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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第12章 北蒲原郡聖籠町『StylishArts』
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第107話『熾烈』

 突如現れた魔王種レイパーは、宙に舞う白と黒の二つの光球を見て口角を上げる。


 そして、襲来した敵に驚き硬直していた久世へと右の手の平を向けた。


「――っ!」

「しまっ――」


 そして放たれる、黒い衝撃波。


 光輝が思わず叫ぶ。久世の命もそうだが、背後のエネルギー装置は扱いを誤ると大爆発する可能性があるからだ。


 しかし、衝撃波が直撃する直前で、久世の姿が消える。


 見れば、久世は何か黒い人型の生き物に抱えられ、魔王種レイパーが入ってきた天井の穴から上へと逃げていた。


 衝撃波はエネルギー装置に命中。大きな音を立てて破壊されてしまう。


 途端に青褪める一行。だが、予期していたような爆発は起こらない。


 雅達は知らなかったのだが、鏡から光球を解放するために、装置にあったエネルギーのほとんどを使ってしまっていたからだ。


「さっきの……あいつも人工レイパー?」

「多分ナ! まだ残っていたのカ……!」


 真衣華と志愛がそんなやりとりをするも、すぐに頭を目の前の敵へと切り替える。


 魔王種レイパーは、既に視線を自分達へとロックオンしていた。


 数時間前、このレイパーにボロボロにされた記憶が蘇り、僅かに二人の背筋が冷える。


「希羅々ちゃん! お父さんを! 時間は稼ぎます!」

「ええ! お父様、こちらです!」

「……ぐっ、すまない!」


 光輝も、出現した魔王種レイパーから放たれる只ならぬ力を感じ取ったらしい。


 悔しそうな顔をするが、すぐに希羅々と一緒に実験室の入り口へと走り出す。


「テボホトレ」


 魔王種レイパーはそう呟くと、手の平を希羅々と光輝へと向けた。


 再び放たれる、黒い衝撃波。


 だが――


「はあぁぁぁあっ!」


 レーゼがレイパーと希羅々達の間に体を割り込ませると、剣型アーツ『希望に描く虹』を振り上げ、衝撃波に真正面から突っ込んでいく。


 そのまま、衝撃波に叩きつけるようにアーツを振り下ろした。


 激突する衝撃波と、希望に描く虹。


 虹の軌跡を描きながら、剣は衝撃波を斬り裂いていく。


 そして、ついにレーゼの攻撃が衝撃波を打ち破った。


 そのまま、レーゼはレイパーへと接近し、横に一閃するも、レイパーは一歩退がってそれを躱す。


 だがその刹那、レーゼの後ろから志愛が飛び掛った。レーゼがレイパーの攻撃に打ち勝つことを信じ、レーゼの後に続いていたのだ。


 棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』を、レイパーの顔面目掛けて思いっきり突く。


 レイパーはそれを手の平で受け止めると、すぐさま横へと、アーツごと志愛を投げ飛ばした。


 その瞬間、レイパーは自身に迫る攻撃の気配を感じる。


 雅と優が、『百花繚乱』と『霞』を使い、それぞれレイパーへとエネルギー弾を放っていた。


 さらに、レーゼが斬撃を放つ。


 魔王種レイパーは回し蹴りを放ち、飛んでくる二つのエネルギー弾と相殺し、レーゼの攻撃を受け止め、そのまま彼女の力に押し勝ち吹っ飛ばす。


「えぇぇぇいっ!」


 そんなレイパーの背後から、真衣華が二挺の斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』を手に迫っていた。


