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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第12章 北蒲原郡聖籠町『StylishArts』
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第106話『目的』

「ここカ……」


 地下五階。


 階段を降りた先は通路となっており、少し進むと扉が見えてくる。


 黒く、重々しい見た目をしており、それだけでここが重要な部屋だと伝わってくるようだ。


「僕がそこのパネルにタッチすれば、中に入れる仕組みとなっている。準備は良いかい?」


 光輝の言葉に、雅達は緊張した面持ちで頷いた。


 グッと、アーツを持つ手に力が入る。


「扉が開いたら、お父様は(わたくし)の後ろに」

「分かった。……済まないな、希羅々」

「気にしないで下さいまし。では……お願い致します」


 希羅々に言われ、光輝が扉の横にあるパネルに指を触れる。


 すると、小さくカチャリと音が聞こえ、直後、ゆっくりと扉が左右に開く。


 中は地下三階や四階と同様に広い空間となっており、奥には台形型の、全長五メートル程、幅十メートル以上もある巨大な機械が見える。


 光輝曰く、エネルギー装置とのことだ。


 アーツには『コア』があり、これのお陰でレイパーにダメージを与えることが出来るのだが、このエネルギー装置はその『コア』を生成するため等に用いられる。


 取り扱いを間違えば大爆発を引き起こす、非常に危険な代物だ。


「ここが、実験室……。初めて見た」


 こんな状況ではあるが、真衣華が思わず興奮したような声を漏らす。


 父親から存在は聞いていたが、勿論ここに入ったことは無い。無理からぬことだった。


 それでも、奥にいる人物が目に飛び込んでくれば、否が応でも気が引き締まる。


 久世だ。機械の前に立っており、雅達には背を向けている。


 しかし、雅達が入ってきたことには気がついたようだ。


「遅かったな」


 静かにそう告げると、久世は振り返る。


 不敵な笑みを浮かべており、まさに「全て計画通りだ」と言わんばかりだ。


「君達がここに辿り着くことは想定していたよ。無論、あわよくばここに来る前にくたばって欲しかったのだが……」


 そこまで言うと、久世は天井を見上げる。


「どいつも使えない奴らだ……。所詮は失敗作か」

「失敗作だと……?」


 久世の言葉に、眉を顰めた愛理。


「私が創った『人工レイパー』は、まだ試作品でね。想定の半分の力も出せていないのだよ」

「…………」


 そう言われ、血の気が引く雅達。


 どの人工レイパーも、決して弱くは無かった。しかし、まだ強くなる可能性があると言う。


 それでも、生まれた恐怖を押し殺し、雅が一歩前に踏み出る。


「あなた……一体何が目的ですか! 何故人工レイパーなんてものを……!」

「そんなものは決まっている」


 雅の怒鳴り声に、淡々と返す久世。


 そして、再び口を開くと、



「この世の全てのレイパーを葬り去るためだ」



 その言葉で、時が止まったように、雅達は凍りつく。


 言っている意味を理解するのに、少し時間が掛かった。


「……どういうこと? 何でレイパーを倒すために、人工レイパーなんてものを……? 言っていることとやっていることが違うじゃない!」


 最初に声を上げたのは、優。


 至極当然の疑問に、久世の眼が濁った光を放った。


「君達は……今の世の中を、どう思う?」

「『どう思う』……って、そんなの――」

「ひどく不便だとは思わないか?」


 投げかけられた疑問に、雅達は答えることが出来ない。


 そんなこと、考えたことも無かった。


 しかし、ただ一人。


 光輝だけは様子が違った。困惑する雅達とは違い、目を見開き、戦慄の表情で久世を見つめている。


 光輝は、ここで久世の目的を察したのだ。


 そして光輝が察したことに、久世も気がついたらしい。


「光輝元社長は、そう思って頂けたようですね。そう、不便なのだ。今の世の中は」

「あなた……何を言っているのですかっ? 分かるように説明なさい!」

「君達が日々利用している『ULフォン』だの何だのと言ったもの……それらは百年以上も前に既にあったものを、僅かばかり進化させただけに過ぎない。いいか? 今の人間の技術は……その頃からほとんど進化していないのだ」


 スッ……っと、久世の眼光が鋭くなる。


「それは何故か? そう、レイパーのせいだ!」

「久世君……やはり君は……!」


 レイパーが出現してから、人類は奴らと戦うための武器の開発を始めた。努力の甲斐もあり、今日までアーツの性能は上がり続けている。


 しかしその裏で、割を食ったものがある。


 アーツ以外の、他の技術だ。


 レイパーから命を守るための道具の開発が最優先事項となったことで、他の技術の進歩が緩やかになってしまった。


 今の時代に生まれた雅達は、百年前の生活を知らない。


 だが知れば、大層驚いたことだろう。


 何故なら、今とほとんど変わりが無いからだ。レイパーに襲われる恐怖が無い分、昔の方が圧倒的に生き易い世の中である。


「レイパーは、何故か女性にしか倒せない。男が武器を持ったところで、奴らを傷つけることは出来ないのは君達もよく知っているだろう? だが……君達は見たことが無いか? レイパー同士が、互いに傷つけあっているところを」


