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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第16章 ハプトギア大森林
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季節イベント『怪談』

 雅達がオートザギアへと旅立った後の、ある日の夜中。


 ろうそくのか細い炎で照らされた雅の部屋に、セリスティアとシャロン、レーゼが集まっていた。


 なお、雅の部屋は主が不在の間、セリスティアとシャロンが使っている。


 それはともかく、何で三人が集まっているのかと言えば、怪談話で涼むためだ。


 暑くなったら怖い話をする、という文化は、実は異世界にもある。


 アランベルグは一月から二月くらいが一番暑く――とは言っても、気温は精々日本の秋くらいだが――なるのだが、日本は今が暑さのピーク。


 時期は早いが、暑さに耐え切れなくなったセリスティアが「怪談話しよーぜ」と誘い、二人も了承した、という訳だ。


 そして、今はレーゼの番。話はもうすぐ終わりを迎える、といったところである。


「――気がついたら、ご馳走だと思って食べていた料理が、実は虫の死骸だったことに気がついた娘は、虫の毒で苦しみのた打ち回り、真綿で絞め殺されるようにゆっくり死んでいったそうな……。以上よ」

「……『蟲晩餐』か。お主、えげつない話をチョイスしたのぉ……」


 シャロンが戦慄の表情でレーゼを見つめてそう言った。


 今レーゼが話した『蟲晩餐』と言うのは、簡潔に言えば、ある村に住む男が、他の住民からひどいやり方で殺され、彼らに復讐するという話だ。どの殺害方法も虫が用いられており、特に最後の娘――彼女は男の交際相手だった人だ――に毒虫を喰らわせて殺すやり方がグロテスクで非常に有名なものとなっている。


「昔、お父さんにこの話を聞かされたのを今でも覚えているわ。トラウマものよね。まぁ、涼むには良いけど……」

「話は俺も知ってたけどよ、何度聞いても慣れねぇな、それ……。違う意味で背筋が凍ったぜ」


 言い終わった後で、ブルリと体を震わせるセリスティア。


 だが、自分の両頬を手でバチンと叩いて気合を入れ直す。


「そんじゃ、次は俺だな。これは、俺の実体験なんだけど……」




 ***




 これは、セリスティアがまだバスターに所属していた頃の話。


「ねぇセリスティア。最近噂になっているレイパーの話、知ってる?」

「あぁん?」


 セントラベルグのバスター署で同僚の女性に聞かれ、首を傾げるセリスティア。


「夜中になると、後ろをこっそり着けていって、人気の無いところでグサっと殺すらしいよ」

「いや、それが本当なら、今頃遺体の一つや二つ、見つかってんだろ。デマじゃねぇの?」


 セリスティアの知る限り、そのような話は無い。ここ最近は、至って平和だった。


「女の人が殺されたところを見たって人がいるのよ。大きな爪が生えていて、鎌を持っているらしいわ。ヤバくない?」

「おいおい、マジかよ……。なら、とっとと捜査すべきじゃねぇか?」

「まぁ、上層部からの指示が無きゃ、勝手に調べたり出来ないしね、私ら」


 そう言うと、ケラケラ笑いながら同僚は去っていく。


 そんな彼女の背中を、溜息を吐きながらセリスティアは見つめるのだった。



 そして、その夜、十時過ぎ。


「あー、ったく……。あのアホ上司、細かい仕事を次から次へと……」


 地味な単純作業を遅くまでこなし、先程ようやく終わって帰路についたセリスティアは、周りに誰もいないことを良いことに、そう文句を漏らす。


 酔っ払いの喧嘩の仲裁や、市民の愚痴聞きなんかは全く苦にならないが、上司から言いつけられた書類の整理や他人の報告書のチェックなんかは恐ろしく苦痛だった。


「俺、バスター向いてねぇなぁ……。あー、もう」


 言いながら、セリスティアは街路樹が立ち並ぶ小道へと差し掛かる。


 人気が少なく、女性が夜中に一人で歩くには結構危険な道だ。


 バスター署から家までの近道なので、セリスティアはよく使っているのだが、彼女ですら気味が悪いと思わなくも無い道だった。


「…………」


 ピクリと、セリスティアの眉が動く。


 背後に、殺気を感じた。


 それも、只者では無い。


 相手に気づかれないように背後を確認すると、遠くに人影が見える。


 殺気の主は、そいつだ。


 セリスティアは腕に嵌めた小手――爪型アーツ『アングリウス』だ――を巨大化させると、振り向いてその人影をジッと見つめる。


 人影の手には、全長二メートル程の鎌。


 ふと、今日同僚から聞かされた話を思い出した。


「ちっ、やっぱりレイパーじゃねぇか……!」


 小声で悪態を吐いた瞬間、


「……あ?」


 その人影が消えた。


 慌てて辺りを見回すと、


「っ!」


 全く別の方向から、その人影が接近していたのだ。


 黒いフードを被り、顔は見えない。


 眼前近くまで来たそいつに向けて、思わずセリスティアが爪を振った瞬間……


「っ? き、消えた……っ?」


 襲い掛かってきていたはずのそいつは、煙のように消えてしまった。


 再び辺りを探すが、今度は見つからない。


 後に残るは、静寂のみ。


 よもや、今の一払いで逃げ出すほど、レイパーは臆病では無いだろう。


 と、なると――


「……は? え、何? おいおい、まさか幽霊? いやいやそんな馬鹿な……」


 セリスティアの乾いた声が、夜の闇に木霊した。




 ***




「……いや、お主それ……システィアでは?」


 話が終わり、シャロンは数秒固まった後、恐る恐るそう尋ねる。


 鎌といい、黒いフードといい、セリスティアを襲ったのはライナだろう。


 攻撃を仕掛けたのはスキル『影絵』で創り出した分身だ。


「あー、バレた?」

「な、なんだ……脅かさないでよ、もう! ほんとに幽霊かと思ったじゃない!」


 バシンと、レーゼはセリスティアの背中を叩くと、気が抜けたのか大きく息を吐いた。


「いやー、俺もライナと会って、『あれ、この娘もしかして』って聞いたら、やっぱりライナでさ。どうやら、あいつも同じ噂を聞いて、念のため一人で調べていたみたいだぜ? で、アングリウスを構えた俺をレイパーだと勘違いしたってわけだ」

「じゃあ、あんたの聞いた噂は……」

「結局、犠牲者の話も無けりゃあ、いるっつー目撃者も見つからず。ほぼ間違いなくデマだな。ま、どうせ何かの噂に背びれ尾ひれが付いて、勝手に一人歩きしたんじゃねーの?」


 はっはっは、と夏の暑さを吹き飛ばすような、セリスティアの笑いが部屋に響く。


 レーゼもシャロンも、苦笑いを浮かべるのだった。




 ***




 そして、オートザギアで、同じような話を雅はライナから聞かされていた。


 ただの雑談の一環だ。


「あはは、そっかー。お二人は、実はそこで出会っていたんですね」

「ええ。最近まで、お互いそのことを知らなかったんですけどね」


 微笑むライナ。


 だが、そこで彼女は小さく唸ると、再度口を開く。


「でもおかしなことが一つあって」

「おかしなこと?」

「ええ。セリスティアさん、最初に『背後に人影を確認した』って言っていたんですけど、私、彼女の背後になんか回っていないんです。そこに分身も出していないし……」

「え? じゃあセリスティアさんが見た人影って……」

「うーん……何だったんでしょうね?」


 そして、ライナは「まぁ大方、セリスティアさんの気のせいでしょうけど」と続けるのだった。

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