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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第14章 フォルトギア
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第117話『解明』

 七月十九日木曜日。午後三時三十六分。


 新潟県新潟市西区にある、新潟県警察本部。


 その二階、応接室にて。


「ここに人がこんなに入るなんて、何時以来かしら?」


 相模原優香――優の母親だ――が「あらあら」と少しばかり朗らかな様子でそう言った。


 その隣では、相模原優一――優の父親だ――と、桔梗院光輝――希羅々の父親だ――が立っている。


 優一は目元を指でグリグリと揉んでおり、どうやら疲れている様子。


 それもそのはず。


 優一達以外に部屋にいるのは、雅、優、愛理、志愛、希羅々、真衣華に、レーゼ、セリスティア、ファム、ミカエル、シャロン、ライナ、ノルンの合計十三人。


 優や愛理達問題無いとしても、雅やレーゼ、その他異世界出身の者は、染髪が自由な現代日本でも中々お目にかかれない程、この部屋には様々な髪色の女性がいた。


 優香や優一、光輝から色々話があると連絡があり、新潟を紹介がてら警察までやってきたのである。


 なお、レーゼを除く異世界組のセリスティア達の動きは忙しない。日本に来てから、見る物全部が珍しく、情報の処理が追いついていないのだろう。


 因みに光輝だが、久世に捕われていたとはいえ、縄で縛られたこと以外に特に何をされたわけでも無い。病院で検査も受けたが、異常は無し。今はもう、日常の生活に戻っている。


「メンバーも揃ったことだ。早速始めよう」


 優一が音頭を取ると、全員が軽く自己紹介した後、光輝が「では、私から」と前に進み出る。


「さて、先日の弊社の久世浩一郎が引き起こした事件について、まずは謝罪をさせて欲しい。大変申し訳無かった」


 そう言って、光輝は頭を下げる。


 久世が何やら不審な動きをしていることについて、彼は全く関知していなかった。久世が人間を人工レイパーにする薬を作っていたことも、それを投与した人間を用いて鏡を奪わせに行かせたことも、事件が起きてから知ったことだ。


 普段の久世は口数が多い方では無かったものの、勤務態度は真面目であり、能力も優秀で、部下からの信頼も厚い人物だった。そんな彼が、このような凶行に及んだと知り、一番驚いているのは光輝だ。


 光輝は、足元に置かれたアタッシュケースを持ち上げる。


 それは、レーゼが久世から奪い返したものだ。事件終了後、レーゼが警察に渡し、それを優香や光輝が調べたのである。


「皆のアーツを奪ったのは、この装置。これはアーツを強制的に格納状態にし、アーツを収納する指輪ごと、このアタッシュケースの中に引き寄せる物となっている」


 光輝の言う『格納状態』というのは、アーツが指輪にしまわれている状態のことである。その逆は『展開状態』と言って、この状態にすることで武器として使用することが可能だ。


「『StylishArts』の製品に限らず、全国のアーツには共通で『格納状態』にするための部品が使われている。久世のこの装置は、その部品に反応するような仕組みになっていた」

「あぁ、そうか。だから――」


 雅が納得がいった、というようにレーゼの腰にぶら下がる剣型アーツ『希望に描く虹』へと目を向ける。


 レーゼの……異世界のアーツは、雅達の世界のアーツのように指輪に収納するギミックが無い。だから、久世の装置にも反応しなかったのだ。


「今、対策部品を全てのアーツに組み込む作業が行われている。これで、再び久世にアーツを奪われる心配は無い」


 ちなみに、雅達のアーツにも既にその対策が施されている。部品の取り付けは僅か数分で完了した。急なイレギュラーだったにも関わらず、驚くべき対応スピードである。


「さて、私からは以上だ。では、次に相模原警部……」

「ああ。人工レイパーの件について、報告させてもらおう」


 そう言うと、優一は全員の目の前に一斉にウィンドウを出現させる。


 おぉっ、というセリスティア達の声。レーゼも内心共感した。慣れない内は、ウィンドウが突然出るのは結構ビックリするのだ。


 ウィンドウには、数人の男性の顔。全て、雅達が撃破した人工レイパーに変身した男達だった。


 優一は、男達の名前や年齢等の情報を簡潔に説明してから、本題に入る。


「私からの報告は二つ。一つ目が、彼らがもう人工レイパーに変身出来ないということ。彼らは久世の作った薬でレイパーになる力を得たことは知っているな? 事情聴取の結果、大きなダメージを受けて変身が解除されると薬の効果が失われてしまうらしい。どうやらあらかじめ、久世から説明があったそうだ」


