第135話『自然』
「わぁ! 綺麗!」
カリッサと共にコートマル鉱石を探すことになった雅達。カリッサの案内の元、どんどんと森の奥まで進んでいた。
すると、色とりどりの花が一面に広がっている場所に出て、それを見た優が歓声を上げたのだ。
「さっきまで回りに木しか無かったのに、いきなり凄いところに出ましたね」
とても同じハプトギア大森林の中とは思えない変わり様に、ライナも顔を綻ばせて呟く。
「この花は何でしょう? 見たこと無いです」
「これ、ハルピュアね。オートザギアでしか咲いていない花よ」
「ハルピュア? ……ああ、花びらが鳥みたいな形だから」
ノルンの言う通り、ハルピュアの花びらは、飛んでいる鳥を横からみたような形状をしていた。
因みに、ハルピュアの花を見た希羅々は口をもごつかせた。
どこぞのSNSのマークのようだと思ってしまったのだが、それを口に出すのはあまりにも風情が無い。
「あんまり触らないようにね。ハルピュアの花びらは付け根が弱くて、触るとすぐに取れちゃうから」
故に、こんなにたくさん咲いているところを見られるのは大変貴重だとミカエルは言う。
「綺麗でしょ。ここは隠れた森の名所。一般人は入れない。人があまり来ないから、こんなに花が増えたの」
「確かに、ここに来ても帰れなさそう」
複雑に入り組んだ林道をあちこち曲がり、初めて来ることが出来た場所。すでに雅達は、自分達が森のどこにいるのか分かっていない。
とてもじゃないが、カリッサ無しではこの景色は見られなかっただろう。
「でも、ここにはコートマル鉱石は無さそう。もっと奥まで行こうか」
カリッサが花畑の奥を指差す。林道が伸びており、もっと森の奥まで続く道だと彼女は言った。
***
ハルピュアの花畑を抜け、しばらく進んだ一行。
すると、次に現れたのは……
「おぉぅ、こりゃ絶景だねぇ」
ファムが静かに感嘆の声を上げる。
現れたのは、巨大な湖。
「水の上に木が立っている……」
ライナが目を丸くし、雅がそれに続いて「まるでマングローブみたいですねぇ」と呟く。
「あれは『ウンディネア』っていう水生植物の一種。ハルピュアと同じく、オートザギアにだけ分布しているよ」
ウンディネアは水中の不純物を分解し、微生物の餌に変えることができ、ウンディネアが生えている湖は水が非常に綺麗なのだとか。
と、カリッサの解説に「へぇ」という暢気な反応を一行が返していると、突然、ブクブクとたくさんの気泡が湖の中心に発生した。
何が起こるのかと一行が少し警戒していると、突然水が競りあがり、中から全長六メートルはあろうかという、カジキマグロにも似た生物が飛び出してきた。
「あ、あれは何ですのっ?」
「『クロロプルーナー』よ!」
カリッサが興奮しながら名前を教えてくれる。何でも、普段は湖の奥底の巣穴で寝ており、滅多に見られない生き物らしい。
クロロプルーナーは鋭く伸びた上顎を振るう。
ズパンッ、という気持ちの良い音と共に、ウンディネアが一本、一瞬で細切れになった。
「ええっ? いいんですかっ? あんなことしちゃってますけどっ?」
「うん! クロロプルーナーは別名『湖の剪定師』って呼ばれていて、寿命が近くなったウンディネアをあんな風に除去してくれるんだ。細かくなったウンディネアは、別のウンディネアが分解して微生物の餌にしてくれる。それでもっと水が綺麗になる。クロロプルーナーはあんな見た目だけど結構体がデリケートで、水が綺麗じゃないとすぐに弱っちゃうんだよ」
カリッサが説明している間にも、クロロプルーナーは他にもう一本ウンディネアを細切れにし、それで役割を終えたのか水中へと姿を消した。
「へぇ。でも、こんなところに、あんな大きな生き物の餌になりそうなものなんて無さそうだけど、普段は何を食べているんですか?」
と優が尋ねると、カリッサは短く「苔だよ」と答える。
曰く、あの鋭い角のようなところに苔が纏わりつくらしく、岩に角を擦りつけたり、今のようにウンディネアを斬った時についでに苔を落とし、それを食べて生活しているとのこと。
「さて。ここまで来て思ったけど、よく考えてみたらここは湖。コートマル鉱石なんて無いか。次へ行こう」
現れた景色や初めて見る生き物に気を取られたが、元々の目的はコートマル鉱石。
一行は、その場を後にした。
***
そして、カリッサと一緒に森を散策する一行。
あの後もいくつかコートマル鉱石がありそうな場所に訪れてみたが、いずれも外れ。
「中々見つからないですねぇ……」
「まぁ、気長に探しましょう。でも、ちょっとお腹がすいちゃいましたね」
ノルンがそう言いながら、自分のお腹を軽くさする。
既に午後一時を回っており、ハプトギア大森林に入ってから水以外、何も口にしていなかった。
「ずっと歩きっ放しだし、少し休憩にしましょう。――あら? 何か変な臭いがしない?」
ミカエルが眉を顰め、鼻をひくつかせる。
彼女の言う通り、何か焦げ臭い。
とても森でしていい臭いでは無いと、誰の本能もそう告げていた。
すると――
「煙っ?」
「っ? まさかっ?」
突然立ち籠めてきた黒い煙。
カリッサはそれで何かを察するが、時既に遅し。
煙はあっという間に一行を覆いつくし、互いに姿が見えなくなってしまうのだった。
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