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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第16章 ハプトギア大森林
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第139話『破片』

 ミカエルの意地の一撃により、粉々に砕けたコートマル鉱石。


 手の中で粉砕されるそれを、ミドル級火男種レイパーは唖然とした顔で見つめていた。


 散らばった破片は、レイパー自身の体に纏う炎によって、無残にも溶けてしまう。


 そこでようやく我に返ったかのように、ギロリと、レイパーの眼が倒れているミカエルへと向けられる。


「メホコワムカ……ラタイィィィイッ!」


 レイパーの咆哮が轟く。そのトーンたるや、周りの木がバキリと音を立て、根の上から折れて倒れる程だ。


 レイパーはミカエルへと飛び掛ろうとして……瞬間、自身に飛んでくる殺気に気がついて、その場を飛び退く。


 刹那、巨大なレイピアと剣が、今までレイパーがいたところに突き刺さり、地面を抉り飛ばした。


「ちぃ! 外しましたわ!」

「っ! さがみん! 皆っ!」

「師匠っ?」

「大変! 皆、ひどい怪我……!」


 レイパーに攻撃を仕掛けたのは、希羅々と雅。先程の一撃は、『グラシューク・エクラ』のスキルによるものだ。その後ろにはライナとノルンの姿もある。


 人型種モモンガ科レイパーを倒した彼女達は、戦闘音を聞きつけ、ここまでやってきたのだ。


 突然現れた新たな敵に、レイパーの意識はそちらへと向けられる。


 そして、全身に纏っている炎の勢いを一気に増幅させた。


 レイパーが何をしようとしているのか理解した雅達の顔が、サッと青褪める。




 誰もが何かアクションをしようとするより早く、レイパーの炎が右手の平に集まると――それが巨大な火球となり、森へと放たれた。




 途端、鼓膜が破れると思わんばかりの爆音が響き、森の一角が炎に包まれる。


 燃え盛る中、この場に残っているのはミドル級火男種レイパーのみ。


 雅達の姿は、どこにも無かった。




 ***




 森の出入り口。


 偶然にも誰もいなかったこの場所に、突如雅達が現れる。


「ぐ……ここは……?」


 辺りを見回す雅。自分達が森に入った時に使った入り口の近くだと分かった。


「ワープした? そうだ、森はっ?」


 遠くの空は赤く染まり、煙が昇っている。


 先のレイパーの一撃で、ハプトギア大森林が燃えていた。


 余りの光景に唖然としていた雅だが、そんな雅の肩に、誰かが手をポンと乗せた。


「大丈夫、見ていて」


 カリッサだ。


 大丈夫だという彼女の言葉を証明するかのように、すぐに空に灰色の雲が出現し、大量の雨を降らせた。


「森林火災なんて起きないよ。ハプトギア大森林には、雨雲を呼び出せる魔法生物がいるからね」

「そっか……良かった……。でも、私達はどうしてここに?」


 あっという間に火が消えるのを見てホッとする雅だが、すぐに別の疑問をカリッサにぶつけた。


 すると、


「うぅ……いたたたた……」


 呻くような声と共に、ファムが起き上がる。レイパーの乱打に気絶していた彼女だが、今ようやく目を覚ましたのだ。


 他の者達も、ファムに続くように起き上がる。


 そんな彼女達を一瞥すると、カリッサは深く息を吐く。


「全員無事だね。良かった……。ごめん、本当はもっと早く、君達を避難させれば良かったんだけど……」

「カリッサさん? もしかして、これはあなたが……」

「うん。ワープの魔法。レイパーの強力な一撃が来る前に、全員をここにワープさせた」

「……そんな魔法があるのなら、どうしてもっと早く使わなかったのですか?」


 若干非難めいた希羅々の言葉に、カリッサは頭を下げる。


「森を荒らす者は、誰であろうと許さない。あのレイパーを何とか倒したかったの……。でも、そのせいで皆を危険な目に……。ごめん」

「そういうことでしたか……なら、謝るのは私達の方ですわね。あの一体は、どうにもなりませんでしたわ……」

「っ! 皆! 見て!」


 ライナが慌てて空を指差す。


 その方向を見た雅達は、息を呑んだ。




 いつの間にかそこにあったのは、天空島。




 天空島からは地面に向かって光が差し込んでおり、まるで吸い込まれるようにミドル級火男種レイパーが光の中を昇っていくのが見えた。


 一行が固唾を呑んで見つめる中、レイパーを迎え入れた天空島はどこかへと消えていく。


「あいつら、なんで……」

「多分、コートマル鉱石が無くなったから、もうここには用が無くなったのね」


 ミカエルの言葉に、雅や希羅々、ライナとノルンは頭に『?』を浮かべる。


 ミカエルも四人の反応に首を傾げたが、やがて彼女達が、あの場にコートマル鉱石があったことを知らないのだと思い至り、慌てて説明を始めた。


 そして、


「そ、そうだったんですね。そんな大きなコートマル鉱石が……」

「敵に取られなかったとはいえ、無くなっちゃったのは残念ですわ……」

「残念?」

「ええ。実はお父様から、現地でもしコートマル鉱石を見つけられたら、僅かでも良いから持ち帰ってこれないかと頼まれておりましたのよ」


 とは言え、無くなってしまったのなら仕方ないと、希羅々は肩を竦める。


 すると、カリッサは少し間を置いてから、ポケットに手を入れると……


「なら、これあげる」


 そう言って、赤い小さな欠片を差し出してきた。


 最初は何を渡されたのか分からなかった希羅々だが、隣で見ていたミカエルが、すぐにそれがコートマル鉱石だと気が付き、目を見開いてカリッサとコートマル鉱石の欠片を交互に見る。


「これは……いいのかしら? でも、何故これを?」

「あの時、偶然破片を拾っていて……何も無いよりマシでしょ?」

「クルルハプトさん……ありがとうございます!」


 量は僅かでも、何も無いよりは全然良い。


 希羅々は大喜びで、それを受け取る。


 手の平サイズだが、持ってみると思ったよりもずっしりとしており、それだけでもこの中に大量のエネルギーが詰まっているのだと分かった。


 これは、確かにレイパーも欲しがるはずだと納得する希羅々。


「じゃあ、色々後始末もあるから、私はこれで失礼するよ」


 軽く頭を下げたカリッサは、存外にあっさりと一行に背を向ける。


 ミカエル達が別れの言葉を告げる中、雅だけは、そんな彼女を不思議そうな目で見つめていた。


「……みーちゃん? どうしたの?」

「……いえ、何でもありません。――カリッサさぁぁぁあん! さよならー!」


 段々と遠くへ行ってしまうカリッサに手を振りながら、雅は自分の中で、スッキリしない感情に向き合う。




 何となくだが、彼女は自分達に、何か隠していることがある気がしたのだ。




 何か根拠があるわけでは無い。ただの直感。


 ただ一つ言えるのは、ある程度一緒に行動した仲にも関わらず、自身の『共感(シンパシー)』スキルでカリッサの『光封眼』のスキルは使えない、ということだ。


 スキル同士の相性によっては、ある程度の信頼関係を築いた人であってもスキルが使えない場合もあるが、カリッサはそういう問題では無い気がした雅。


(……もし次に会うことがあったら、もっと色々お話しよう)


 そう思いながら、雅はアストアラム家へと帰還するのであった。

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