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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第13章 日本海~シェスタリア
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第112話『隼鷺』

「な、何っ?」


 突然発生した爆音に、真衣華が困惑の声を上げる。しかも、一発だけではない。


 シェスタリアのあちこちから煙が上がっていた。煙の数は四本だ。


「ト、とりあえず行ってみよウ! 私はあっちに行ってみル!」

「ちょ、ちょっと待って志愛!」


 志愛が突然街の方へと走り出し、その後に優が続く。


 レーゼが「待ちなさい!」と制止するも、その声は耳には届いていない。


「ただ事では無いようですわね……! (わたくし)達も行きますわよ!」

「あなたまで……。全く、仕方ないわね! 手分けしましょう! ミヤビとアイリはあっちに! キララとマイカは私に着いてきなさい!」

「ええ、分かり――ってマーガロイスさん? 今私の名前を?」

「愛理ちゃん、今はちょっとスルーで! 行きましょう!」

「う、うむ」


 突然の名前呼びに思わずレーゼを二度見した愛理だが、今はそんな状況では無い。


 二人は一緒に、シェスタリアの西へと走り出す。


「私達も――って、あなた達も変な顔をしない!」


 名前呼びに驚いていたのは愛理だけでは無かった。希羅々と真衣華もだ。特に希羅々は癖で反射的に「希羅々ちゃん言うな! ですわ!」と言いそうになり、開いた口を所在なさ気にモゴモゴとさせている。


 因みにレーゼもレーゼで、自然と彼女達の名前を呼び捨てで呼べたことに、少しばかり顔を赤らめているのだが。


「コホン――。船の中でも話したけど、私達はさっきやたら強いレイパーに襲われたわ。世界が融合して、奴らもさらに強力になったのかもしれない。この騒ぎがレイパーの仕業と決まったわけじゃないけど、警戒するに越したことはないから、気を引き締めて行くわよ!」


 レーゼの言葉に頷く希羅々と真衣華。


 そして三人は東へと走り出したのだった。



 ***



 シェスタリアの中央広場付近。


 辺りには、六人の女性が倒れている。地面にアーツが転がっていることから、バスターである。いずれも頚動脈を切られ、ドクドクと血が流れており、即死していることは明らかだ。


 そんな死体を空から見下ろす、一匹の鳥の姿をした、全身が濃い灰色のレイパー。


 大きな眼に、先細りした翼。足にはたくましい爪が生えている。その姿はまるでハヤブサだ。


 故に分類は『ハヤブサ種レイパー』といったところなのだろうが、一点、嘴だけはサギのように長い。


 広場付近の建物のいくつかは破壊されており、中には火事になっているところもあった。


 それも、このレイパーが女性を襲った際に起きたものである。


 突如現れたレイパーに、そこにいた人が急いで避難する中、レイパーは空中で次の獲物を探していた。


 そして逃げる途中で転んだ、三十代くらいの女性へと視線をロックオンし――翼をすぼめ、流れ落ちるように一気に急降下を始める。


 狙われた女性は、顔を青褪めさせ、悲鳴を上げた。


 もう駄目だ――と目を閉じた瞬間。


「ハァ!」


 鋭い声が横から飛んできた。


 志愛だ。棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』を手に、女性に襲い掛かるレイパーを横から攻撃し、吹っ飛ばしたのである。