 そう言われ、レーゼは顔を歪める。


 一人の女性を、二体のレイパーが狙うのは稀にあることだ。その際、そのレイパーは互いに協力することもあれば、「自分が先に殺すのだ」と主張するように喧嘩を始めることもある。


 レーゼはバスターで、何度かそういう場面に遭遇した。


 そして久世の言う通り、レイパーの攻撃は敵にダメージを与えていた。


 大抵の場合、仲間割れをしているのなら奇襲を仕掛けて倒すチャンスとなるのだが、久世は別の事実に目を付けたのだ。


 久世は、服のポケットから小指くらいのサイズの注射器を取り出す。


 そこには、黒い液体が入っている。


「これが、私が創り上げた『人間を人工レイパーにする薬』だ。奴らの体の一部を採取し、生み出したものだ。注入されれば、たちまちレイパーの力を手に入れることが出来る」


 だが、と久世は苦い顔で続けた。


「先程も言った通り、これは失敗作だ。変身しても、力を生かしきれない。副作用もある。だが……お陰で分かったこともあった。そう、レイパーがどうして女性を殺すのか、その理由だ!」


 これまで誰も解明出来なかったこと。


 雅達も、知りたくないわけでは無い。


 何故自分達が攻撃されるのか? 一体、目的は何なのか。


 だから、久世の言葉を止める者はいなかった。


 だがそれを、すぐに後悔することとなる。



「理由なんてものは……無い! 奴らは、遊びで、暇つぶしで、気まぐれで、たったそれだけの理由で女性を殺すのだ!」



 久世の言葉に、呆然とする一行。


 レイパーが女性を襲う時、楽しそうな笑い声を上げることがある。


 だから、この事実は予想はしていた。


 それでも、改めて聞かされればショックは大きい。


「先程、副作用があると言った。レイパーに変身した者が言っていたよ。湧き上がる殺人衝動を抑え切れない、とな。これが服作用だ。つい恋人を殺してしまったものもいるそうだ」

「それで、人工では無い、本物のレイパーも同じ衝動を常に感じているのだろうと推測したわけか……」

「その通りだ。そんな化け物が世に蔓延っている限り、人類の進化は止まったままだ。私は断じてそのようなことは許さない。人類の未来のために! 進化のために! 奴らは滅ぼさねばならないのだ! だが……」


 そこまで言ったところで、久世の眼に怒りの炎が燃え上がる。


 雅、レーゼ、優、愛理、志愛、真衣華、希羅々を順番に見ると、拳を強く握り締めた。


「お前達女共は……それをさっぱり分かっていない! お前達には、奴らを倒す力があるというのに、何故自らレイパーを探し、殺しにいかないのか理解に苦しむ! 使命感も、責任感も持ち合わせぬ者に、これ以上人類の未来を任せておけるものか! だから私はこの薬を創った! 真に人類の未来を慮れる我々が、奴らと戦う力を得るためにだ!」

「……バカバカしイ」


 志愛が、奥歯を噛み締める。


「お前の創り出した人工レイパーガ、一体何人もの女性を殺したと思っていル! 仮に人工レイパーが本物のレイパーを滅ぼしたところデ、私達を脅かす対象が人工レイパーに置き換わるだけダ!」

「人類の進化に、犠牲はつきものだ! 無論薬は改良する! レイパーに変身しても、殺人衝動を持たぬようにな!」

「ふざけるな! お前の言う未来だの進化だの……その為に、これから何人の女性が犠牲になるというんだ!」

「お前達がのんびりとレイパーを野放しにした結果、何人殺された? それに比べればこれからの犠牲など、大した人数では無い!」


 堪らず怒鳴った愛理だが、久世は怯まず言葉を返す。


「……あなたは、間違っている」


 レーゼが、静かに、しかしはっきりとした声で、そう断言した。


「『必要な犠牲』? そんなものを容認している時点で、あなたに正義なんて無い。私は……私達は……ただ一人の犠牲も出して良いなんて思っちゃいけないの。あなたの言う未来は、今を生きている人が必死になって創っていくものよ。――そうでしょ? ミヤビ!」

