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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第16章 ハプトギア大森林
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第16章幕間

 七月二十七日金曜日、午後七時十四分。


 束音宅のリビングにて。


「ん? どうしたレーゼ? そんなに難しい顔をして……」


 丁度風呂から上がったセリスティア。レーゼがULフォンでウィンドウを出現させ、何やら困ったように唸っているのを見て、そう尋ねる。


 尋ねた後で、シャロンが何故かレーゼの前で正座させられていることに気が付いた。


 シャロンはセリスティアが来たのを見ると目を輝かせ、小さく手招きするが、レーゼにひと睨みされると居住まいを正す。


 何となくそれを見て、嫌な予感がしたセリスティア。無言でその場を去ろうとする彼女に、レーゼが不自然な程穏やかな笑顔を向けてきた。


 その笑みから湧き出るオーラ。ともすれば『ゴゴゴ』という音が聞こえてきそうな顔だ。逃げられないと悟り、大人しくシャロンの横に座るセリスティア。


 そして視線でシャロンに聞く。「なんかレーゼの奴、怒ってないか?」と。


 対するシャロンも視線で答える。「なんかヤバい雰囲気じゃ」と。


 何かやらかしたのだろうか、と不安になるセリスティアだが、心当たりが全く無く、とりあえずレーゼが何か言い出すのを待つことにした。


 冷えた沈黙が続くこと、一分。


 流石に耐え切れなくなったセリスティアが口を開こうとした、その時だ。




「無駄遣いが過ぎる」




 背筋が凍りつくような、レーゼの声。


 すると、指を振って、今まで見ていたウィンドウをセリスティア達にも見えるようにした。


 そこに映しだされていたのは、グラフ。


 これまでの沈黙は、これを二人に見せるためにあれこれ操作しており、それに集中していたかららしい。


 ついにこういったことも一人で出来るようになったのかと感心しながらも、二人はグラフを見る。


 ……が、何が書いてあるのかさっぱりで、二人は頭の上に『?』マークを浮かべたことでレーゼが青筋を立てた。


「あなた達が水は出しっ放しにするわ夜更かしして電気は無駄に使うわ、挙句ご飯はいっぱい食べるわでお金がかかり過ぎているのよ! これはそのグラフ! 見なさい! ここから先、棒が急激に伸びているでしょう!」

「あー、ほんとじゃのぉ。丁度儂らが来たあたりじゃ」

「食費に関しちゃ、レーゼが作るご飯が美味いせいだしなぁ。はっはっは!」

「笑いごとじゃないのよ!」


 言われてみれば、確かにレーゼの言う通りセリスティアもシャロンも水や電気は暮らしの勝手が分からず、ついうっかりして無駄に使っていた。


 さらに最近では、久世の手掛かりを探すために愛理や志愛、真衣華達も束音宅に泊まったりしていたこともあった。


 今日の昼頃、愛理から「月末ですけど、生活費とか大丈夫ですか?」と心配され、不安になって調べてみた結果、愕然としたのである。


 雅は両親や祖父母の遺産を切り崩しながら生活しており、新たに入ってくる収入は無い――正確に言えばちょっとした小遣い稼ぎはしているが――に等しい。


 遺産がどれくらいあるのか、具体的な額はレーゼも知らない。自分達を居候させられる程度には余裕があるのだろうとは思っているが、それにしたって浪費していい理由にはならないだろう。


「いい? 私やセリスティアがアランベルグで稼いだお金は、まだこっちじゃ使えないの! 無一文なのよ? シャロンだって働いていないからお金なんて無いし、無駄遣いした分をどうやって補填するのよ!」

