第15話『意地』
「い、嫌だっ!」
雅達が監禁されている少女達を見つけてから一時間後、セラフィがやってきた。未だ監禁中のエルフィ達に食料を渡すためだ。
その際、エルフィに自分達がここに来たということを説明してもらい、話が終わったタイミングで登場し、セラフィを保護したという訳である。
そしてレイパーを倒すため、セラフィに掛けられた『女性に自分達がレイパーに攫われたことを話すと、インプ種レイパーが突然側に出現する魔法』を利用して呼び出してもらおうと頼みこんだところ、この反応が返ってきた。
「私のせいで、いっぱい人が死んだんだ! そんなこと出来るもんか!」
「お願いしますセラフィちゃん! このままじゃ、あなた達が殺されてしまうんですよっ? その前に私達があいつを倒さなきゃならないんです!」
首を横に振ってそう叫ぶセラフィに、雅は説得を試みるが、彼女の意思は変わらない。
「あいつは誰にも殺せない……二人だって、ボコボコにされてたじゃないか!」
「それは――」
痛い所を突かれ、雅は口篭る。
セラフィは、二人がレイパーに負けるところを見ていたのだ。彼女にとって、それは大きな衝撃だった。強そうな二人が揃って手も足も出なかったあの光景は、セラフィを絶望させるのに充分なものだったのだ。
あと何日逃げられるのか……ついそんな事を考えてしまい、涙を零す。
「もっ、もう私は殺されるんだ……! 他のっ、みっ皆を連れてっ、早く私の前から消えろっ!」
過呼吸にも似た息遣い。ガタガタ震える両手で、セラフィはナイフ型アーツ『焔払い』を握り、雅とセリスティアに向ける。初めて雅にアーツを向けた時とほぼ同じだ。違うのは、刃に炎を纏っていないことと、彼女の目に確固たる意思が宿っていることである。
「…………」
「く、来るなっ! 来るなぁぁぁあっ!」
そんなセラフィに、今まで黙っていたセリスティアが近づいていく。
セリスティアが一歩、また一歩と歩を進める度に、セラフィは後ずさる。
それでも、二人の距離は確実に縮まり――セリスティアの手が、震えるセラフィの頭の上に置かれた。
「不安にさせたみてぇで、悪かった」
雅が固唾を呑んで見守っていると、セリスティアはそう言う。
「だがすまねぇ。あいつを放っておくわけにゃぁいかねえんだ」
「放っておけよ……どうせ私なんかホームレスで……二人が殺されるかもしれないんだ」
「そうだなぁ……リアルな事を言やぁ、あいつに殺される可能性はある」
「……怖くないの?」
「怖えぇよ。死にたいなんて思ってねぇし、痛い思いだってしたくねぇ。でもそれ以上に、お前らが殺されんのを見ない振りすんのは、絶対に嫌なんだ」
セリスティアは言葉遣いはぶっきらぼうでも、声色は優しい。
それでいて、彼女の言葉には強い覚悟があった。
「どの面下げてって思うかもしれねぇが……嬢ちゃんを疑って襲いかかったせめてもの侘びだ。お前らを苦しめるレイパーは、俺様とミヤビが必ず……必ずぶちのめす。例え刺し違えても、必ず奴の息の根だけは止めてやる」
セリスティアは、泣きじゃくるセラフィの髪をわしゃっと撫でる。
ついにセラフィは、構えていたアーツを下ろした。
――だがその瞬間、セリスティアと雅の顔が険しくなる。
「どうしたの?」
それを敏感に悟ったセラフィは、泣きはらした顔を不安に歪めた。
「セラフィちゃん、今すぐ中の皆を連れて逃げてください!」
「あの野郎……まだ呼んでねえってのに、自分から来やがった!」
雅はアーツ『百花繚乱』を出して構え、セリスティアも両腕に着けた小手を巨大化させ、銀色の爪を伸ばす。クロー型アーツ『アングリウス』は、使わない時は小型化されている。セリスティアが使いたいと思えば、このように巨大化する仕組みになっているのだ。
二人の視線の先には、全身真っ黒の、人型のレイパーがいた。インプ種だ。
まだ五百メートル以上離れてはいるが、こちらに向かってきているのは誰の目から見ても明らかだった。
