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第129話『廃屋』

「着いた。ここだ……」


 シャロンと真衣華が人工種コノハムシ科レイパーと戦っている最中、愛理達は目的地へと到着していた。


 森の中にひっそりと建てられたログハウス。屋根や壁はもうボロボロになっており、今は廃屋であるのは明らかだ。こんなところに建っているからか、少し不気味な雰囲気もする。


「シャロン達はまだ来ないみたいだけど……先に私達だけで調べ始めましょう」

「そうですね。早速――」

「ちょい待ち」


 入り口へと向かい始めた愛理を、セリスティアが声で制止させる。


 一体どうしたのか、と愛理達が怪訝に思う中、セリスティアの視線は足元へと向けられていた。


「……ところどころ、何か踏まれたような跡があるな。まだ新しい……最近、誰かがここに来たみてぇだぜ」


 セリスティアの言葉に、愛理達も慌てて地面を見る。


 落ち葉や雑草でパッと見ただけでは分からないが……


「……確かにファルトさんの言う通りだ。これ、足跡か? よく気が付きましたね……」

「ト、言うことハ……もしかしテ、中に誰かいル?」


 志愛が、足元とログハウスを交互に見ながら、警戒の色を一層強める。


 足跡はログハウスの裏手へと続いており、それを辿っていくと、扉があった。


 レーゼは周囲に目を配りながらも、ログハウスの裏口に近づく。ドアを調べ……眉を顰めた。


 辺りの地面や手すり等は薄らと土埃を被っているのだが、ドアノブだけが異様に綺麗だ。まるで、誰かが触ったかのようである。


「……最近開けたような形跡がある。シアの言う通り、誰かが中にいる可能性が高いわ。ここ、確かに廃屋なのよね? 誰かの家とかじゃなくて」

「ええ。間違いないですね。念の為、優一さんにも調べてもらいまいたが、今は誰も使っていないそうです」


 であれば、誰かが中にいるというのはおかしな話だ。


 久世のアジトを探していたが、いきなり当たりを引いたようである。


 思ったより早く手掛かりが見つかりそうで歓喜すると同時に、一行に緊張が走る。


「表口からでは無ク、わざわざ裏口から入っタ?」

「廃屋とはいえ、セキュリティシステムはまだ生きているのかもしれない。だが、裏口を使ったということは、ここからなら入れるということだろうか……?」


 もしもセキュリティシステムが働いていた場合、無理に扉を抉じ開ければけたたましい警報が鳴り、ここら辺を管轄している警備員がすぐさま飛んで来る仕組みとなっている。そうなれば面倒極まりない。


「どうすル? 中を調べられたらいいんだけド……」

「鍵は……まぁ掛かっているわよね」


 レーゼは慎重にドアノブを捻り、軽く息を吐く。


 すると、


「レーゼ、ちょっとどいてろ」

「え? セリスティアあなた――」


 いきなり進み出たセリスティアに、何をする気かと不安になったレーゼ達。


 しかし誰かが止める間もなく、セリスティアは腕に嵌めた小手を巨大化させ――爪型アーツ『アングリウス』だ――扉を貫いた。


 バキバキと音を立てながら、無理矢理抉じ開けると、セリスティアは「どうだ!」と言わんばかりのドヤ顔を見せる。


「うっし、これで中に入れるな。行こうぜ」

「あ、あなたねぇ……さっきの二人の話を聞いていなかったの?」

「んだよ。セキュリなんちゃらとやらは分からんかったけど、ここからなら入れそうなんだろ? ゴチャゴチャ考えるより、ぶっ壊した方が早いっての」


 そう言ってケラケラと笑い飛ばすと、セリスティアはログハウスの中へと入っていく。


 少し遅れて、三人も後に続くのだった。




 ***




 幸い、無理矢理中に侵入したものの、警報が鳴る気配は無い。


「さて、どこから調べる? ってか、そもそも何を探しゃあいいんだ?」

「人工レイパーに関するものとか、久世の今後の予定とか、取り敢えず怪しそうなものがあれば持って帰りたいですね。まずは、あっちの部屋から調べてみませんか?」


 辺りにチラチラと視線を向けながら、愛理がそう提案する。


 中に敵がいる可能性がある以上、いつ、どこから襲われても不思議は無い。


 先程セリスティアが無理矢理扉を抉じ開けたため、もし中に人がいれば気がつかないはずは無いだろう。身を潜め、襲撃のタイミングを図っている可能性は充分にある。


 何が起きても対処出来るよう、四人は固まって、愛理の示した部屋へと向かう。


 そこは、キッチンだ。


「……あら? 電気が点くのね」

「廃屋なのニ、おかしイ……」


 レーゼが試しに壁のスイッチを押してみると、天井のライトが何度も点滅しながらも点灯し、部屋を照らした。


 不審に思った志愛が、蛇口のハンドルレバーを回してみるものの、水は出ない。


 どうやら通っているのは電気だけのようだ。


「……電気だけは必要ということか。しかし何故だ?」

「ここには何も無さそうね。別の部屋に行きましょう」


 そうして、疑問は持ちつつも一階の部屋を全て調べてみたが、手掛かりは無し。


 階段を登って二階へ上がると、そこには部屋が一つだけ。


 何かあるとすれば、ここだろう。


 愛理達は顔を見合わせて頷くと、慎重に部屋の中へと入る。


 部屋の広さは十畳といったところか。奥には窓があり、バルコニーに続いていた。左の壁際にはファイルや書類が山になって置かれており、反対側の壁にはデスクがある。


 デスクの上に乗っているものを見た愛理と志愛は、首を傾げた。


「なんだ? この大きな機械は……?」

「パソコンのようだナ。だガ、こんなに大きなパソコンは初めて見タ……」


 置かれていたのは、箱型のモニターに、分厚い本体。キーボードにマウス。


 どれも相当に古いパソコンだ。


 2221年の現代社会において、実はパソコン自体、余り目にする機会が無いものだ。パソコンで出来ることのほぼ全てがULフォンでも出来てしまうためである。


 かくいう愛理も、動画の編集等は全てULフォンで行っていた。パソコン自体を見たことが無いわけではないが、ノートパソコンや薄型のデスクトップパソコンくらいしか知らない。


 志愛の知識も、愛理と大差無い。


「なぁ、これは何だ?」


 後ろで二人のやりとりを眺めていたセリスティアが、ふと机の端にある薄い板状のものを指差して尋ねる。


 樹脂製の外装で、一部分にシャッターが付いている。


 パソコンはギリギリ分かった愛理と志愛だが、これに関してはさっぱり分からず、目を丸くした。


「取り敢えず、これは持ち帰るとして……あの書類の束を見てみましょう。しかし、このご時世に紙ベースの――」


 見つけたものを懐にしまい、浮かんだ疑問を口にしながら愛理が左の壁を向いた時だ。




 軽やかな音と共に何者かがバルコニーに舞い降り、窓を割って侵入してきた。

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