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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第2章 セントラベルグ
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第12話『悪魔』

「ゴムソヌヘア」


 インプ種レイパーの口が開き、そんな音が発せられた瞬間、向けられた手の平から直径三十センチ程の黒い球体が放たれ、雅に襲いかかる。


 決して遅いわけでは無いが、避けられないスピードでは無い。


 正確に体の中心を狙ってきて進んでくるその攻撃を、雅は体を横に逸らして躱す。


 標的を失った球体は、そのまま落下する。途端、球体が触れたところの地面が爆ぜた。


 女性を殺した攻撃がこれだと、雅もセリスティアも理解する。


「ゴムソヌヘア、ゴムソヌヘア、ゴムソヌヘア――」


 呪文のように繰り返される度、レイパーの手の平から黒い球体が次々と放たれていく。


 雅は自身のアーツ、百花繚乱をライフルモードにして、自身に襲い掛かる球体に向けてエネルギー弾を放つ。エネルギー弾と球体が衝突すると、球体が弾け、爆風が起こる。


 セリスティアは前のめりになって駆け出し、球体の間を縫うようにして躱し、レイパーとの距離を詰めていく。


 セリスティアがどうしても避けられない球体は、雅がエネルギー弾で破壊した。


 そうしていると、必然的に『レイパーに近づこうとするセリスティア』と『それを援護する雅』という構図になっていく。


 二人は無数に襲いかかってくる球体に、額に汗を浮かべながらも対処していき、ついにセリスティアのアーツ『アングリウス』の爪が届くところまで近づいた。


 声を張り上げて腕を振るうセリスティア。そのままレイパーの胸を貫ける……はずだったのだが。


「ナオリア」

「――何っ!」

「セリスティアさんっ?」


 セリスティアの攻撃が届く前に、レイパーの手の平からセリスティアに向かって黒い紐のような物が放たれ、彼女の腕と体を縛って宙に浮かせる。


 慌てて雅は百花繚乱をブレードモードにしつつ、レイパーの方へと突撃していくが、時既に遅し。


 レイパーが腕を振ると、その動きに合わせて紐が動き、セリスティアの体はレイパーを中心に円を描くように振り回される。


「――っ!」


 そしてレイパーはセリスティアを、向かってくる雅に向かって放り投げた。


 雅はそれを避けることが出来ず、二人は衝突してしまう。その衝撃で、雅の手からアーツが吹っ飛んだ。


 勢いよく地面を転がる二人。


「こぉんのてめぇ……!」

「ゴムソヌヘア」


 先に立ち上がったのはセリスティア。吐き捨てるように怒声を上げ、再びレイパーに近づこうとしたら、目の前には黒い球体。


 ――ヤバい。


 危険を悟ったものの、対処する余裕は彼女には無い。頭が真っ白になる、そんな時だ。


 急に横から誰かが飛びかかり、セリスティアを押し倒す。雅だった。


 球体は、雅の背中のすぐ側を通過していく。


「ゴムソヌヘア」


 倒れた二人に再び黒い球体が放たれるが、押し倒されたセリスティアは雅を思いっきり突き飛ばし、さらに自分も地面を横に転がって攻撃を躱した。


「ゴムソヌヘア、ゴムソヌヘア、ゴムソヌヘア……」


 レイパーはセリスティア一人に狙いを絞り、黒い球体を無数に飛ばす。


 だがセリスティアは最初の数発は同じように地面を転がって躱し、攻撃の隙を見て立ち上がり、残りの攻撃の合間を縫うように動き、少しずつレイパーに近づいていく。


「はぁぁぁあっ!」


 すると雅がレイパーの横から飛びかかり、球体の発射口となっている腕を掴んで上に逸らす。


 絶え間なく飛んできていた球体が、一時だけ止んだ。


「今です!」

「――っ、あぶねぇぞっ!」

「うぐっ?」


 しかしそんな雅の首に、レイパーの鉤のついた尻尾が巻きついた。


 締め上げる力は強く。息をすることすらままならない。両手で尻尾を掴んで引き離そうとするが、全くびくともしなかった。


 焦って助けようと地面を蹴って勢いよくレイパーに近づくセリスティアだが、そんな彼女に、レイパーは雅の妨害からフリーになった右手の平を向ける。


「ゴムソヌヘア」


 放たれた球体を避ける術をセリスティアは持っていない。咄嗟に腕をクロスさせ、腕に着いたアーツを盾にし、歯を食いしばって球体を受ける。


 球体が接触した途端、強い衝撃がセリスティアに襲いかかる。


 放物線を描くように飛んでいく彼女の体。爆風により大きく吹っ飛ばされ、背中から地面にモロに叩き付けられる。