「ええい、大袈裟な……。言ったって、一週間程度での話だろう? 俺達の持っている金がこっちで使えるようになったら返せば済むし、今後気を付けりゃあ――」

「そういう問題じゃなーい!」


 家全体が揺れるかと錯覚する程の大声。


 シャロンが再度、目でセリスティアに語りかける。「口答えせん方が良さそうじゃ」と。


「私達も生活費を稼ぐわよ! これ以上ミヤビのお金に頼りっきりなのは、あの子に申し訳が無いわ!」

「ミヤビなら気にしねぇような気も……あ、いや何でもない」


 つい反論しかけたセリスティアだが、レーゼにひと睨みされて慌てて取り下げる。


 横で、「じゃから口答えせん方がいいと言ったのに」とシャロンが目で訴えてきて、セリスティアはバツが悪そうにそっぽを向いた。


「アルバイトよ! 日雇いのアルバイトなら、その日の内にお金が貰えるわ!」


 バスターは副業禁止じゃ……と言う言葉が喉まで出かかったセリスティアだが、ここで口答えすれば雷が落ちると予感し、意地で呑み込む。


「アルバイト、と言うが……マーガロイスよ。当てはあるのかの? 儂ら、異世界の者じゃし……」

「それはこれから探すのよ――って、ちょっと待って。アイリから連絡よ」


 ピコンという音と共に、ウィンドウの画面右下に着信のアイコンが現れる。


 レーゼは愛理からの着信を受けながら廊下に出て、会話を始めて数分。


 レーゼの「え? 本当っ?」とか「ありがとうアイリ!」という、今までセリスティアもシャロンも聞いたことの無いような嬉しそうな声が聞こえてきて、二人は目を丸くする。


 その後、戻ってくるいなや、


「二人とも! マイカの家でバイトするわよ!」


 そう宣言するのだった。




 ***




 これから探す、と言いかけていたレーゼだが、そう簡単に見つかるとは思っていなかったため、実は二人に声を掛けるより先に、愛理に良いバイト先が無いか相談していたらしい。


 それで紹介されたのが、新潟市南区杉菜にある喫茶店……真衣華の母親が経営しているお店でのアルバイトである。


 蓮は『StylishArts』の開発部長であり、それだけで悠々と生活出来るだけの給料を貰っているのだが、それでも喫茶店の経営をしているのは、単に趣味だからと言ってよい。


