第14話『遊猟』
セラフィによく似た少女は、エルフィ・メリッカ。セラフィの双子の妹だった。
この部屋には、エルフィを含めて三人の少女がいる。いずれも雅達が思った通り、ホームレスの子だ。
部屋の隅で死んでいた二人の少女は、殺害現場でレイパーとコミュニケーションをとる姿が確認されていた少女達だった。
「あなた達は、どうしてここに?」
「私達、真っ黒いレイパーに攫われて……」
混乱が落ち着いてきたところで早速本題に入る雅。
数ヶ月前、インプ種レイパーが突然彼女達の前に現れた。ホームレスとは言え、レイパーのことは知っていた彼女達は、すぐに殺されるのだと恐怖したそうだ。
だがレイパーは彼女達を殺すことはせず、拘束し、このボロ家に閉じ込めた。この部屋には内外の気配や臭い、音を遮断する魔法が掛けられており、扉は外側から開けなければ開かないようにされている。窓はあるが、ここから外に出ようとしても、不思議な力が働き押し戻されるらしい。恐らくこれもレイパーが窓に何か魔法をかけたためと推測された。
そんな部屋に監禁された彼女達だが、レイパーは何故かその中の一人だけ、この家の外に逃がしたと言う。
逃げ出した少女に待っていたのは、地獄。
レイパーは、少女が逃げ出してからしばらくすると、逃げた少女を追い、見つけると黒い球体で攻撃してくるらしい。
逃げた少女を殺すと、レイパーは死体をこの部屋に持ち帰り、次の少女を部屋の外に連れ出し、同じ事を繰り返す。
少女達は悟った。自分達は、狩りの獲物なのだと。レイパーは、逃げる自分達を狩って遊んでいるのだと。
逃がされた少女には、レイパーからアーツを渡される。何故自分を殺せる武器をわざわざ獲物に渡すのかは定かではない。雅とセリスティアは、恐らくレイパーは、抵抗する獲物を狩ることに楽しみを見出しているのではないかと推測した。
アーツの特徴を聞くと、それは雅がセラフィから見せてもらったナイフ型アーツ、『焔払い』に酷似していた。どこで入手したか聞いた時、彼女が言い淀んだのは、あれがレイパーから渡された物だったからなのだと分かった
最初と、その次に逃がされた少女は、既に死体となってこの部屋に戻ってきている。今は三人目。セラフィが獲物にされている番だ。
逃がされた少女には二つの魔法が掛けられる。
一つは、自分達がレイパーに攫われたことを『男性には』話せなくなる魔法。喋ろうとしても、何故か声が出なくなるそうだ。
もう一つは、レイパーに攫われたことを『女性に』話すと、突然インプ種レイパーが側に出てくる魔法。出てきたレイパーは近くにいる女性を皆殺しにすると、少女に向けて指でバッテンを作り、ケタケタ笑ってからどこかへ消える。少女とレイパーがコミュニケーションをとっていると思われていた理由は、これだった。
この魔法により、少女達は助けを呼ぶことが出来ない。
こんなことは当然レイパーから説明があった訳も無く、逃げ出した少女達が何度も助けを呼ぼうとして分かったことだ。
セラフィや他の二人の少女は何とかこの制約をすり抜けられないか試してみたようだが、全て失敗に終わり、結果、何人もの犠牲者を出してしまっていた。
ここまでの話を聞いて、雅もセリスティアも絶句する。
雅の握りこぶしの手の平の部分は僅かに白み、隣ではセリスティアがギリっと奥歯を噛み締めた。
雅はもう一つ、気になっていたことを聞く。
「……皆さん、食事はどうやって? 長い事閉じ込められていたんですよね?」
「獲物にされた人が、外でパンとか盗ってきて……窓の外から、部屋に入れてくれたの。あの黒いレイパーがどうして攫った人を逃がすのかとか、魔法の話とかも、その時教えてもらった」
「そうですか。そっか、セラフィちゃん、だから……」
セラフィが、貰ったパンの大半を食べずに取っておいた理由を知り、納得する雅。
「あのっ……お姉さん達、バスターの人ですかっ? 助けて下さい、お願いしますっ!」
エルフィの近くにいた少女が、泣きながら叫ぶ。
それを聞いたセリスティアは、口を開いた。
「残念だが、俺らはバスターじゃねぇ」
途端、その場にいた少女達の顔が絶望に染まる。
そんな彼女達に、セリスティアは「だがな」と続けた。
「お前らは絶っっっ対に助け出してやる。だからすまねぇ、もう少し辛抱していてくれ」
そしてセリスティアは、雅を連れて部屋の外へ出た。
***
少女達を残し、部屋を出たセリスティアは、家の壁に拳を叩きつける。
「力のねぇ女の子をわざと逃がして、狩りを楽しむ、だと……? ふっざけやがってこの野郎……!」
声と肩をわなわなと震わせ、セリスティアは再び拳を叩きつける。
「……ミヤビ、あの時お前が止めてくれていなかったら、俺ぁ恐ろしい過ちを犯すところだった」
こんな事情があることなど、セリスティアは欠片も想像していなかった。レイパーへの怒りと自分の愚かさへの怒りが形となったのが、この行動だ。
「俺はっ、自分が許せねぇ……」
怒り狂うセリスティアの肩に、雅は手を置いて首を横に振る。
「悪いのは全部レイパーです。あの子達も、セリスティアさんも、誰も悪くない。あんな奴がいなければ、誰も傷つかなかったし、殺されることも無かった……。ふざけた遊びは、私達の手でさっさと終わらせますよ!」
雅の脳裏に浮かぶのは、あの広場でレイパーを見た時の事。
あの時の状況を考えて、セラフィがレイパーの事を誰かに話したとは雅には思えない。レイパーはあの時、自力でセラフィを見つけ、狩ろうとしていたのだと考えていた。周りにいた女性を十六人も殺したのは、景気付けか、唯のついでか……セラフィを怖がらせるためにやったのか、いずれにせよ、どうせ碌な理由では無い。
肩に置いた手に力が籠る雅。
セリスティアは大きく深呼吸すると、雅の言葉に強く頷いた。
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