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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第2章 セントラベルグ
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第10話『強襲』

 セントラベルグはアランベルグの首都だけあって、商業的にも住居的にも工業的にも発展した都市であり、それ故に色んな人が夢を求めてここを訪れる。


 しかし当然、成功する人がいる一方で事業に失敗し、破産する者も少なくない。


 大半のエリアが発展していく中、今雅がいるこのセントラベルグ東にあるエリアのようにゴーストタウンとなっている場所も存在する。財産を失い、ホームレスになることを余儀なくされた人は、こういった場所を仮住まいとしており、これはセントラベルグの古くからある問題で、未だ根本的な解決には至っていない。


 雅の鞄を盗んだ少女、セラフィ・メリッカもまた、齢十にしてホームレスだった。何故こんな子供がホームレスになったのか理由を聞けば、両親が事業に失敗し、破産して子供を置いて夜逃げしてしまったからだという。何とも酷い話だ。


 そんな彼女は、今は雅と一緒にボロ家の外壁に寄りかかり、パンに齧り付いていた。雅が昼食用にと買っていたパンである。


「むぐむぐ……さっきは荷物盗ってごめん。良い人だね、あんた」

「もう気にしていないから大丈夫ですよ」


 取り押さえられた時は人生の終わりも覚悟していたセラフィ。しかし雅は「人の物を盗っちゃ駄目ですよー」と軽く注意しただけだ。それどころか鞄からパンを取り出すと、セラフィに渡す始末。その後も通報する様子が無く、自分に危害を加える様子も無い。


 そういうわけで最初は雅に怯えていたセラフィも、今はこうして、雅と普通に会話するくらいには心を許していた。


「いつも、あんな事してるんですか?」

「いつもじゃないけど……まぁ、たまに。そうしないと生きていけないし。ホームレスで何の取り柄もない子供になんか、仕事は無いからね」

「世知辛いですねぇ……」


 子供がホームレスで、スリをしなければならないというのは胸が痛い。何とかしてやりたい雅だが、こればかりは何ともし難い。


 セラフィは貰ったパンを半分まで食べ終えると、残りを袋に戻し、服のポッケに捻じ込む。


「あれ? もういいんですか? おかわりもありますけど」

「……今はお腹一杯だから。でも、おかわりは一応頂戴」

「…………」


 何となく嘘だと、雅は直感した。


 それでもパンは渡す。


「そう言えば、アーツを持ってましたよね? 実は私も持っているんですよ。見ます?」

「え? ミヤビも持っているの? 見せて見せて」


 好奇心の宿った目で雅を見るセラフィ。すると雅の右手の薬指に嵌った指輪が光輝き、手にアーツが握られる。


「ふっふっふ、これが私の剣と銃一体のアーツ、百花繚乱です!」

「な、なんか凄い見た目だね?」

「まあ、ちょっと事情がありまして……セラフィちゃんのアーツは、名前は何て言うんですか?」


 聞くと、セラフィは腰にしまわれたナイフを取り出す。


「『焔払い』。炎を斬れるアーツなんだ」

「炎を斬れる? あれ? でもさっきは刃に炎を纏わせてましたよね?」

「あれはスキル。『ウェポニカ・フレイム』っていう、武器に炎を宿せるスキルだよ。何か燃やせる物は……あ、いいのがある。ちょっと見てて」


 セラフィは近くに落ちていた小枝を集める。そしてアーツ、焔払いの刃に炎を纏わりつかせると、その炎を枝に近づける。


 あっという間に焚き火が出来た。


 セラフィはナイフに宿った炎を消すと、燃え上がる火を横に斬りつける。


 すると斬られた部分から上の火が消える。


「おおっ!」


 セラフィの言っていたことの意味が分かり、感嘆の声を上げる雅。


 歪な形の焚き火は、十数秒後には元通りになる。セラフィは得意げな顔をしてから、アーツを仕舞った。


「凄いですねぇ……でもセラフィちゃん、どこで手に入れたんですか? アーツって、バスターの人とか収容所の役人さんが持っていますけど、一般の人が持っているのって凄く珍しいですよね?」


 こちらの世界は雅の世界とは異なり、技量的に未熟な者がアーツを持つのは危険であるという考え方が主流だ。先程の戦闘を鑑みれば、セラフィの戦闘技術は全くの素人である。


 だから不思議だと思い、何気なく聞いてみたのだが……途端、セラフィの表情が僅かに強張った。


「あー……それは……」


 何かがおかしい。


 歯切れの悪い反応のセラフィを見て、雅は確信する。彼女は何かを隠している、と。

 

 ここで無理にでも聞きだすべきか否か、雅が少し悩んだ、その時だ。


「――っ!」

「えっ? ちょっ?」


 突然殺気を感じた雅は、セラフィの体を抱いて横っ飛びに伏せる。


 刹那、今までセラフィがいたその場所を、猛スピードで何かが通り抜けていった。


「えっ? どうしたのミヤビっ?」

「下がっててください」


 未だ事情が飲み込めていないセラフィにそう告げると、雅は立ち上がり、百花繚乱を構える。


 そして目を見開く。


 てっきりレイパーが襲ってきたと思っていたのだが……。


 そこにいたのは、赤いミディアムウルフヘアーの女性。両腕には巨大な小手が嵌められ、それぞれ三本、計六本もの全長五十センチ以上もある長い銀色の鉤爪が伸びている。


 見た事のない武器。恐らくアーツだと雅は思った。


 そんな彼女は――


「見つけたぞっ! レイパー召喚師っ!」


 セラフィを見ると、その場の空気を震わすような声で、そう言い放つのだった。

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