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第94話『強奪』

 戦いの場に突然現れた久世。


 何故こんなところに、とレーゼ達の顔は疑問に染まる。


 しかし雅と優、希羅々の三人だけは、その理由に心当たりがあった。


 だから、雅は久世を指差す。


「この人は……あの鷹のような頭の化け物の仲間だったんです!」

「ナ、仲間ッ? 雅、どういうことか説明してくレ!」

「優一さんから、先程連絡があったんです」


 雅が、久世と魔王種レイパーを交互に見て口を開く。


「鷹の顔をした化け物の目撃情報をくれた男性……彼は二日前、久世さんと会っていました。『StylishArts』の社員でも無いあの男性が、久世さんと何を話していたのかは分からない。でも、化け物と目撃者が繋がっていた。なら、目撃者と繋がっていた久世さんも、とても無関係とは思えません。証拠は無いから、怪しんでいただけでしたけど、そしたら――」

「クゼがこの場に現れて、確信したってわけね……!」


 レーゼの舌打ちが、やけに大きく辺りに響く。


 久世は微笑を浮かべると、雅達の指輪が入ったトランクの蓋を閉じた。


 そして誰の質問に答えることも無く、そのまま踵を返す。


「ねえ……待って! 返してよ!」


 真衣華の顔は、真っ青だ。


 過去に自分のアーツを破壊されたことがトラウマになっている彼女にとって、もう一度アーツを失うことなど耐えられるはずもない。


 スキル『鏡映し』で増やした片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』はまだ残っているが、これも三十分で消えてしまう。


 今の状況を一切無視し、久世を追いかけようとする真衣華。


「真衣華! お待ちなさい!」


 希羅々の制止も、彼女の耳には入らない。


 だが、それは致命的な行動だ。


「――ぐっ!」

「っ?」


 魔王種レイパーが真衣華へと攻撃しに行くのと、レーゼが真衣華を守ろうとするのは同時。


 辛うじてレーゼのカバーが間に合うが、レイパーが次々と繰り出す攻撃を防げたのは最初だけ。二発、三発とボディに拳や蹴りを叩きこまれ、最後に衝撃波を受けて大きく吹っ飛ばされてしまう。