 一発目の斧の一撃は身を反らして避け、二発目は拳で迎え撃つレイパー。


 斧の刃と拳がぶつかり合うが、真衣華の『腕力強化』をもってしても尚、レイパーのパワーの方が上。


 大きな音を立てたと思ったら、真衣華は吹っ飛ばされてしまう。


 だが、彼女の攻撃はレイパーにとっても重めの一発。


 僅かに怯んでしまったレイパー。


 その隙を逃さず、愛理が刀型アーツ『朧月下』で上半身を目掛けて斬撃を放つ。


 さらに、先程吹っ飛ばされたレーゼも、体勢を整えて腹部へと攻撃する。


 レイパーは二人の同時攻撃を跳躍して躱したが、その瞬間、愛理はスキル『空切之舞』を発動。


 一瞬で魔王種レイパーの背後へと瞬間移動し、頭部へと斬りつける。


 前方からはレーゼが、愛理はスキルを使い、常に敵の死角から、それぞれ素早い斬撃を放っていく。


 レイパーの頭、肩、腕、背中、腹、腿、足……二人で合わせて十六連撃もの攻撃の嵐。


 それでも、レイパーは脅威の身体能力で、二人の斬撃の合間を縫うように軽々と避けていく。


 一方的に攻撃しているはずなのに、当たる気配が無く、焦りに顔を歪めるレーゼと愛理。


 だがそこで、レイパーの左右から同時に別の影が突っ込む。


 志愛と真衣華だ。


 レーゼ達の攻撃のリズムに合わせ、二人も攻撃に参加しに来たのである。


 四方向からの攻撃には、流石の魔王種レイパーも避け続けることは出来ない。


 斧の攻撃や、急所を狙う攻撃は体を反らしたり跳躍したりして避け、他の攻撃は蹴りで相殺したり払ったりして防いでいく。


「――っ!」

「しまっ――!」

「グッ?」

「きゃっ!」


 そして、四人が同時に一歩前へと踏み込んだ瞬間を逃さず、レイパーは横回転するように跳び、全方位へと衝撃波を放ってレーゼ達をまとめて吹っ飛ばした。


 そのまま魔王種レイパーが、仰向けに倒れたレーゼに近づこうとしたが、すぐに顔を横に向ける。


 炎の斬撃が、レイパーのすぐ目の前へと迫っていたのだ。


 雅が百花繚乱をブレードモードにし、スキル『ウェポニカ・フレイム』を発動し、刃に炎を纏わせ斬りかかったのだ。


 火種は、持っていたライターを使った。以前キリギリス顔の人工レイパーと戦った時に用いたものである。


 炎を纏った百花繚乱は、切断性能が上がる。


 意識の隙を突いたと思った雅の一撃だが、レイパーからすれば遅過ぎる斬撃だ。咄嗟に躱すのも容易である。


 応戦しようとした魔王種レイパーだが、そこに一早く体勢を直した志愛が近づいていた。


 そして、志愛の存在に気を取られた魔王種レイパーは、今まで目の前にいた雅が消えていることに気が付く。


 刹那、右方向から気配を感じたと思ったら、そこに雅が百花繚乱を振りかぶって立っていた。


 愛理のスキル『空切之舞』を使い、瞬発力を上げた雅が、レイパーの横へと移動し、攻撃してきたのである。


 レイパーは雅が振り下ろす刃の側面に腕を叩きつけて軌道を反らし、突いてきた志愛の棍の一撃をくの字に折って躱すと、二人の腹部へと拳を打ち込んで吹っ飛ばす。


「ナエロリヅセナエ」

「た、橘っ! 危ない!」

「うぅ……!」


 レイパーはそう言いながら、真衣華へと近づいていく。


 その時だ。


「はぁっ!」


 鋭い声と共に、レイパーの背後から細剣が襲いかかった。


 希羅々だ。


 父親を外に逃がして、戻ってきたのである。


 そんな奇襲だが、レイパーは体を反らして攻撃を避ける。


 そして、いつの間にか左右から剣と刀を振り下ろしてきたレーゼと愛理の攻撃を腕で受け止め、前につんのめるような体勢になっていた希羅々を蹴り飛ばす。


 レイパーの両手が塞がれたところに、優が真正面から顔面目掛けて白い矢型のエネルギー弾を放つ。命中し、爆発を起こすが……直後、レイパーが甲高い笑い声を上げた。


 まるで、お前の攻撃など効くか、と言わんばかりの態度だ。確かに今の一撃は威力が低い。