「早く逃げて下さイ!」

「ご、ごめんなさい……!」


 異世界の女性は、一部の人を除き、アーツを持っていない。


 それを雅達から聞いて知っているから、志愛は急いで女性に逃げるように言う。


 因みに、ここに来たのは志愛だけだ。優が後から追ってきていたはずだが、途中ではぐれてしまった。


 レイパーの目が、先程狙っていた女性から志愛へと変わる。


 再び空に飛びあがり、高いところから志愛を睨んだ。


 体には虎の刻印が浮かんでいるが、すぐに消えてしまう。


 志愛は大きく深呼吸すると、跳烙印・躍櫛を右脇に抱え、腰を少し落とした。


 互いに敵からは目を離さず、空中で視線がぶつかり合う。


 緊迫した状況……先に動いたのは、レイパーだ。


 先程女性を襲った時と同じように翼をすぼめ、志愛目掛けて一気に急降下していく。


 志愛は棍を構えなおし、少し後方に飛び退いてから、薙ぎ払うようにして力一杯に振る。


 まるで、飛んでくるボールをバットで弾くような形だ。


 激突するレイパーと、跳烙印・躍櫛。


 だが、


「――ッ?」


 バキリと鈍い音を立てて、跳烙印・躍櫛は折れてしまう。


 そして、鉤爪が志愛の体を捉えた。


「グッ……! しまっタ!」


 レイパーは志愛の体を掴むと、飛び上がる。


 そのまま空中で志愛を離し、地面に落として殺すつもりだろう。


 もがく志愛だが、その度に体に鉤爪が食い込み、痛みに顔を顰める。


 ヤバい――志愛がそう思った、その時だ。


 地上から緑色の風の球体が飛んできて、レイパーの顔面に直撃する。


 不意打ちに驚いたレイパーは、思わず志愛を離してしまった。


「うワッ?」


 自らの死を悟り、志愛はギュっと目を瞑る。


 すると、



「うぉっと危ない!」



 突然誰かが、落ちる志愛の体を抱きかかえた。


 恐る恐る志愛が目を開ければ、最初に見えたのは白い翼。


 直後、志愛の顔を覗きこむ、薄紫色のウェーブ掛かったセミロングの少女の顔が飛び込んできた。


「大丈夫? 全くノルンも無茶するよなぁ……」


 志愛を助けたのは、ファム・パトリオーラだ。


「ト、飛んでいル……?」

「ん? あぁこれ? これはアーツ。かっこいいっしょ?」


 翼型アーツ『シェル・リヴァーティス』に目を奪われた志愛に、ファムがニヤリと笑みを浮かべた。


 志愛が地上に目を向ければ、そこには白衣のような見た目のローブを身に付けた、跳ねた前髪が特徴的な緑色のロングヘアーの少女……ノルン・アプリカッツァの姿があった。


 ノルンの手には黒木で出来た、全長二メートル程の節くれだった木製のスタッフが握られており、先端には大きな赤い宝石がついている。杖型アーツ『無限の明日』だ。


 そこから放たれた風魔法で、レイパーから志愛を解放し、志愛が地面に激突する前にファムが助け出したのである。


「……それにしても、黒髪? 珍しいね。ってか、その指輪……あんた、もしかして――」

「ッ! おイ、前! 前!」

「んー? って、おわっ?」


 ファムが、志愛の髪や、着けている指輪に気を取られている間に、レイパーは彼女達へと襲いかかってきていた。


 ファムが慌てて上昇すると、そのすぐ下をレイパーが通過する。


 すると、レイパーの腹部に鎌居達が直撃する。ノルンの魔法による攻撃だ。


 痛みに頭に血が昇ったのだろう。レイパーは甲高い声を上げると、狙いをノルンへと定め、急降下する。


 しかし、今度はレイパーの背中に、十数枚の羽根が突き刺さる。ファムが攻撃を仕掛けたのだ。


 シェル・リヴァーティスの攻撃機能。羽根を硬化・鋭利化させて飛ばすことで敵にダメージを与えることが出来る。三十枚飛ばすと、十五秒間は使えなくなるのだが。


 そして、レイパーが僅かに怯んだ隙に、ノルンが風の球体を放って、レイパーを上空へ吹っ飛ばす。


 レイパーは羽を広げて少し距離を取ると、ゆっくりと三人の顔を順番に見る。


 どうやら、頭は完全に冷えた様子。


 威嚇するように声を上げた瞬間、ファムへと猛スピードで突進していく。


 ファムが右方向に飛んで回避を試みるが、その後ろをレイパーがついてくる。


 空中を縦横無尽に飛び回るファムと、それを追うレイパー。