レイパーの狙いは、セラフィ。
それが容易に想像出来た二人は、セラフィを守るように前に出る。
「早くしろ! ここら一帯にいるとあぶねぇぞっ!」
「皆が逃げる邪魔はさせませんっ! 行ってください、セラフィちゃん!」
「……っ! ぜ、絶対死なないで!」
セラフィは雅とセリスティアに向かってそう言って、セラフィは全力疾走でボロ家の中の妹達の元へと向かう。
それを見届けて、二人は改めて向かってくるレイパーを睨む。
「ミヤビっ! 援護頼む!」
「はいっ!」
雅は百花繚乱をライフルモードにすると、セリスティアが足に力を込める。
そしてそのまま跳躍すると、一瞬でボロ家の屋根に移動した。平屋とはいえ、その高さは約五メートル。それを軽々と飛ぶのは、とても人間業では無い。
これを可能にしたのが、セリスティアがアングリウスから貰ったスキル『跳躍強化』だ。セリスティアのジャンプ力を十倍以上にするスキルである。
ちなみにこれを応用し、『水平方向に飛ぶ』ことで高速移動のようなことも出来る。雅と戦った際、あらゆる方向から攻撃を行えていたのは、これが理由だ。
レイパーは雅とセリスティアに戦闘の意思があると分かると、右手の平を向け、直径三十センチ程の黒い球体を飛ばしてくる。二人が最初に戦った時に放ってきた、あの攻撃と同じものだ。その数全三十発。
雅がエネルギー弾をぶつけて球体を破壊。そしてセリスティアは攻撃の隙間を通るように、今いる屋根から他のボロ家の屋根へ、地面へ、そしてまた屋根へと飛び移る事を繰り返し、攻撃を躱していく。
雅が破壊しきれない球体はあるが、それらは全て地面や他のボロ家に命中し、土や石、ガラスの破片が飛び散った。
レイパーもこちらへと向かってきているため、セリスティアとインプ種レイパーとの距離はすぐに縮まる。
縦横無尽に動くセリスティアだが、レイパーの手は正確に彼女へと向けられている。そして黒い球体をセリスティア目掛けて放とうとした、その時。
突如レイパーの腕が明後日の方向へと弾かれる。刹那、「ゴムソヌヘア」という声と共に放たれる球体。雅の百花繚乱から放たれたエネルギー弾が、レイパーの腕に当たったからだ。
球体はセリスティアから大きく外れた方へ飛んでいく。
その隙にセリスティアは素早くレイパーの背後に回り、右腕をグッと後ろに引く。
そして放たれる突き。アングリウスの爪が、レイパーの背中へと襲いかかる――が。
「ナオリア」
「ちぃっ!」
レイパーはセリスティアの動きに対応し、左手の平を彼女に向けていた。そこから放たれた黒い紐が、爪が自身を貫く前に、セリスティアの体に絡みつく。
そのままセリスティアを振り回そうとするレイパーだが、刹那、雅の百花繚乱が上から振り下ろされ、黒い紐を切断する。
レイパーがセリスティアの動きに対応する間に、雅はレイパーとの距離を詰めていたのだ。そして百花繚乱をブレードモードにし、黒い紐を断ち斬ったのである。セリスティアの体に巻きついた紐は、雅によって斬られた瞬間に霧散する。
しかしレイパーは次の行動に移っていた。
「ゴムソヌヘア」
黒い球体が雅の足元へと放たれる。咄嗟に横っ飛びでそれを躱す雅だが、球体が地面へと命中し、発生した衝撃により、雅とセリスティアの体が吹っ飛ばされる。
それでも二人は上手く受身を取り、雅はレイパーの左側に、セリスティアはレイパーの右側に移動する。丁度、レイパーを挟み撃ちにするような形だ。互いのレイパーとの距離は約五メートル。二人はアーツを構え、レイパーは手の平を二人に向ける。
雅とセリスティアはレイパーを中心に円を描くようにゆっくりと動き――そして同時に地面を蹴った。
***
一方その頃、セラフィ達は、閉じ込められていたボロ家の裏口から出ていた。
「お姉ちゃんっ……!」
「うん……。あの二人が戦ってるんだ……!」
爆音が響く度に、空気が震える度に、セラフィ以外の少女達は体をビクリと震わせる。自分達が襲われたのではないかと恐れてしまうのだ。