 飛んでいくエネルギー弾は視認し辛いように姿を揺らめかせているものの、注意すればちゃんと見える。故に優の『死角強打』で威力が上げられなかったのだ。


 魔王種レイパーは腕で受け止めているレーゼの剣と愛理の刀を押し飛ばすと、レーゼの腕へと手を伸ばし、まるで合気道のように捻って投げ飛ばす。


「くっ!」

「うぐっ!」


 激突し、床を転がり倒れるレーゼと愛理。


「このぉっ! ――って、えっ?」


 二挺のフォートラクス・ヴァーミリアを振り上げ、魔王種レイパーへと向かっていく真衣華だが、刹那、敵の姿が消える。


 瞬間、後頭部を掴まれたと思ったら、思いっきり地面へと叩き付けられた。


 レイパーに一瞬で背後へと回りこまれたのだ。


「真衣華ちゃんっ?」


 助けに走る雅だが、燃え盛る百花繚乱を大きく振り上げたところで、腹部へとレイパーの頭突きが入る。


 さらに、レイパーが向けた手の平から放たれた黒い衝撃波をモロに受け、錐揉み状態になりながら吹っ飛ばされてしまった。


「みーちゃんっ? このぉっ! ――っ?」


 地面に叩き付けられた親友を見て激昂した優だが、攻撃を放つ前にレイパーに距離を詰められ、蹴り飛ばされてしまう。


「コヅソラコリモオゾ」


 レイパーはそう呟くと、口元を不気味に笑わせ、手の平を倒れた優へと向ける。


 その手は黒い煙のようなものに包まれており、今まで放っていた攻撃とは比べ物にならない威力だと直感させた。


 だが。


「――ッ?」


 背中に突如強い衝撃を受け、つんのめった魔王種レイパー。


 志愛が跳烙印・躍櫛で思いっきり突いたのだ。


 攻撃を受けたところには、紫色の線で描かれた虎の刻印が光る。


 そのまま志愛は脇腹、太股へと連続で棍を叩きつけ、最後にもう一度背中を突こうとしたところで魔王種レイパーは体を捻り、攻撃を躱す。


 そして突くために前に伸ばした棍を掴むと、志愛ごと放り投げた。


 魔王種レイパーは軽く息を吐く。すると、背中の刻印の光が弱まり、すぐに消えてしまった。


 標的を志愛へと変えた魔王種レイパー。黒い煙を纏った右手の平を、彼女へと向ける。


 しかし、衝撃波を放つタイミングで、その腕に白い矢型のエネルギー弾が命中し、腕の向きが逸れてしまった。


 優が、倒れながらもレイパーを狙撃したのだ。ダメージは無くとも、『死角強打』のスキルを使えば矛先を逸らすことくらいは出来る。


 明後日の方向に飛んでいった衝撃波。今までの衝撃波よりも速度が段違いに速く、床を削り、壁に命中すると大きなクレーターのような跡を作る。


 それだけで威力は察せられたが、当たらなければどうということは無い。


 つまらなさそうに鼻を鳴らすレイパーだが、再び優を標的にしようと体の向きを変えたところで、奴に迫る影があった。


「はぁぁぁあっ!」


 レーゼだ。レイパーの頭から既にレーゼの存在は薄れており、隙だらけになっていた脇腹目掛けて、希望に描く虹で斬りつけたのだ。


「喰らえっ!」


 さらに続けて、背中に真衣華のフォートラクス・ヴァーミリアが叩き付けられる。


「せぇぁっ!」

「はっ!」


 よろけたところで、愛理がレイパーの左側から、その頭目掛けて朧月下を振り下ろすが、寸前で彼女の気配に気がついていたレイパーは咄嗟にその攻撃を白刃取りして防ぐ。


 そして続けて頭部を狙った希羅々のシュヴァリカ・フルーレの一撃も、頭を大きく傾け紙一重で躱す。


 しかし、二人の攻撃は囮だ。


 すぐさまレイパーの右側から炎を纏ったエネルギー弾が体に命中。この戦いで初めてその体が吹っ飛ばされた。


 雅が、百花繚乱をライフルモードにし、愛理と希羅々の動きの合間を縫ってエネルギー弾を放ったのだ。


 床に水平に飛んでいく魔王種レイパーだが、空中で体勢を整え、上手く地面に両足で着地する。


 だがその瞬間、レイパーの顎に白い矢型のエネルギー弾が直撃し、仰け反ってしまう。


