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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第14章 フォルトギア
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第121話『悶着』

「師匠!」


 ケンタウロス種レイパーが逃げてから十分後。ノルン達も合流する。


 現場にはバスターが何人もおり、死体の回収や検死、事情聴取の真っ最中だ。


「ノルン! 良かった、無事だったのね?」

「ごめんなさい、レイパー……逃がしちゃいました」

「……いいのよ。あなたが無事ならそれで。ミヤビちゃんとキララちゃんも、ありがとう」

「構いませんわ。それより、ちょっと伝えたいことが……。先程戦ったレイパーですけど、どうやら魔法を無力化する力があるようですの」

「……何ですって?」

「――ちょっと失礼」


 そんな会話をしていると、ノルン達にもバスターが話しかけてくる。


 オートマトン種レイパーのこともバスターの耳には入っており、彼女達に事情聴取するつもりで来たのだ。


 結局、レイパーの一件で時間を取られ、この日はコートマル鉱石の調査はちっとも進まなかったのであった。



 ***



 午後四時五十分。


 雅達はアストラム家に戻ってきた。


 玄関の扉を開けた瞬間、ミカエルの眉が寄る。


 そこには、ヴェーリエがいた。


 丁度出掛けるつもりだったのか、肩にバッグを掛けている。隙間から、本の背表紙が見えた。


 ヴェーリエは相変わらずの冷たい視線で、雅達も思わず緊張してしまう。


 一瞬、辺りが沈黙に支配されたが、それを破ったのはヴェーリエだった。


「先程バスターの方から、街にレイパーが出現したと聞きました。あなた方が戦ったのだとか」

「……ええ、そうよ。正直、もうクタクタなの。早く部屋に戻りたいんだけど」


 ヴェーリエの視線に心で負けないようにするためなのか、ミカエルの声色はやや攻撃的だ。聞いている雅達の肝が冷えそうだった。


「逃がしたそうね」

「…………」


 どことなく責めるような口調のヴァーリエだが、言っていることは事実だ。


 ミカエルは思わず文句を言おうと口を開いたものの、そのまま押し黙る。


 ヴェーリエの目がミカエルから離れ、ノルンへと向けられた。


 ビクリと震える、ノルンの体。そんな彼女に、ヴェーリエは鼻を鳴らし、口を開くと、


「アーツを持っていてもレイパーを倒せないのなら、持っている意味なんて無いんじゃないかしら」


 なんてことを言われ、ノルンが凍りつき、スーッとミカエルの顔から表情が消える。


「……くせに」

「はい?」




「戦えないくせに、偉そうなこと言わないで!」




 この場の誰もが初めて聞いた、ミカエルの怒鳴り声が屋敷に響く。


 母親のヴェーリエですら、僅かではあるが動揺したような顔をした。


「ノルンだって私だって、必死に体を張っているの! 外から見ていることしか出来ないあなたに、とやかく言われたくは無いわ!」


 全員が呆気にとられている内に、ミカエルは捲し立てる。


 だが、それが却ってヴェーリエに火をつけてしまったのだろう。


 すぐにキッと娘を睨みつけ、


「何が『体を張っている』ですか! こんな小さな子達を戦わせて、あなたはそれでも教師だというのですかっ?」


 負けじと怒鳴り返す。


「あの、私は望んで戦いに参加を――」

「あなたは黙っていなさい!」

「ひっ?」

「ノルンに当たらないで! あなたが何が気に入らないかなんて分かっているのよ! 小さな子達を戦わせていることが気に入らないんじゃない! 家宝であるアーツをノルンに渡したことが気に入らないんでしょ!」


 その発言に、ノルンはギョッとした目でミカエルを見つめる。


 そして同じくその発言に、ヴェーリエもプツンと来たのか奥歯がギリっと音を鳴らした。


 それでも言い返さないヴェーリエ。ミカエルは構わず言葉を続ける。


「ノルンにアーツを渡したのは私よ! あの子が持つにふさわしいって思ったから渡したの! それが気に入らないんだったら、私だけを責めればいいじゃない! ノルンに当たらないでよ!」

「……よくもまぁ、あなたこそ偉そうに……」


 ついに、ヴェーリエも静かに口を開く。


「宝物庫からコソ泥のように盗み出した癖に……。あれはアストラム家のアーツよ! あなたの一存で誰かに渡すのは勿論、どこぞの馬の骨かも分からない者に渡すなんて以ての他! 本来なら取り上げられても文句は言えない立場でしょう! そうしないだけありがたいと思いなさい! それ以上のことを望むなど……恥知らずにも程がある!」


 最後の方は、耳が痛く成程の金切り声だった。


 すると、ミカエルの持つ杖型アーツ『限界無き夢』の先端に付いた赤い宝石が、今の彼女の荒れた心を表すかのように激しく発光を始める。


 この場の誰もが、ついにヴェーリエが超えてはいけない一線を超えたのだと悟った。


「何が『家宝』よ! 誰も使いこなせない家宝に何の意味があるっていうのっ? 使いこなせるノルンが持っている方が余程価値があるわ!」


 ミカエルはヴェーリエへとアーツを向け、顔を歪ませてそう叫ぶ。


 ヴェーリエはやや顔を強張らせてはいるものの、後ずさることすらない胆力は褒めるべきか。


 だがこのままミカエルが魔法をぶっ放せば、ヴェーリエはただでは済まないのは明白だ。


 いくら頭に来たとは言え、流石にやり過ぎだろう。


「だ、駄目です師匠!」

「止めないでノルン!」


 ノルンが青い顔をしながら、伸ばしたミカエルの腕を掴んで首を横に振る。


 それでも、もうミカエルも自分の行為を止められない。


 ますます輝きを強めた宝石の光に、誰もがヤバいと思ったその時だ。




「ちょっと歯を食いしばって下さいましっ!」




 希羅々が突如、ミカエルの後頭部を思いっきり殴りつけた。


「……くっ!」


 衝撃でミカエルが前につんのめると同時に、アーツの輝きが消える。


 全員が目を丸くして希羅々を見る中、最初に声を上げたのは優だ。


「ちょ、あんたねぇ!」

「黙らっしゃい庶民!」


 暴力に訴える以外に、もうちょっと他にやり方は無かったのかと言いたそうな優を、希羅々は睨みつけて黙らせる。


 ミカエルは殴られたところを手で押さえて希羅々とノルン、それにヴェーリエを見ると、涙目で踵を返して屋敷を出て行ってしまった。


「し、師匠!」


 ノルンがすぐに彼女の後を追う。


 扉が大きな音を立てて閉じられ、ヴェーリエは肩で大きく息を吐きながらもその戸を睨んでいた。


 一瞬の間。時間にして僅か数秒。


 しかし、彼女達の体感では十分以上にも思える程の沈黙が流れる。


「ど、どうしましょうっ?」


 ライナも今にも泣きそうな顔で、助けを求めるように雅を見た。


 すると、


「……皆さんは、ミカエルさんを追ってください」

「みーちゃんは?」

「私は――」


 雅は、据わった眼でヴェーリエの方へと歩いていくファムの背中に目を向ける。


 何かやらかしそうな雰囲気を、ひしひしと雅は感じていた。


 こっちもこっちで、一人にするのは危険だ。


 顔が強張りそうになるが、雅は表に出さないよう、グッと堪える。


「ちょっと、あっちを上手く収めまてみます」

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