 閑話休題。次の日の午前六時五分。


「あ、みんな。おっはよー」


 眠い目を擦りながら目的地へと向かったレーゼ達。店の前では、真衣華が待っていた。


 朝早くだからか、ご近所迷惑を鑑みて声のトーンはいつもより小さめだ。


「おはようマイカ。いきなり頼んじゃって悪いわね」

「いいのいいの。丁度人手が欲しかったしね。ささっ、入って入ってー」


 喫茶店『BasKafe』。これがお店の名前だ。


 日本では今時珍しいレンガ造りの建物でありながら、中は意外にも照明が明るく、現代的な作りとなっている。


 なお、この建物は二階建て。一階は喫茶店で、二階が住居――つまりは真衣華の家だ。


 看板メニューはカルボナーラ。ゴロっとした燻製ベーコンがたっぷり入った一品で、お客さんからの人気も高い。真衣華の好物でもある。


 最も、もっとインパクトがある物がこの店にはあるのだが……この時点では、レーゼ達はそれを知る由も無かった。


「あらあら、あなた達が真衣華のお友達? 今日はよろしくね」


 喫茶店の中に入ったレーゼ達を出迎えたのは、髪はストレートヘアだが、目元や口元が真衣華によく似た女性。


 真衣華の母親、橘春菜(はるな)。喫茶店『BasKafe』のオーナーである。


 ほんわかとした雰囲気の人で、あまり厳しそうには見えない。


 レーゼ達は軽く自己紹介しながらそう思っていると、


「そんじゃ、私は上でアーツ弄ってるから。後は皆頑張ってねー」

「真衣華、あなたも手伝いなさい?」


 役目を終えたと言わんばかりに自室へと向かおうとする真衣華を、春菜は穏やかな笑顔で引きとめる。


 語気は決して強くは無いものの、底知れぬ凄みがあり、真衣華は「えー」とぶつくさ文句を言いつつも素直に戻ってきた。


 何となく、怒らせたらヤバそうだと、レーゼ達は直感する。


 五人は更衣室に移動し、春菜から仕事内容の説明が始まった。


「じゃあ早速、三人には制服――と言ってもただのエプロンなんだけどね、これを付けてもらって……レーゼちゃんは、髪をまとめてね。はい、これ」

「あぁ、そっか。そうですよね」


 渡されたヘアゴムで、手早く髪を纏めてポニーテールにするレーゼ。意外にも手馴れた手付きに、側で見ていたシャロンが「ほぅ」と感心したような声を漏らした。


「一時期、戦うのに邪魔になるかもって思ってポニーテールにしていた時期があったのよ。毎日やるのが面倒だし、特別戦いやすくなったわけでも無かったから止めちゃったけど」

「成程のぅ。……あぁ、ところでタチバナのお母さんや。もうちぃっと小さいエプロンはあるかの? 儂にはちと大き過ぎて……」

「ていうか、こんな小さなエプロン、よくあったね。誰が使うの?」

「今更ですけど、シャロンを雇って大丈夫ですか? 見た目は子供だし……」

「真衣華もこれくらいの時から手伝わせていたから平気よ。ええっと、これより小さいサイズとなると……これかしら?」


 真衣華の質問をスルーして春菜が出したのは、見るからに子供用だと分かるエプロンだ。


 シャロンが身につけると、これが実は三百歳を超えた竜人の威厳等次元の彼方へとすっ飛んで行く。


 春菜とレーゼは何とか笑いを堪えたが、真衣華とセリスティアは無理だった。


 真衣華はまだ何とか堪えようと努力しているような風はあるが、セリスティアは完全にそんな様子は無い。


「さて、では仕事を教えてくれんか?」


 シャロンの怒りの鉄拳を腹部に受け、その場に蹲る真衣華とセリスティアを放って、シャロンはレーゼと春菜を連れて更衣室を出る。


 母親の目の前で娘をボコるシャロンの度胸には感服するが、それを「あらあら」の一言で終わらす辺り、春菜の胆力も相当だ。


 どうやら、仲の良い友達同士のじゃれあいみたいなものだと理解してくれたらしい。


 話は戻り、今日のレーゼ達の仕事内容は、主にホールスタッフとなる。


 料理が出来るレーゼだけは、厨房で春菜の手伝いだ。


 厨房の手伝いなんて、今日来たばかりの新人にやらせて良いことなのかと不安になって尋ねたレーゼだが、春菜は一言、「真衣華よりマシなら全然オッケーよ」とのこと。


 まぁしっかりと作りこまれたマニュアルがあり、レーゼがやるのは簡単な作業ばかりなので、特に問題は無いのだろう。


 因みに話題に出てきた真衣華は厨房出禁である。何をやらかしたのかと聞けば、何も出来なかったそうなのだが、出禁になる程とはこれはいかに。


 どうやら真衣華はセリスティアに負け劣らず、料理は苦手な模様。


 と、一通り仕事内容の説明が終わり、開店準備を済ませたところで時刻はぴったり午前七時。


 開店時間だ。


 そして、やって来た客の人数を見て、シャロンが冷や汗を流す。


「……なんか多いのぉ?」

「あー、うちの喫茶店、結構評判良いんだよねー」

「おい、無駄話すんな。とっとと捌かねぇと店が回らねぇぞ!」


 喫茶店『BasKafe』の席数は二十席程だが、既に倍近い人数が来ており、店の前には行列が出来ていた。


 このバイトに手慣れた真衣華を中心に、必死に客を店に通し、注文を聞いて回る。


 偶に「お? 新しいバイトの子?」なんて聞かれたり、見た目は小学生くらいのシャロンに物珍しい目を向けられつつ、何とか接客をこなすのだが、ここで一つ、大きな問題が発生した。


 それはというと……


「三番テーブル、『もーにんぐときゃらめるくっきーあんどちょこれーともかまきあーとうぃずまかろんをおねがいします』が一つ!」

「ちょっとセリスティア! ちゃんと正しく注文受けなさいよ! やり方教わったでしょ!」

「どっからがメニューでどっからがそうじゃ無いのか分からねーんだ!」


 珍しく、泣き言を吐くセリスティア。


 飲み物の種類やトッピング、お茶受けが豊富過ぎるのだ。


 仕入れ等の都合上、チェーン店でしかやれなさそうなことを、この喫茶店はやっているのである。これが『BasKafe』の最も特徴的な部分だ。春菜が趣味で経営しているからこそ出来ることだろう。


