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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第12章 北蒲原郡聖籠町『StylishArts』
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第108話『変遷』

 姿を変えた魔王種レイパー……否、今はラージ級魔獣種レイパーか。


 二十階建てのビルはレイパーの腕の一撃で粉砕され、瓦礫が地面に落下していく。


 全長二十メートルもの巨大なレイパーは、低く唸り声を上げながら、戦慄の表情を浮かべる雅達を見つめていた。


 ふと、遠くから何かが飛んでくる気配を感じ、そちらへと目を向ける。


 十機以上ものドローンだ。丁度、雅達がここに来る際に使ったドローンと同じ位の大きさである。


「あれは……警察! 大和撫子もいます!」

「向こうで他のレイパーと戦っていたはずだけど……撃退したのかしらっ?」

「っ! いやまて! 今こっちに来ては――」


 レイパーがドローンの大群に向けて口を開いたのを見て、愛理の顔が青くなるが、時既に遅し。


 レイパーが口から黒い衝撃波を放ってしまう。


 勢いよく迫る攻撃を、大きな機体が素早く回避行動をとれるはずもない。


 モロに衝撃波を喰らい、半数は空中で爆発し、もう半数も本体やプロペラを壊され、煙を上げて墜落し、やはり爆発してしまう。


 唖然とする雅達に、「次はお前達の番だ」とでも言わんばかりに魔獣種レイパーが視線を向けた。


「どどどどうするのっ? あんなのどうやって戦えば……!」

「距離を取ろウ! 近づいたら腕で殺されル!」

「離れても、あんな衝撃波喰らったら死ぬでしょ!」

「落ち着きなさい! 適度に離れて、隙を見つけましょう! 離れ過ぎなければ、衝撃波は躱せるわ!」


 パニックに陥りはじめた真衣華、志愛、優に、レーゼが鋭い声を飛ばして正気に戻させる。


 先程放った衝撃波は、遠くに飛べば飛ぶ程拡散していくのをレーゼは見ていた。つまり、レイパーに近いところにいるなら、衝撃波のモーションに注意すれば回避は不可能ではないだろう。


 そして、下半身が無いラージ級魔獣種レイパーは、その場から動くことは出来ない。


 落ち着いてチャンスを探すことが、今出来る最善の行動だと、レーゼはそう判断したのだ。


 言われた通り、レイパーの腕が届かない場所まで退避する雅達。


 すると、レイパーは四本の腕を広げる。


 そこに収束していく、黒いエネルギー。


 直径一メートル程の球体になったエネルギー弾を四つ、雅達に向けて同時に放つ。


「な、何あれっ?」

「あいつ……あんなことも出来たんですねっ?」


 以前天空島では使ってこなかった技。


 それに、今度はレーゼと雅が混乱してしまう。


「とにかく、相殺するわよ! みーちゃん!」

「は、はい!」


 焦ったような顔をしつつも、優が弓型アーツ『霞』の弦を引く。


 やや遅れて、雅がライフルモードになっている剣銃両用アーツ『百花繚乱』の銃口を飛んでくるエネルギー弾へと向けた。


 そして放たれる、白い矢型のエネルギー弾と、桃色のエネルギー弾。


 二人の攻撃は、四つの内一つのエネルギー弾へと同時に命中する。


 だが――


「っ? 相殺出来ないっ?」


 レイパーの放った黒いエネルギー弾は、優達の攻撃を打ち破り、そのまま彼女達の方へと勢いを落とすことなく向かってくる。


「さがみん! もう一度!」


 諦めずに二発目を放つ雅と優だが、結果は変わらず。


 さらにそれぞれの三発目をエネルギー弾へと直撃させたところで、ようやくレイパーの放った黒いエネルギー弾が消し飛んだ。


 しかし一つのエネルギー弾に三回も攻撃を当てなければならなかったため、当然他の三つのエネルギー弾を相殺する余裕は無い。


 レーゼ達は走り回り、何とか残りの攻撃を躱していく。


 狙いを外し、地面に着弾した三つのエネルギー弾が爆発し、土やコンクリートの塊が巻き上がり、大きなクレーターが出来上がった。


 こうしてレイパーの攻撃を避けた雅達だが、安心するのはまだ早い。


 七人が今の攻撃に対処している間に、レイパーの頭上には七個の黒いエネルギーが、直径二メートル程のリングを作っており、それを雅達へと飛ばす。


「こノ――ッ!」


 志愛が飛んできたそのリングを破壊しようと棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』を叩き付けた瞬間、いとも容易く棍が斬れてしまう。


