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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第13章 日本海~シェスタリア
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第114話『鎧人』

 シェスタリアの東。バスター署の近くにて。


 そこには、二体のレイパーと戦う、セリスティアの姿があった。


 両腕に嵌めた小手は肥大化し、先端からは銀色の爪が片側三本ずつの計六本伸びている。セリスティアの持つ爪型アーツ『アングリウス』だ。


 辺りには、血を流して倒れる女性が十人以上見受けられる。一般人やバスターの死体だ。


 死体の損傷は激しく、いずれも頭をかち割られていたり、胴体を切断されていたりと酷い状態である。


 ファム達と同様に、爆音を聞いて駆けつけたセリスティア。到着した頃には、この有様だった。


 本来ならバスター署の近くでレイパーが出現すれば、もっとたくさんのバスターがやってくるのだが、爆音の騒ぎで丁度署にいるバスターが出払っており、数が少なくなっていたのだ。


 セリスティアと戦っているレイパーは、どちらも身長二メートル程の鎧に覆われた騎士。


 一体は王冠付きのグレートヘルムに、縦長の肩当、角ばったアーマーに足の外側を守るような長い草摺が特徴的な、銀色の鎧騎士。


 もう一体は、ユニコーンのように長くて鋭い角の付いたヘルムに、同じような角の付いた肩当、丸みを帯びたアーマーが特徴的な、金色の鎧騎士。


 そのどちらのレイパーも、重々しい見た目の西洋剣と、ひし形の盾を持っている。


 ヘルムの丁度目の部分にあるスリットの奥は、空洞。中に生き物の気配は無い。鎧が動き、人を襲っている。リビングアーマーという奴だ。


 分類は二体とも『リビングアーマー種レイパー』といったところだろう。


 レイパーを相手に、セリスティアは顔を歪めながらも必死に戦っている様子。


 本来なら二体のレイパーを同時に相手をするのは無茶なことだ。助けを呼び、最低でも二人以上でレイパーに対処すべきである。だが、殺された女性を見たセリスティアはどうにも我慢がならず、一人で戦い始めてしまったのだ。


 金色のレイパーがセリスティアの左側から剣を振り下ろし、少し遅れて銀色のレイパーがセリスティアの右側から真横に斬りつけてくる。時間差攻撃だ。


「この野郎っ……!」


 悪態を吐きながらも、金色のレイパーの攻撃を体を捻ってギリギリで躱し、銀色のレイパーの攻撃はアングリウスの爪で受け止める。


 だが、受け止めた一撃は彼女の想像以上に重かった。思いっきり踏ん張らなければ、そのまま吹っ飛ばされてしまいそうな程である。


 そして、金色のレイパーが再び剣を頭上に持ってきて、そのまま振り下ろす。


 銀色のレイパーの攻撃を現在進行形で受け止めているセリスティアは、その攻撃を防ぐには反対側の腕のアングリウスで受け止めるしかない。


 しかし爪でその攻撃を受け止めた瞬間、その重い一撃にセリスティアは攻撃を受け止めたまま膝をついてしまう。


 鍔迫り合いのように膠着するレイパーとセリスティアの武器。だが二体のレイパーのパワーを、それぞれ片腕だけで抑えるには無理があった。


 ついにレイパーの腕力に負け、セリスティアの体が飛んで行く。


 近くの建物の壁に背中を強く打ちつけ、くぐもったような声を上げて地面に崩れ落ちてしまう。


「こ、の……! 負けて……堪るかよ……!」


 それでも四股に力を込め、立ち上がると同時にセリスティアは猛スピードで銀色のレイパーへと突っ込んでいく。


 自身のスキル『跳躍強化』を発動させ、脚力が大幅に上がった足で地面を蹴り、水平に飛ぶようにすることで、まるで高速移動しているかのような速度で敵との距離を詰めることが出来るのだ。