 そしてレイパーは未だ抵抗している雅の首に巻きついた尻尾を解くと、彼女の腹部を蹴り飛ばす。


 仰向けに倒れた雅はゲホゲホと咳き込むが、そんな彼女にレイパーは近づき、雅の胸を思いっきり踏みつける。


 苦しむ雅の様子を楽しむように、何度も、何度も、何度も……レイパーは足を上げては下ろす動きを繰り返し、その度にくぐもった声が雅の口から漏れる。


 最後に一際強く雅を踏みつけた後、レイパーは雅の体の横を強く蹴り飛ばし、大きく吹っ飛ばした。雅は声を上げることも無く、うつ伏せに地面に叩き付けられる。


 雅もセリスティアも、倒れたままピクリとも動かない。


 そんな二人を満足気に眺めるインプ種レイパー。


「ノロレカトレト」


 そう呟くと、ふと、何かを思い出したようにレイパーは辺りを見回す。


 セラフィの姿が無い。いつの間にか、どこかに逃げていた。


 二人に視線を戻すレイパー。


「モエタデンコゾ。ヌベソマアフ」


 嘲るように甲高い笑い声を上げると、姿を消した。



 その後、通報で駆けつけた他のバスターに助け出されるまで、二人が起き上がることは無かった。



 ***



 昼十二時を少し過ぎた頃。


 ここはセントラベルグの中心にある、バスター署。元の世界で言うところの警察署のような施設である。


 レイパーとの戦いで負った怪我の治療をしてもらい、状況の報告を終えた雅は、セリスティアと話をしようと署の出入り口で待っていた。


 すると、


「ちょっとセリスティア、一人で戦う気っ? 今は私達と協力して――」

「うるせぇ! 行動が一々遅いあんたらとなんかやってられるかよ! あいつは俺がぶっ殺す!」


 扉越しに、そんな怒鳴り声が聞こえてくる。荒々しく扉が開き、セリスティアが肩を怒らせて出てきた。セリスティアも雅同様怪我の治療をしてもらっており、体のあちこちに包帯が巻かれている。


 その後を追うように金髪の女性が出てきたが、セリスティアが振り向き一睨みすると、ビクンと体を震わせ、渋々と言った様子で踵を返した。


 そんなセリスティアは、雅の姿を見ると、眉を吊り上げ近づいてくる。


「十六人」

「え?」

「てめぇがあの女逃がすから、それだけの女性が殺された。どう落とし前つけんだゴラ」


 その台詞に、雅の顔が青ざめる。


 それでも、大きく息を吸うと、腹を決めてセリスティアに聞く。


「……セラフィちゃんがレイパーを呼んで、あの場にいた女性を殺させた。そう言いたいんですか?」

「言ったろうが! あの女がレイパーと会話しているっつー話をよ!」


 怒鳴るセリスティアにたじろぎそうになる雅。


 それでも彼女は、首を横に振る。


「あの子はアーツを持っていて、スキルを与えられていました」

「……何?」

「レイパーと協力している人に、アーツはスキルを与えたりしないはずです! セリスティアさんだってアーツを持っているなら分かるでしょう! きっと、何か事情があるんです!」


 それが、雅がセラフィを信じる理由だ。


 雅とセリスティアは、互いに睨み合う。


 僅か数秒。だが二人の間には誰も入れない緊張感が確かにあった。


 やがてセリスティアが舌打ちしたことで、その空気も終わりを迎える。


「……確かに、あんたの言うことにも一理あるか」

「分かってくれましたかっ?」

「一応、な。そのセラフィって女を一方的に悪者と決め付けるのは止めてやる」


 雅は、安堵したようにホゥっと息を吐く。それだけでも充分だった。


 だが、とセリスティアは続けた。


「あの女はひっ捕らえるぞ。どういう理由があるにせよ、あいつがレイパーとコミュニケーションをとっている目撃証言がある。重要参考人だろ」

「分かっています。私も一緒にセラフィちゃんを探しますよ」


 敢えてセリスティアには言わないが、セラフィの様子が変だったのは雅も気になっていた。


 話を聞かないわけにはいかない。だって雅の中ではもう、セラフィは友達なのだから。どんな結末になろうとも、知らん顔をするつもりは無かった。


「よし、行くぞ」


 セリスティアの言葉に頷くと、二人は歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雅ちゃんにとっては、もうセラフィちゃんはお友達なんですね! レイパーと会話しているといっても、何か事情があるのだろうし、もしセラフィちゃんが問題を抱えているなら力になってあげたいですよね!…
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