 念のために言っておくと、セリスティアもシャロンもタブレットを持っており、客の注文通りにメニュー表から対応するものを選べばオーダーが通るのだが、常連のお客さんだとまるで呪文を唱えるかのように滑らかかつスピーディーに発音するので、初見のバイトはセリスティアでなくとも混乱する。


 人によっては、言葉を省略して伝えてくる場合もあるのだ。


 因みに、さっきのセリスティアが受けた注文は「『モーニングセット』と『キャラメルクッキーとチョコレートチップ』がトッピングされた『モカマキアート』、お茶受けに『マカロン』」であり、最後の「おねがいします」はただの「お願いします」だ。


 三回聞き返したものの何が何やら分からなかったセリスティアは、聞いた内容をそっくりそのまま持ち帰ってきたのである。


 結局真衣華が再度注文を伺うことで解決したが、これが後何回続くのか、セリスティアは戦慄する。


 さらに、


「タ、タチバナ! 大変じゃ! 六番テーブルのお客さん、『いつもの』としか言ってくれん!」


 目に涙を浮かべたシャロンが、真衣華に泣きつく。


 困った常連さんの場合、このように「いつもの」と言えば通じるだろうと思いこんでいることもあり、そうなればもうお手上げだ。


 こちらも念のために言っておくと、この客も意地悪で「いつもの」と言っているわけでは無い。珈琲の種類が多過ぎて、色々な名前とごっちゃになっているのだ。うろ覚えのまま注文をしても違うのが出てきてしまう可能性もあるため、こう言うしかなかったのである。


 すると、


「六番テーブル……あぁ、あのおじいさんなら、いつも『カフェラテ』と『ビスケットサンド』を頼んでいるから、それね。分かったわ」


 側で話を聞いていた春菜が、お客さんを見ただけで注文を把握する。


 どうやら常連さんがいつも何を頼むのか、全部頭に入っているらしい。


 と、最初の方はトラブルも多かったものの、三時間もすれば二人も仕事に慣れてきたのか、スムーズな接客が出来るようになってきた。


 それでも忙しさには目が回る。


 そんなこんなで昼の十二時。


「レーゼちゃん! サラダ六人前と、珈琲のお茶請け十四人前の準備お願い! 後食器の用意もね!」

「は、はい!」


 既に五人前のサラダを準備している最中にそんな指示が飛んでくる。


 さらには珈琲のお茶請けは全員違う種類だ。


「こっちのモカマキアートはウエハースで、エスプレッソにチョコソースのトッピングにはナッツ入りクッキー……間違えた、こっちはハニーマフィン。あぁ、もう!」


 どれがどれだか分からず、混乱するレーゼ。


 接客の三人も大変だが、厨房も戦争である。


 簡単な作業しかしていないはずのレーゼでさえ余裕が無いのだから、春菜はもっと大変なはずなのだが……彼女はレーゼをきちんとフォローしながら、カルボナーラにピラフにカレーと三種類の料理を同時に調理するという離れ業をやってのけていた。


 最も、それに感心する余裕はレーゼには無い。しかし、どうやら何か凄いことをやっているというのは肌で理解していた。


 因みにバイトがいない時は、厨房の仕事は春菜一人でやっているため、今日は結構楽だったりする。


 そんな中、真衣華は時々客と世間話をしている姿が見られた。しかし仕事をサボっているわけでは無い。こなしている仕事量は、難ならセリスティアやシャロンより多いくらいだ。


