第138話『火男』
時は遡り、ミカエル達もミドル級火男種レイパーと戦いを繰り広げていた。
ミカエル達の背後には赤い水晶の塊。コートマル鉱石だ。レイパーの目は時折コートマル鉱石に向けており、一行の予想通り、敵もコートマル鉱石を狙っているのは間違いない。
レイパーと戦うミカエル達は満身創痍といった様子。ミカエルと優は腕から、ファムとカリッサは頭から血を流しており、対して敵はほぼ無傷。
戦況はレイパーの方に傾いているのは明らかだ。
ミカエル達が苦戦している理由はいくつかあるが、一番大きなのは決定力不足だろう。
優もファムも、一発一発の技の威力は低い。カリッサの星型エネルギー弾も、二人の攻撃より多少強い程度。
故にミカエルの炎魔法がこのメンツの中で最も攻撃力が高いのだが、元々全身に炎を纏っているこのレイパーには効果が薄い。
何よりここが森であることから、ミカエルは魔法を使うことを躊躇っていた。
「グルァァァッ！」
身を竦ませるような雄叫びを上げ、カリッサへと突っ込んでくるレイパー。
腕を振り上げ、彼女を殴り倒すつもりだろう。
カリッサは手の平をレイパーに向け、スキル『光封眼』を発動させる。
途端、視界が白く染まるレイパー。
だが、一度このスキルを受けていたレイパーは慌てない。その場で立ち止まると、手に持っている炎を纏った鞭を振り回し、滅茶苦茶に振り回し始めた。
「皆！ こっちへ！」
ミカエルが杖型アーツ『限界無き夢』を掲げて叫ぶ。
創り出すは、炎で出来た壁。ミカエルの防御魔法だ。
全員がその壁の後ろに身を隠し、カリッサがさらに炎の壁をコーティングするように光を纏わせる。
これはカリッサの魔法で、防御魔法の強度を上げる効果を持っていた。
頑丈になった炎の壁に、レイパーの鞭が激しくも重い音を響かせて激突する。
明らかに、光のコーティングがはがれるような気配に、ミカエルとカリッサの額に汗が流れ落ち……やがて轟音と共に壁が砕かれてしまった。
腕で頭を守りながら、吹っ飛ばされる一行。
そんな中、ファムは何とか体勢を整え、翼型アーツ『シェル・リヴァーティス』を広げて舞い上がる。
「このぉ……大人しくしろぉ！」
叫びながら、アーツから羽根を飛ばしてレイパーに攻撃するもダメージを受けた様子は無い。
そしてようやく目に光が戻ったレイパーは、ファムへと鞭を振って彼女の足に巻きつけ、思いっきり地面へと落下させる。
「あちっ！」
ファムは即座に自身のスキル『リベレーション』を発動させ、巻きついた鞭を解くが、落下の勢いは止まらず、地面に叩きつけられてしまう。
背中から来る痛みもそうだが、炎を纏っている鞭に絡まれたせいで、足に火傷を負ってしまったファム。立ち上がろうとするも、上手く力が入らない。
そんな彼女へと、レイパーは鞭を叩きつけてきた。
「ファムっ！」
「こんのぉ！」
ミカエルと優が慌ててレイパーに火炎弾と矢型のエネルギー弾を放つが、敵の動きは止まらない。
ヤバい、やられる――とファムが思わず目を閉じた、その時。
横から星型のエネルギー弾がレイパーの鞭の持ち手に激突し、手から武器を吹っ飛ばした。
敵の動きを止められないと悟ったカリッサが、狙いを敵の鞭へと定め、魔法攻撃を仕掛けたのだ。
さらに、遠くへと吹っ飛ばした鞭へと連続で星型のエネルギー弾を放つ。
土煙と共に鳴り響く、爆音。
何度もエネルギー弾を叩きこまれれば、レイパーの体程丈夫ではない鞭は堪ったものでは無い。
土煙が晴れた後、そこには粉々に砕けた鞭の残骸が現れた。
「ざ、ざまあ見ろ……！」
ふん、と鼻を鳴らして、レイパーに視線を向けるカリッサ。
続いて上がる、レイパーの怒りの咆哮。
腕を振り上げ、カリッサへと飛び掛る。