 そのままアングリウスの爪を相手に向けてタックルすることで、岩をも簡単に砕く程の威力が出せる、セリスティア最大の一撃である。


 が、


「――っ? ちぃ!」


 銀色のレイパーはひし形の盾を前に出し、セリスティアの攻撃を受け止めてしまった。盾は恐ろしく頑丈で、今の一撃を受けても傷一つ付いていない。


 そのまま剣で反撃されるが、セリスティアは咄嗟にスキルを使って高く跳躍して攻撃を躱す。


 着地先は、金色のレイパーの背後。


 セリスティアの姿を見失い、キョロキョロと辺りを見回しているその背中は、がら空きだ。


 絶好のチャンス。セリスティアは先程と同じように突進して爪を鎧に叩きつける。


 しかし、


「にゃ……にゃろう……」


 爪は僅か程も鎧を抉ることなく、ただ厚い金属に阻まれてしまった。


 思わず絶望の声が口から漏れる。


 やっと彼女の居場所に気が付いたレイパーが振り向き、セリスティアは急いでバックステップで敵と距離をとった。


 セリスティアの顔は険しい。


 自分の攻撃が通らず、レイパーの攻撃は重い。このまま普通に戦っていては、先に力尽きるのはセリスティアの方だ。


 このレイパーと戦ったバスターも、この頑丈な鎧と重い剣撃の前に為すすべなく散っていったのだと身を持って知った。


 ゆっくりと近づいてくる二体のレイパーに、セリスティアは一歩、また一歩と後退してしまう。


 一体どうすれば……そう思った、その時だ。



「はぁっ!」



 鋭い声と共に、ゆるふわ茶髪ロングの女の子が金色のレイパーへと飛び掛り、その手に握ったレイピアで兜と鎧の隙間を突く。


 希羅々だ。


 手に持つはレイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』である。


 見るからに硬そうな鎧に対し、関節部分に必然的に出来上がる隙間を狙い、攻撃を放ったのだ。


「誰だっ?」


 突然の登場に驚いた声を上げるセリスティア。


 だが、まだ終わりではなかった。


「やぁっ!」

「はっ!」

「レーゼっ?」


 希羅々に続き、真衣華とレーゼが金色のレイパーに飛び掛り、斧と西洋剣で胴体へと強烈な攻撃を叩きつけたのである。


 真衣華が『腕力強化』で腕の力を上げ、二挺の片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』を手にレーゼと一緒に攻撃したことで、流石のレイパーもよろめいてしまう。


 追撃しようとした三人だが、銀色のレイパーが横から剣で薙ぎ払うように横に一閃してきて、それを避けるために希羅々達は飛び退く。


「セリスティア! 遅くなったわね!」

「レーゼ! どうしてここにっ? この二人は一体……?」

「爆音が聞こえたから来たのよ! こっちの二人は仲間! 詳しい説明は後よ!」

「お、おう!」


 何がなにやら分からないものの、浮かんだ疑問は全部呑み込み、レイパーとの戦いへと頭を切り替えるセリスティア。


 四人はアーツを構え、二体のリビングアーマー種レイパーに相対する。


 睨み合う両陣営。先に動いたのは、レイパーの方。


 二体のレイパーが腕を上げると、全く同じタイミングで、金色のレイパーがレーゼに、銀色のレイパーがセリスティアに向かって剣を振り下ろす。


 セリスティアはアーツで攻撃を受け止めるが、その一撃の重さに膝をついてしまわないようにするので精一杯だ。


 だがセリスティアが敵の攻撃を止めている隙に、真衣華が銀色のレイパーへと接近し、二挺のフォートラクス・ヴァーミリアを同時にレイパーの体に叩きつけ、よろめかせる。


 そして圧し掛かる剣を弾き飛ばし、セリスティアがレイパーにタックルをかまして敵の体を仰向けに倒す。


「その細腕で……。やるなぁ嬢ちゃん!」

「スキルで腕力上げてるからね!」


 真衣華の体はなよっとしており、実は見た目からはとても頼りにならなさそうだと思っていたセリスティア。


 しかし想像以上の実力を見せてくれて、考えを改める。


「しゃぁっ! いくぞ!」

「うん!」


 倒れた銀色のレイパーへと、二人は追撃を仕掛けにいった。


 その傍らで、レーゼと希羅々は金色のレイパーと戦闘中だ。


 セリスティアのように攻撃を受け止めることはせず、相手の動きをよく見て斬撃を躱していく。


 無理に攻撃はしない。重く、硬い鎧の前には、二人のパワーは貧弱過ぎるからだ。


 鎧の無い関節部分を狙おうにも、中は空洞。希羅々は最初の不意打ちの手応えから、それに気が付いていた。


 だが、手が無いわけではない。


 相手に見えないよう、レーゼがハンドサインを送り、希羅々は小さく頷いた。


 レイパーの踏み込む、そのタイミング。


 そこで、二人は一気に攻撃に転じる。


 敵の片足が地面に着くより先に、二人のアーツの切っ先が敵の胸部を捉える。


 タックルするように突き、体重を乗せた一撃だ。あっという間にレイパーはバランスを崩し、後方に大きくよろめいてしまう。


「あら、思ったより効きませんわね……」

「諦めずにいくわよキララ。隙を作れれば、あなたのスキルで倒せるわ」


 二人には勝算がある。希羅々のスキル『グラシューク・エクラ』だ。


 巨大なレイピアを呼び出すこのスキルなら、いかにレイパーの鎧が硬かろうと貫ける自信があった。


 問題なのは、敵が二体おり、そのどちらも防御力が高いこと。


 希羅々のスキルは一時間に一回しか使えないので、一体に使ってしまえば、もう一体はスキル無しで戦わなければならない。


 上手くタイミングを見て、纏めて貫くのがベストだ。


 決定的な隙を作るため、二人はアーツを構えなおし、気を引き締める。


 すると、


「何っ?」

「ちょ、わっ?」


 セリスティアと真衣華の慌てたような声が聞こえてきて、レーゼと希羅々もつられてそっちに目を向け――眉を寄せた。


 セリスティア達が戦っていたはずのレイパーの鎧が分解されて宙を舞い、それらが全て、今レーゼ達が戦っている金色のレイパーへと飛んできていた。


 そして、金色のレイパーもまた、銀色のレイパーと同じように分解する。


 呆気にとられる四人の目の前で、二体のバラバラになったレイパーが合体。


 長い角の付いた金色のヘルムに王冠付きグレートヘルムが被さり、縦長の銀色の肩当にトゲの付いた金色の肩当がくっつく。銀色の角ばったアーマーは縦に割れ、まるでパーカーのように金色のアーマーに取り付いた。