 恐るべき切断性だ。慌ててその場を飛び退き、地面に伏せる志愛。その頭上をリングが通過し、奥の木へと命中する。


 幹の根元あたりからスッパリいった木が倒れ、枝が辺りに飛び散った。


 枝を拾い、それを跳烙印・躍櫛へと変えたところで、志愛の顔が強張る。


 リングを飛ばしてきたレイパーが、今度は黒いエネルギーを網のような形状にしてこちらに放っていたのが見えたのだ。


 網目は細かく、人が通れる隙間は無い。おまけに幅は六百メートル以上もあり、避けるのは不可能に思える。地面を抉りながら向かってくることから、人体が耐えられる威力ではないことも明らかだ。


 黒いリングを避けるのに必死な雅達は、それに気が付いていない。


「クッ……! 皆、気を付けロ! でかいのが来ているゾ!」


 志愛が警告したことで、次の攻撃に全員が気がついたらしい。


「みーちゃん!」

「分かってます!」


 雅と優がリングの攻撃から逃げながら、再びエネルギー弾を、襲ってくる網形状の攻撃へと放つ。


 網目を構成する、縦の棒状のエネルギーの一本に向け、無数の白と桃色のエネルギー弾を集中砲火しはじめるも効果は無い。


 背後からは切断性の高いリングが。前方からはエネルギーで作られた網が。そして遠くに逃げれば避けようの無い衝撃波が襲ってくるため、雅達に逃げ場は無い。


「あわわわわぁぁぁあっ! もう駄目ぇぇぇえっ!」


 リングが背中に迫り、涙目で叫ぶ真衣華は、思わず前方にダイブするように飛び伏せる。


 すると、その上を通過していったリングが、エネルギーで作られた網へと命中し……雅と優が何発も攻撃しても決して破壊出来なかった棒状のエネルギーを消滅させる。


 そして出来上がる隙間。人一人なら、何とか通過出来そうな余裕はある。


 それを見た雅達の目に、希望が宿った。


 上手くリングを引きつけ、躱すことで黒いリングを網へとぶつけて相殺させ、隙間を作ってそこへ体を滑りこませることで二つの攻撃を躱す。


 しかしその刹那、彼女達の足元の地面が膨れ上がり、咄嗟にその場を離れた直後、黒いエネルギーの柱が噴きあがった。


 レイパーが地面にエネルギー波を打ち込み、雅達の足元へと攻撃を飛ばしていたのだ。


 直撃は避けたものの、安心する間は与えない。


 レイパーは雅達の移動先にことごとくを攻撃を打ち込み、エネルギーの柱を噴出させる。


 二発、三発と避けていくが、直撃は躱せても、エネルギーの柱が出現する際の衝撃でついに彼女達は吹っ飛ばされてしまった。


「ぐ……なんて奴ですの……!」

「こ、このままでは埒が明かん! 皆やられるぞ!」


 アーツを握り締め、起き上がりながら、希羅々と愛理が言葉を吐いた。


 すると雅が、レイパーの胸の方へと指を差す。


 そこには、大きな斬り傷が、口を開いていた。


「異世界で前に戦った時……あそこを攻撃したら痛がりました! 今のあいつの唯一の弱点……そこを狙うしかありません!」

「ナ、ならば近づけということカ……! 出来るのカッ?」

「やるしかないわよ志愛!」


 そう言う優の顔も険しい。やるしかないと言いつつも、どうすれば良いか案があるわけでも無い。


 そんなことを言っていると、


「ちょ、見て! あいつまた何かし始めたよ!」

「あれは……武器?」


 レイパーが手の平に黒いエネルギーを収束させ、今度はそれを全長二十メートル程の巨大な剣へと変形させる。


 数は四本。四刀流だ。


 敵も遠距離攻撃だけで雅達を倒すのは時間がかかりそうだと判断したのだろう。戦い方を変えてきたのである。


「ま、前はラリアットみたいなことばっかりだったっていうのに……!」


 言っても仕方が無いと分かっていても、言わずにはいられなかったレーゼ。


 レイパーは四本の大剣を大きく振りかぶり、勢いよく振り下ろす。