その眼には、自身の自慢の武器を破壊したカリッサだけが映っていた。
カリッサは再び『光封眼』のスキルを使い、敵の視界を封じるもレイパーの動きは止まらない。
しかし完膚なきまでに叩きのめしてやろうと激昂していたレイパーは、気がついていなかった。
カリッサとレイパーの間に、弓型アーツ『霞』を構えた優が割り込んできていた事に。
レイパーの体から迸る炎に火傷を負いながらも、優は限界まで弦を引き、白い矢型のエネルギー弾を番える。
「いい加減に……しろぉ！」
スキル『死角強打』を使い、威力を上げた渾身の一発がレイパーの腹部へと打ち込まれると、体をくの字に折ってレイパーは大きく吹っ飛ばされる。
「今よ！」
やっと見せた隙に、優が叫ぶ。
この好機を逃すわけにはいかない。
ファムとカリッサの羽根と星型エネルギー弾、さらに優の矢型のエネルギー弾が、倒れたレイパーへと嵐のように襲いかかる。
だが――
「……っ！」
大量の攻撃を受けてもなお、レイパーは何事も無かったかのように立ち上がってしまった。
怒り狂ったレイパーの視界には、既に光が戻っている。
レイパーは腕を後ろに引き、思いっきり突き出すと、手の平から優達へと火炎放射が放たれた。
「皆！ 私の後ろに！」
ミカエルが素早く優達の前に躍り出ると、勢いよく向かってくる敵の攻撃に向けて、巨大な火球を放った。
空中で激突し、爆煙と共に相殺されるミカエルの魔法とレイパーの攻撃。
しかし、ホッとするのも束の間。
「トキウトォォォオッ！」
立ちこめる煙を振り払いながら、レイパーがミカエル達へと突っ込んできた。
防御する間も無く、四人に降り注ぐ乱打。
直撃はギリギリのところで避けたものの、乱打の衝撃だけで吹っ飛ばされてしまうミカエル達。
地面に伏した彼女達は、血を流してピクリとも動かなくなってしまった。
そんな四人を一瞥し、低い唸り声を上げたレイパーは、コートマル鉱石へと近づいていく。
コートマル鉱石は地面から生えるようにして地表に顔を出しており、レイパーが地面を掘ると、思わず感嘆するような声を上げた。
地表から出ていたのはほんの一部分。完全に掘り出すと、コートマル鉱石は高さ五メートル、幅三メートルもあったのだ。
両手で巨大な鉱石を抱えたレイパーは、森の出口へと向かう。
レイパーの目的はコートマル鉱石であり、これさえ手に入れば、長居は無用だ。
自分に歯向かってきた愚かな四人の女性も殺したと、そう思っていた。
だが……レイパーの背後で、ミカエルの体がピクリと動く。
大きなダメージで動けなくなっていただけで、まだミカエル達には息があったのだ。
霞む視界に、レイパーがコートマル鉱石を持ち去ろうとする姿が映り、手に力を込めるミカエル。
攻撃を受けた際に手放してしまったアーツは、彼女の近くにあった。
手を伸ばし、限界無き夢を握った彼女は、杖をレイパーの持つコートマル鉱石へと向ける。
（や、奴らに持ち去られるくらいなら……！）
何を目的としてコートマル鉱石を持ち去ろうとしているのは定かでは無いが、録でもないことに違いない。
このままでは多く人が殺されてしまう……そう思うと、体が自然と力を振り絞っていた。
ミカエルはスキル『マナ・イマージェンス』を発動して体内の魔力を増やすと、全ての力を費やして空中に炎の針を作り出し――放つ。
真っ直ぐに飛んで行ったミカエルの魔法。油断していたレイパーは、彼女の攻撃に気がつくのが少し遅れる。
レイパーが回避行動をとるより先に、炎の針がコートマル鉱石に見事命中し、粉々に砕くのだった。
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