 他の細かい部品も次々に鎧に装着されていき、最後にひし形の盾が背中に嵌りこむ。


 出来上がったのは一体のレイパー。


 両手には、金と銀の西洋剣を持っている。


「何なのっ? 何なのぉっ?」

「こんなの、見たことが無いわ……!」


 合体したリビングアーマー種レイパーは、重苦しい音を鳴り響かせて、四人へとゆっくりと近づいていく。


 そして二本の剣を掲げたと思ったら、見た目からは想像も出来ない速度で振り回し始めた。


「っ! 皆、離れろ! 当たるとヤベェぞ!」

「分かっていますわ!」


 今までとは明らかに威力が違うと分かり、四人は慌ててレイパーから距離をとる。


 剣は空を斬り、その際発生する風切音は、思わず身が竦んでしまうかのようだ。


 しかし、このまま防戦一方というわけにはいかない。


「……私が奴の攻撃を引き受ける! その間に――」

「無茶ですわよマーガロイスさん!」

「スキルを使えば――」

「体が持ちませんわ!」


 レーゼの体は、一度ラージ級魔獣種レイパーの強烈な一撃を受け、さらに船の上で一戦交えたばかりだ。平気な顔を装っていても、体は悲鳴を上げているのは希羅々にも分かっていた。


 ここであのリビングアーマー種レイパーの斬撃を受ければ、最悪レーゼの体はバラバラになってしまうだろう。


「じゃあ、どうすれば……!」


 レイパーが繰り出す斬撃の嵐を躱しながら、歯噛みするレーゼ。


「何とか隙を作りますわ! 後ろに回り込めれば……!」

「なら、任せとけ!」


 セリスティアがそう叫ぶと、スキルを使って一瞬で希羅々のすぐ側まで近づいてくる。


「なっ?」

「口閉じろ! 舌噛むぞ!」


 セリスティアは希羅々をお姫様抱っこすると、再び『跳躍強化』のスキルを使い、今度は上空へと跳ぶ。


「なななななっ?」

「どこで降ろしゃあいい?」

「きょ、距離があれば充分ですわ! ここでやりますわよ!」

「あん? ――って、おわっ?」


 セリスティアに抱えられたまま、希羅々はシュヴァリカ・フルーレをレイパーの方へと突き出す。


 そしてスキルを発動。


 すると、上空から巨大なレイピアが出現し、レイパーの背中を勢いよく貫いた。


 バキリと重い音を立て、風穴が開き、そこから全身にヒビが入っていた。


「はぁぁぁあっ!」

「えぇぇぇいっ!」


 巨大レイピアの出現と共に、レイパーへと近づいていたレーゼと真衣華。


 虹の軌跡を描くレーゼの斬撃と、『腕力強化』により威力の増した真衣華の斬撃。


 二人の攻撃が、ヒビの入ったレイパーの体に直撃する。


 いかに鎧が頑丈でも、この状態では耐えられない。


 大きな音を立てて砕ける、レイパーの体。


 幾ばくの間も無く、鎧の破片が一つ残らず爆発するのであった。



 ***



「いやー、助かった! サンキュー!」


 ようやくレイパーを倒せたことにホッと胸を撫で下ろすセリスティア。


 一呼吸置いてから、安堵の目をレーゼに向ける。


「しっかしレーゼ! 無事で良かったぜ! ところで、そっちの二人は?」

「キララとマイカ。仲間よ。ミヤビも来ているのだけど、別の方へ向かったわ」

「そうか。……俺はセリスティア・ファルト。よろしくな」

「桔梗院希羅々と申します。以後、お見知りおきを」

「橘真衣華です。――あの」


 ペコリとお辞儀する希羅々と真衣華。すると、真衣華が少し慌てたように続ける。


「さっき、志愛ちゃん……あ、私達の仲間なんですけど、その娘から連絡があって……」


 言いながら、真衣華は人差し指をスライドさせ、空中にウィンドウを出現させた。


 突然のことに「なんじゃこりゃあ?」と目を丸くするセリスティア。


 他の二人も、送られてきたメッセージを見て目を見開いた。


「魔法陣が出現ですって? じゃああいつが……!」

「魔法陣だぁ? ってことは、あの魔王みたいなレイパーがいるってことじゃねえか!」

「急いで皆さんと合流致しましょう!」


 希羅々の言葉に、三人も頷くのであった。

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