セラフィとて、体を震わせるのは例外ではない。しかし、その理由は他の少女達とは少し異なっていた。戦いが激しくなればなる程、それだけ雅とセリスティアが危険に晒されていることになる。そのことにセラフィは恐怖していた。
だが戦闘音がするということは、二人がまだ生きている証拠でもある。もしもこの音が聞こえなくなったら、それは二人とレイパーのどちらかが倒れたということを意味する。そしてどちらが倒れたのか、セラフィには分からない。倒れたのがレイパーであればいいが、そうで無かったら……そう思うと、セラフィとしてはこの音が止んで欲しいような、止まないで欲しいような、複雑な気持ちだ。
自分達のために戦っている二人を想うと、ズキリとセラフィの胸が痛む。
だからだろうか。ボロ家から出た後、セラフィの足が止まる。
視線は、戦闘音のする方へと向いていた。
「……お姉ちゃん?」
不審に想ったエルフィが声を掛けるが、セラフィはおもむろにナイフ型アーツ『焔払い』を取り出す。
その瞬間――
「エ、エルフィっ!」
「やだ! 行っちゃやだよお姉ちゃん!」
エルフィが背中から抱き着いてきた。彼女はセラフィがアーツを取り出した瞬間、何を考えたのかすぐに分かったからだ。
「……ごめんエルフィ。でも私は、あの二人だけに戦わせるなんて出来ない」
二人は一度、あのレイパーに負けている。だがそれにも拘らず、自分達を助けるために再び立ち向かっている。このまま彼女達に任せっきりにすることに、セラフィは強い罪悪感を覚えていた。
セラフィは、抱きついているエルフィの手を握る。
それに……と、セラフィは考える。もしも二人がこのままレイパーに殺されたとしたら、レイパーは次に自分を殺しに来る、と。そしてその可能性は、彼女達が以前敗北したことから、充分にありえることなのだ。
もしも標的にされた時、レイパーを退けられる自信はセラフィには無かった。
そしてセラフィが殺されれば、次は別の少女が標的になる。その少女が殺されれば、また別の少女が、そしてまた殺されれば、別の……。
やがてレイパーはエルフィを狩りの獲物にするだろう。それだけは有ってはならない。自分の双子の妹は、何が何でも守らねばならない。これは二人がホームレスになった時から、セラフィがずっと胸に誓ってきたことだった。
エルフィを守るために、あのレイパーは何としてでも倒さねばならない。そしてそのチャンスは、自分達の味方をしてくれる人が二人もいる、今しか無い。今を逃し、二人を失えば、それは自分とエルフィの死に直結することは、セラフィにも容易に想像がついた。
無論、これまで戦闘とは無縁だったセラフィがアーツを持って駆けつけたところで戦力にはならない。普通に戦えば足手まといになるのがオチだ。
しかし、だ。レイパーの標的が自分ならば、目を引くことくらいは出来るかもしれないともセラフィは思っていた。囮になるなり、肉盾になるなり、考えれば何か出来ることがきっとある。そういう立ち回りをすれば、きっと自分がいないよりはあのレイパーを倒せる確率は僅かでも上がるはずだ。
セリスティアは言っていた。「刺し違えてでもレイパーの息の根は止める」と。だがその覚悟を決めるべきは彼女達ではなく自分だとセラフィは考える。
エルフィを、たった一人の大事な家族を守るのだと思えば、覚悟は驚くほどすんなり決まった。
「このままあっちの道を行けば、街に出る。そこならここよりずっと安全だ。エルフィ、皆を連れて逃げて」
「でも……!」
「頼むよエルフィ」
「…………」
エルフィを握る手に、力が籠る。
双子だからなのだろうか。エルフィは逡巡したものの、どうやっても姉の気持ちを帰ることは出来ないと悟り、ゆっくりとセラフィから離れた。
「死んじゃ……死んじゃ嫌だよ……!」
「うん……分かってる。行ってくる!」
