第13話『廃墟』
セリスティア・ファルトは、元はバスターだった。
彼女の親族は皆健在だが、友人やその家族にはレイパーに殺された者もいる。それによって悲しんでいる人を見たくなくて、彼女はバスターになった……のだが。
バスターは国の機関であり、それ故お堅いルールやしきたりが存在する。それがどうもセリスティアの性に合わず、郷に入っては郷に従え精神で最初は我慢していたものの、結局は辞めてしまった。
しかし初心である『レイパーによって悲しむ人を見たくない』という気持ちまで捨てることは出来ず、表向きはフリーの仕事人を装いつつ、こっそり街の人からのレイパー討伐依頼を受けては倒し、生活費を稼ぐ日々を送っている。セリスティアはフットワークが軽く、お役所的な対応のバスターよりも早くレイパーを討伐してくれるため、お金を払ってでも彼女に依頼する人は意外と多い。
そんな彼女の元に、三ヶ月前、ある一つの依頼が舞い込んできた。街の女性が次々と真っ黒い悪魔のような姿をしたレイパー惨殺されており、倒して欲しいという依頼だ。バスターでは対応が後手後手になっており、セリスティアを頼りたいとのことだった。
調べてみると、現場に居合わせた女性が次々殺される中、何故か一人だけレイパーとコミュニケーションをとる素振りを見せ、見逃してもらっている女の子がいることが分かった。それも三人。いずれもホームレスのような格好をしていたらしい。
ある特徴をもった女性しか狙わないレイパーは数多くいるが、現場の女性を一人だけ残して全員殺すレイパーの例はセリスティアも聞いた事が無い。
あまりにも不自然なレイパーの行動に、セリスティアはその少女達がレイパーと繋がっており、女性を襲わせているのではないかと推理した。動機は、自分達をホームレスにした社会への報復ではないかと考えている。
目撃者の証言を元に似顔絵を作成し、雅もそれを見せてもらったところ、確かにその内の一人はセラフィにそっくりだった。
なお、他の二人はここ三週間ほど現場では姿を見せていない。行方は今も不明である。
足を使って地道に捜査を進め、ようやくあのゴーストタウンでセラフィを見つけ、今に至るわけだ。
そして現在、雅とセリスティアは再びあのゴーストタウンに戻ってきていた。セラフィがまだ街にいるとは考え辛く、ここは身を隠すには丁度良い場所であるため、戻ってきているのではないかと思ったのだ。
セラフィの捜索が始まってから三時間以上が経過していた。今の時刻は午後三時半過ぎ。
「おいミヤビ、ちょっと来い」
ここで生活しているホームレスに片っ端からセラフィの似顔絵を見せて聞き込みをしていた二人。セリスティアが、大声で雅を呼ぶ。
「セラフィちゃん、見つかりましたか?」
「見つかったっつーか、どうやらセラフィにそっくりな女の子が、一ヶ月位前から定期的にあっちの方に向かっているのを見たらしい」
セリスティアが指差した方を見る雅。このゴーストタウンのさらに端っこ、つまりセントラベルグの中でも特に外側のエリアだ。そちらにもポツポツと壊れかけた建物が見える。
「じゃあ、もしかして」
「ああ。待ち伏せしていれば、セラフィが来るかもしれねぇ。行ってみるぞ」
雅はコクンと頷いた。
***
三十分後、情報のあったエリアに向かい、建物の一つ一つを調べていると、セリスティアが口に人差し指を当て、声を出さずに手招きしてミヤビを呼ぶ。
彼女が調べていたのは、レーゼの家と同じ位の大きさのボロ家。窓から中を覗いていたのだ。
別の建物を調べていた雅は、その仕草を見て察する。
大きな音を立てないよう、慎重にセリスティアの元に行くと、セリスティアに誘われ家の中を覗きこみ――息を呑む。
中には、数人の少女がいたのだ。着ている服装から、全員ホームレスだと思われる。
その中には、くすんだブロンド色の髪の少女もいた。
誰もが、死んだような目で床に膝を抱えて座りこんでいる。
そして部屋の隅には、倒れた少女が二人見える。体の一部が無くなっており、床が黒く滲んでいる。小蠅がその周りを飛んでいた。死んでいるのだ。
「あいつ、セラフィだろ?」
セリスティアが小声で雅に聞くが、彼女は首を横に振る。
「似ていますけど、違いますね。目の下にホクロがありません。別人です」
「……お前、マジか」
断言する雅に、セリスティアは顔を引き攣らせる。何故そんな細かいところを覚えているのかと突っ込みたくなったのだ。
「セリスティアさん、ところで――」
「ああ、分かっている。何か変だぜ、ここ」
中に少女達がいるのに、人の気配を全く感じない。セリスティアも、中を見て人がいた事に驚いた。
そして、部屋の隅で倒れている二人の少女。死んでいるのなら異臭がするはずなのだが、それが全くしないのだ。小蠅が飛んでいるのなら間違いなく臭いが発生しているはずなのに、だ。
「……あっちに入り口があった。入るぞ」
「はい」
二人は意を決して、家の入り口から中に入り、足音を忍ばせて先程の部屋を目指す。
「……ここだな。準備はいいか?」
セリスティアが聞くと、雅は頷く。二人は大きく深呼吸をして、勢い良くドアを開いた。
途端、悲鳴が聞こえ、顔を顰める程の異臭が鼻をつく。
少女達は怯えた目で、助けを呼ぶ声を上げながら壁際に背中を寄せていた。
「落ち着いてください! 敵じゃありません!」
雅がしゃがみ、両手を挙げてそう叫ぶが、少女達は悲鳴を上げるばかり。
それから落ち着いて話が出来るようになるまで、十分の時間を要した。
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