 しかし、


「オ、おイッ? 追いつかれるゾッ!」

「分かってるって! 分かってるけどっ!」


 スピードは、僅かだがレイパーの方が上。


 徐々に、距離は詰まっていく。このままでは、再びあの鉤爪に捕われるか、長い嘴に貫かれるのも時間の問題だ。


 ノルンが魔法をレイパーへと放つも、高速で飛び回るレイパーには当たらない。


「……ッ! あっちダ!」

「えっ? わ、分かった!」


 ファムに抱えられている志愛が指差した方向――半壊している建物の屋根だ――へと、ファムは向かう。


「もっと近づいテ……そウ! よシ、降ろしテ!」

「えっ? う、うん!」


 困惑顔のファムが、屋根へと志愛を放り投げる。


 着地するや否や、志愛は屋根にある小さな瓦礫を掴んだ。


 指輪が光り、握った瓦礫が棍型アーツ、跳烙印・躍櫛へと変わる。


 そして、すぐ近くまで来ていたレイパーの胴体へと、下から思いっきり突き上げるようにして攻撃を放つ。


 抉りこむように体に入る、棍の一撃。


 流石のレイパーも苦しそうな声を上げ、体勢を崩して地面へと落下した。


「よシ! 今ダ!」


 志愛が叫んだ瞬間、ファムがレイパーの体に羽根を撃ち込む。


 攻撃を受けながらも、レイパーはヨロヨロと体を起こし、怒り狂ったような声を上げる。


 だが、その瞬間。


 レイパーに、直径三メートル程の、切断性に富んだ巨大な緑風のリングが襲いかかった。


 ノルンの最大魔法だ。レイパーが大きな隙を見せる瞬間を、ずっと狙っていたのである。


 意識の外から迫っていた攻撃を、レイパーが避けられるはずも無い。


 リングはレイパーの体を容易に斬り裂き、爆発四散させるのであった。



 ***



「すまなイ! 助かっタ!」


 ハヤブサ種レイパーを倒した後、志愛がファムとノルンに近づきお礼を言う。


「いえ、大したことは何も……。それより、もしかしてミヤビさんのご友人の方ですか?」

「ッ? ミヤビを知っているのカッ? ってことは、もしかしテ――」

「わぉ、やっぱり? 凄い偶然だね。まさかミヤビより先に合流するとは……。私はファム・パトリオーラ。ちょっと前までミヤビと一緒に戦っていた仲間だよ」

「ノルン・アプリカッツァです」


 軽い感じで片手を上げるファムとは対照的に、礼儀ただしくペコリとお辞儀をするノルン。


「権志愛ダ。志愛って呼んで欲しイ。しかしよく私が雅の仲間だって分かったナ」

「指輪……ミヤビさんがしていたのと同じだったから。それに、黒髪って珍しいので」

「成程。ところデ、到着直後にレイパーが出現したんだガ、これは一体……」


 志愛の疑問に、ファムもノルンも首を傾げる。二人も、突然のことで驚いていたのだ。


「ノルンの言う通り、悪いことって重なるもんだね。復興中にレイパーだなんて……」

「許せないよね。……あ、二人とも! あっち!」

「ム? ……ッ! 大変ダ!」


 ノルンの指差すほうを見れば、倒壊した建物の中に、何人か閉じ込められているのが見えた。


 三人が急いで救出すること、十分後――。


「ありがとう……助かったよ」

「怪我は無い? 向こうに避難所があるから、送るよ」

「いや、歩けるから大丈夫」


 幸い、閉じ込められている人は全員無事だった。


 今ファムと話をしていた男性は、深く息を吐いて、力無く首を横に振る。


「全く……突然大きな魔法陣が現れたと思ったら、レイパーが現れるだなんて……」

「……何だって? 魔法陣?」

「え? どうしたんだい?」


 男性が、急に血相を変えたファムに目を丸くする。


 だが無理も無い。


 魔法陣からレイパーを呼び出せる奴など、ファムの知る限り一体しかいなかった。


「まずいよノルン! あいつだ……!」

「ッ! まさカ、魔王みたいなレイパーのことカ?」

「シアさん、知っているんですかっ?」

「あア、私も戦ったからナ。だがこうしちゃいられなイ。すぐに皆に知らせないト!」


 そう言うと、志愛は慌てて指を空中でスライドさせる。


 突然現れたウィンドウに驚くファム達を余所に、志愛は雅達へとメッセージを送るのだった。

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