涙ぐむエルフィ。生きて帰れることを約束出来ない事に胸が締め付けられそうになるセラフィだが、今はもう、迷っている時間は無い。
気合を入れるように自分の頬を両側から叩くと、セラフィは走り出した。
***
そして同じ頃。
雅とセリスティアは、ボロボロだった。
無数に放たれる黒い球体や紐、そして尻尾による攻撃を全て躱しきることは不可能。何とか気合で致命傷は避け続けているものの、それも時間の問題だ。疲れやダメージで段々と鈍くなっていく体に、相手の攻撃が掠る頻度は高まっていく。
それでも二人の目は死んでいない。
「ナオリア」
「うぉぉぉおらぁぁぁあっ!」
飛んでくる七つの球体を、前のめりの体勢で左右に細かくステップを踏んで避け、最後に放たれた黒い紐をきりもみ回転しながら飛んで躱す。
しかし着地と同時に地面を蹴って一気に距離を詰めたセリスティアの顎の下には、インプ種レイパーの爪先。
蹴り飛ばされ、仰向けに地面に激突するセリスティア。脳を揺らされ、上手く立つことが出来ない。
止めを刺そうと近づいてくるレイパー。その背後から、雅が迫る。
「はぁぁぁあっ!」
レイパーの頭上からアーツを振り下ろすも、僅かにレイパーは体を逸らして攻撃を空ぶらせた。
そして、続けざまに攻撃を仕掛けようとする雅の僅かな隙を狙い、尻尾を彼女の胴体に、腕に、巻きつける。
「くっ――」
最後に尻尾が首に巻きつき、締め上げる。息が出来ず、首の骨が悲鳴を上げる。
前回とは違い、今回は腕も封じられているため、巻きついた尻尾を剥がそうとすることすら出来ない。苦悶の表情で、雅は僅かに身じろぐことしか出来ず、だがそれでも百花繚乱を手放すことは意地でもしなかった。
インプ種レイパーは雅とセリスティアを交互に見て、先にセリスティアを殺そうと彼女の方に手を向ける。捕らえた雅はいつでも殺せるが、倒れているだけのセリスティアは復活する可能性があると思ったのだろう。
レイパーの口の端が、不気味につり上がる。
「こぉんの……や、ろう……っ!」
「ゴムソヌヘア」
レイパーがそう言った瞬間、セリスティアに向けられた手に桃色のエネルギー弾が命中し、僅かに反れる。黒い球体はセリスティアの後方へと飛んでいき、地面を抉る。
雅が必死の形相で、手首の力だけを使い、ライフルモードにした百花繚乱の銃口をレイパーの手に向けていた。
その瞬間、セリスティアはレイパーの方へと体を転がし、寝たままの状態でクロー型アーツのアングリウスの爪を伸ばし、我武者羅に右腕を振り上げる。
その爪が向かう先は、レイパーの顔。レイパーが咄嗟に顔を反らそうとするも間に合わない。
銀色の爪は、レイパーの目を抉る。
思わぬ反撃に苦悶の声を上げたレイパーは、つい尻尾の力を緩め、雅を解放してしまう。据えなかった空気を目一杯肺の中に取り入れつつも地面に崩れ落ちそうになる雅だが、足に力を込めてそれを堪える。
そして雅はアーツを離し、レイパーに飛びかかった。
痛みにもがくレイパーの腕を左腕でホールドし、右腕は……レイパーの口へ。丁度猿轡を噛ませるように、自らの腕をレイパーの口に捻じ込んだのだ。
「ミヤビっ? 何を――」
「今ですセリスティアさんっ!」
インプ種レイパーは黒い球体や紐を放つ時、必ず「ゴムソヌヘア」や「ナオリア」と言っていた。だから雅は思ったのだ。もしかすると、口を封じれば攻撃も封じれるのでは、と。
そしてその考えは正しかった。口を封じられたレイパーは慌てて、口に噛まされた腕を噛み千切ろうと顎に力を入れる。
だがレイパーの歯が雅の腕を貫くことは無い。雅が自分のスキル『共感』で、レーゼの『衣服強化』を発動させたからだ。これにより、雅の服や体は鎧並の強度になる。代わりに動きは鉛のように鈍くなるが、これだけレイパーと密着しているならそのデメリットも大したことは無い。
スキルの効果時間は三十秒。それを過ぎれば、雅の腕は喰いちぎられ、二人の勝ち目も消え失せる。
そしてそれは、セリスティアも直感で感じた。