 雅達は慌ててその場を離れると、狙いが外れた剣が地面を砕き、その破片が辺りに飛び散った。


 そして、再び剣を振りかぶるレイパー。


「ヤバいヤバいヤバいってぇぇぇえっ!」

「真衣華! 喋っていると舌を噛みますわよ!」


 上から襲ってくる剣だけでなく、飛び散った破片も雅達に当たればただでは済まない。


 全方位に気を配り、必死に攻撃を躱していく。


 だが、


「――っ!」


 斜め上から振り下ろされた一本の剣が、正確に雅へと向かっていく。


 雅はセリスティアのスキル『跳躍強化』を発動すると、真上に跳んでその一撃を躱す。


 すると、跳んだ雅へと、真横から別の剣が襲いかかった。


 空中にいる雅は自由に身動きが出来ず、このままでは直撃は必須。


「くっ……!」


 雅は急いで百花繚乱の柄を伸ばしてブレードモードにすると、今度は志愛のスキル『脚腕変換』を発動させた。


 志愛のスキルは足の裏で何かを強く蹴ると、それに比例して三秒間腕力が上がる、というもの。


 雅は『跳躍強化』により、ここまで跳ぶのにかなりの力で地面を蹴ったため、その効果も絶大なものになっていた。


「はぁぁぁあっ!」


 迫る剣を、かち上げるように下から百花繚乱の刃を叩き付け、絶叫にも近い声を上げながら雅はその軌道を逸らしていく。


 頭上を通り抜ける敵の攻撃に冷や汗を流す雅だが、突如「みーちゃん!」という声が聞こえ、刹那、下の方から白い矢型のエネルギー弾が飛んできた。


 慌てて百花繚乱を体の前に出して直撃を防ぐも、エネルギー弾がアーツに当たった衝撃で吹っ飛ばされる雅。


 一瞬優が誤射したのかと思ったが、雅の真下をレイパーの大剣が通過したことで違うと分かる。


 レイパーの二撃目を避けた雅だが、実は背後から三撃目が来ていたのだ。それに気がついていないことを悟った優が、雅を助けるために、彼女を狙撃し、吹っ飛ばしたのである。


 だが、


「っ! さがみん!」


 雅が血相を変えて叫ぶ。


 優がいるところに、レイパーが頭上から剣を振り下ろしていたのだ。


 もう直撃する寸前まで迫っている。今から逃げ出しても間に合わないと直感させる距離だ。


 しかし、そんな優に横から飛び掛かる影があった。


 志愛だ。


 志愛は優を抱きかかえ、そのまま転がっていく。


 刹那、彼女達のすぐ横に、レイパーの剣が叩き付けられた。


「し……志愛……! ありがとう!」

「ッ! 逃げるゾ、優!」


 礼を言う優だが、志愛の顔は険しい。


 既に、彼女達へと二撃目が繰り出されていたからだ。


 再び上から迫る剣を避けるため、優と志愛は左右に分かれて走り出す。


 そして、少し離れたところでは――


「皆、来るぞ!」


 薙ぎ払うように横から襲いかかってくる大剣に顔を歪めながら、愛理が刀型アーツ『朧月下』を持つ手に力を込める。


 近くにいたレーゼ、希羅々、真衣華と一緒に、迫る攻撃に対して、先程雅がやったようにかち上げるようにして攻撃をいなしにかかる。


「ぐっ!」

「重い……っ!」

「きゃっ!」


 雅は『脚腕変換』で大幅に腕力を上げたため何とかなったが、四人掛かりとは言え彼女達には強烈すぎる衝撃が襲う。


 真衣華が『腕力強化』のスキルを使って腕力を上げているが、焼け石に水といったところか。


 それでも、いなすのに失敗すれば死だ。気合と根性で、必死に敵の一撃を上へと逸らす。


 だが、その瞬間。


「っ! マーガロイスさん!」

「――っ!」


 初撃を何とか凌ぎ、よろめいていたレーゼに、大剣による突き攻撃が襲いかかる。


 空を切るような轟音と共に、猛スピードで迫る剣先。


 愛理が警告を飛ばすが、回避は間に合わない。


