第12章閑話
七月十五日日曜日、午前一時十七分。
日本、新潟県聖籠市、『StylishArts』にて。
元々は二十階建てのビルがあったのだが、今は倒壊し、辺りには瓦礫が散らばっている。
地面には大きな穴やクレーター等があり、見ただけで激しい戦闘があったと分かる。
そこに、七人の少女が倒れていた。
束音雅、相模原優、篠田愛理、権志愛、橘真衣華、桔梗院希羅々、そしてレーゼ・マーガロイスだ。
これまでピクリともしなかった彼女達の体だが、レーゼの指が僅かに動いたのを皮切りに、一人、また一人と起き上がる。
「う……ここは……?」
「『StylishArts』……ですね。前みたいに、別の場所に転移させられたわけではなさそうです」
「なら、良かったわ……。でも、何だったのかしら、あの光は……」
先程までラージ級魔獣種レイパーと戦い、追い詰めた雅達。
しかし結局逃げられてしまい、追おうとしたところで空が七色に変色していることに気がつき、直後、白い光に包まれて今に至る。
既に空は元の暗さを取り戻しており、さっきの光景が嘘のように消えていた。
「……一旦、帰って休もう。状況も整理したいしな」
愛理が、肩を回して顔を顰める。体のあちこちがボロボロで、とにかく眠りたかった。
「それにしてもあのレイパー、どこに消えたのでしょう?」
「希羅々―、あいつのことを考えるのはよしなって」
まだ戦う気なのかと言わんばかりの呆れ顔を浮かべる真衣華に、希羅々は「うっさいですわよ」と軽く頬を膨らませて小突く。
そんな二人を、優は「元気あるなぁ……」とさらに呆れたような顔で見つめていた。
「……おかしくなった空もそうだガ、あの二色の光の球も気になル。結局、あのレイパーに奪われてしまったしナ」
悔しそうに顔を歪める志愛。雅もレーゼも同感だ。突然地面から飛び出してきたことに驚き、動けなかったことが悔やまれる。
「あいつ、なんであの光の球なんて欲しがったのかしら?」
「分かりません。でも、今までずっと鏡に執着していたのは、あの光球に用があったからだったんでしょうね」
「ま、今は頭も回らないし、一度休んで敵の狙いについて推理しないと――っ?」
「……どうしました、レーゼさん?」
眉を顰め、ひどく驚いた表情になったレーゼ。
雅の問いにも答えず、硬直したまま。
たっぷり十秒かけて、レーゼは口を開いた。
「……着信よ」
「着信? あれ? レーゼさん、ULフォン持ってないですよね?」
「いえ、そっちじゃなくて……通話の『魔法』の着信」
今度は、雅が硬直する。
異世界にはULフォンは無い。代わりに、離れた人と連絡を取りたければ、通話魔法を用いる。
雅の世界に来てから、レーゼは何度か元の世界にいるセリスティア達に連絡をしようと試みていたのだが、全て失敗に終わっていた。故に雅の世界では、通話魔法は役に立たないと思っていたのだ。
勿論、雅達の世界の人は魔法なんて使えない。
レーゼに通話魔法で連絡を取れるのは、異世界の人だけだ。
「誰からですか?」
「……セリスティアよ。ちょっと待って」
そう言うと、レーゼは応答を開始する。
その刹那、
『うぉぉぉおい! やっと繋がった! レーゼ、無事か!』
「――っ! う、うるさいわよセリスティア!」
セリスティアの大声と、彼女と連絡がとれたという事実。この二つに、レーゼは飛び上がらんばかりに驚いた。
そしてそれは、雅も同じだ。
「ちょ、ちょちょちょちょ、レーゼさん! 私にも話を――!」
「待ちなさいミヤビ! 私が先よ!」
『お、おいおい! ミヤビもそこにいんのかっ? あぁちょっと待てってライナ! そんな興奮すんな! 他の連中も!』
どうやらセリスティアの近くには他にも誰かいるようだ。名前が出てきたライナは確定として、雅もレーゼも何となく、そこにいるのが誰かは想像がついた。
「ね、ねえ二人とも。一体誰と話をしているの……?」
突然騒ぎはじめた二人に、真衣華が恐る恐る尋ねてくる。
見れば、一人を除き、他の皆も怪訝そうな顔を向けている。
ただ優だけは、別の方を向いていた。レーゼがセリスティアと話しはじめたタイミングで、父親からの着信がULフォンにきたのだ。
「あぁごめんなさい! 実は、異世界の仲間から連絡が来て……」
雅が説明する間に、レーゼとセリスティアの会話は続く。
「セリスティア、一旦落ち着いて。私もミヤビも無事よ。実は私達、ミヤビの世界にいるの」
『やっぱりそうだったか……! 連絡がとれないから、おかしいと思ってたんだよ! 定期的に連絡がつかねぇか試してたら、今やっと繋がって……。でも、何で連絡が取れるようになったんだ?』
「分からないわ。こっちも試してみたけど駄目だったし……。でも実はさっき、空がおかしくなったの。七色に輝いて……それから白い光に包まれて、そしたらあなたから連絡がきたのよね。何か関係があるのかしら?」
『あぁん? 空が七色……って、こっちも同じことが起きたんだけどよ……』
「……何ですって?」
二つの世界で、同じ現象が起きた。
一体何が起こっているのか、レーゼが頭を悩ませる。
そして離れたところで、父親の優一と応答する優はというと。
『優! ニュースを見たかっ?』
「え、いや……さっきまで戦闘中だったから、見てないよ」
応答の直後、娘の無事に安堵の声をあげ、それを面倒臭そうにあしらっていた優。
ようやく本題に入ったと思ったら、第一声がこれだった。
とにかくニュースを見るんだ、と言って通話が切れ、一体何がどうしたのかと溜息を吐きながらも、優は言われた通りネットに接続し――ウィンドウを見て目を大きく見開いた。
「み、みーちゃん! 皆! 大変!」
「ど、どうしましたさがみんっ?」
堪える代わりに、ウィンドウの設定を変え、全員がそのウィンドウを見られるようにする。
優が開いていたニュースサイトの丈夫には、大きく『緊急速報』と書かれていた。
そしてそれを見て、全員が驚愕の声を上げる。
中でも、レーゼと雅の動揺は激しかった。
「レ、レーゼさん! これって……!」
「え、ええ! 間違いないわ!」
ウィンドウに映っていたのは、世界地図。
だがそれは、雅達が知っている世界地図とは少し違っていた。
佐渡とユーラシア大陸の間。
オーストラリア大陸の東。
大西洋のど真ん中。
そこに、新たな三つの大陸が出現していたのだ。
そして、その三つの大陸に、レーゼも雅も見覚えがあった。
特にレーゼにとっては、馴染み深い大陸だ。
新たに現れた大陸は、次の三つ。
一つは、ナランタリア大陸。
残り二つは、ヴェスティカ大陸とエスティカ大陸だ。
そう――
「こ、これ……私の世界よ!」
雅達の世界と、レーゼ達の世界。
この二つの世界が、融合していた。
ご愛読頂き、ありがとうございます。この物語のプロローグがやっと終わりました。ここまで如何でしたか?
第12章閑話。タイトルを付けるならば、『融合』。
次回、第13章投稿は3/27(日)となります。
後ほど活動報告書も上げますので、そちらも是非ご覧下さい。
――さぁ、雅達の本当の戦いが始まる。