第116話『合流』
リビングデッド種レイパーの群れを全滅させた雅達。
ホッと安堵の息を吐いた後、ミカエルとシャロンが雅と愛理の元へとやって来る。
「ミヤビちゃん! 本当に無事で良かったわ!」
「心配をお掛けしました! 本当にすみません!」
「何、気にするでない。お主らのせいと言う訳では無いしのぅ」
そう言うと、シャロンの体が発光し、みるみる内に縮んでいく。
光が収まると、そこには山吹色のポンパドールという髪型をした、見た目は十歳かそれ以下くらいの、紫色の眼の子供が立っていた。
シャロンの仮初の姿――要は人間態である。
竜が突然幼女になったことに、愛理の目が白黒し、その様子にシャロンがクスリと笑みを零した。
「自己紹介が遅くなった。儂はシャロン・ガルディアル。よろしくのぅ」
「私はミカエル・アストラムよ。さっきは助けてくれてありがとう。――それにしても、面白い形状のアーツを使うのね」
「そうか、こちらの世界には刀が無いのですね。――申し遅れました。私は篠田愛理。束音がお世話になったようで……」
「あの、皆さん」
三人が互いに軽く自己紹介している間、ULフォンに志愛からの連絡が入っていたことに気が付き、内容を確認していた雅が深刻そうな顔で割り込んでくる。
「別の場所で暴れていたレイパーの中に、魔法陣から出現した奴がいたそうです。もしかすると、近くにあの魔王みたいなレイパーがいるかもしれません」
「なんじゃと?」
「今、皆がこっちに向かっているそうです。少し待ちましょう。それにしても――」
雅は合体したリビングデッド種レイパーが倒れたところを振り向き、首を傾げる。
「今戦ったレイパー、最初はそんなに強くなかったけど、合体したら凄くパワーアップしました。私達のアーツみたい……」
「あぁ、確かにな。それは私も思った。だが、それがどうした? 戦力が変わらないのならわざわざ合体する必要は無いと思うのだが……」
「今日、船の上で戦ったレイパーは滅茶苦茶強くて、体は鮫とウミヘビの二種類の生物が組み合わさったような見た目でした。あいつも今のレイパーみたいに、複数のレイパーが合体して生まれたんですかね?」
そう雅は言うのだが、件のレイパーと直接戦ったわけでは無い愛理は答えようが無い。
そもそも雅がここに来る前に一戦交えていた事実すら初耳のミカエルとシャロンは尚更だ。
レーゼ達が来るまで、雅は難しい顔で一人でうんうん唸っているのだった。
***
数分後。
「ミヤビさん!」
「あ、ライナさん――っ!」
最初に着いたのはライナと優。
ライナは走ってくるやいなや、目にうっすらと安堵の涙を浮かべ、雅へと勢いよく抱きついた。
「良かった……無事で、本当に良かった……!」
「……心配かけちゃいました。ごめんなさい」
ポンポンと優しく背中を叩きながら、雅はライナと温もりを共有する。
すると、
「うぉーい、誰か忘れてない?」
呆れたような、しかし少し底冷えするような声が耳に入ってくる。
「あ、さがみん。大丈夫、忘れていませんよ」
「ならさっさと労え。ていうか、志愛からのメッセージ見たでしょ。気を抜くな」
言いながら、優は雅の足を蹴る。
中々に良い蹴りだったが、雅は痛みを顔に出すことも無く「あはは、そうですね」何て言うものだから、それが何となく面白くなくて優は鼻を鳴らしてそっぽを向く。
そんな彼女を、少し顔を引き攣らせた愛理が「まぁまぁ落ち着け」と宥めるのであった。
「あ、そう言えばさがみん。志愛ちゃんは? 確か、追いかけていきましたよね?」
「うっさい。……志愛とは、はぐれちゃったのよ。そしたらそのライナって娘と会ったってわけ」
「彼女と一緒にレイパーと戦ったんですよ。蔦みたいな奴でした。逃がしちゃったんですけど……」
ライナが優の後にそう続けて、雅は目を丸くする。
分身を大量に創り出せるライナと、狙撃が得意な優。この二人が連携したのに敵を逃がしたという事実が、俄かには信じられなかったのだ。
だがそこで、優が半眼を雅とライナへと向ける。
「つーか、あんたらいつまで抱き合ってんのよ。気を抜くなって言ったでしょ」
「あ、ごめんなさい。やっと会えたから……」
「あーん、ライナさーん! 離れちゃ嫌ですぅ!」
「みーちゃん?」
「すみません!」
ギラリと光る優の目に、流石に危機感を覚えた雅。
名残惜しそうにライナと離れた、その時だ。
「うぉーい! ミヤビー!」
「あ、ミヤビいた!」
「ミヤビさーん!」
遠くから三人の懐かしい声が雅の耳に届く。
セリスティアとファム、ノルンの三人がやって来た。レーゼと希羅々、真衣華に志愛も一緒だ。
「良かった……! 元気そうだな!」
真っ先に来たセリスティアが、笑顔で雅の背中を叩く。
「心配したぞー!」
「無事で良かったです!」
ファムとノルンが、雅とレーゼの二人に向けてそう言った。
「ご心配をお掛けしました!」
「私はこの通り、元気よ」