「はい! レーゼさんの言う通りです! だから……クゼさん! あなたを止めます!」

「……ふん。止める、だと?」


 低く笑い声を上げる久世。


 一体どうしたのだ、と思ったところで、今更ながらに気がついた。


 久世の手には、雅達から奪った鏡が無いのだ。


「言ったはずだ。遅かった、とな!」


 勝ち誇ったように言うと、久世は自分の足元を指差す。


 見れば、何かの破片が散らばっている。


 スーっと、雅の顔が青褪めた。


「それは……まさか……!」

「そうだ。破片だよ。お前達から奪った鏡の、な」

「まさかっ! クゼ……あなた壊したのっ?」

「違う。解放したのだ。あれを見ろ」


 久世が、天井を指差し叫ぶ。


 釣られてそちらを見て、全員が目を見開いた。


 何故今まで気がつかなかったのか。



 白と黒、二つの光の球体が、飛び回っていた。



「あれは……?」

「鏡の中に眠っていたものだ」

「眠っていた……って、雅ちゃん、どうしたのっ?」


 雅は、震えていた。


 ワナワナとさせた口を、ゆっくりと開く。


「……嫌がっている。あっちの、白い光」

「え?」

「分からない……。でも、そんな気がするんです。あの黒い光を、早く何とかしてって言っている!」


 ふと、レーゼは雅との以前の会話を思い出す。


 ――この間、二枚の鏡を見た時、不思議な感じがしたんです。弥彦山から持ち帰った方の鏡が嫌がっているような、そんな感じが。何か、もう片方の鏡を早くどこかへやってくれって言っているような、そんな感じです――


 雅は確かに、そう言っていた。その後、気のせいだろうということでその時は片付いたのだが、今の雅を見て、レーゼは確信する。


 彼女の勘は、合っている、と。


 そんな雅のことなど知ったことでは無い久世は、底知れぬ笑みを浮かべ、口を開いた。


「君達が弥彦山でこの鏡を持ち去ったという話を聞いた時は、正直計画の崩壊を覚悟したが……無事に取り返して、必要なエネルギーも充填することが出来た。こちらの思い通りに動いてくれたお陰でな!」

「っ! やはり、これまでのことはあなたが全部仕組んでいたのね……! 全部時間稼ぎだったというわけか……!」


 これまでレーゼが覚えていた違和感……それは間違っていなかった。


 次から次へと情報が出て、雅達は鏡を追っていたが、それも全部久世の手の平の上で踊らされていたのだ。


 全ては、雅達を目の前の出来事で手一杯にさせるため。


 以前、弥彦山で見つけた鏡が持つエネルギーは、異世界から持ち帰った鏡の持つエネルギーと比べて少ないと言われたことがある。


 弥彦山でエネルギーを充填していた最中に、雅達が持ち去ってしまった為だから。


 雅達の気を逸らしている間に、久世は鏡にエネルギーを溜めていたのだ。


「充分にエネルギーを溜めた後は、最終実験室にあるエネルギーを使い、この中にある『ある力』を解放する。これが今日の私の計画だった」


 ここに来てから、雅達は一度最上階へと向かった。それはレーゼが最初に久世と戦ったのが社長室だったからだったのだが、それも久世が仕掛けた罠だったのだろう。最上階まで向かったせいで、ここに来るのが遅くなってしまったのだから。


「鏡が二枚あることは分かっていた。一枚は見つけたのだが……もう一枚がどこにあるか不明だった。しかし、それもお前達が持ってきてくれたお陰で、全て解決したのだ。礼を言う」

「い……一体何をするつもりですか!」


 雅が、これまで誰も聞いたことの無い程鋭い声を上げる。


 久世の笑みが、一際邪悪なものに映った。



「『原初の力』を……手に入れるのだよ」



「『原初の力』……?」


 一体何のことだか分からない雅。


 聞き返そうとした瞬間、彼女の顔が強張った。


 雅のスキル『共感(シンパシー)』により、ノルンの『未来視』のスキルが発動したのだ。



 何かが、天井を壊してやって来る。そんなイメージだ。



「皆さん! ここから離れて!」


 雅の警告に、のっぴきならない状況だと察した一行は、慌てて彼女の言葉に従う。


 その刹那。


「――っ!」


 雅の見たイメージの通り、天井にヒビが入ったと思ったら、大きな音を立てて砕け、『何か』が上から落ちてくる。


 それを見た雅達の背筋が凍りついた。


 骨ばったフォルムの真っ黒い肌をした身長二メートル程の、黒いマントをはためかせた人型の生き物。


 トゲのある肩パッドと、血で汚れたブーツを身に付けたそいつは――


「コッニレノダ……マタナメユ!」


 魔王種レイパーだった。

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