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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第14章 フォルトギア
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第122話『勝手』

「ねえ。何であんなこと言うのさ?」


 希羅々達がミカエルを追って屋敷を出た後。


 残ったファムが、ヴェーリエにそう尋ねる。


 ヴェーリエはジロリとファムを睨むが、ファムは怯まない。


 いや、怯まないというより、感情を感じさせない顔をしていた。


 近くでファムを見つめる雅は分かる。


 ファムは、怒っているのだと。


「まぁ……ミカエル先生も大人気なかったけどさ、そりゃあ必死でレイパーと戦った後であんなこと言われたら嫌でしょ。ちょっと考えれば分かるじゃん」

「……あなたには、関係の無いことです」


 ヴェーリエはそっぽを向き、少しバツが悪そうに呟いた。


 ファムの言葉は生意気だが、言っていることは正しいとヴェーリエも分かっているのだろう。だから、文句も言いにくかった。


「家庭の事情に口を挟む気は無いけど、あれでも私の先生だから。あんなこと言われて黙っていられない。ノルンのことだってそう。あんたとノルンは昨日会ったばかりでしょ。なのに嫌な態度とっちゃって、どういうつもり? 大体――」

「はいはい! ファムちゃんちょっと落ち着いて!」


 ヒートアップしてきたファムの頭に優しく手を乗せながら、雅が止めに入る。


 ここでファムとヴェーリエが大喧嘩になれば、もう収拾がつかなくなってしまうだろうと思った。


「ちょっとミヤビ、止めないで」

「まぁまぁ。ファムちゃんの気持ちも分かりますけど、それくらいにしておきましょう。言葉は刃物。度が過ぎると相手を不必要に傷つけちゃいますよ」

「……ぅぐ」


 ノルンのことでミカエルに言い過ぎた時のことをやんわりと伝えられ、ファムは思わず押し黙る。


 ファムはそっぽを向くと、やり場のない感情を、鼻息と共に吐き出した。


 とりあえずは落ち着いたようで、雅は内心でホッとする。


 そして、今度は意識をヴェーリエへと向けた。


 警戒する目のヴェーリエと、視線が合う。


「ヴェーリエさん。仲が良いわけじゃないのは察していますけど、ミカエルさんのこと、嫌いってわけでも無いですよね?」

「……は?」


 突然の言葉に、ヴェーリエもファムも怪訝な顔になる。


 だが、構わず雅は続けた。


「本当に嫌いなら、ミカエルさんをここに泊めたりしないかなって」


 屋敷が広いとはいえ、これだけの人数だ。ミカエルがヴェーリエに一言の断りも無しにここに連れて来たとは思えない。


 ミカエルが嫌いなら断ればよかったのに、泊まることを許したということだ。


 さらに、雅がこう思ったのは、まだ理由がある。


「偶然聞こえちゃったんですけど、昨日の夕食、ヴェーリエさんが作ってくれたんですよね? 私達がここにいる間は、ずっと食事を作るつもりだとも仰っていました。メイドさんに心配されながらも、ご飯、作ろうとしてくれたんですよね?」

「……盗み聞きしていたのですか?」


 初めて、ヴェーリエが動揺した様子を見せた。


 となりでは、ファムも目を丸くしている。


「ごめんなさい。そんなつもりは無くて、たまたまです。勿論、ミカエルさんにバラすつもりは無いですよ」


 本当にミカエルが嫌いなら、こんなことはしない。


「それに、それ――」


 雅は、ヴェーリエが肩からぶら下げている鞄を指差した。


 正確には、指差しているのは鞄から見えている本だ。


 背表紙の一部を見れば、それは……。


「タイトルを見た限り、コートマル鉱石についての本ですよね。私達が探しているもの……。ヴェーリエさんも探してくれていたんでしょう?」


 ヴェーリエとメイドとの会話を盗み聞きした時、メイドは「昨日も随分夜更かししていた」と言っていた。ヴェーリエは恐らく、昨日からミカエルの為に、コートマル鉱石について色々調べてくれていたのだろう。


 そして、その本を鞄に入れ、出かけようとしていた。


 きっと、ミカエルにこの本を届けにいこうとしたのだと思った。


「諸々考えると、思うことはあるけど、多少なりともミカエルさんに対する愛情はあるのかなって。間違っていたらごめんなさい」

「…………」


 ヴェーリエは雅を一瞬睨み、だがすぐに目を逸らす。


 それが、肯定しているように雅には思えた。


「私、さっきヴェーリエさんがミカエルさんやノルンちゃんに投げかけた言葉は、本心じゃないって思っています。今までの関係性が祟って、つい思ってもいないことを口走って、後に引けなくなってしまった、そんな気がするんです。だから知りたい。二人にあんなことを言っちゃった理由を……ヴェーリエさんとミカエルさんの間に、何があったのかを」


