静まりかえっていた。


 砂浜は大きく抉れた場所がいくつもあり、たくさんの女性の死体――頭部が潰れており、原型を留めているのは僅か数人だけだ――が転がっている。


 遅かった……と悔やむように唸りつつも、目の前に立つ敵へとシャロンは目を向けた。


 全長四メートルもの高さの、肌がオリーブ色の巨人。顔はまるで、醜い蝙蝠を思わせる形状になっていた。


 手には自身の背丈程もある、巨大なハンマーを持っている。地面のクレーターと、女性の頭が潰れているのは、これを振り回したからだろうと分かった。


 レイパーだ。分類は『ミドル級トロール種』といったところか。


 新たにやって来たシャロンを『獲物』と思ったのか、トロール種レイパーはニタニタとした笑みを向ける。


 威嚇するように顎門を軽く開くシャロン。


 背はレイパーの方が高いが、翼を広げればシャロンも大きさでは負けていない。


 いつでもブレスを放てるよう、シャロンが準備し始めた、その時。


 レイパーの背後で、まだ頭部が無事な、うつ伏せに倒れていた女性がピクリと体を震わせる。


 彼女はまだ、息があった。


 意識を取り戻した彼女は、ゆっくりとうつ伏せのまま、その場を離れようとする。


 だが、


「――っ!」


 それに気がついていたレイパーは、大きく口を開けると、まるで黒板を引っ搔いたような音を鳴らしはじめた。


 この巨体でそんなことをしてくると思わなかったシャロンは、突然のことに思わず怯む。


 そしてそれは、逃げようとしている女性も同じだ。


 一瞬動きを止めた彼女に、レイパーは近づくと――ハンマーを大きく振りかぶる。


 何をするつもりか理解したシャロンは、何とも分からぬ声を上げながらレイパーへと突っ込んだ。


 しかし、シャロンがレイパーの行動を止めるより先に……レイパーはハンマーを、勢いよく女性の頭部へと振り下ろす。


 僅かに発せられた悲鳴は、誰かの耳に届くより先に消えてしまう。


 代わりに砂地が抉れる音の中で、グチャリという音が、やたら際立って聞こえてきた。


「貴様ぁっ!」


 思わずそう叫ぶシャロンだが、そんな彼女に、レイパーは振り向き様にハンマーを振る。


 重い一撃がシャロンの腹部へとヒットし、彼女は海まで大きく吹っ飛ばされた。


 激しく上がる、水飛沫。


 それでもすぐに海から出たシャロンは空へと飛翔すると、羽を大きく広げる。


 レイパーに向かって大きく顎門を開き、エネルギーを集束させ、雷のブレスにして一気に放った。


 怒り任せの一撃だが、その分威力は強烈。


 命中すればレイパーとてただでは済まないだろう。


 だが、


「――っ!」


 レイパーは猛スピードで向かってくるブレスに、ハンマーを投げつけ迎え撃ってきたのだ。


 回転しながら飛んでいくハンマーは、何とあっさりとブレスを貫き、シャロンに迫る。


 咄嗟に体を反らし、ハンマーの遠投を躱すシャロン。


 しかし、その顔は驚愕に染まっていた。無理も無い。自慢の攻撃が、こうも簡単に打ち破られたのだから。


 その事実に気をとられ、頭が真っ白になったシャロンだが、そんなことを気にしている場合では無かった。


「ぐぉっ?」


 突如背中に重い物が衝突し、地面に落下していくシャロンの体。


 実はレイパーの持っているハンマーは、投げるとブーメランのように戻ってくる構造になっていた。


 シャロンはギリギリハンマーの攻撃を躱せたと思っていたが、背後から戻ってきていたのには気がつかなかったのだ。


 不意打ちにしては重過ぎる一発を受けたシャロンは、そのまま砂浜へと勢いよく激突し、砂煙が舞う。


「お……おのれ……」


 ヨロヨロと立ち上がるシャロンだが、顔を上げれば、そこにはレイパー。


 シャロンが何か行動するより先に、レイパーの蹴りが腹部に入り、再び吹っ飛ばされてしまう。


 さらにレイパーは手をかざすと、先程投げたハンマーがその手に戻ってくる。


「コノセナエ、ロノコボヌグヒウ……!」


 レイパーは勝ち誇ったようにニタニタと笑い、シャロンにゆっくりと近づいてくる。


 そして攻撃の射程にシャロンを入れたところで、レイパーはハンマーを大きく振りかぶった。


 ヤバい……と、シャロンの顔が歪む。


 その瞬間。




 どこからともなく、六発の小型ミサイルが飛んできて、順番にレイパーの体に炸裂した。




「ッ!」


 シャロンしか意識していなかったレイパーにとって、その攻撃は完全に意識の外。ハンマーを振りかぶっていたこともあって、大きく後ずさってしまう。


 何だ、と思いながら、シャロンは攻撃が飛んできた方向を見れば――


「っ! お主は……!」


 そこにいたのは、おかっぱの、目つきの悪い女性。

 キャミソールにハーフパンツといったラフなスタイルだが、右腕についている箱型の巨大な金属の塊が恐ろしくアンバランスだ。さっきのミサイルはそれから放たれたようで、白い煙が僅かに上がっていた。


 彼女はシャロンをちらりと見て、安堵したように軽く息を吐いてから、口を開く。


「竜のおねーさんっすよね? 大丈夫っすか?」


 そう声を掛けてきたのは、先程、愛理から教えてもらった、助っ人――冴場伊織だった。

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