 彼らは全員、久世の『レイパーを滅ぼす』という思想に賛同し、望んで薬を注入したと言う。


「二つ目。この中で、雅君と橘君が倒した人工レイパーに変身するこの男……」


 以前、阿賀野で倒したキリギリス顔の人工レイパー……今更分類するならば『人工種キリギリス科』か。このレイパーに変身する男の顔に、赤い丸がつく。


 なお、この男の名前は『菊澤健吾』と言う。


「彼を殺害したのは、この男だった」


 今度は、人工種黒猫科レイパーに変身した男の顔に、青い丸がつく。彼の名前は『柴崎蘭世』だ。


「久世の命令で、殺害を実行したと言っていた。正体がバレた菊澤からさらに情報が漏れる前に、彼を口封じするよう言われたらしい。さて、その菊澤だが……ここからは優香、説明を頼む」

「バトンタッチね。この菊澤なんだけど、あの日、突然雅ちゃん達の前に現れたじゃない? その理由が分かったわ」


 雅が鏡を盗んだ『人工キリギリス種レイパー』を探しに阿賀野へいったあの日。優香の言う通り、探し始めてすぐに目的の人工レイパーが現れた。


 それだけでは無い。その後も、雅達の行動を先読みするかの如く、次から次へと情報が入ってきて、レーゼは何度も怪しんでいたのだ。


「雅ちゃんも優も、久世に電子名刺を貰ったわよね? あれに、ウイルスが仕込まれていたわ。あなた達の言動を、久世は常に聞いていたの」


 雅と優の体が、ブルリと震える。


 実はここに来た時、二人だけ真っ先にULフォンを調べさせて欲しいと言われ、一体どうしたのかと不思議に思っていたのだ。この打ち合わせが始まる前に二人のULフォンは返却されたが、理由は後で説明すると言われていたのである。


 すると、レーゼの眉がピクリと動く。


 名刺を貰ったのは、雅と優だけではない。


「……まさか、あれにも?」


 彼女はULフォンを持っていなかったから、紙媒体の名刺を渡されたのだ。それもここに来た時、優香に渡したのだ。


「ええ。小型の盗聴器が仕込まれていたわ。抜け目の無い人ね……」

「ただの紙切れに……呆れた」


 この国の技術に、レーゼは心底度肝を抜かされる。


 頭痛がして、レーゼは深く息を吐きながらこめかみを揉んだ。


「ウイルスも盗聴器も間違いなく除去したから、もう久世に色々聞かれることは無いはずよ。でもごめんなさい。もっと早く気が付けば良かった……」


 久世が黒幕だったと知り、そこで優香はようやく久世の名刺に何か仕込まれているという可能性に辿り着いたのだ。


 優香、一生の不覚である。


「幸いだったのは、仕掛けられていたのは盗聴器だけで発信機までは仕込まれていなかったことよ。見つかるリスクを考慮したのか、はたまた技術的に出来なかっただけなのか、理由は不明だけどね」

「そっか。もし発信機で私達の居場所を知られていたら、寝ている隙に襲われていた可能性もあったんだ……」


 優が優香の言葉に、溜息を吐いてからそう呟く。


「でも、これでスッキリした。こっちの話を盗み聞きしていたから、人工レイパーを餌にこっちの動きをコントロールしていたのね。道理でタイミング良く情報が手に入ると思ったわ」