 レーゼは何とか剣型アーツ『希望に描く虹』を体の前に出し、さらに『衣服強化』のスキルで服の強度を鎧並にする。


 直後、剣が直撃し、水平に勢いよく飛んでいくレーゼの体。


「レーゼさぁぁぁあんっ!」


 雅の悲鳴が轟くのと、レーゼの体が地面に叩きつけられるのは同時。


 一瞬死んだかと思ったが、レーゼが頭から血を流しながらもフラフラと立ち上がったのを見て、思わずホッとする。


 切先が直撃する寸前、レーゼは崩れた体勢の中、可能な限り体を捻り、攻撃を逸らしていたのだ。


 大ダメージを受けてはいるが、それでもレーゼはまだ生きていた。


 しかし、今までのように走りまわるのは難しい。このままでは、レイパーの攻撃の格好の的になってしまう。


 他の者達も、いずれレーゼと同じように攻撃を喰らうのは時間の問題だ。


 何とかしなければ……そう思った雅達。


 その時、希羅々に電流が走った。


「束音さん! あなた、(わたくし)のスキル使えませんのっ?」

「希羅々ちゃんのスキル……そうかっ!」


 実は今までは、『共感(シンパシー)』で希羅々のスキルを使おうとしても発動しなかった雅。


 しかし今なら、何故か使えるような気がした。


 雅は百花繚乱を構え、希羅々と同じように後ろに引く。


 そして思いっきり、前に突き出した。


 刹那、雅の体が硬直し、同時に空中から、全長十メートルもある巨大な百花繚乱が出現する。


 紛れも無く、希羅々の『グラシューク・エクラ』である。


 突然現れた巨大なアーツの切先が、魔獣種レイパーの腹部を捉えると、その巨体を大きく仰け反らせる。


 そんな中、レイパーは怒り狂ったように咆哮を上げると、雅に向けて、大剣の一本を投げつけてきた。


 回転しながら飛んでくる剣だが、雅は動けない。


 雅の『共感(シンパシー)』で発動した『グラシューク・エクラ』は、希羅々のスキルと同じように巨大なアーツを呼び出す効果があるが、一つだけ追加された欠点があった。


 スキルの発動後、五秒間は動けなくなることである。


 マズい――そう思った瞬間、希羅々が雅を抱え、その場を飛び退く。


 雅がスキルの発動に成功した時、少し様子がおかしいと感じた希羅々が、雅を助けに向かっていたのだ。


「希羅々ちゃんっ?」

「よくやりましたわ束音さんっ!」

「えっ?」


 スキルの発動に成功した時に動き出していたのは、希羅々だけではない。


 見れば、レイパーの体を駆け上る姿があった。


 志愛だ。


 今が好機と、体勢を崩したレイパーへと近づき、攻撃を仕掛けに行ったのだ。


 狙いは胸元の傷――では無い。志愛の目は、レイパーの顔に向けられていた。


 レイパーの首の辺りで思いっきり跳躍し……飛び掛ったのはレイパーの眼。


 自身のスキル『脚腕変換』を発動し、右目目掛けて思いっきり突きを放つ。


 さらに同時に、別の攻撃がレイパーの左目へと迫っていた。


 白い矢型のエネルギー弾……優の攻撃だ。


 ()()()()()を傷口にしっかり当てるため、まずは視界を潰しに掛かったのである。


「グルゥァァァッ!」


 二人の攻撃が見事狙い通り眼に直撃し、痛みに体を大きくくねらせ悶えるレイパー。


 血は出ていないが、それでも少しの間は目が見えなくなっているだろう。


 ここが、やっと出来た攻撃のチャンス。


「希羅々ちゃん! 手を!」

「は? え、ええっ!」


 雅は希羅々の手を握ると、ミカエルのスキル『マナ・イマージェンス』を発動する。


 雅が『共感(シンパシー)』で使うこのスキルは、他人の魔力を回復させる効果がある。


 ミカエルのような異世界の魔法使いならともかく、魔力を持たない雅の世界では使う機会が無い……そう思っていた雅だが、一つ使える場面があるかもしれないと思ったことがあった。


