第11話『爆音』
「レイパー召喚師?」
不穏な単語に顔を顰め、チラリとセラフィの方に視線を向ける雅。
「おぅよ! 今この街じゃ、真っ黒いレイパーが女性を惨殺している事件が起こってんだ。現場でそいつがレイパーと会話してたっつー証言がある! 俺は元凶のそいつと、そいつが召喚するレイパーをぶっ殺しにきた」
「ち、違う! 私はそんなことして無い!」
自分達が襲われていることにようやく気がついたセラフィは、青い顔でそう反論する。
だが、女性に殺意の籠った目を向けられ、セラフィは体を縮こませる。
「……セラフィちゃん、逃げてください」
「えっ?」
「彼女は私が食い止めます。説得出来る様子では無さそうなので……」
「あぁん?」
女性は、雅の発言にピクリと眉を動かす。
「ミ、ミヤビ……ごめん!」
「なっ? おい待てゴラ――」
脱兎の如く逃げ出すセラフィ。それを追おうとする女性だが、彼女の前に雅が立ち塞がる。
「……てめぇ、あいつの仲間か?」
「ええ、友達です。ついさっき出会ったばかりですけど」
それを聞くと、女性はフンっと鼻を鳴らした。
「わりぃが事情が事情だ。邪魔するってんなら力づくで退ける。手加減なんかしてやれねぇぞ!」
「望むところです!」
互いにアーツを構え、睨み合う。
沈黙が辺りを支配したのは、ほんの一瞬。
二人は同時に、地面を蹴って突撃する。
女性が叩きつけるように振ってきた右腕の爪を、雅は百花繚乱で受け止め弾き返す。
「――っちぃ!」
女性は舌打ちすると、バックステップで雅と距離を取る。
そして地面を蹴ったと思ったら、次の瞬間には雅のすぐ右横に彼女は移動していた。
既に彼女の左手は動き出している。
「っ!」
咄嗟に体を捻る雅。刹那、雅の胴体があった場所を、銀色の爪が通り過ぎていく。
だが攻撃を躱し、ホッとする暇は雅には無い。
続けざまに、上から、右から、左から……あらゆる角度から切り裂くように女性は爪を振ってきたのだ。
雅はそれらを、アーツで受けたり、体を逸らしたりして何とか凌ぐ。完全に避けることは出来ず、雅の体のあちこちに浅い引っ搔き傷が出来ていた。
それでも必死に喰らいつき、ようやく攻撃のリズムが掴めてきたと思った、その時。
女性が再びバックステップで距離を取ったと思ったら、姿を消す。
刹那、雅は自分の左側から気配を感じ、アーツで体を隠す。と同時に、甲高い金属音と同時に強い衝撃がアーツ越しに雅に伝わってきて、思わずよろめいてしまう。
だが、間髪を置かずに、今度は雅の右側から気配を感じて、同じようにアーツで身を隠すと、先程よりも強い衝撃が襲ってくる。
倒れ込むことだけは気合と根性で堪えた雅だが、既に女性の姿は無い。その気配は、もう雅の背後にあった。
「は、速いっ?」
思わずそう漏らしてしまう程、とても人間とは思えないスピード。
きっと女性がアーツから与えられたスキルの力だと直感する。
振り向き様に、同じようにアーツを盾にして衝撃に備える雅。
だが女性はそのまま突撃してくるようなことはせず、雅の手前で急ブレーキを掛け止まると、素早く雅の右側に回りこみ、腕を突いてくる。フェイントだ。
若干二人の距離があり、雅の反応速度なら充分対処できるはず……なのだが。
「――なっ?」
突然、自分に向かってきている爪が伸びてきた。
防御等、間に合うはずも無い。
気がつけば、雅の首元に爪が突きつけられていた。
死を幻視した雅のこめかみから、タラリと汗が流れ落ち、背筋が凍りつく。
そんな雅に、女性は口を開く。
「……てめぇ、何で攻撃してこねぇ?」
「……あなたを傷つけるつもりはありません。私のアーツは、レイパーを倒すためにありますから。あなたも、私を本気で殺すつもりは無かったでしょう?」
未だに無事な自分の首がその証拠だ。もしこの女性がその気であれば、今の一撃で喉に風穴が開いていたと雅は確信していた。それ程まで完璧に雅の思考や動きの上をいっていた攻撃だったのだ。
女性は鼻を鳴らし、小さく舌打ちをする。
「あんたが少しでも殺意を出してきていたら、容赦なくぶっ殺していたけどな」
ここでようやく、女性は敵意を収める。雅の首に突きつけられていた爪が離れ、雅は安堵するように大きく息を吐いた。
「それ、アーツ……ですよね?」
「ああ。『アングリウス』ってんだ。あんたのそれは何だ? 見た事ねぇ武器だな」
爪を見ながら言う雅の言葉に肯定しつつ、女性の視線もまた雅の持つアーツに注がれていた。
「これもアーツですよ。百花繚乱です。あ、自己紹介まだでしたね。私、束音雅って言います」
「俺ぁセリスティア・ファルトだ。それにしても、タバネミヤビ? 珍しい名前だな……。そんな服も見た事ねぇし、どこの国から来た?」
セリスティアと名乗る女性は雅の名前を聞いて、そんな反応を示す。
だがそこでハっと思い出したように、頭を振る。
「ヤベ、今はそんなこと聞いている場合じゃねぇ。あの女を見つけねぇと……!」
その時だ。
雅とセリスティアの耳に、爆音が飛び込んできた。
街の方からだ。
二人は互いに見合わせると、慌てて音のした方に向かって走り出した。
***
「――っ! あれはっ?」
逃げ回る人々の流れに逆らうようにして雅達が街に駆けつけると、凄惨な光景が広がっていた。
場所は、雅が朝食を摂っていた、あの広場だ。
そこには十数人もの女性の死体が転がっており、いずれも体の一部が爆ぜたかのように欠損している。血や肉片が地面に飛び散っており、異臭を放っていた。
そんな死体が散乱する中に、レイパーはいる。
全身真っ黒な、人型のレイパーだ。雅より若干背が低い。特徴的なのは鉤のある尻尾が生えていることで、その姿はまさにインプ。故に分類はそのまま『インプ種』といったところか。
そしてその近くに、尻餅をつき、怯えた様子のセラフィもいた。
レイパーは顔をセラフィの方へと向けており、まだ雅達には気がついていない。
「セラフィちゃんっ?」
雅が叫ぶと、レイパーはゆっくりと声のした方を振り返る。真っ赤な目が、ギラリと光りを放つ。
「来るぞ!」
セリスティアが叫んだと同時に、インプ種レイパーが右手の平を二人に向けた。
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