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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第17章 新潟市中央区
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第141話『前兆』

 七月三十日、月曜日。午前九時四十七分。


 新潟市中央区東堀通りにあるマンションの七階にある、愛理の部屋にて。


「……よし、よし、これでオーケー……うむ。いいだろう」


 彼女はいくつか空中に出したウィンドウを真剣に見つめながら、一人頷く。


 学生の傍ら『Waytuber』として活動する彼女は、作成した動画のアップロード作業の最中だった。


 最後に軽く全体に目を通し、説明文に誤字を発見して慌てて修正。


 そして再確認の後、アップロードのボタンを押したところで、張り詰めていた緊張の糸が緩んだかのように深く息を吐く。


 と、そんな彼女に、


「お、ようやく終わったのか? ドウガヘンシュウってやつ」


 声を掛けてきたのは、赤髪の女性。セリスティアだ。


 さらに近くには山吹色のポンパードルの少女、シャロンもいる。彼女は部屋に置かれている撮影機材を興味深そうに眺めていたが、セリスティアが愛理に話しかけたことで、「む?」と言いながら機材から愛理に目を移す。


 二人は理由があって、昨日の夜から愛理の家に泊まっていた。


「ええ。アップロードまで。後は再生回数が伸びてくれるのを祈るばかりですね」

「なんか、大変じゃのぉ。儂には何をしておるのかさっぱり分からんかったが」

「ははは……」


 素人目には、確かに何が何やらといったところか……と思いながら、愛理は二人に軽く頭を下げ、口を開く。


「それにしても、お付き合い頂きありがとうございました。お陰で面白い動画が撮れましたよ」

「どういたしまして、だな。でも、本当に良かったのか? 俺ら、ただ遊んでいただけだったけどよ……」

「楽しかったから良いんじゃが、これでお金が貰えるというのも拍子抜けじゃ」


 実は先日、真衣華の家のカフェでアルバイトをしていたセリスティアとシャロン。今日は愛理のところで動画撮影の協力をする約束だったのだが、カフェでの激務に比べれば、今回の仕事はとても楽だった。


 が、愛理は「とんでもない」と笑顔を見せる。


「異世界人が絵しりとりで遊んでいるというだけで珍しいのに、おまけにリアクションが実に良かった。他の一般人では、ああはなりません。あれなら視聴者にウケる。ふふ……」


 言いながらその時のことを思い出したのか、押し殺したような笑い声を上げてしまう愛理。


 シャロンが結構絵が下手だったり、セリスティアがセントラベルグにしか無いものの絵を書いて場を混乱させたり、結構カオスだったのだ。


 二つの世界が融合してから、Waytubeでも異世界人と普通に遊ぶだけの動画がやたらと人気だ。愛理もそれに乗っかった形である。


 再生回数が伸びるのを祈る等と言ったが、初日で五万再生は固いと愛理は踏んでいた。


「しかし、ここまで面白くなるならマーガロイスさんが来られなかったのは残念でしたね……」

「えー? あいつ真面目だから、こういうのは向いてなくね?」

「いえ。マーガロイスさんなら、きっと全力でオーバーリアクションしてくれたと思いますよ。真面目だから」

「……言えておるかもしれん。真面目じゃし」


 三人がそれぞれ、頑張って動画を盛り上げようと必死でリアクションしようとするレーゼの姿を思い浮かべ、思わず笑いが込み上げてくる。


 レーゼも昨日の夕方から、科捜研に一人で出掛けていた。


 先日レーゼの元に、雅達が手に入れたコートマル鉱石の欠片が送られてきて、それを届けに行ったのだ。


 加えて、手伝って欲しいことがあると優香に頼まれた。詳しい内容は秘密で、その手伝いはレーゼ一人にお願いしたいらしい。長時間の作業になるとの話で、昨日は科捜研に泊まり込みで何かをやっていた。


 因みに動画撮影の手伝いというのはやや建前であり、本当は何となくセリスティアとシャロンだけを雅の家に残すのが不安だったため、レーゼは二人を愛理の家に置いておくことにしたのである。


 最も、そんなレーゼの本心等、セリスティアとシャロンは知る由も無い。


 と、三人でお喋りを楽しんでいた、そんな時。


 愛理の目の前に、突然ウィンドウが出現すると共に、不快感を掻き立てるような甲高いアラームが鳴り響く。


 緊急速報だ。


 三人が体をビクリと震わせる中、ニュースが流れる。


 ドローンから地上を撮影している映像だ。


「えー、現在長野県松川市。ご覧のように巨大な魔法陣が出現しており、そこから大量のレイパーが現れたとのことです。近隣住民は急いで避難を――えー、ここで続報です。青森県弘前市、静岡県富士市、滋賀県守山市、山口県長門市、徳島県阿波市、長崎県長崎市でも同様の魔法陣が確認され、各地域で二十体を超えるレイパーが現れたたとのこと。……っ! また情報が入りました。北海道小樽市、沖縄県宮古島市でも魔法陣とレイパーが確認された模様。各地域の警察所属の大和撫子の指示の元、近隣住民の方は速やかに避難して下さい。繰り返します――」

「お、おい。魔法陣だとっ? これってまさか……!」

「……他のニュースを見ると、韓国やインド、アメリカやイギリス、ロシア、それに異世界の色んな国で、同じような魔法陣が現れたそうです。恐らくは――」

「むっ? なんじゃっ?」


 愛理が喋っている途中、マンションの外で眩い光が発生する。


 光が止み、三人が慌てて外を見て――愛理は拳を握り締めた。


「やはり、ここにも現れたか……!」




 遠くに見えたのは、恐ろしく大きな魔法陣。




 紫色の光を放つそれは、直径十キロは下らない。これまで三人が見たものとは比べ物にならないサイズだ。


 愛理が再びウィンドウに目を向けると、ニュースキャスターは今度は、魔法陣から別の物について何やら話をしていた。


 突然の事態で、説明されていることは上手く頭に入ってこないが、映像を見れば何について話しているのかすぐに理解出来る。


 映っていたのは、天空島。


 丁度、日本海のど真ん中、上空五百メートルのところで佇んでいた。




 魔王種レイパーが、人類に総攻撃を仕掛けてきたのだ。

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