 これが経験者か……と、二人は内心で舌を巻く。


 と、十二時半過ぎ。ホールに新しい客がやって来た。


 そしてセリスティアは、それを見て笑顔で一言。


「帰れ」

「おいこの店員、客に向かってとんでも無いこと言い出したぞ? なぁ権?」

「ひどい店でス」


 来たのは愛理と志愛だ。


「みりゃあ分かんだろ! このくっそ忙しい時に来られても構ってやれねーんだよ! ――二番テーブル入りまーす!」


 と、言いつつも席へ通すセリスティア。無論、親しい仲の相手に対する軽口だ。本気では無い。


「ったく、他に客が待っているから、さっさと注文しやがれ。これメニューな」

「それでいいのか店員……。まぁ、確かに忙しそうですね。じゃあ早速、私はカルボナーラとウィンナー珈琲のトッピングにはバニラビーンズとアーモンドクリームとチョコチップ、お菓子はミニドーナッツで」

「クリームピラフとオリジナルブレンド、トッピングはキャラメルソース量少な目にバニラクリームとココナッツミルクにしまス。お菓子ハ……ア、キャンディーがあル。じゃあそれでお願いしまス」

「あいよ。……ったく、長いトッピングつけやがって、大変なんだぞこんちくしょう」


 なんて文句を言いつつも、完璧に注文を復唱するセリスティア。


 愛理と志愛が思わず「流石」と感嘆の声を漏らすと、セリスティアはニヤリと笑みを浮かべた。


 と、そんな中、


「うぉー! 嬢ちゃん、小せぇのにすげぇなぁ!」

「落とすなよ!」


 楽しそうな声が聞こえて見てみれば、シャロンが両手にたくさんのお盆を乗せていっぺんに運んでいた。


 まるで熟練のホールスタッフのようである。


 レーゼや真衣華達から見れば冷や汗ものだが、客受けは良いようだ。


 するとシャロンが、セリスティアへとドヤ顔を向ける。


 結構イラっとしたセリスティアが同じことをしようと画策したが、それは真衣華に止められ、止むを得ず断念。


 すると厨房では、


「あら? レーゼちゃん、サラダ作るの上手くなったわねぇ」

「ありがとうございます!」


 照れるように、しかし嬉しそうなレーゼの声。


 確かに最初の頃と比べて、盛りつけが綺麗になっていたとセリスティアは気が付く。


 必死になって働く内に、自然と上達していたらしい。


 その後も必死で働き、気が付けば十六時。


 最後の客が店を出て、閉店準備を終えると同時に、レーゼ達はヘタリと地面に座りこむ。


「た、大変だった……。何だかレイパーと戦うより疲れたわ……」

「マイカは随分平気そうだな。すげーよ……」

「まぁ、私は経験者だしね。でも今日はお客さん、いっぱい来たねぇ」


 ケラケラ笑う真衣華だが、表には出さないだけで実は普通に体が重かったりする。


「はーい、皆お疲れ様―。とっても助かったわ、ありがとう。今日の分のお給料だけど、明日口座に振り込んでおくわね。ちょっと色をつけておくから、期待していて」

「おぉっ!」


 春菜がニコニコしながらそう告げると、シャロンの顔がパーッと明るくなる。


 雅の世界と関わりが無ければ、労働の対価にお金を貰うなんてこととは縁が無かった。今日一日でお金を稼ぐ苦労も理解し、それだけに喜びもひと潮だ。


 因みに、今の世の中は電子マネーによるやりとりが基本。レーゼは戸籍をとった後、自分の口座を作り、雅からお金を貰って生活している。セリスティアやシャロンはそもそも口座が無く、今日の三人分の給料は纏めてレーゼの口座に振り込まれる予定だ。


 自給九百五十円で八時間。それが三人分に色がつき、しめて合計二万六千円。これが今日の三人の成果である。


「ふぅ……。これで、ここ最近増えていた食費や光熱費を多少は賄えるわね。働かせて頂き、ありがとうございます。大変助かりました」

「いえいえこちらこそ。機会があったら、またよろしくねー」


 春菜の言葉に、今日の激務を思い出してレーゼ達三人は凍りつく。


 そんな彼女達を見て、真衣華は苦笑しながら、


「まぁ、慣れれば平気だよー」


 そう言うのであった。

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