 希羅々の『グラシューク・エクラ』である。


 彼女のこのスキルは、強力な効果を持つ代わりに一時間に一発しか使えないスキルだが、『マナ・イマージェンス』を使えば短時間で二回使えるのではないかと予想したのだ。


 そして、スキルを使った直後、目を見開いた希羅々の顔を見て、雅はこの予想が当たっていたことを確信する。


「私以上のド派手な一発、頼みます希羅々ちゃん!」

「……ええ! 任せなさい!」


 互いに頷き合う雅と希羅々。


「束音! アーツを!」

「はい! 愛理ちゃん!」


 そう叫ぶと、雅は真衣華のスキル『鏡映し』を発動する。


 効果は、自分のアーツを二本に増やすというものだ。殆ど真衣華と同じである。


「雅ちゃん! アーツちょっと借りるよ!」

「ええ、真衣華ちゃん! 使っちゃって下さい!」


 真衣華が、雅と同じく『鏡映し』のスキルを発動する。


 本家が使う『鏡映し』は、雅と違い、構造をよく知っていれば、他人のアーツをコピーすることも出来るのだ。先日、真衣華は百花繚乱を分解したため、コピーすることが出来るようになったというわけである。


「さぁ……いきますよ!」


 雅は、ライナのスキル『影絵』を使い、分身雅を創り出す。


 スキルで増えた雅の手にも、二本の百花繚乱があった。


「希羅々ちゃん! これ!」

「分かりましたわ!」

「雅! こっちにもくレ!」

「志愛ちゃん、パス!」


 二人の雅が、希羅々と志愛の二人に、それぞれ一本の百花繚乱を渡す。


 希羅々には手渡しで、志愛には投げて渡した。


「愛理ちゃん! お待たせしました!」

「準備は出来ているぞ!」

「さがみん!」

「いくわよみーちゃん!」


 分身雅は愛理へ、本体の雅は優へと駆け寄る。


 この場には、五本の百花繚乱。優、愛理、志愛、真衣華、希羅々の手にそれがあった。


 優が弓型アーツ『霞』を構え、そこに本体の雅が百花繚乱を番える。


 分身雅が百花繚乱を持つ手に力を入れると、刃の中心に切れ目が入り、左右にスライド。出来た隙間に、愛理が刀型アーツ『朧月下』の柄を差し込む。


 レイパーの肩口の辺りに立つ志愛に向かって投げられた百花繚乱が刃の真ん中から半分に割れ、それぞれが志愛の棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』の両端へとがっちり嵌りこむ。


 真衣華の持つ百花繚乱が半分に分離し、片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』の左右にくっつく。


 希羅々は百花繚乱の刃を、真ん中から左右に分裂させ、そこにレイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』のグリップを挟みこむ。