 最後に、雅は「お願いします」と頭を下げる。


 ヴェーリエはそんな雅を何度もチラチラと視線を向けていたが……やがて、誤魔化しきれないと思ったのだろう。


 大きく溜息を吐くと、観念したように口を開いた。


「……あのノルンという子の持っているアーツ、『無限の明日』は、本来ならミカエルの妹に渡されるはずだったのです」

「ミカエル先生の妹?」

「ええ。カベルナという子です。アストラム家の中では、ミカエルが唯一親しくしている子ですね」


 そして、ヴェーリエの説明が始まる。


 アストラム家にはいくつかアーツがあり、それらは家宝だ。


 ミカエルの持つ『限界無き夢』や、ノルンの持つ『無限の明日』もアストラム家の家宝である。


 そしては個人の持ち物では無く、家の所有物であり、二つの決まりが存在する。


 一つは、家宝のアーツは基本的には屋敷の宝物庫で保管され、誰かが持つにしても、何年かしたら返還しなければならないこと。


 限界無き夢は以前はヴェーリエが所持しており、八年前にアストラム家に戻り、その後ミカエルに渡されたらしい。


 もう一つは、アストラム家のアーツは、原則としてアストラムの血筋の者にしか渡さないことだ。


 アストラム家のアーツは、誰にでも扱えるものでは無い。魔法の才が必要となる。限界無き夢や無限の明日も、例外ではない。


 故に、代々魔法の才能に恵まれたアストラム家の人間が使ってこそ、アーツの力を最大にまで引き出せると考えられてきた。


 だが、それを破る者がいた。


 そう、ミカエルだ。彼女は、弟子であるノルンの才能を高く評価していた。そして、アストラム家の血筋で無いにも関わらず、家の家宝である無限の明日を、彼女に渡したのである。家の者には無断で。


 そしてこの際、無断で持ち出したことにより、一つ大きな問題が発生してしまった。


 実は無限の明日は、ミカエルの妹のカベルナに渡すことが決まっていたのだ。


 ヴェーリエを含む、アストラム家の一部の人間の間で密かに決まっていたことだったため、ミカエルはこれを知らなかった。


 ヴェーリエ達が気づいた時には、時既に遅し。無限の明日が突然宝物庫から消えて大騒ぎになり、その後ミカエルからの手紙で事後報告がなされ、真相が明らかになったというわけだ。


「あー……」


 話を聞かされたファムは、苦い顔をする。


 ヴェーリエが怒ったのも、無理は無いと思ってしまったのだ。


 だが、


「ミカエル先生も悪かったけど……ノルンは別に、何もしてないじゃん」


 ノルンはミカエルからアーツを受け取っただけ。アストラム家のそんな事情等、彼女には知る由も無い。


 話を聞く限り、ヴェーリエがノルンにキツい態度をとるのは、単なる嫌がらせや腹いせだ。


 ヴェーリエ自身も、その自覚はあるから、ファムの言葉にすぐに反論出来なかった。


 それでも、ここで何も言わないのは大人として恥ずかしく、ヴェーリエは大きく息を吐くと、目を伏せて口を開く。


「あの子には、悪いことをしていると思っています。ただ、彼女が無限の明日を持っていることを考えると、どうしても気持ちがざわついてしまって……」


 頭では分かっていても、割り切れない。それがヴェーリエの正直な気持ちなのだ。


 そしてファムも、ヴェーリエのそんな気持ちは分かった。自分にも、覚えがあったから。


 だから、文句は言っても、責めきれない。


 ファムは髪をワシャワシャと掻くと、ヴェーリエから目を背けた。


「ヴェーリエさん。教えてくれて、ありがとうございます」


 雅はそう言って、頭を下げる。


「……聞いた上で、私も保証します。ノルンちゃん、大丈夫ですよ。今はまだ受け入れにくいかもしれませんけど……彼女、良い子だから。いつかきっと、ヴェーリエさんとも上手くやっていけるようになると思います」

「…………」

「ちょっとずつで良いから、ヴェーリエさんも、ノルンちゃんと仲良くしてあげて下さい。それと……ミカエルさんとも」

「……ミカエルとも?」

「だって、家族じゃないですか。このまま、ずっと仲が悪いままだなんて悲し過ぎるから……」


 ミカエルに対して、僅かでもヴェーリエがまだ愛情を持っているなら、きっと関係の修復は可能だ。


 雅の要望に、ヴェーリエは渋い顔をする。中々、ハードルの高いことだった。


 それでも、否定の言葉を発さないだけで、雅は充分だと思う。元より、すぐにどうこう改善する関係ではない。


 無論、ミカエルにも悪い所はあったので、ミカエルがヴェーリエにその件を謝罪する必要はあるだろう。


 それとなく伝えて、そういう流れにどう持っていくか……雅が頭を悩ませ始めた、その時だ。


 バタバタと慌しい足音が近づいてくる。


 メイドだ。昨日、ヴェーリエと図書室で会話をしていた人だった。


 焦った中にも怯えの感情が見えるその顔で、この場の誰もが只ならぬことが起きたと直感する。


 メイドは三人を見るや否や、




「大変です! 近くにレイパーが出現したと連絡がありました!」




 そう告げるのだった。

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