 その後、自分の行動の迂闊さにようやく気が付いた真衣華が咄嗟にレイパーから距離をとろうとするが、容易く回りこまれてしまった。


 そして放たれる、強烈な回し蹴り。その一撃が真衣華のアーツへと直撃し、彼女の手からスキルによって増えたフォートラクス・ヴァーミリアが吹っ飛ばされてしまう。


「あっ……」


 思わず、吹っ飛ばされたアーツを拾いにいこうとする真衣華だが、魔王種レイパーが先にそれを拾ってしまう。


 そしてにやけた顔で、スキルによって増やされたフォートラクス・ヴァーミリアを、真衣華の目の前でへし折ってしまった。


 スッと、真衣華の顔から血の気が引く。


 だが、彼女の感情が溢れるより先に、魔王種レイパーは真衣華に接近すると、腹部へと拳を叩きこんだ。


 体をくの字に折った彼女の頭部に踵落としを決めようとするが、そこで希羅々と志愛、レーゼの三人がレイパーへとタックルをぶちかまし、レイパーをよろめかせる。


「あんたは……! あんたって奴は……!」


 怒りのままに、レーゼは剣を振るう。


 数多の虹を描きながら、僅かに体勢を崩したレイパーへ次々と斬撃を放つ。


 それでも、レイパーはにやけた顔を崩さず、腕だけでレーゼの攻撃を容易に捌いていった。


 そしてレイパーの相手をレーゼがしている頃。


 雅、優、愛理の三人は、レイパーが戦闘に夢中になっている隙を見て久世を追いかける。


 それに気が付いたのか、久世は振り向き、必死な顔でトランクを見る雅達をフっと鼻で笑った。


 だが、その時だ。


 物陰から、『何か』が急に飛び出してくる。


 雅だ。ライナのスキル『影絵』で創り出した、分身雅である。


 本当は魔王種レイパーに奇襲する目的で忍ばせていたのだが、思いもかけない場面で動いてもらう羽目になってしまった。


 久世の意識の隙を突いた、完璧なタイミング。


 分身雅の手はトランクへと伸びており、確実に指輪を奪い返せるだろうと誰もが確信する。


 しかし――


「――っ! ぁあっ!」

「みーちゃんっ?」


 鷹のような頭の化け物が、突如別の方向から現れ、分身雅を蹴り飛ばし、その存在を消してしまう。


 襲ってくるフィードバックに、堪らず膝を付く雅。


 鷹のような頭の化け物の手には、雅達が盗まれた鏡が、まだ握られていた。


「っ! 一体どこからっ? まさか読まれていたのかっ?」

「彼女の分身生成能力は知っている。警戒していた」


 驚愕する愛理に、久世はそう告げた。


 全身を走る痛みに耐えながら、雅は久世を睨む。


「なら、やっぱり……あの、キリギリス顔の化け物は……」

「そうだ。彼も、私の部下だ。分身生成能力のことも、彼から聞いた」

「あんた……なんでこんなことをっ!」

「その鏡……レイパーに渡すつもりかっ?」

「言う必要は無い。君達は、ここで奴に殺されるのだから――む?」


 射殺すような視線を意にも返さない久世。


 しかしそこで、彼は眉を顰めた。


 レーゼの攻撃をいなしながらも、魔王種レイパーの目は、もうレーゼにも、雅達にも向いていなかったからだ。


 レイパーが注視しているのは、化け物の手にある二枚の鏡。


「ワマヒ! ハタモボケ!」

「――っ? 何っ?」


 レイパーがレーゼを蹴り飛ばすと、鷹のような頭の化け物へ一瞬で近づく。


 久世も化け物も、魔王種レイパーのこの行動は予想外だったのだろう。


 化け物は咄嗟に上空へと飛び上がり、レイパーが放った蹴りを躱したが、その顔には明らかな焦りの色が見えた。


 どうやら久世と魔王種レイパーは、仲間というわけではないようである。


 空中にいる鷹のような頭の化け物のところまで跳躍しようとした魔王種レイパーだが、そこで横から襲い掛かる殺気に気がつき、その場を飛び退いた。


 そのすぐ後に、今までレイパーがいたところを、黒い何かが通り抜ける。


 現れたのは、以前優と愛理が戦った化け物。


 黒猫の顔をした、筋肉質な体の、あの化け物だ。こいつも久世の仲間らしい。


「そうか、あの鷹のような奴の正体が人間なら、我々が尾行していたあの男も化け物だったという訳か……!」


 黒猫の顔の化け物の正体に気がついた愛理。そこで、優が肩を叩いてきた。


 今の内に逃げよう、そう目で伝えてきたのだ。


 愛理は皆と、久世の手にあるトランクを交互に見るが、今の形勢を踏まえれば考える余地は無い。


 静かに、そっと、彼女達はその場を離れ始める。


 黒猫顔の化け物は魔王種レイパーへと飛び掛かるが、魔王種レイパーは相手を、腕を振って軽々と弾き飛ばしてしまう。


 しかし一瞬の攻防の隙に、鷹のような頭の化け物は久世を抱え、逃げ出していた。


 魔王種レイパーは久世達へと、罵るように怒鳴り声を上げる。


 怒り任せに黒猫顔の化け物を甚振ろうとするも、奴の姿も既に無い。


 怒りをぶつける先を探して周りを見渡せば、必然、逃げようとしていた雅達の姿を発見する。


 手の平を、彼女達へとかざす魔王種レイパー。


 殺気に一早く気が付いたレーゼが、雅達を守ろうと、レイパーと雅達の間に入り、背中を向けて大きく手を広げる。


 直後、レイパーの手から放たれる、黒い衝撃波。


 今までよりも一際大きな衝撃波が、彼女達へ襲いかかる。


 守ろうと体を張った行為等、気休めにもならない。


 レーゼも雅達も、全員纏めて衝撃波で大きく吹っ飛ばされる。



 そして、地面に倒れ、ピクリともしなくなった雅、レーゼ、優、愛理、志愛、真衣華、希羅々を見ると、大きく地団太を踏んでから、魔王種レイパーは久世が逃げた方へと走り出し、姿を消すのだった。

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