雅がペコリとお辞儀をし、レーゼが軽く笑顔を向ける。
「マーガロイス、久しいの!」
「シャロンさん、ご無沙汰しております」
「ミヤビちゃんの世界はどうだった?」
ミカエルにそう聞かれ、レーゼは雅や優達の顔を一通り見回して、
「……悪くなかったわ」
満足そうに、そう答えた。
何はともあれ、これで全員揃ったのであった。
***
「そうですか……レーゼさん達が戦ったレイパーも、合体して強くなったんですね」
「ええ。あんな風に一つになるレイパーは、初めて見たわ」
軽く自己紹介も済ませ、話題はレイパーとの戦闘に移る。
レーゼが戦った二体のリビングアーマー種レイパー。
二体でいる時も充分強かったが、合体した後はその比では無かった。希羅々の『グラシューク・エクラ』という強力な技があったから何とかなったものの、もし希羅々がいなければ、鉄壁の鎧を破壊出来ずに敗北していたのは想像に難くない。
「志愛ちゃん達のところは、どうでした?」
「強かっタ。この二人がいなけれバ、倒せなかっただろウ」
志愛の言葉に、少し得意そうな顔になるファムとノルン。
そして志愛は「船の上で戦った奴ト、遜色無い強さだっタ」と続ける。
聞けば志愛達が戦ったレイパーは、基本的にはハヤブサのような外観を持ちつつ、嘴だけはサギのように長かったということだ。
「……私達が戦ったゾンビみたいなレイパーも、合体したら強くなったわ。船の上で戦ったっていうレイパーや、ノルン達が戦ったレイパーも、実は別々のレイパーが合体して生まれたものなのかもしれないわね」
「やっぱり、合体したら強くなるのは間違いなさそうですね……。もしかすると、さがみんやライナさんが戦ったレイパーも、分からなかっただけで二種類以上のレイパーが合体した奴だったのかも」
ミカエルの考察に雅は頷く。
するとシャロンが、
「……倒したレイパーのことも良いが、そろそろ頭を切り替えるべきじゃろう。あの魔王のようなレイパー、何故姿を見せんのじゃ? パトリオーラ達の話では、魔法陣が出現したのじゃろう?」
この騒ぎの中、魔王種レイパーが身を潜めていることに違和感を覚えていたシャロン。
彼女の質問に、ファムやノルン、志愛が揃って頷く。
「俺達が戦ったレイパーも、恐らくは奴が召喚したんじゃねぇかって思うんだが……まさか、レイパーだけ召喚してトンズラしたってことはねぇだろう――ん?」
セリスティアがそう言いながら空を仰ぎ、何かに気がついて眉を寄せる。
「……なぁ、天空島。動いてねぇか?」
「……天空島って、あの空中にプカプカ浮いている島みたいなやつだよね? あー、確かに動いている感じするね」
と、真衣華が若干暢気にそう言った瞬間。
思わず耳を塞ぎたくなるほど甲高い笑い声が響き渡る。
「な、何っ?」
「この声……奴だ!」
天空島から聞こえてくる笑い声。
それは、間違いなく魔王種レイパーのもの。
この場の誰もが直感する。
この一連の騒動は、ただの陽動だったのだ、と。
全ては、魔王種レイパーが再び天空島を乗っ取る為の作戦だったのだ。
刹那、鋭い殺気と共に、天空島から雅達に向かって黒い衝撃波が飛んでくる。
「皆の者! 儂の後ろに!」
シャロンが再び竜に変身。
「ノルン! 手伝って!」
「はい! 師匠!」
「私もやる!」
ミカエルとノルンが杖を振り上げ、ファムが翼を広げる。
「さがみん! 一緒に!」
「分かっているって、みーちゃん!」
「優ちゃん! これ!」
雅がライフルモードにした百花繚乱を構える。
真衣華が『鏡映し』で雅の百花繚乱をコピーし、優が構える弓型アーツ『霞』に百花繚乱を番えた。
そして飛んでくる衝撃波へと同時に攻撃を放つ。
シャロンの雷のブレスとファムのシェル・リヴァーティスから飛ばされた羽根、優と真衣華が矢型エネルギー弾の代わりに放った百花繚乱、雅が放った桃色のエネルギー弾が空中で衝撃波と激突するも、打ち破ること叶わず。
ミカエルとノルンが作り上げた炎と風で出来たドーム状のバリアに衝撃波が直撃。
バリアは一瞬持ち堪えたが、衝撃波の威力の前にあっさり破壊され、雅達へと襲いかかった。
そして――
「ぐぅ……!」
「シャロンさんっ?」
「す、すまぬ……! ぐぁぁぁあっ!」
シャロンが皆に覆いかぶさり、竜の鱗で衝撃波を防ごうとするも、衝撃波はシャロンごと全員を吹っ飛ばした。
轟く雅達の悲鳴。
「ち、ちくしょう……!」
「ぐ……なんて奴だ……!」
あらゆる防御を施しても、全員を軽々吹き飛ばしてしまう程の威力に、セリスティアと愛理が悔しそうにそう呟く。
辺りの地面は、衝撃波により抉れており、そのことからも凄まじい一撃だったことが良く分かる。
よろよろと立ち上がる雅達。
だがそんな彼女達の目の前で、天空島は空の彼方へと消えてしまうのであった。
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