「う……あぁぁぁあああっ!」
セリスティアは雄叫びを上げ体を起こし、左腕を思いっきり引き、力一杯にレイパーの腹目掛けて突き出す。
だが――
「ゴ……ゲ……ゴ、『ゴエロ』ォ……!」
レイパーが、口を封じられても尚、言葉を発する。
セリスティアの放った爪と、レイパーの腹の間に、黒い板のような物が出現し、攻撃を阻む。
今まで使ってこなかった技に、戦慄の表情を浮かべる雅とセリスティア。これまでにここまで迫った攻撃が無かったため、レイパーも使う機会が無かったのだ。
盾のように現れたそれを貫こうと、セリスティアは腕に力を入れるが、びくともしない。
雅のスキルの効果時間も、後二十秒を切った。
ヤバい……二人が歯軋りし、そう思った、その時だ。
「わぁぁぁぁああああっ!」
突如、そんな声が聞こえた。知っている声だ。
その方向に顔を向ければ、セラフィが『焔払い』を構え、こちらに走ってきていた。
驚く二人を余所に、セラフィはレイパーに飛びかかり、その胸にアーツを突き立てる。人間で言えば、丁度心臓がある部分だ。そこには攻撃を阻むものは何も無い。
「ゴァッ……!」
苦しい声を上げるレイパーの命を削り取るように、突き刺したナイフをさらに押し込むセラフィ。
そしてセリスティアの攻撃を阻んでいた黒い板が消え去る。板を維持する集中力が無くなったためだろう。つんのめるセリスティアだが足に力を入れ、そのまま勢い良く突進し、レイパーの腹部に爪を突き立てる。
さらにセラフィの突き立てた『焔払い』の刃に炎が纏う。『ウェポニカ・フレイム』のスキルを発動したのだ。
アーツは体に突き刺さっているため、炎はレイパーの体を内側から焼いていく。筋肉を、神経を、骨を焼き、レイパーの体のあちこちが切れて炎が噴出す。
「ガァ……アァァァァアアアッ!」
「――っ!」
悲鳴を上げるレイパー。セリスティアは突き刺した爪を抜き、セラフィを抱え、スキル『脚力強化』を発動し後ろに大きく飛び退いた。
「アァァァアッ!」
セリスティアの爪が突き刺したことによって抉られた穴から、一際大きな炎が噴き出る。
雅に羽交い絞めされたレイパーは抵抗するように吠えるが、耐えることが出来ずに爆発四散した。
「ミヤビィィィイっ!」
「ミヤビっ?」
爆発に巻き込まれた雅に、血相を変えてセリスティアとセラフィは叫ぶ。
「だ……大丈夫ですよっ! 無事です!」
スキルの効果がギリギリまだ残っていたお陰で、雅は爆発に巻き込まれても無事だった。爆風で髪は逆立ち、巻き上がった土が顔を汚してはいるが、それでも生きている。
一瞬死んだのでは無いかと思った二人は、大きく息を吐いた。
「セラフィちゃんっ! 怪我は無いですかっ?」
「おおっと、そうだっ! お前なんで来たんだよ! 危ないから逃げろっつたろっ?」
「ご、ごめん……。でも、放っておけなくて……」
「全く……」
思わず額に手をやる雅とセリスティア。危険な行動をした彼女を叱らなければと思う一方、彼女が来てくれなかったらレイパーを倒せなかったかもしれないことを考えれば叱るに叱れない。
すると。
「お姉ちゃん!」
遠くから声が聞こえた。見れば、エルフィがこちらに走ってきている。
セラフィに逃げろと言われた彼女だが、一際大きな爆発音がして、居ても立ってもいられず駆けつけたのだ。ちなみに他の少女達は先に逃げるように言ってあるため、ここにはいない。
エルフィはへたり込むセラフィを見ると、目に涙を浮かべて飛びつき、姉を抱き締めた。
「う……うぁぁぁあぁぁぁあっ!」
「こ、こらエルフィ! 生きてるんだから泣くなよぉ!」
セラフィが無事だと分かり、安堵したからだろう。たった一人の家族が大事なのは、セラフィだけでは無かったのだ。ワンワン泣くエルフィを、セラフィは困ったような顔をしながらも、優しく抱き締め返す。
そんな二人の頭に、雅とセリスティアはそっと手を置くのだった。
評価・感想・ブックマーク頂けると大変喜びます。