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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第12章 北蒲原郡聖籠町『StylishArts』
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第101話『詭計』

「さがみん! レーゼさん! 皆!」

「希羅々―! 会いたかったよー!」

「あら二人とも。遅かったですわね」


 人工種黒猫科レイパーと人工種烏科レイパーを倒した希羅々達。


 倒してから少ししたら、人工種海老科レイパーを倒した雅と真衣華が追いついた。


「丁度良かった。みーちゃん、真衣華、ちょっと手伝って」


 階段から少し遠くで、優が二人を手招きする。


 人工レイパーは人間が変身した姿だ。倒せば、変身が解ける。


 今、優と希羅々と志愛は人工種烏科レイパーに変身していた男を拘束しているところだった。まるでプロレスラーのような筋骨隆々な男性で、気絶しておりピクリとも動かないが、体が大きくて重く、梃子摺っている様子である。


 ちなみに、愛理とレーゼは人工種黒猫科レイパーに変身していた男を拘束している。こっちはもうすぐ作業が終わりそうだ。


 目覚められては厄介である。急いで、雅と真衣華は拘束の手伝いに向かう。


 男達を縛っているのは、親指くらいの太さの縄だ。それを見て、真衣華は小さく口笛を吹く。


「こんな縄、よくあったね。どこで見つけたの?」

「そこの試作室にありましたの」


 希羅々が指差したのは、次の階へと続く階段の近くにあった、小さな部屋だ。


 社員が思い付いたアイディアを簡単に形に出来るように作られた場所で、ほとんどの階に一個ずつ存在する。


「二人のところハ、どうしたんダ?」


 雅と真衣華が戦っていた相手も人工レイパーのため、撃破すれば誰かが倒れているはずだ。


 一体どうしたのかと気になった志愛は、そう尋ねた。


「受付の後ろの棚にガムテープがあったので、それを使いました。変身していたのは、若い男性でしたね。大学生くらいの」

「こっちでも使えるかなと思って、持ってきたんだけど……こんな縄があるのなら、いらなかったね」

「あぁ、それで真衣華、ポッケがそんなに膨らんでいますのね。何を入れているのかと思えば……。あぁ、捨てないで下さいまし。また使う時が来るかもしれませんので」

「えぇー、邪魔なんだけど……」


 真衣華は服のポケットからガムテープを出しかけるが、希羅々に止められ渋々戻す。


 正直、ポケットの中に物があると、動き辛いのだ。


 そうこうしている間に、男達の拘束を終えた雅達は、彼らを試作室へと運ぶ。


「……これで大丈夫ですかね?」

「大丈夫でしょ。あんだけグルグル巻きにしたんだし、身動き取れないって」

「……しかシ、また人工レイパー変身されたラ、逃げ出すんじゃないのカ?」

「あ、どうしよう。その可能性、全然考えて無かった……」


 志愛の疑問に、顔を顰めた真衣華。


 しかし、レーゼが「大丈夫よ」と言いながら首を横に振る。


「この間倒したキリギリス顔の奴や、今日……あぁもう昨日か。昨日の昼過ぎに倒したサイみたいな奴は、再度変身すること無く逃げ出したんでしょう?」

「成程。恐らく、一度倒されれば変身能力を失うのか、一定期間は変身出来なくなるのだろう。いずれにせよ、しばらくは大丈夫ということか」

「なら安心ですわね。さぁ、先を急ぎましょう」


 希羅々の言葉に、他の六人は揃って頷き、最上階を目指すのであった。



 ***



「……妙ですわね」


 最上階へと辿り着いた雅達。


 しかし、彼女達の顔は困惑の色に染まっていた。


 なんと、ここまで来る間、一度も人工レイパーが襲ってこなかったのだ。


「そう言えば、この周辺でレイパーが暴れているという話でしたわね。あいつらも人工レイパーなら……内部にいる敵は、案外少なかったということですの?」

「考えてみれば、最初に私がここに来た時も、クゼのところに来るまで誰にも襲われなかったわ。でも、敵はまだ残っているはずよ」


 レーゼの脳裏に浮かぶのは、人工種鷹科レイパー。


 最低でも、奴はまだ健在だ。


「……なア、何かおかしくないカ?」

「……ちょっと静か過ぎない? 気配とか何も感じないんだけど」


 一行がいるのは、階段のすぐ側。志愛と真衣華の目は、そこから少し離れた社長室の方へと向けられている。


 言われれば、確かにその通りであり、他の皆も顔を見合わせる。


「三つ数えたら、一気に突入しましょう。三……二……一……行くわよ!」


 走り出したレーゼに、雅達も続く。


 アーツを手に、警戒心を強めながらも、脇目も振らずに社長室へと向かう。


 扉を蹴飛ばし、中へと雪崩れ込む七人。


 しかし――



「っ? いない……?」



 そこには、誰もいなかった。人工レイパーは勿論、捕われているはずの光輝も、久世もいない。


 隠れている様子も無い。


 レーゼが突き落とされた時と、全く同じ部屋の状態である。


「……そんな、さっきまで確かにここにいたのに!」

「ああ、間違いない。ドローンでここに来た時、私達も久世がこの部屋にいるのは見えた。一体どこに……?」

「……もしかして、地下に向かったのでは?」


 父親の会社だけあって、希羅々はこのビルの内装は知っている。


 当然、地下があることも。


「地下には、確か大きな実験室があったはずですわ。鏡を手に入れたのなら……そこで何かしようとしているのではありませんの?」


 そう言われた瞬間、レーゼは顔を強張らせ、下を見る。


「……しまった!」


 こんな広いビルの中、本当なら、レーゼは久世をあちこち探し回ったはずだ。


 そうならなかったのは、久世が自分の居場所を教えたからである。


 よく考えれば、久世にとってあの行動に意味は無い。


「あなたの言う通り、鏡を使って何かしようとしているのなら……それを邪魔されることは避けたかったはずよ」

「偶然でも何でも、私達がその地下の実験室に辿り着かれると困るってわけですね」


 渋い顔の雅に、レーゼは頷く。


 久世が最初に自分の居場所を教えたのは、意識を社長室へと向けさせるため。


 そこに久世がいるものだと、錯覚させるためだったのだ。


 レーゼが助け出され、再び突入するまでの間に、地下へと向かったのだろう。


 上手く策略に嵌ってしまい、全くもって間抜けもいいところだと、レーゼは自分を恥じた。


「わざわざ足止めのための人工レイパーまで用意して……あの男、随分手の込んだ真似をするわね!」

「……それだケ、私達が久世へと辿り着くまでの時間を引き延ばしたかったというわけカ」

「じゃあ、時間稼ぎ? あの人、何をしようとしているんだろう……?」


 優や志愛、真衣華の言葉で、レーゼの『希望に描く虹』を持つ手に力が籠る。


 一瞬目を閉じ、勢いよく開くと、社長室の出口へと目を向けた。


「嫌な予感がするわね……。皆、急いで地下へ向かいましょう!」

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