 完成する、五つの合体アーツ。


 魔獣種レイパーは目が見えない中でも、我武者羅に三本の大剣で雅達を斬りつけにかかる。


 だが愛理と分身雅の持つ、全長三メートル近くもある巨大な刀剣の刃が白く光り輝き、二人がそれを横に力一杯に一閃する。


 その斬撃がレイパーの創り出した三本の大剣が全て真っ二つに砕き、刃を遠くへと吹っ飛ばす。


 瞬間、レイパーの顎へと、ある合体アーツが激突した。


 まるで鳥のように空を自在に飛び回るそれは、真衣華と雅の合体アーツだ。


 レイパーを怯ませた後、二人の合体アーツはどこかへと飛び去っていく。


 すると、空中に巨大なランスが出現し、レイパーの胸元の傷へと襲いかかる。


 希羅々が全長三メートルもの合体アーツを、前へと突き出していた。『グラシューク・エクラ』を使ったのだ。


 さらに、志愛が合体して出来た巨大な矛を振りかぶり、傷口へと飛び掛っていた。


 二人の攻撃が同時に傷口へと突き刺さった直後。


 雅と優が、思いっきり弦を引き搾り、白く光り輝いた百花繚乱を放つ。


 刹那、レイパーの傷口へと、影が出来た。


 真上には、レーゼの姿が。真衣華と雅の合体アーツが、吹っ飛ばされていたレーゼの元へと向かっていったのだ。レーゼがその柄を掴み、ここまでやって来たというわけである。


 柄から手を離したレーゼは、そのまま傷口まで落ちていく。


 手には剣型アーツ『希望に描く虹』だ。


 落下しながらも、レーゼは虹の軌跡を描きながら、傷口目掛けアーツを振る。


 矢のように放たれた百花繚乱が突き刺さり、少し遅れてレーゼのアーツの切先が傷口を深く抉る。


 その瞬間。


「わッ?」

「ざ、ざまぁみなさい……!」


 レイパーのけたたましい咆哮と共に、傷口が広がり、緑色の血が噴水のように噴出する。


 おおよそ自分達と同じ血とは思えない程の異臭がするその液体を被ってしまった志愛とレーゼだが、それだけレイパーにダメージを与えられたのだと思うと気にもならない。


 先程よりもさらに激しく身を悶えさせるレイパーに、志愛もレーゼも立っていられない。


 レーゼは傷口に突き刺さった雅の百花繚乱を引き抜くと、志愛の手を引き、その場から飛び降りる。


「わわわわワッ!」

「しっかり掴まっていなさい!」


 真衣華と雅の合体アーツへと手を伸ばすレーゼ。何とか柄に指を引っ搔けると、そのまま巨大なレイパーから急いで離れる。


「レーゼさん! 志愛ちゃん!」

「こっちは平気よ! それより奴を――」

「っ! 見て!」


 レーゼ達が地面に降りたところへと、皆が駆け寄ってくる。


 すると、優が魔獣種レイパーを指差した。


 その巨体は黒く光を放ち、見る見る内に縮んでいく。


 そしてついに、ラージ級魔獣種レイパーは、魔王種レイパーへと姿を戻した。


 魔王種レイパーは胸の傷を手で押さえているが、それだけでは隠せない程、傷口は広がっている。


 顔は歪んでおり、大きく息を切らしている。明らかに大ダメージを受けているのは誰の目にも明らかだ。


 それでも、まだ爆発四散する様子は無い。


「もう少しだ……いくぞ皆!」

「っ! 篠田さん! 待ってくださいまし!」


 ここが正念場……誰もがそう思った時、異変を感じた希羅々がそう叫ぶ。


 刹那、雅達とレイパーが立っている場所の丁度真ん中の地面が爆発し、下から白と黒の二つの光の球体が出てきた。


「あれハ……鏡に眠っていた奴カ……?」


「う、うん! でも何で……?」


 そんな状況では無いのに、現れた二つの光球にどうしても目が吸い寄せられてしまう。


 そしてそれは、魔王種レイパーも同じだった。


 痛みはまだあるはずなのに、口が笑みを浮かべるように三日月型へと歪む。


「ビヤヘワタネモオ……ライタカタゾ……!」


 そう呟いた途端、黒い光球は魔王種レイパーの元へと吸い寄せられ、白い光球は逆に、レイパーから離れていく。


 しかしレイパーは黒い光球を掴むと、続いて白い光球へと目を向ける。


 まるで、獲物を見つけた狩人のような眼をしていた。


「マズい!」


 何を企んでいるかは分からないが、絶対に碌なことでは無いと直感させる、レイパーの顔。


 慌てて魔王種レイパーへと走り出した雅達だが、そんな彼女達へと、レイパーは黒い衝撃波を放ち、纏めて吹っ飛ばした。


 そして一瞬で光球へと近づくと、それを乱暴に掴む。


「コリソンオイノボ、マヤザソライタモネゾト、ラヤト」


 レイパーはレーゼに勝ち誇ったような声を掛けた後、一瞬で姿を消してしまう。


「や、奴はどこっ?」

「っ! あそこです!」


 雅が指を差したその方向を見れば、レイパーは戦いで倒壊した木々の方へと走り去っていた。


 追おうとした雅達。


 しかし。


「っ? 皆! 空が!」


 優が何かに気が付いたように、空を見上げた。


 釣られて視線を向け――全員が絶句する。





 空が、いつの間にか七色に光っていた。





 こんな現象、見たことが無い。


 唖然とする一行。


 その時だ。





 世界が白い光に包まれた。

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