 敵が着地したタイミングを狙っていた優。『死角強打』のスキルで威力も上げ、上手く攻撃を当てることに成功した。


 ここが決定的なチャンスだ。


 同じことを、他の皆も思ったのだろう。


「はぁっ!」

「せぇぁっ!」

「フッ!」

「えぃっ!」


 仰け反っているレイパーへと、声を張り上げ接近し、次々にレイパーの体に攻撃を浴びせていく。


 レーゼが前方から、くの字を描くように二連撃を放ち、素早く右側に回りこんで横に一閃。


 愛理が袈裟斬りを放ち、さらに続けて十の字を描くように敵を斬って、その場を離れる。


 志愛がレイパーの腹部を強く突き、左に回りこみながら胸や脹脛を強烈に殴打する。


 真衣華が斧を振り上げ、斜めに二発の連撃を叩きこみ、最後に回転しながら真横に一発決めて、レイパーを大きく吹っ飛ばした。


 仰向けに、今度は弓なりに飛んでいく魔王種レイパー。


 そしてこの瞬間を待っていた者がいた。


 希羅々だ。


 意識を後ろに引いた右腕に集中させる。その手にはシュヴァリカ・フルーレ。


 敵がまだ空中でジタバタしているところを狙い、アーツを思いっきり前に突き出した。


 すると、彼女の少し後ろの天井の辺りから、巨大なレイピアが出現し、魔王種レイパーへと勢いよく向かっていく。


 希羅々のスキル『グラシューク・エクラ』だ。


 一時間に一発しか使えない代わりに、絶大な威力を誇る希羅々最大の一撃である。


 魔王種レイパーは吹っ飛びながらも、右手を巨大なレイピアへと向け、衝撃波を放った。


 空中でぶつかり合う、レイピアと衝撃波。


 爆発音が発生し、巻き起こる爆風。


 黒い煙が辺りに充満する。


 巨大なレイピアは衝撃波に負けることは無く、煙で敵の姿が見えなくなっても、確かに魔王種レイパーの体を捉えたような音が響き渡った。


「やったかっ?」

「いえ……まだよ!」


 思わず叫んだ愛理だが、すぐさま険しい顔でレーゼが否定する。


 黒い煙の奥で、魔王種レイパーが立っている姿がそこにあった。


「ネワルヘテタウトォォォッ!」


 怒り狂ったようなレイパーの雄叫びに、思わず雅達は耳を塞ぐ。


 魔王種レイパーの両手が紫色に光り、それを雅達にかざした瞬間――


「――っ?」

「何ですのっ? ここはっ?」

「外ダ!」


 七人とレイパーは、実験室から屋外へとワープする。


 移動した先は、『StylishArts』の正面玄関の前だ。


 これまで使ってこなかった技。故に、雅もレーゼも全く予想していなかった。


 しかし何故こんなことをしたのか。レイパーの狙いは、すぐに明らかになる。


「き……気をつけて下さい! まだ来ますよ!」


 発光を始めたレイパーを見て雅が青い顔で警告を放った途端、レイパーの体から周囲に向けて衝撃波が飛んでいき、建物の外壁や周りの木々を破壊していく。


 慌てて全員がその場を離れるも、発生する衝撃波は彼女達の体を容易に吹っ飛ばしてしまった。


 そして嵐のように吹き荒ぶ衝撃波が止んだ時――


「ぐっ……この化け物が……!」

「な……なんなのなんなのっ?」

「おっきい……!」


 今まで魔王種レイパーがいた場所には、全長二十メートルはあろうかという巨大な生き物がいた。


 全身が黒く、頭部はまるで、角が異様に長い牛の頭のような造詣だ。屈強な四本の腕が生えており、下半身は何故か存在しない。腹から上だけの怪物。


 かつて天空島で戦った記憶が蘇り、そのあまりの力に恐怖で背筋が震える雅とレーゼ。敵から目を離すことは無くとも、その表情は強張っていた。


 現れたのは、『ラージ級魔獣種レイパー』。魔王種レイパーが変身した巨大レイパーである。


 魔獣種レイパーが空気を震撼させる程の咆哮を上げると、腕を振り上げ、『StylishArts』のビルを破壊するのであった。

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