「……でも、まずいですよレーゼさん。私達、ミカエルさんの研究室で色々話をしちゃいました。今後の動きも、きっと知られています」

「あっちでは、大まかな指針しか決めていなかったわよね。でも、セリスティア達のアーツやスキルのことが知られたのはまずいか……」


 先日の会話を思い出しながら、レーゼは唸る。


 すると、ミカエルが控えめに手を挙げた。


「どうせ、遅かれ早かれ敵にバレるような内容よ。それに、言葉だけじゃ分からないこともあるし、深刻に考え過ぎない方が良いんじゃないかしら?」

「……成程。アストラムやアプリカッツァの魔法について、詳しいことは何も話しておらんかった。炎や風の魔法を使うことしか分からんのでは、大きな痛手にはならんかもしれんの」

「弱点とかは話してませんし、致命的なものにはならないかもしれません」


 ミカエルの言葉に、シャロンとライナが続く。


 警戒に越した事は無いが、度が過ぎて自分達の行動が鈍れば敵の思う壺だろう。


 今は、そう納得するしか無かった。



 ***



「さて、次はこちら……君達が戦った、魔王のような姿のレイパーについてだ」


 久世の件が終わり、ウィンドウには世界地図が映る。世界が融合した後に作られた、最新の世界地図だ。


 地図の隅には、天空島の写真が小さく載っていた。


「雅君達が『天空島』と呼ぶ、この巨大な浮遊島に乗り込んだレイパーだが、ここ三日で随分色んなところへと向かっている」


 優一の説明と共に、地図に天空島を示すマーカーが出現し、地図の上を動き出す。


「アメリカのアリゾナ州にあるセドナ。イギリスの遺跡、ストーンヘッジ。その後は異世界のエスティカ大陸の各国を回り、イタリアで半日ほど滞在した後はインドにあるタージ・マハル、オーストラリアのエアーズロック、異世界のヴェスティカ大陸と移動。日本の静岡、岩手に寄ってから中国の上海に行き、その後はナランタリア大陸のナリアという国に向かって夜を過ごし、今はペルーにいるそうだ」

「各国から提供して頂いた情報によれば、立ち寄った先でレイパーは女性を殺害し、その土地にある物を回収して去って行ったそうよ。他にも、アパタイトやオパール等のパワーストーンとかも集めているみたい」

「……セドナやストーンヘッジ、他にも立ち寄った先にはパワースポットがある場所ですね」

「ナリアではガルティカ遺跡に寄ったみたい。他に向かったところも、遺跡や神殿があるわね……」


 地図を見ながら、雅とミカエルが難しい顔をする。


 魔王種レイパーが立ち寄った場所にある様々な物――建造物の一部や鉱石などだ――を持ち帰っているということから、どうにも適当に移動しているわけでは無いようだ。


「パワースポット……そこにある物を持ち去っているのなら、ドラゴナ島でやっていたことと似たようなことをしているのでは無いかの?」

「天空島のエネルギー補充ですか? でも前は、天空島を着陸させただけで、そこにある物を持ち帰ったりとかはしていませんでしたよね? ……あ、そう言えば、あの黒い光……」


 シャロンの言葉に、雅はハッとなる。


 二つの世界にあった鏡……久世はその鏡に閉じ込められていた二つの光球を解放した。


 魔王種レイパーは、その内一つを手中に収めていたのだ。


「久世さんは鏡から光球を解放した理由を、『原初の力を手に入れる』って言っていました。その意味するところは分からないけど、もしかするとあのレイパーも同じことを考えているのかも」

「そのためニ、エネルギーが必要だということカ?」


 志愛の質問に、雅は頷く。


「……なら、敵の動きもある程度予測出来ませんの?」


 希羅々がそう聞く。すると、


「エネルギーがたっぷり詰まった物を欲しがっているなら……一つ、心当たりがあるわ」


 ミカエルが随分渋い顔をして、そう答えた。


「『コートマル鉱石』と呼ばれる、魔力を大量に含んだ鉱石があるの。魔法使いが手の平サイズのコートマル鉱石を持っているだけで、魔法の効果が何倍にも膨れ上がるわ。私やノルンの使うアーツには宝石が付いているけど、それにもこのコートマル鉱石が含まれているのよ」

「……成程。そんな物なら、敵が欲しがりそうですわね」

「それ、どこにあるんですか?」



「エスティカ大陸にある国……魔法王国オートザギア。私の故郷よ」


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